王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです

王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです

last updateLast Updated : 2025-09-22
By:  灰猫さんきちUpdated just now
Language: Japanese
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結婚記念日に夫の裏切りを知った、インテリアデザイナーの夏帆。 絶望の夜、見知らぬ男性と一夜を共にする過ちを犯してしまう。 後悔に苛まれる彼女の前に、新しいクライアントとして現れたのは、あの夜の彼――大ホテルグループの御曹司、黒瀬湊だった。 「僕から逃げられると、思わないでください」 穏やかな笑顔の裏に底知れない執着を隠した彼に、仕事もプライベートもすべてを絡め取られていく。 これは罰か、それとも――。 傷ついた心が再び愛を知るまでの、甘く危険なシンデレラストーリー。

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Chapter 1

01:3年目の結婚記念日

 とろりとした黄金色のシロップが、こんがりと焼けたフレンチトーストの上を滑り落ちていく。

 湯気の向こう、夫の圭介(けいすけ)はスマホの画面に釘付けだった。

 今日は結婚3年目の記念日になる。

 私こと相沢夏帆(あいざわ・かほ)は、いつもより少しだけ早く起きて、夫の好物を用意していた。

 それなのに、ダイニングテーブルに漂う空気はひどく冷めている。

「圭介、できたよ」

「ん、サンキュ」

 彼は画面から一瞬たりとも目を離さない。

 圭介の指は大切なものに触れるみたいに、なめらかに液晶の上を滑っていく。

 その仕草が、私の胸をちくりと刺した。

「今夜、楽しみだね。予約したレストラン、人気のお店だから」

「あぁ、そうだな」

 気のない返事。

 スマホの画面を見つめていた彼の口元が、ふ、と緩んだ。

 私にはもう、ずっと向けられていない種類の笑みだった。

(いつからだろう)

 圭介が、私を見て笑ってくれなくなったのは。3年は夫婦の時間を冷ますのに、十分な期間だった。

 スマホの画面の向こうには、一体誰がいるんだろう。

 問い詰める勇気なんて、今の私にはなかった。

「――というわけで、このコンペはうちが勝ち取りました!」

 所長の弾んだ声が、事務所に響く。同僚たちの間から、わっと歓声が上がった。

 この事務所は「Atelier Bloom」という名前で、インテリアデザインを手掛けている。

 私は所属するデザイナー、兼、コーディネーターだ。

「やりましたね、夏帆(かほ)さん!」

 同僚の一人が満面の笑みで手を差し出してくる。私はその手を取って、握手をした。

 私も、もちろん嬉しかった。

 この数ヶ月、必死で取り組んできた大型案件だったから。

 でも心のどこかが、素直に喜ぶことを拒んでいた。

 その少し前、デスクの上で震えたスマホに表示されたのは、圭介からの短いメッセージ。

『ごめん、急な仕事が入った。今夜のディナー、キャンセルで』

(仕事なら、仕方ないよね……)

 たったそれだけ。

 記念日だっていうのに、私の名前すら呼ぼうとしない。

 胸の奥が、ずきりと痛む。大丈夫。大丈夫よ。

 自分に何度も言い聞かせながら、キーボードを叩く手に力を込めた。

 コンペの件で興奮する同僚たちの声が、今はどこか遠かった。

 仕事を終えて、事務所を出る。

 街はきらきらと輝いていて、幸せそうな人たちで溢れている。

 それが、ひどく疎ましかった。

 気づけば、私の足は予約していたレストランへと向かっていた。

 馬鹿みたいだとは分かってる。

 でも、万が一。

 ほんの万が一でも、彼がサプライズで――あるいは「仕事」にきりをつけて、来てくれているかもしれない。

 そんな最後の望みにすがりたかった。

 レストランまであと少し。

 その時、通りの向こう側に見慣れた後ろ姿を見つけた。

 圭介だ。

 心臓がドクンと大きく跳ねる。

 やっぱり来てくれたんだ!

 駆け寄ろうとして、私はその場で凍り付いた。

 彼の隣には、知らない女がいた。かなり若い。まだ20歳そこそこだろう。

 華奢な肩を抱き寄せられ、圭介の顔を見上げている。

 二人は楽しそうに笑い合って――そして、唇を重ねた。実に自然で手慣れた動作だった。

(あの人は誰? いつからこんなことに……?)

