《離婚して、今さら愛してると言われても》全部章節:第 131 章 - 第 140 章

164 章節

131.信憑性

遥side「今のビジネスや将来のビジョンってどういうこと……? 本当に仕事の話なら、彼女じゃなくて住吉商事の社長である奏多と協議する方がビジネスとして合理的じゃないの?」社長室へ戻ってきた俊にすぐさま問い詰めると、 俊は小さく溜め息をついてからゆっくりと首を横に振る。その瞳は、どこか遠くの霧の向こうを見つめているようで、いつもの温かな兄の眼差しではなかった。「いや、話をすべきなのは彼女だ。彼女に聞きたいこと、彼女にしか分からないことがたくさんあるんだ」 「……ねえ、最近麗華と頻繁に会っているようだけれど、どんな話をしているの?彼女が今までしてきたことを知っているのになんで、麗華となんか関わっているの?」「明らかにしなければならないことがある。そのためには、彼女の証言が必要なんだ……」 「明らかにしたいことって……? もしかしてそのために私と住吉の結婚についても影で調べていたの?」俊の肩が一瞬だけ硬直した。その反応だけですべてを確信した。「なんでそれを……」 「ごめんなさい。……この前、花蓮とかくれんぼをしていた時に、住吉に関する報告書を偶然見つけてしまったの。私と奏多の結婚について、細かく調べ上げられた記録があったわ。俊は、あの報告書の内容を信じたから麗華に話を聞こうとしているの?」今まで聞くのが怖くて黙っていたことを尋ねると、俊はしばらくの間、じっと目を伏せていた。そして、絞り出すように静かに口を開いた。「前に新製品を案内するためにハリーと四人でパーティーに出席したのを覚えているかな?その時に、彼女から遥と住吉社長の結婚について聞かされたんだ。それで、話に信憑性があるか確かめるために調べたまでだよ」俊の言葉が鋭い刃のように私の胸に突き刺さる。『信憑性を確かめるため』と言っているが、それは事実かもしれないと思ったからではないのだろうか……。ショックで足元の床が抜け落ちるような感覚に陥り言葉を失った私に、」隣にいた直人がすぐに一歩前へ出た。「俊さん、……まさかあの星野って女のことを信じるんですか?彼女は、遥にありえもしない罪まで偽造して離婚させようとしたんですよ。最近だってSNSに酷い投稿をして、彼女の人格を俊さんなら分かっているんじゃないですか?」「……彼女が妊娠していた時に、遥が流産させようとしたという話か? それについては、彼女から直
last update最後更新 : 2026-05-23
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132.甘美な嘘

麗華side高級エステの個室でオイルマッサージを受けながら、私は昼間に遥と対面した時のことを思い返していた。「ふふ……あの女の顔。私を見つけた瞬間に顔を青ざめて必死に動揺を隠そうとする様子ときたら……。今頃は、俊さんと私が親密な関係を築いていることに、ショックと焦りで取り乱しているんじゃないかしら」私の計画は、完璧な滑り出しを見せていた。 遥と住吉奏多の疑惑つき結婚秘話を、『元婚約者』として被害を受けたと暴露したあの夜。私の狙い通り、東宮俊はその餌にすぐに飛びついてきた。裏切られた可憐な元婚約者として同情を買い、連絡先を交換してからというもの、カフェやディナーなど俊と外食を重ねる時間は私の日常になりつつある。思った通り、彼は突然現れた「妹」の遥の存在を心の底では快く思っていないようだった。最初のうちは警戒心を解くことに専念して、感情的にはならずにいかにも客観的な事実を冷静に語る「思慮深い女性」を演じ続けたのだ。「遥さんは、住吉と一夜を過ごしたような記事をでっち上げて強引に結婚まで漕ぎつけたのです。あの時、住吉は成瀬家との巨大な商談を締結した直後で、周囲からは次期役員と噂されるほど高く評価されていました。私の内助の功もあって商談は成功し、落ち着いたら正式に婚約する予定だったのに……あのスキャンダルが出てしまったんです」目を伏せて、鼻をすすり泣くのを堪えているよう
last update最後更新 : 2026-05-24
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133.訪問客

