美代子は一瞬、言葉を失ったが、すぐに、ふん、と鼻で笑った。「別に、彼女が嫌いなわけではないわ。ただ、少々強情すぎるのよ。蒼介に必要なのは、夫を陰ながら支える良妻、献身的に尽くすお嫁さん。文月みたいに、男に頼ろうとせず、自分の考えばかり突っ張るような女性ではないの!深津家の嫁は皆そうよ。あなただってそうでしょう?彼女がいくら自分で稼いで、孫のお金を使わないと意地を張ったところで、その程度の稼ぎなんて、たかが知れている。結局、孫のためには何の足しにもなりはしないじゃない!」梨沙子は、拳を強く握りしめた。そうだわ。自分だって、深津家に嫁いでからというもの、ずっと、良き嫁としての務めを果たしてきた。だが、嫁でいることが、そんなに簡単なことであるはずがない。どれほど理不尽な仕打ちに耐え、少しお金を使うだけで、白い目で見られてきたことか。彼女は不意に、少しだけ、文月が羨ましくなった。彼女は、自由に飛び立つことができるのだから。月日はあっという間に過ぎ、結婚式当日を迎えた。萌々花はウェディングドレスに身を包み、その横には、彼女が雇った役者の父が立っている。彼女は、親族や友人たちの祝福を受けながら、蒼介と結婚式を挙げた。そして、時を同じくして。文月は、結婚式の映像をしっかりと見届けると、持っていた携帯を海中に投げ捨て、振り返って船に乗り込んだ。彼女は、これで完全に、蒼介から解放されたのだ。船の上で一日中揺られ続けた文月は、激しい吐き気に襲われ、足元もおぼつかなくなっていた。どうにか甲板に出て風に当たろうとしたが、船の揺れがあまりにひどく、今にも海に転落しそうになる。まさにその瞬間、不意に誰かに腕を掴まれ、強く引かれた。引き寄せられたその人の胸は広く、温かだった。彼女が顔を上げると、微かに眉をひそめた博之の顔と視線がぶつかる。「どうして、君が海の上にいるのか?」文月は視線を落とし、すぐにありのままを話した。「別の街で暮らそうと思って。もう、ここへは戻りません」博之は、それ以上何も言わず、ただ自分のジャケットを脱ぐと、文月の肩にそっとかけてやった。この人は、どうやらジャケットを貸すのが好きらしい。文月は、思わず唇を噛んだ。……結婚式が終わったその夜、蒼介は萌々花と深く体を重ね、二人はひと
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