 時間が止まったみたいだった。

 頭が真っ白になって、何も考えられない。

 ただ目の前の光景だけが、スローモーションのように焼き付いていく。

 建物の陰に隠れて、その場に座り込みそうになるのを必死でこらえた。

 全身の血の気が、さーっと引いていく。

 心臓が、氷の塊になったみたいに冷たかった。

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01:3年目の結婚記念日
 とろりとした黄金色のシロップが、こんがりと焼けたフレンチトーストの上を滑り落ちていく。 湯気の向こう、夫の圭介(けいすけ)はスマホの画面に釘付けだった。 今日は結婚3年目の記念日になる。 私こと相沢夏帆(あいざわ・かほ)は、いつもより少しだけ早く起きて、夫の好物を用意していた。 それなのに、ダイニングテーブルに漂う空気はひどく冷めている。「圭介、できたよ」「ん、サンキュ」 彼は画面から一瞬たりとも目を離さない。 圭介の指は大切なものに触れるみたいに、なめらかに液晶の上を滑っていく。 その仕草が、私の胸をちくりと刺した。「今夜、楽しみだね。予約したレストラン、人気のお店だから」「あぁ、そうだな」 気のない返事。 スマホの画面を見つめていた彼の口元が、ふ、と緩んだ。 私にはもう、ずっと向けられていない種類の笑みだった。(いつからだろう) 圭介が、私を見て笑ってくれなくなったのは。3年は夫婦の時間を冷ますのに、十分な期間だった。 スマホの画面の向こうには、一体誰がいるんだろう。 問い詰める勇気なんて、今の私にはなかった。◇「――というわけで、このコンペはうちが勝ち取りました!」 所長の弾んだ声が、事務所に響く。同僚たちの間から、わっと歓声が上がった。 この事務所は「Atelier Bloom」という名前で、インテリアデザインを手掛けている。 私は所属するデザイナー、兼、コーディネーターだ。「やりましたね、夏帆(かほ)さん!」 同僚の一人が満面の笑みで手を差し出してくる。私はその手を取って、握手をした。 私も、もちろん嬉しかった。 この数ヶ月、必死で取り組んできた大型案件だったから。 でも心のどこかが、素直に喜ぶことを拒んでいた。 その少し前、デスクの上で震えたスマホに表示されたのは、圭介からの短いメッセージ。『ごめん、急な仕事が入った。今夜のディナー、キャンセルで』(仕事なら、仕方ないよね……) たったそれだけ。 記念日だっていうのに、私の名前すら呼ぼうとしない。 胸の奥が、ずきりと痛む。大丈夫。大丈夫よ。 自分に何度も言い聞かせながら、キーボードを叩く手に力を込めた。 コンペの件で興奮する同僚たちの声が、今はどこか遠かった。◇ 仕事を終えて、事務所を出る。 街はきらきらと輝いていて、幸せそ
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02:3年目の結婚記念日2
 がらんとしたマンションのリビングで、私は一人、彼を待った。 テーブルの上には一枚の紙。引き出しの奥で眠っていた、離婚届だ。 以前、圭介とふざけ合っていた時に『一生離れないって約束の証!』なんて言って、役所からもらっておいたものだった。 まさか、こんな形で使うことになるなんて。 震える指でペンを握りしめ、自分の名前を書き込んだ。 深夜、カチャリ、と玄関のドアが開く音がする。 ふわりと漂ってきたのは、私の知らない甘ったるい香水の匂いだった。「……おかえり」 リビングに立っていた私を見て、圭介は一瞬、驚いた顔をした。「なんだ、起きてたのか」「記念日、おめでとう」 私はテーブルの上の離婚届を、すっと彼の方へ滑らせる。「これが、私からのプレゼントよ」 彼の顔から血の気が引いた。「な、なんだよ、これ……」「見ての通りよ。『急な仕事』、お疲れ様」 冷え切った声が出た。自分でも驚くくらい、落ち着いた声だった。「ち、違うんだ! これは、その……!」 圭介の見苦しい言い訳が、やけに遠くに聞こえる。「何が違うの? 町の真ん中でキスまでして、ずいぶん慣れた様子だったけど?」「だから!」 圭介はやけになったように叫んだ。「お前は仕事が忙しくて、俺にかまってくれないじゃないか。だから、癒やしが欲しかったんだよ。彼女といると、心が安らぐんだ。俺は真実の愛を見つけたんだよ!」「へえ、真実の愛ねぇ」 もう、どうでもよかった。 彼が誰と何をしていようと、私の心はもう1ミリも動かない。「だったら、癒やされない私はいらないよね。真実の愛で結ばれた相手と一緒になれば?」「ああ、そうするさ。お前みたいな冷たい女は、こっちから願い下げだ!」 圭介は乱暴な字で離婚届にサインした。 ゴミでも投げるように、投げつけてくる。「明日、それを出してこいよ。これで他人だ。せいせいする」 呆れた。最後の一手間まで私に当然のように押し付けてくる。 この人はいつもそうだった。面倒なことは後回しにして、にっちもさっちもいかなくなったら、私に押し付ける。 生活費の折半は、理由をつけて金額を減らしたり、振込を遅らせたりする。 家事の分担は「今やる」と言うだけで、結局何もしない。 バカバカしい。本当に、馬鹿みたい。こんな男と3年も夫婦でいたなんて! 圭介をリビング
