インペリアル・クラウン・ホテルの最上階、役員会議室。 湊さんからの連絡を受けて、私は一人でその場所へと向かった。 案内された部屋の扉は、重厚なマホガニーでできていた。ノックをする指先が、わずかに冷たい。 部屋の中央には、黒曜石のように磨き上げられた長大なテーブルが鎮座していた。 その席にはすでに、黒瀬社長、柳専務をはじめとする、ホテルの最高幹部たちが顔を揃えている。 私が部屋に入っても、誰一人、挨拶の言葉を口にする者はいなかった。 ただ法廷に立つ罪人を検分するような、冷たい視線だけが私に注がれる。 湊さんも役員の一人として、テーブルの向こう側に座っていた。 私が部屋に入ってきた時、彼は一度視線を上げただけだった。 その表情からは、何も読み取れない。 この部屋の中で、私は完全に一人だった。◇ 会議の口火を切ったのは、黒瀬社長だった。 彼の声は感情を一切排した、事務的な響きを持っていた。「今回の盗用疑惑が、我々のブランドイメージと、プロジェクト全体にどれほど深刻なダメージを与える可能性があるか。まずは、その点を共有したい」 社長の言葉を合図に、部屋の巨大なスクリーンに光が灯る。私のデザインと、告発の根拠となっている学生のデザインが、並べて映し出された。 言い逃れのできないほどの酷似が、改めて突きつけられる。 部屋の空気がさらに重くなった気がした。 社長は私に向き直る。「相沢さん。これは、極めて深刻な事態だ。弁明を聞こう」 喉がカラカラに乾いている。私は唾を飲み込んで、口を開いた。「存じません。この学生のデザインは、この記事で初めて見ました。私のデザインは、全て私自身のアイデアです」 やっと出た声は、自分でも驚くほど小さく頼りなかった。 私の言葉が誰の心にも届いていないのは、明らかだ。 テーブルの端に座っていた役員の一人が、ため息混じりに言った。「本当に記憶にないのですか? アシスタントが持って
Last Updated : 2025-10-20 Read more