All Chapters of 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです: Chapter 51 - Chapter 60

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「近くまで来たものですから。お部屋、片付きましたか?」 部屋に広がっているのは、作りかけの豚の生姜焼き匂い。甘辛くて素朴で、お腹の減る匂いだ。「あ……どうぞ。散らかってますけど」 私が彼を招き入れると、彼は少しだけためらうように言った。「いえ、お食事の準備中でしたら、ご迷惑でしょう」「ううん、そんなことないです」 私は気づけば、ごく自然に彼を誘っていた。 新しい部屋で数日続いていた、一人だけの食事が寂しかったからかもしれない。「今、ちょうど夕食を作っていたところなんです。一人前も二人前も手間は変わりませんから。もしよろしければ、食べていきますか?」 私の申し出に、湊さんは一瞬驚いたように目を見開いた。 それからこれまで見たこともないような、子供みたいに嬉しそうな顔で頷いた。「はい。ぜひ」◇ 小さなダイニングテーブルに並んだのは、サラダと豚の生姜焼き。炊きたてのご飯と、お豆腐とわかめのお味噌汁。 そんなごくありふれた内容である。「近くのスーパー、お肉の品揃えがよくて、しかも安いんですよ。今日は特売で、すごく得しちゃった」 そういう意味でもこのマンションは当たりだった。近場にいいスーパーがあると、生活の質が上がる。 私がそう言って笑うと、彼は愛おしいものを見るような眼差しで、ただ黙って頷いていた。 豪華どころかむしろ質素な献立。 でも私は、なぜだか湊さんに喜んでもらえる自信があった。 料理にはそれなりに自信がある。なにせ圭介との3年の結婚生活で、食事は毎回私が作っていた。 それに、何日か前に引っ越しを手伝ってくれた時の様子を思い出す。 こんな庶民的な食卓は、彼はきっと知らないだろう。だから面白がってくれると思ったのだ。「どうぞ、召し上がってください。お口に合うか分かりませんが」「いえ。いただきます」 湊さんは少しだけ緊張した面持ちで、丁寧にお箸(お
last updateLast Updated : 2025-10-15
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 私が照れ隠しにそう言うと、彼は宝物でも見るように、お皿の上の生姜焼きを見つめた。「違うんです。こういう……誰かが僕のために作ってくれた、温かいものを食べるのは、本当に久しぶりで……」 その言葉に、私は胸の奥がきゅんとなるのを感じた。 いつも完璧な彼がごくまれに見せる、寂しさの影。 それから湊さんは夢中になって、食事を口に運んだ。 一口、また一口と、本当に美味しそうに味わうように食べてくれる。(なんだか子供みたい) その無防備な姿が、どうしようもなく愛おしい。 彼が「おいしい」と言うたびに、私の心に温かい光が灯っていくようだ。圭介との結婚生活では、決して得られなかった温かさだった。 湊さんはしっかりと食事を平らげると、お箸を置いた。「ごちそうさまでした。本当においしかったです」「どういたしまして。おいしいと言ってもらえて、嬉しかったです」 気づけば自然に微笑んでいた。◇ 湊さんが帰った部屋の中で、食器を片付けながら。 私はぼんやりと考え込んでいた。(私、やっぱり……湊さんに惹かれている) 彼の恐ろしさは身にしみている。大きな力を操って人の人生を簡単に変えてしまう。 優しさで私を包み込みながら、甘やかしながら、自由を奪っていく。このままではきっと、気づけばがんじがらめにされてしまう。そんな予感がする。 ただ……今日のような無邪気で孤独な姿も、また彼本来のものだと感じている。 あの日の夜、私が最初に彼の中に見出したのも孤独だった。 私たちは欠けてしまった心を埋め合うように、お互いを求めて、深く満たされた。 満たされたのは私だけだとずっと思っていた。騙してしまったのだと。でも、そうではないのかもしれない。「あんな出会い方をしなければ、素直に好きだと言えたかな」 呟いて、首を振る。あん
