로그인結婚記念日に夫の裏切りを知った、インテリアデザイナーの夏帆。 絶望の夜、見知らぬ男性と一夜を共にする過ちを犯してしまう。 後悔に苛まれる彼女の前に、新しいクライアントとして現れたのは、あの夜の彼――大ホテルグループの御曹司、黒瀬湊だった。 「僕から逃げられると、思わないでください」 穏やかな笑顔の裏に底知れない執着を隠した彼に、仕事もプライベートもすべてを絡め取られていく。 これは罰か、それとも――。 傷ついた心が再び愛を知るまでの、甘く危険なシンデレラストーリー。
더 보기旅の最後の一日は、船の上でゆっくりと過ぎていった。 午前中は、キッズルームで最後の時間を楽しむ帆波に付き添う。午後は、三人でプールサイドのデッキチェアに座って、ジェラートを食べた。帆波はアテネで買ってもらった、女神の絵が描かれた小さなブレスレットを、何度も得意げに私に見せてくれた。 その夜私たちは、船で最も格式の高いメインダイニングで、ドレスアップして最後の夕食を楽しんだ。「今回の旅で、一番美味しかったものは、何だったかな」 湊さんが尋ねると、帆波は元気いっぱいに手を挙げる。「いちごの、じぇらーと!」 ローマで食べたジェラートのことだろう。私たちは顔を見合わせて、笑った。「楽しかった旅に、乾杯」「かんぱーい!」 旅の思い出を語り合いながら、湊さんと私はワインで乾杯する。帆波も子供用のドレスを着て、少しだけお姉さんになった気分で、ジュースの入ったグラスを得意げに掲げていた。 ◇ 翌日。ローマの港に帰港して、私たちは船を降りた。「おふね、ばいばーい」 帆波が名残惜しそうに、巨大な船に何度も手を振っている。 空港へ移動し、日本への帰国便に搭乗する。帆波は離陸するとすぐに、自分の小さなベッドですーすーと深い寝息を立て始めた。遊び疲れていたのだろう。 湊さんは娘の寝顔を、愛おしそうに見つめている。 機内が暗くなり、静かな時間が流れる。私は湊さんのタブレットを借りて、この旅のたくさんの写真を見返していた。 シチリアの砂浜で、帆波と手をつないで波を追いかける私。バルセロナの公園で、チュロスを頬張りながら笑う湊さん。アテネの丘で、眠る娘を抱く夫の隣で夕日を見つめる私。 写真の中にいる私は、どれも屈託もない笑顔を浮かべていた。過去の傷や不安の影は、どこにもない。 この旅が私の中に残っていた最後の小さな氷を、完全に溶かしてくれたのだ。 ◇ 日本に到着し、懐かしい我が家に戻る。リビングのソファに座れば、旅の疲
「人間の目の錯覚を、全て計算し尽くしているの。どこから見ても完璧な調和と、安定した美しさが感じられるように。何千年も前にこれだけの数学と美に対する執念が、ここに存在していたなんて」 ただの美しい遺跡ではない。神々に捧げるために、当時の人々が持てる技術と知恵の全てを注ぎ込んで作り上げた、美の結晶なのだ。 時を超えたデザイナーたちの魂の叫びのようなものが、私の胸に響いていた。「おしろ、きいろいねぇ!」 湊さんの肩車の上で、帆波が楽しそうな声を上げる。湊さんは娘の小さな足を支えながら、私に微笑みかけた。「そうだね、帆波ちゃん。お日様の光で、金色に光ってるんだ」 空はオレンジから赤へ、そして深い紫へと、刻一刻とその色を変えていく。 この神殿は遺跡になる前から、そして現代のこの姿になっても、ずっと変わらず日差しを浴び続けてきたのだろう。 私たちは悠久の時を刻む神殿と、沈みゆく夕日が織りなす美しい光景を見つめていた。◇ 最後の茜色が西の空から完全に消え去ると、辺りはは深い藍色に包まれた。