怜司は言葉を失う。気まずそうに指をこすり合わせる。「秘書に手配させる。遥の分も全部、快適に帰れるようにしておく」遥はくるりと部屋へ戻り、荷造りを続ける。「こっちで片付けたい用があるの。沙羅さんを連れて先に帰って。出産の邪魔はしたくないから」怜司の顔色が変わる。「一緒に帰らないのか?」遥は振り向いて笑う。「お母さんに頼まれ物があってね。二日くらいかかるかも。買えたらすぐ戻るよ」「でも……」怜司が遥を引き止めようとしたその時、秘書がスマホを持ってやってくる。「社長、おばあさまからのお電話です」怜司は電話を受け取り、少し離れて話し始める。「おばあちゃん、今すぐ沙羅を連れて帰るから安心して。絶対に無事に戻るよ」……電話を終えて部屋に戻ると、遥の姿はもうどこにもなかった。部屋には沙羅が背を向けて立っており、何かを見ているようだった。「遥は?」沙羅はあわてて振り返り、その拍子に袖口へ一通の手紙を隠した。「遥さんが、先に怜司さんと私だけ帰国しててって。二日遅れて戻るから心配しないでって」怜司はどこか上の空だった。この数日、遥と顔を合わせていないが、なんだか彼女の雰囲気が変わった気がする。でも、その理由をうまく言葉にできない。沙羅は近づいて怜司の腕にそっと手を回す。「怜司さん、帰りましょう。おばあちゃんからも電話で催促があったし」怜司は眉をひそめ、鋭い目つきで沙羅を見た。「おばあちゃんなんて呼び方は、お前が使うべきじゃない。自分の立場を忘れるな」沙羅は一瞬きょとんとして、気まずそうに手を引っ込める。「はい、怜司さん……つい口が滑って。おばあさまが気にしているのは結局このお腹だけ。子どもを産んだら、私は田舎に戻る」言い終えると、涙をこぼしながら怜司をじっと見上げる。怜司はため息をつき、「別に出て行けとは言ってない。ただ、俺の妻は遥なんだ。お前が間にいると、どうしても彼女に辛い思いをさせてしまう。そのときは別荘を一軒買って、お前の名義にしてやる。子どもを産んでくれたお礼だ」沙羅は無理に笑顔を作ったが、その笑みには明らかな悔しさがにじんでいた。帰国の飛行機の中、怜司はふと思い出して沙羅に尋ねる。「さっき遥の部屋で何を見てたんだ?何か置き手紙でもあったのか?」沙羅は栄養ドリンクを口にしな
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