last updateLast Updated : 2025-10-15
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53:幻のスイートルーム

 あの日、私の小さな部屋で、湊さんと夕食を共にしてから数日が過ぎた。 私たちの間には以前とは違う、穏やかな空気が流れるようになっている。 もちろん彼が持つ底知れない力への恐怖や、あの夜の罪悪感が消えたわけではない。 でも彼が時折見せる子供のような無邪気さや、寂しさの影に触れるたび、私の心はどうしようもなく揺さぶられてしまう。(あの人も、ただの完璧な御曹司じゃない。孤独を抱えた一人の人間なんだ……) そう思えば、厚く閉ざしていたはずの心の扉が、少しずつ開いていくような気がした。 そのたびに私は、慌てて気を引き締めるのだった。 一方でプロジェクトは、次の大きな山場を迎えていた。 スイートルームの印象を決定づける、ソファやテーブルといった特注家具のデザイン。 私はここしばらく、その仕事に没頭していた。◇「素晴らしい。コンセプトとの調和が見事だ」「このソファの曲線、美しいですね」 ホテルの会議室にて。 私が提案した家具のデザイン画に、プロジェクトチームのメンバーから、賞賛の声が上がる。「『ヘリテージ・モダン』のコンセプトに基づき、フレームにはクラシックな意匠を取り入れつつ、張地には現代的な質感のテキスタイルを採用しました。新しさと、懐かしさの共存を目指しています」 プレゼンテーションは、成功裏に終わるかのように見えた。 まさに終わりかけた時のことだ。「最後に、柳専務にもご意見をいただきたい」 湊さんがそう言って、会議室のドアを開ける。 入ってきたのはいかにも古武士といった風格の、一人の老紳士だった。 柳専務。 湊さんの祖父である先代社長の時代からホテルを支えてきた、最も古参の役員である。 伝統を何よりも重んじる、保守的な人物として知られている。「役員会の最終承認を得るために、柳専務のご意見は不可欠です」 湊さんが意図を私にだけ聞こえる声で、耳打ちした。 私
last updateLast Updated : 2025-10-16
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「若き日の湊様が自らデザインなさり、そして先代社長に一蹴された、あの幻のスイートのコンセプトに、です」 柳専務の一言で、それまで和やかだった部屋の空気が一変した。 プロジェクトチームのメンバーたちは、驚きと困惑が入り混じった表情で、私と湊さん、柳専務の三人を交互に見ている。 私は全身の血が引いていくような感覚の中、何も言えずに固まっていた。 湊さんの顔を、見ることができない。 周囲から注がれる視線にどんな意味が込められているかなど、考えたくもなかった。 湊さんが口を開いた。 その声はいつもと変わらない、落ち着いた響きだった。 でもほんの少しだけ声が硬いことに、気づいたのは私だけだろうか。「柳専務、それは随分と昔の話です。このプロジェクトとは、何の関係もありません」「関係ない、と? 私には、これこそがプロジェクトの根幹そのものであるように思えますがな。実に見事なまでに似通っている。もちろん、偶然でしょうが」 柳専務の言葉は丁寧だったが、その端々で、私のデザイナーとしてのプライドをじわじわと傷つけてくる。 私はゆっくりとテーブルの上の資料をまとめ始めた。 ここから逃げ出したくなる自分を、必死で抑える。 今はただデザイナー・相沢夏帆として、この場を取り繕うことだけを考えた。「本日の、私のパートは以上となります」 努めて平坦な声で告げた。 それから誰にも視線を合わせることなく、背筋を伸ばしたまま席を立ち、会議室のドアに向かった。 ドアノブに手をかけ、最後に一度だけ振り返る。「失礼いたします」 一礼し、私は部屋を出た。 重いドアが私の背後で閉まる音を聞いた瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。◇ 会議室から少し離れて、人気のない廊下の隅で私はようやく足を止める。 全身から力が抜けていくのが分かった。思わず壁に手をつく。 柳専務の棘のある言葉が、頭の中で何度も繰り返される。  と。背後で足音が
