二人きりになった会議室は、しんと静まり返っていた。 湊さんのすべてを見透かすような瞳から、逃げることはできない。「いえ、私の問題ですから、大丈夫です」 この期に及んで、私は虚勢を張った。 これ以上、彼に個人的な問題で迷惑をかけたくない。 その一心で抵抗を試みた。我ながら弱々しくて情けない姿だったと思う。 しかし彼は静かに首を振る。「大丈夫ではありません。あなたが悩んでいると、僕も仕事に集中できない。それはプロジェクト全体の損失に繋がります」 まただ。 彼は巧みに「業務」を盾に、私の心の壁をこじ開けようとする。 そして不意に、その声色が個人的な響きを帯びた。「それに、僕はただ、あなたが苦しんでいるのを見ているのが、耐えられないだけです」 湊さんのまっすぐ言葉に、私が必死で築いていた防御はあっけなく決壊した。 この人は本当にずるい。 仕事のパートナーの口実で私の警戒を解いて、隙間から優しさを注ぎ込んでくる。 私は観念して、圭介からの執拗な連絡についてぽつりぽつりと話し始めた。◇ 私の話を聞き終えた湊さんの表情から、いつもの穏やかさが消えていた。 その瞳には静かだが、燃えるような怒りの色が宿っている。「分かりました。その問題は、僕が解決します」 彼は言い切った。「でも、これは私の問題で」 私がためらうと、湊さんは選択を迫った。「あなたがご自身で解決できると言うなら、僕は信じます。ですが、もしこれ以上あなたが消耗するようなら、僕は僕のやり方で、あなたの『問題』を排除するしかなくなる。それでもいいですか?」 彼が本当に私の安全を願っているのは伝わった。 けれどそれは、同時に私の人生に強く介入するということでもある。 湊さんに任せれば、迅速な解決が望めるだろう。(でも、それでいいの?) これは私と圭介の問題のはずだった。本来ならば私が自分で解決するべ
Last Updated : 2025-10-05 Read more