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03:夜の出会い1
『インペリアル・クラウン・ホテル』の最上階、夜景の見えるバー。 バーカウンターの分厚い一枚板は、鏡のように磨き上げられていた。 そこに映る自分の顔が、ひどく醜く見えて目を逸らす。(帰る場所なんて、もうどこにもない) 琥珀色の液体が、喉を焼くように滑り落ちていく。 熱いのか冷たいのか、もうよく分からなかった。今はただ、アルコールに溺れて何もかも忘れてしまいたい。 頭をよぎるのは、幸せだった頃の結婚生活の思い出ばかり。 圭介と2人、素直に笑い合っていたっけ。 学生時代から付き合い始めて、25歳で結婚して。もう8年も彼と一緒に過ごしてきた。 私は彼を大事に思っていたし、圭介も私を愛していてくれていたはずだった。 それなのに、壊れる時は一瞬だ。8年の時間が一瞬で崩れて、後には何も残らない。 涙がにじみそうになり、私はさらにウィスキーのグラスを傾けた。あんなやつのために泣きたくない。 悔しくて、悲しくて、苦しくて。そんな感情は全部お酒に溶かして、飲み込んでしまえ。 そうしてずいぶんと酔いが回った頃、ふと隣を見れば、一人の男性が同じように深酒をしていた。「……」 目が合ってしまって、気まずい思いで逸らす。 でも何だか――彼の瞳もひどく傷ついた心を映しているようで、どうしても気になってしまった。「……何か、お辛いことがあったようですね」 ふいに、隣から穏やかな声がした。 先ほどの男性がこちらを見ている。 心配している……というよりは、ただそこに寄り添うような、不思議な眼差しだった。「放っておいてください」 棘のある声が出た。 優しくされる資格なんて、今の私にはない。 でも彼は気にした様子もなく、バーテンダーに何かを注文している。 そのゆったりとした仕草が、なぜだか私のささくれた心を少しだけ落ち着かせてくれた。「もしよろしければ」 彼の前に、私と同じグラスが置かれる。「乾杯しませんか。あなたの新しい門出に」「……門出、ですって?」「ええ。辛いことの終わりは、何かの始まりでしょう」 彼の言葉が、すとんと胸に落ちてきた。 そうだ、終わったんだ。 私の結婚生活は今日、完全に終わった。 張り詰めていた心の糸が、ぷつりと切れた音がした。 気づけば私は、見ず知らずの彼に、ぽつりぽつりと自分のことを話していた。 夫のこと、
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04:夜の出会い2
「僕の肩書きや家柄ではなく、僕自身を見てくれる人なんて、本当にいるんでしょうかね。やっと出会えたと思った人も、すぐに化けの皮がはがれる。今日も醜い本性を目の当たりにしてしまって、もう何を信じるべきか、分からなくなってしまいました」 その呟きは、諦めと、深い孤独の色をしていた。 この人も、見た目からは想像もつかないような傷を抱えているんだ。 誰にも言えない痛みを、その穏やかな笑顔の裏に隠している。(この人も、寂しいんだ……) そう思った瞬間、彼が急にただの優しい人ではなく、同じ痛みを分かち合えるたった一人の人のように思えた。 彼の孤独に、私の心がそっと寄り添っていく。 私たちはお互いの孤独の影を、静かに重ね合わせた。欠けていた心が埋められていく。 まるで失われた半身を取り戻すように、身を寄せ合った。 ぴたりと重なる心と体が、深く満たされていく。 その心地よさに、私は溺れるように彼を求めた。◇ 柔らかなシーツの感触と、朝の光の眩しさで、私は目を覚ました。 飲みすぎた後遺症で、頭がガンガンと痛い。(……ここは?) 重たい瞼を押し上げると、見知らぬ天井が目に飛び込んできた。 マンションの寝室よりもずっと高い天井で、しつらえも豪華。これは一体? 慌てて体を起こすと、隣には――昨夜の彼の穏やかな寝顔があった。 血の気が、さーっと引いていく。(何やってるの、私!) 断片的な記憶が、洪水のように押し寄せる。 圭介の裏切りをなじったばかりなのに、自分も同じことをした。 最低だ。 自分の寂しさに負けてしまった。 見ず知らずの人の優しさに、衝動的に甘えてしまった。(この人も、孤独だと言っていたのに) 結局、私も自分の孤独を埋めることしか考えていなかったんだ。 なんて浅はかで、身勝手なんだろう。 起き上がって周囲を見渡せば、ここがとても豪華な部屋だと分かった。 クリーム色と、落ち着いたウォールナットの木目で統一された、趣味のいい空間。 窓際に置かれた大きなソファに、ガラスのローテーブル。 ミニバーには、見たこともないようなお酒のボトルが並んでいる。 おそらくスイートルームだ。昨夜、私はインペリアル・クラウン・ホテルのバーで飲んでいた。ということは、ここはあのホテルのスイート。 壁一面の大きな窓からは、朝日に照らされた街がジ
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