麗華side三日後の朝、目が覚めてスマホを確認すると、通知画面に「東宮俊」の文字が表示されていた。俊から直接連絡が来るなんて初めてのことで、眠気は一瞬にして消え去って鼓動が激しく高鳴る。​(えっ……嘘?俊さんから連絡?この前のディナーのお礼かしら。それとも、もしかしてデートのお誘い……?)​ 期待を胸に震える指でメッセージをタップする。すると画面に表示されたのは、少し砕けた口調の短い一文だった。​「この前、五十嵐工業の資料を拝見させてもらったけれど、現地も見てみたい。来週あたり訪問することは可能かな」​俊から会いに来てくれるなんて、これ以上のチャンスはない。「訪問してくださるなんて光栄ですわ。いつでもお待ちしていますので、都合の良い日を教えてください」私はすぐさま返信を打ち込み、ベッドの上で小さくガッツポーズをした。そして、出社するやいなや、緊急で全社員を事務所に呼び寄せて、声を張り上げた。​「いい? 来週の火曜日、東宮グループの社長が視察に来ることになったわ。あの日本トップ企業の東宮社長よ。もし少しでも失礼な態度をとったら、ただじゃおかないから。気を引き締めて覚悟してかかりなさい」​ 社員たちが困惑と緊張に顔を引きつらせる中、私は事務所の徹底的な掃除と書類の整理を命じた。古びたプリンターに書類の山、壁には剥げかけたポスターが所狭しと貼ってあるこの現状は、東宮グループの社長という最高峰の人物にはあまりにも不釣り合いだ。​「社長……! なぜ東宮の代表がうちの会社に? 住吉商事の方から何か話があったのですか? 当日は本社からどなたか応援に来られるのでしょうか」​ 古参の社員が不安げに尋ねてきたが、私は鼻で笑い飛ばした。​「いいえ。住吉商事は関係ないわ。私が直接、話をつけたの。これは私が獲得した極秘案件よ。だから話がまとまるまでは、本社には絶対に漏らさないこと。分かったわね?」「え……でも、相手の立場から言ったら我々だけでなく住吉社長も同席されたほうが……」「何? 私に口
last update最後更新 : 2026-05-25
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134.傍観

「大切な用事って言うのは、あくまで個人的な内容よ。奏多には一切関係ないわ。必要があれば私から事前に連絡していたはずでしょう? そうじゃないってことは、あなたがその場にいる必要はないってことよ」麗華は俺をこの場から退けようと必死で言葉を紡いでいた。その慌ただしく泳ぐ瞳、そしてどこか上滑った声と口調が、麗華の焦りを雄弁に物語っている。言い訳がましいその姿を見て、俺の胸中に湧いたのは怒りではなく深い軽蔑だった。表情を微塵も崩さず、俺はただ静かに麗華を冷たく睨みつけた。「……東宮グループの代表が視察に来るというのに、俺は全く関係ないというのか? 五十嵐工業の親会社は、紛れもなく住吉商事だ。なぜ、その事実を俺に黙っていた」麗華の顔が一瞬で引き攣り、血の気がさっと引いたのが見て取れた。取り繕うように笑みを浮かべたが、その口角は自信満々だったさっきまでの面影を消し去っていた。「……それは、あなたが忙しいから、わざわざ煩わせる必要なんてないと思って……私だけで十分だと思ったのよ」 「嘘だな」俺が低く言い放つと麗華の身体が小さく震えた。今回の情報は、五十嵐工業の経営層から直接届いている。住吉本社から出向・異動させていた複数の経営陣が、限界を迎えた末に俺に助けを求めてきたのだ。彼らが口を揃えて訴えてきたのは、麗華の目に余る傲慢さと、経営者として致命的な無能さだった。独断専行で社内の空気を冷え切らせ、重要な顧客とのパイプを切り、挙句の果てには、何の根拠もないまま東宮グループを勝手に引き込もうとしている。そして、今日の訪問も麗華がまともな対応を取れるはずがないと判断し、このままでは五十嵐工業という会社そのものが崩壊しかねないという現場の切羽詰まった悲痛の叫びが、俺をここに突き動かしたのだ。「麗華、お前が何を画策しているかは知らないが、住吉商事の名を汚すような真似だけは許さない。お前が五十嵐工業を私物化しようとするなら、それは会社への背信行為だ」 「私物化なんてしてないわ! 私は会社を立て直すために行っているの。立派なビジネスよ!それに私がいなかった
last update最後更新 : 2026-05-26
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135.熟知

