雑誌のインタビュー記事が掲載されてから、事務所の空気は一変した。 私の名前と顔は業界内で一躍注目の的となって、ひっきりなしに問い合わせの電話が鳴る。 プロジェクトはこれまで以上に円滑に進んだ。 でもそれらの名声と引き換えに、私は違和感に苛まれるようになっていた。 事務所内や取引先の担当者から向けられる、含みを持たせた視線。 聞こえよがしな、ひそひそ話。(気のせい? 最近みんなの態度が、少しおかしいような……) 特に所長の態度の変化は大きかった。 これまで私の最大の理解者であったはずの彼女が、どこか歯切れの悪いよそよそしい態度を取るようになったのだ。「この件ですが、デザイン案はこちらで進めてもよろしいでしょうか」 私がプロジェクトに関する相談をしても、所長は目を逸らしてこう答える。「それは、黒瀬様のご意向なのよね?」 その言葉には、隠しているけれど皮肉がにじんでいる。 事務所全体に漂う不穏な空気に、私は不安を感じていた。◇ その日の午後、私は所長室に呼ばれた。「相沢さん、座ってちょうだい」 彼女は苦々しい表情で、一冊の週刊誌をテーブルに置いた。ゴシップ記事を専門に扱う悪趣味な雑誌だった。「……何ですか、これ」「業界内で、あなたに関する良くない噂が流れているわ。しかも厄介なことに、この噂の発信源が、どうもあのライバルホテルの佐藤さんがいる辺りかららしいのよ」 所長の言葉に、私の脳裏にあの料亭での出来事が鮮明に蘇る。湊さんとテキスタイル工房へ視察に行った、あの日のことだ。 私のあからさまな引き抜きを行い、湊さんの前で屈辱的な形で退散させられた、あの男の顔。佐藤。そう、そんな名前だった。 所長が指差したページには、小さな見出しが躍っている。『新進デザイナーA、御曹司を寝取り大抜擢か』 記事には私のイニシャルと、インペリアル・クラウン・ホテ
Last Updated : 2025-10-10 Read more