眼下に広がるアテネの街に、ぽつりぽつりと温かい光が灯り始める。 周囲で聞こえていた様々な国の言葉のざわめきが、いつの間にか遠のいていく。昼間の喧騒が嘘のように、丘の上には静かな夜の空気が満ちていた。 静寂の訪れを合図にしたように、目の前のパルテノン神殿が、ふわりと柔らかな光に照らし出された。「……あ」 黄金色ではなく、月光のような穏やかで荘厳な光。ライトアップの光は、大理石の柱の風雪に削られた傷の一つひとつを、優しく浮かび上がらせている。 湊さんは眠ってしまった帆波を、起こさないように慎重に自分の胸に抱き直した。空いた方の腕で私の肩を抱き寄せる。 私は彼の胸に頭を預けた。規則正しい心臓の音が耳元で聞こえる。「最高の旅だったね」 湊さんがささやいた。私は微笑む。「ええ、本当に。ありがとう、湊さん。私と帆波に、こんなに素敵な世界を見せてくれて」
旅の最後の寄港地は、ギリシャのアテネだった。 朝、私が目を覚ますと、船はすでにアテネの外港であるピレウス港に停泊していた。 バルコニーに出る。これまでの西ヨーロッパの港とは違う、少し乾いた歴史の匂いがする空気が肌を撫でた。眼下には白い建物が並ぶ、広大な港湾都市の姿が広がっていた。「ママ、みて! やまのうえに、おしろ!」 帆波が遠くの丘の上に見える、小さな白い点を指差した。アクロポリスの神殿だ。「本当だ。きれいね」 バルコニーですでにコーヒーを飲んでいた湊さんが、私の肩を抱き寄せる。「いよいよ、最後の寄港地だね。今日は、この旅の締めくくりに、一番美しいものを見に行こう」 彼は帆波に向かって微笑んだ。「そうだよ、帆波ちゃん。あれは大昔の、神様たちのお城なんだ」 ◇ その日の午後、市内観光を終えて。日が傾き始めた頃、私たちはアクロポリスの麓にいた。 オリーブの木々が生える、乾いた岩肌の坂道。帆波は、最初こそ元気いっぱいにその坂を駆け上がろうとしていたが、すぐに疲れてしまったらしい。「パパ、だっこ!」 湊さんに向かって、小さな両手を広げる。「はいはい、お姫様」 湊さんは慣れた様子で、娘を軽々と肩車した。急に視界が高くなった帆波は、ご機嫌な声を上げる。 私は夫と娘の微笑ましいやり取りを、少し後ろから見守りる。数千年の歴史が刻まれた、神聖な丘をゆっくりと登っていった。◇ 最後の坂道を登り切り、視界が開けた瞬間。私は思わず息をのんだ。 眼下に広がる白壁のアテネの街並み。その向こうに沈んでいく、巨大な夕日。 その最後の光を一身に浴びて、パルテノン神殿が丘の頂上に佇んでいた。 何千年もの風雪に耐えてきた、巨大な大理石の柱。その一本一本が夕日を受けて、燃えるような黄金色に輝いている。「……すごい」 私の口から感嘆のため息が漏れる。
「帆波!」「帆波ちゃん!」 私と湊さんの叫び声が路地に響く。心臓が凍ってしまったように、一瞬止まった。 すぐに角を曲がるが、その先の路地にはもう娘の姿はない。そして道はさらに二手に分かれている。どこへ行ったのか、全く分からない。 私は湊さんの顔を見た。彼の顔は蒼白で、瞳には一瞬、あの山荘での理性を失った時の光がよぎったように見えた。だが彼は固く拳を握りしめると、その感情を必死に抑え込んだ。「落ち着いて、夏帆さん」 彼の声はわずかに震えていたが、冷静だった。「あの子の足では、遠くへは行けないはずだ。僕は左を、君は右を探そう。名前を呼びながら」 私が右の路地へ駆けだそうとした時。 どこからか美しいバイオリンの音色が、壁に反響しながら聞こえてきた。「あれは……?」 私と湊さんは顔を見合わる。その音のする方へと向かった。