奏多side「これは……住吉社長。お久しぶりです。驚いたな、住吉社長までわざわざ出迎えてくれるとは思いませんでした」東宮俊は、微笑みを浮かべてそう言った。その声のトーン、立ち居振る舞い、すべてがトップ企業の社長に相応しい洗練されている。しかし、その瞳の奥にある冷徹な光を俺は見逃さなかった。彼は五十嵐工業の社員たちの前では「親切な大企業の社長」を演じているが、その背後にある何かを見据えている。「こちらこそ、突然の連絡もなく同席してしまい申し訳ありません。東宮社長が直々に、我がグループの傘下企業を訪問して下さると伺いまして、是非ともご挨拶をしたいと思った次第です」 「そうですか。それは光栄です」互いににこやかな愛想笑いを浮かべ、握手を交わす。社員たちの手前、穏やかな光景に見えるだろう。だが、目が合ったその瞬間から、俺たちの中では見えない戦いが始まっていた。俺は俊の「東宮グループの代表」としての重圧と、彼が麗華という駒を使って何を描こうとしているのかという疑念を同時に感じていた。少し遅れてやってきた麗華は、見るからに動揺していた。先ほどまで俺に対して強気な態度をとっていた彼女が、俊を前にして言葉の歯切れを悪くし、所作もぎこちない。「東宮社長、お待ちしていました……本日は、わざわざありがとうございます。えっと……あの、本日は住吉も同席することになりました。よろしくお願
last update最後更新 : 2026-05-27
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136.サイン

麗華side都内屈指の格式を誇るホテルの最上階。眼下に広がる宝石のような夜景を背に、東宮俊と奏多との晩餐会は、厳かな雰囲気の中で幕を開けた。ナイフとフォークが皿に触れる、ほんの僅かな硬質な音が、広々とした個室に虚しく響いている。私は終始、隙のない笑みを絶やさないようにしていたが、テーブルクロスに隠された手は、怒りと焦りで爪が掌に深く食い込んでいた。(どうして……どうしてこうなるの? 本当なら、俊さんと二人きりでこの夜景を楽しみ、食後には下のバーで甘い時間を過ごして、彼の心を完全に私のものにするはずだったのに。……なんで、よりによって奏多がここにいるのよ。奏多が横に座っていたら、俊さんに甘えることも誘惑することも何もできないじゃない)この日のために新調した勝負服のドレスも、時間をかけて選んだ香水も、この重苦しい空気の中ではすべて空回りに思えた。何より解せないのは俊さんの態度だ。彼は私をビジネスパートナーとして選んでくれたはずだ。それなのに、なぜわざわざ「妹の元夫」である奏多を同席させる必要があるのか。俊さんにとって、奏多のような男は関わりたくないはずだ。  奏多も奏多だ。遥との離婚からずいぶん時間が経ったというのに、未だに東宮家の名前が出るたびに顔色を変え、冷静さを失って必死に行動している。一体、何がそこまで奏多を突き動かしているのか、さっぱり分からない。二人の男の視線が、まるで私を檻の中に閉じ込め
last update最後更新 : 2026-05-28
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137.制裁

麗華side「……子会社といえど、住吉の傘下にあるはずなのに、これほど重要な契約のことを貴方は知らなかったのですか? 住吉社長」俊さんの静かな問いかけに個室の空気が凍りついた。奏多が厳しい視線を私に向け、喉が急激に渇く。私は必死に平静を装うが、俊さんは私の動揺など見ていないかのように手元のタブレットを淡々と操作した。「これが、星野さんと正式に締結した事業譲渡の契約書です。五十嵐工業の主力である製造事業を本日付で東宮グループが引き継ぐことになりました」 「……なんだって?」奏多は椅子を勢いよく引いて立ち上がると、俊さんが突き出したタブレットを奪い取るようにして食い入るように読み始めた。ページをめくる指が怒りで微かに震えている。「事業譲渡契約……? こんな話、全く聞いていないぞ。それに製造事業は、五十嵐の全売上の八割を占める柱だ。麗華、一体どういうことだ。なぜ、こんな大事な契約を俺に黙って勝手に進めたんだ。社員たちはなんと言っている? この買収に、誰一人として納得している人間はいないはずだぞ!」 「それは……っ。…………誰も、知らないわ。でも、私はこの会社の社長よ。会社をどうしようと、決定権は私にあるはずよ!」
last update最後更新 : 2026-05-29
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138.買収