last updateLast Updated : 2025-10-16
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「違うんです!」「じゃあ、どうして私を選んだんですか! 私のデザインが、あなたの過去の作品に似ていたから!? あなたの夢を叶えるのに、都合のいいデザイナーだったからですか!?」 私の言葉が、静かな廊下に吸い込まれていく。 湊さんは何かを言おうとして、口を僅かに開いた。でも結局、何の言葉も出てこない。 彼の表情は深い苦悩に歪んでいた。 もうこれ以上、彼と話したくなかった。 どんな言葉も今の私には届かない。 私は彼に背を向けると、自分のオフィスへと歩き出した。◇ 失意のまま事務所に戻った私は、まっすぐに所長室へ向かった。「所長。インペリアル・クラウン・ホテルズのプロジェクトから、私を降ろしてください」 突然の申し出に、所長はとても驚いている。「何を言っているの? あれは、あなたのプロジェクトでしょう!」 私は今日の出来事を、感情を殺して淡々と説明した。「偶然とはいえ、クライアントが過去に考案したものと酷似したデザインを、私が担当し続けることはできません。それは、私のデザイナーとしての矜持が許しません」「それは……。何か誤解があるかもしれないわ。もう一度話し合って」「失礼します」 所長の制止を振り切って、私は自分のデスクへと戻った。胸には固い決意が生まれている。◇ やっとのことで今日の仕事を終えて、重い足取りでマンションに帰ってきた。 エントランスに、見慣れた人影が立っている。 湊さんだった。 彼の表情は、いつもの穏やかさが嘘のように深い苦悩のあとが見える。「プロジェクトを降りると聞きました。その決定を、僕は受け入れるわけにはいかない」「ですが、この状況で続けるのは不可能……」「言葉では、もう信じてもらえないでしょう」 湊さんは私の反論をさえぎった。彼が私の言葉をさえぎるなんて、
last updateLast Updated : 2025-10-17
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 湊さんの車はインペリアル・クラウン・ホテルの正面玄関ではなく、従業員用の通用口へと入っていった。 案内されたのは、普段は使われていない旧館のバックヤードである。 ひんやりとした空気が肌を撫でる。コンクリートの壁と剥き出しの配管が目についた。カビと埃の匂いが、微かに鼻をつく。 華やかなホテルの表の顔とは、まったく違う景色。 私たちの足音だけが、静かな廊下に響いていた。 湊さんは数あるドアの一つのうち、何の変哲もない古い木製のドアの前で足を止める。ポケットから取り出した一本の古びた鍵で、その錠を開けた。(ここはどこ? 彼は私に、何を見せようとしているんだろう……)◇ ドアを開けると、古い紙の匂いがふわりと漂ってきた。 湊さんが壁のスイッチを入れると、裸電球の頼りない光が部屋の中を照らし出す。 そこはかつてスタッフルームとして使われていたであろう、小さな部屋だった。 壁一面のコルクボードには、色褪せた家具のスケッチや、布地のサンプルが無数に貼られている。 部屋の隅に置かれたテーブルの上には、作りかけの建築模型。 それら全てが薄らと埃を被っていた。この部屋がもう何年も使われていない、人が立ち入ってさえいないのがうかがえた。 封印された部屋。ふと、そんな言葉が脳裏をよぎる。 床には国内外のデザイン専門書が、うず高く積まれていた。 私は一番上のデザイン書を手に取ってみた。北欧デザインの巨匠の分厚い作品集だった。ずしりとした重みが腕に伝わる。 表紙をめくると、ページの端は何度も読み返されたせいで柔らかく波打っていた。 至る所に、色の褪せた付箋が貼られている。余白には細かな文字が書き込まれていた。 湊さんの文字だろうか。 建物の構造に対する鋭い分析、家具のディテールへの純粋な感動、そして、自分ならどうデザインするかという、若々しい野心。 その一つ一つの書き込みが、彼の過去の情熱を雄弁に物語っていた。 私はその光景に言葉を失った。
last updateLast Updated : 2025-10-17