路地を抜けると、そこは陽光が降り注ぐごく小さな広場だった。 広場の真ん中で、若い大道芸人がバイオリンを弾いている。彼の目の前で、帆波がぽつんと一人、立っていた。彼女は蝶のことなどすっかり忘れて、夢中になってバイオリンの美しい音色に聴き入っていたのだ。 全身から力が抜けていく。 湊さんが娘のそばへ歩み寄り、小さな体を力いっぱい抱きしめた。「パパ?」 帆波は急に現れた父親を不思議そうに見ている。 湊さんはしばらくの間、娘の髪に顔をうずめていた。やがて顔を上げた彼の目には、涙が浮かんでいた。 バイオリン弾きがイタリア語で何事か言った。 湊さんは頷いて、「グラッツェ」と返す。お礼の言葉だ。「彼、なんて言ったの?」「小さな子が一人で歩いていたから、音楽を聞かせて引き止めていたそうだ。親が迎えに来るはずだからと」「そうだったの……」 私たちはバイオリン弾きに心からの礼を言うと、その広場を後にした。湊さんはもう、帆波を腕から降ろそうとはしない。 その日の昼食は、ジェノバの郷土料理であるトロフィエ・アル
【三人称視点】 記者会見が終わってから、1時間も経たない時のこと。 スイス、ジュネーブにある「グラン・レジス」グループ本社の最高コンプライアンス責任者のメールボックスに、一通の暗号化されたメールが届いた。 差出人は不明。発信源は追跡不可能な、使い捨てのサーバーを経由している。 添付されていたのは、1つのPDFファイルだった。 タイトルは『インペリアル・クラウン・ホテルズ新スイートルームにおける、妨害工作に関する調査報告書』。 コンプライアンス責任者はウィルススキャンをして、問題ないことを確認する。それから
さらに湊さんは、少し語調を変えて続けた。今までの淡々とした口調から、今度は明るさの感じられる声になる。「しかし我々は、この出来事を、ただの不幸な事件で終わらせるつもりはありません。今回の件を教訓とし、インペリアル・クラウン・ホテルズは本日、これまでの基準を遥かに上回る、世界で最も厳格な新しい品質管理体制を導入することを、ここに宣言いたします」 彼はスクリーンに新しい品質管理システムの、具体的なフローチャートを映し出す。「我々を陥れようとした悪意は、皮肉にも我々をより強く、より誠実な企業へと、進化させてくれました。今後も我々は、お客様に最高
最初に映し出されたのは、環境保護団体から送られてきた厳しい文面の告発状。 次に私が業者から受け取った正規の証明書を提示し、選定プロセスに問題がなかったことを説明する姿。 そして場面は、白衣を着た研究者が立つ研究所へと切り替わる。『――結論として、ホテルに納品された木材のDNAは、証明書に記載された国産の檜とは、完全に不一致です。また、人体に有害な化学物質が、基準値を上回って検出されました』 科学的な分析結果が、淡々と決定的な事実として、突きつけられる。 会場の記者たちから、どよめきが起こった。 湊さんは
「その力を使って業者に圧力をかけ、我々に納品する素材を、証明書とは違う安価な偽物へとすり替えさせた。もし断れば会社を潰すとでも、脅したのでしょう。全ては佐藤専務の影を我々に悟らせないための、用意周到な偽装工作です」 佐藤はダミー会社を隠れみのにしながら、私たちを攻撃していた。そういうことか。(ひどい。私を攻撃するだけじゃなく、業者を乗っ取るなんて。乗っ取られた業者は、巻き添えで信用を傷つけられた) あの業者は、一流の顧客を多く抱えていた。信用問題は大きなダメージになるだろう。 私は心が痛むのを感じた。「これで相沢