奏多side麗華のあまりの暴走に俺は言葉を失った。だが、ここで膝を折るわけにはいかない。なんとか事態を好転させるべく、思考をフル回転させる。(五十嵐工業は、今は地味な中小企業かもしれない。だが、この産業や五十嵐の技術には計り知れない将来性がある。そう考えて俺たちは将来への投資と思って五十嵐工業を買収したんだ……。東宮側もそれを見抜いてこの買収を仕組んだのか?)その時、月島とその隣で幸せそうに微笑む遥の顔が頭に浮かんだ。そして、その姿は二人の関係をつきつけるだけではなく、苦い記憶も蘇らせた。(……そうか、向こうには五十嵐の内部事情を熟知し、帳簿の隅々まで把握している遥と月島がいる。二人なら、五十嵐の経営状態も製造事業の真の価値も正しく把握しているはずだ)俺は起死回生の逆転の一矢を放つべく、東宮に向けて問いかけた。「……五十嵐工業は、元々住吉商事の百パーセント子会社です。事業譲渡をしたということは、結果的にその製造事業部は東宮の傘下でありつつも、住吉商事の子会社には変わりない……そういう認識でよろしいんですよね?」名門・東宮グループとの提携さえ構築できれば、住吉の経営基盤は磐石になる。だが、東宮俊は俺がその指摘をするのを予測していたかのように、冷徹なまでに即答した。
last update最後更新 : 2026-05-30
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139.詰問

麗華side「妊娠中の星野さんに対して、遥が意図的に流産するように薬を盛って紅茶を出した。それを飲んだ星野さんは体調を崩し、胎児を命の危機に晒した……違いますか?」俊さんの淡々とした問いかけに、奏多は言葉の真偽を確かめるようにゆっくりと頷く。しかし、隣に座る私の心臓は、ドクリと不規則に跳ね続けている。なぜ、今このタイミングでその話を持ち出すのか。嫌な予感が脳裏を駆け巡り、全身の血が凍りつくようだ。奏多もまた俊さんの意図が読み取れないのか、呆然とした様子で私と俊さんを交互に見つめている。「ええ、そうですわ……。」私が精一杯声を震わせて答えると、俊さんは深く目を伏せ、静かに断頭台の刃を落とすかのように決定的な言葉を突きつけた。「そうですか。……実はあなたがいつも通院していた病院ですが、東宮家に深く関係がある施設でしてね。念のためあなたの過去の通院歴を調べさせてもらいました。しかし、いくら探しても、その時期のあなたのカルテはどこにも存在しなかった。星野さん、あなたは本当に……妊娠していたのですか?」 「なっ…………なんですって?」思考が真っ白に染まる。頭の中を死に物狂いで回転させ、次に何を話せばこの窮地を脱せられるのか地獄の計算を繰り返す。「カルテは個人情報よ! 本人の承諾なく、東宮グループといえど勝手に入手できるはずないじゃない!」私が声を荒らげると、俊さんは眉一つ動かさず淡々と返した。「ええ、一般の方なら不可能でしょう。ですが、私どもの関連施設であり、運営上の都合で事前に全患者様から同意をいただいております。もちろん、貴女からもね。それに、今問い正しているのは『妊娠』という事実の有無です。話を誤魔化さないでください。本当に、妊娠していたのですか?」私は凍りつくような恐怖の中で、追い詰められた獲物のように俊さんを見つめることしかできなかった。「そ、それは……! 他の病院に行ったのよ。だから履歴がないの!」咄嗟に出た強がりも、震える声がその嘘を照明しているようだった。そんな私の言葉を信じるはずもなく、俊さんは容赦なく詰問を続ける。「そうですか。では、その病院はどちらですか?」 「……プライバシーの問題があるから教えたくないわ!」 「それでは、妊娠を証明するものはありますか? エコー写真や母子手帳など」 「何を言っているか分かっているの?
last update最後更新 : 2026-05-31
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