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 彼が差し出したスケッチブックを、私はおそるおそる受け取る。 ページをめくると、そこに描かれていたのは、確かに私のデザインとよく似た哲学を持つ空間だった。 温もり、歴史、利用者の体験を重視する、その思想は見事に同じ。 でもデザインそのものは、プロの目から見れば明らかに未熟だった。 線のタッチには迷いがあり、家具のプロポーションはどこか不格好で、素材への理解もまだ学生の域を出ていない。 このままでは世に出るレベルに達していない。(よかった……) 心の底から安堵のため息が漏れた。 私のデザインは、決して模倣品などではなかった。 けれど次の瞬間。 ページの余白を埋め尽くす、びっしりとした書き込みに、私の目は釘付けになった。 素材の特性、歴史的な様式への考察、そして、そこに住まう人への、真摯な想い。 拙いスケッチに込められた情熱の量に、私は胸を突かれた。 これは、お遊びなどではない。 湊さんは本気だったのだ。心の底から、デザインを愛していた。 そしてこの夢は、もう終わってしまった。「先代社長に一蹴された」と、柳専務は言っていた。 埃をかぶったこの部屋は、終わった夢を保管していたのだ。 そう思った瞬間、私の胸の奥が切なく痛むのを感じた。◇ 私がスケッチブックから顔を上げると、湊さんはどこか遠い目をして、自分の過去を語り始めた。「昔、僕は、デザイナーになりたかったんです。ホテルを継ぐのではなく」 この部屋に隠れるようにして、独学でデザインを学んだこと。学びの全てを注ぎ込んで、このコンセプトを練り上げたこと。 尊敬する祖父――先代社長――に、初めて自分の夢を打ち明けた日のこと。 祖父の言葉は、彼の夢をたった一言で終わらせた。「『感傷的なお遊びだ。ホテルの伝統を汚すな。お前には才能がない。すぐにこの部屋を片付けて、経営の勉強に集中しろ』と」 その日を境に彼はこの部屋のドアを固く閉
last updateLast Updated : 2025-10-18
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 湊さんが自嘲するように言った、「子供じみた、ただの空想」という言葉が、私の胸を締め付ける。 私は彼のスケッチブックのページを、もう一度めくった。 慰めも同情も必要ない。だから私は口を開いた。プロのデザイナーとして、意見を言うために。「このソファの脚のデザイン、既成概念にとらわれていなくて、すごく面白いと思います。ただ、この素材だと強度が足りない。もし今の技術で、このラインを活かすなら――」 私は彼の古いデザインを、現在の自分の知識と経験をもって真剣に「批評」し、「発展」させた。 傷ついた彼への憐れみではない。 同じ志を持つ者への、最大限の敬意だった。◇ 私の言葉に、湊さんは弾かれたように顔を上げた。 その顔には、感極まったような表情が浮かんでいる。 初めて自分の夢が、誰かに真剣に受け止められた。 その事実が彼の心を深く動かしているのが、私にも伝わってきた。 そうして彼は本当の想いを、静かに告白した。「僕があなたのデザインに惹かれたのは、似ていたからじゃない。僕が目指したくても技術も覚悟も足りなくて、到底たどり着けなかった理想の、その遥か先にあるものだったからです」 湊さんの声は、かすかに震えていた。「あなたは僕が諦めてしまった夢を、僕が想像もしなかった完璧な形で実現してくれた。だからあなたに嫉妬すら覚えた。……それ以上に心から尊敬したんです」 その言葉は、私の心の奥深くまでまっすぐに届いた。 彼が私を選んだのは、打算や過去への執着ではない。 デザイナー・相沢夏帆への純粋な尊敬と、そしておそらくは――。◇ 私たちの間にあった誤解は、完全に解けていた。 そこにはもう、クライアントとデザイナーという壁はない。 より深い絆が生まれていた。 私はスケッチブックを閉じて、湊さんを見つめた。「分かりました。このプロジェクト、必ず成功させます。あなたのためにも」
last updateLast Updated : 2025-10-18
