駿河蓮(するが れん)の部屋を片付けていた時、私・秋野遥(あきの はるか)はうっかり彼の母の遺品を落としてしまった。最も大切にしているものだと彼が常々言っている。拾い上げると、中から何百通ものラブレターがこぼれ落ちた。恋を詠んだ和歌、ポップスの甘い歌詞、そして心のこもった直筆の告白――様々な形で愛の言葉が綴られている。毎週一通、決して途切れることなく書き続けられてきた。そしてどの手紙の末尾にも、見覚えのある愛称が記されている。【最愛のうさぎちゃんへ】思い出した。彼が後輩のLINE名をうさぎちゃんにしている。それを見た瞬間、はっと全てを悟った。十三年間、苦労を厭わず彼の家業を支え、祖父の世話もしてきたのに、一度も「好き」と言われなかった理由は、本当に愛している人がいるからなのだ。私は日付順に手紙を整理し、元の場所に戻した。そして携帯を取り出して母に電話した。「お母さん……お見合いの話、受け入れる決心をした」……「辞めるって?」ついこの前、大きなプロジェクトを成功させて昇進が目前だった私がまさか仕事を辞めるなんて、上司は驚きを隠せない様子だ。「はい、辞めます」「そこまで言うなら……止めはしない。せっかくの才能が勿体ないが、一つだけ聞く。結婚か?」私は笑って首を振り、席を立った。結婚なんて、私にとって永遠に果たされない約束でしかなかった。昨日、偶然にも蓮の秘蔵のラブレターを見つけてしまった。一通一通が丁寧に保存されていて、箱の中には乾燥剤まで入れられている。一枚一枚数えてみると、全部で百三通。最初の一通は二年前、最新の一通は先週の金曜日だ。私は床に座り、一通一通開いていった。ピンク、青、緑の紙には淡いクチナシの香りが残り、美しい筆跡で恋を詠んだ和歌、ポップスの甘い歌詞、そして心のこもった直筆の告白まで綴られている。一目で、それが蓮の字だとわかった。ラブレターは彼の特技だ。大学時代、私にも書いてくれたことがある。私の引き出しには、あの頃の手紙が今もしまってある。だが、今目の前にあるどの手紙の末尾にも、同じ言葉が記されている。【最愛のうさぎちゃんへ】うさぎちゃん――それは蓮が後輩の桜井初姫(さくらい はつひめ)につけたLINE名だ。かつて偶然それを見て尋
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