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 隠れ家を後にして、湊さんの車で自宅へと送ってもらう。 車内の空気は以前とは比べ物にならないほど、満ち足りたものだった。「次の柳専務との打ち合わせは、僕に任せてください。今度は、誰もあなたのデザインを疑うことのないよう、僕自身が説明します」 そう約束してくれた。 その言葉に、私は心強いパートナーを得た喜びを感じる。 しかし自分の部屋に戻った時。その喜びは、いつの間にか別の種類の重さを帯び始めていた。(彼の夢。私が、叶えるんだ……) プロジェクトは、もはや単なる仕事ではなくなった。 湊さんが一度諦めた夢を今度は私が背負って、最高の形で実現するという使命に変わっていた。 彼への尊敬と愛情が深まると同時に、「彼に相応しいデザイナーでなければならない」というプレッシャーが、私の心にのしかかってくるのだった。 ◇  プロジェクトはまた一歩進んで、その日、スイートルームの内覧会が行われた。 部屋に足を踏み入れた所長やホテルのスタッフたちから、惜しみない賞賛の声が上がる。 私のデザインは、図面以上の完璧な形で、現実のものとなっていた。 その輪の中心に、柳専務もいた。 彼は厳しい顔で沈黙を守り、部屋の隅々まで鋭い視線を走らせている。 その場の誰もが、固唾をのんで彼の次の言葉を待っていた。 やがて柳専務は、因縁のデザインである特注家具の前に立つ。彼はじっくりと家具を見た。全体のバランスだけでなく、足のライン、ファブリックの模様と質感。細かいディティールまで確認している様子が見て取れる。 彼の眼差しは真剣だった。以前、「先代社長に一蹴されたデザイン」と湊さんを切って捨てた時とは真逆の雰囲気である。 それからゆっくりと振り返り、私を正面から見た。 湊さんが、私を庇うように一歩前に出ようとする。 けれどそれをさえぎるように、柳専務は深く――頭を下げた。「見事だ。私の完敗だな」 頑固な
last updateLast Updated : 2025-10-19
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60:仕掛けられた罠

 内覧会後のホテルのラウンジにて。 プロジェクトの成功を祝う和やかな空気の中、一人の若手スタッフがおそるおそる口を開いた。「あの。業界専門のSNSで、少し気になる噂が出ていて……」 彼が言うには、有名なデザイン評論家の西園寺氏が、今回のスイートについて何か「重大な指摘」をする準備を進めている、とのことだった。 西園寺氏は辛口で知られるが、その批評は絶大な影響力を持つ人物。(西園寺氏といえば、あのライバルホテルの佐藤と親しい間柄!) 佐藤は以前にも私に悪評を立てて、結果、湊さんのご両親――黒瀬社長夫妻の呼び出しを受ける原因になった人間だ。 私は湊さんに目配せをした。彼も頷く。 和やかだった空気に一瞬で緊張が走った。◇ 翌日。 事務所に出勤すると、同僚たちが青い顔で自分のPCモニターを見つめていた。 私のデスクにも、所長から転送されたメールが一通入っている。 添付されていたURLをクリックすると、西園寺氏が運営するウェブマガジンの速報記事が、画面に表示された。 見出しは、『インペリアル・クラウン新スイートに、深刻な盗用疑惑』。 記事には、私のデザインコンセプトと、数年前にヨーロッパの学生デザインコンペで最優秀賞を受賞したという無名の学生の作品が、並べて掲載されていた。 コンセプト、色使い、家具のフォルム。 偶然では済まされないほど、二つのデザインは酷似している。(そんな……) もちろんその学生の作品など、見たことも聞いたこともない。 だが並べられた二つの画像は、明らかに私の「罪」を物語っていた。 誰かが仕組んだ罠だった。◇ アトリエ・ブルームの事務所の電話が、鳴り止まない。 それまで私を賞賛していた同僚たちの視線が、疑念と戸惑いの色に変わっていくのが、痛いほど分かった。 所長は私の潔白を信じようとしてくれている。
last updateLast Updated : 2025-10-19
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