All Chapters of ポンコツ悪役令嬢の観察記録 ~腹黒執事は、最高のショーを所望する~: Chapter 101 - Chapter 110

111 Chapters

第101話 茨の冠、情と虚無、化物の歌(後半)

 なぜか、わたくしの高笑いで……ローラント殿の動きが、わずかに鈍る。 よくわからないけど、効いてるわっ!「あなた、自分が何をしたか分かってますの!? ヒュプシュ卿を傷つけ、殿下を悲しませ、あまつさえ、“わたくしのイヅル”にまで手を出すなんて! 万死に値しますわよ!」「それがなにか? 私は、情を断ち切ったのです。主君への敬愛も、友情も、貴女様への……思慕も。ハンノキの王への恩義のために。勝利のために」「バカおっしゃい! 何が勝利よ! 何が『情を断つ』よ!」 わたくしは、扇をバシッと閉じて、彼を指さした。「“真の己”ですって! 情を持たないことが? 違うわ、あなたは空回りばかりしているけど、いつも真っすぐで……それこそが、本当のあなたなんじゃなくて? 剣術を鈍らせるほどの、優しさこそが!」「だとするならば、その“本当のローラント”という男が、この世に不要だったのですよ」「なっ!? なによっ、それがボイズ家の家訓だとでもいうのかしらっ!」 イヅルが刃を止めれば、他の方向から雨あられと弾幕がローラント殿に迫り、拮抗する時間がもたらされる。 わたくしは、皆様が作ってくれたこの時間で――この心の戦いに勝つっ!「家訓。まあ、そうかもしれませんね」 なおも、ローラント殿は、息一つ乱さない。「亡命者の一族など、後ろ盾がなければ、ひどいものです。……私は、そんななかで生まれた使用人の子でした」「使用人の子? ……今や、護衛騎士筆頭なのに?」「ええ、そうです。実子として、認知だけはされましたが……物心ついた時から、『女に生まれれば、政略結婚に使えたのに』と、父や兄たちから、不要な男子として虐げられて育ったのですよ」 想像だにしていなかった言葉だった。ローラント殿が育ってきた背景。「そんなの…&he
last updateLast Updated : 2026-01-07
Read more

第102話 あなたにとってのお星さまは、だあれ?

「違うっ! 確かに、私の……“俺”の弱さのせいで、母さんは死んだ! 二度とはもう戻らない。だがっ!」「だが? ほほう、ハンノキの王の世界に連れ去れば、愛する者は傷つかずに済むとでも?」「そうだ! この世は、争いとエゴに満ちている。肉体がある限り、苦しみはなくならない! どんなに、心が美しくとも、いずれは傷ついて――」「待つがよいっ!」 すかさず、横合いからバージル殿下が隙をつき、一太刀! 切り払ったのは、ローラント殿の半身を覆い尽くさんとする、黒い茨。「私は、傷つくことを恐れないぞ! ローラントっ!」「くっ!? 殿下っ!」「聞け、私は融通が利かない石頭だ!」「……はあ?」 唐突に、バージル殿下が叫んだ。 あまりに的外れで、あまりに自虐的。誰もが、呆気にとられた。 けれど、それこそが――この一件を通し、バージル殿下なりに悩み、出した、不器用すぎる答えだった。「そこまで、周りから煙たいと思われているとは知らなかった! ああ、空気も読めないとも! 乙女心も、臣下の気持ちも、察せられない愚かな男だ! おまけに人を見る目もないっ!」 腹心に裏切られ、疑いの眼を向けた者たちは、逆に軒並み味方だった殿下。 自分の無力さを、これでもかというほど思い知らされた、この夜。それでも、殿下は未だに腐らず、なおも真っ直ぐに、ローラント殿に向き合おうとする。 茨が殿下の頬を掠め、鮮血が舞う。それでも、殿下は一歩も退かない!「だがな、そんな愚かな男でも、民が抱える苦しみを背負い、友の悲しみに寄り添う覚悟くらいはあるのだぞ! 私を甘く見るなッ!」「……そのような覚悟は、なくても良いのです。平穏な魂の世界ならば――」「葛藤のない世界に、勇気や気高さを発揮する機会などないっ!」「――っ!?」 バージル殿下は、どこまでも古風な人だった。頭でっかちのどうしようもない理想主義者。 でも、だからこそ――まっ
last updateLast Updated : 2026-01-08
Read more

第103話 業火絢爛マエストラ、還るべき温もり

「だが……ハンノキの王から、受けた恩義が……俺には」「忌々しいが……魔王は確かに、そなたが人生で最も苦しい時、一縷の救いとなったのだろう。だがな、ローラント。そなたがいなくては、こんな私は王子として格好がつかぬではないか」「……殿下」「だから、そなたが美しいと感じた人々が生きる、この傷だらけの世界で。この頑固者の弱さを……どうか、背負ってくれまいか。そう、友として」 バージル殿下は、手を差し伸べる。殿下は、王太子としてではなく、友として懇願した。 あえて、己の弱さを……情を、無防備に曝け出したのね。「ああ……バージル殿下。貴方様は、本当に『お強い』……」 ローラント殿の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。 彼が、最初に仕えたのは、ハンノキの王だったかもしれない。でも、だからといって、これまでのバージル殿下への敬愛も、友情も、偽りではなかったのよ。 ――しかし。 異界の王は、一度手に入れた騎士を、そう易々と手放そうとはしなかった。 ギチギチギチッ……! 空が裂け、そこから覗く巨大な“異界の瞳”が、裏切り者を許さじと、爛々と開かれる。すると、ローラント殿の体を蝕む茨が、彼の意思を無視して暴れ出したわ!「ぐあああああっ!?」「ローラント!」「殿下っ! ベアトリーチェ様っ、お逃げくださいっ! 俺は……もうっ!? うぅぐぁああああっ!」 茨が、ローラント殿を異界へと引きずり込もうとする。膨れ上がる禍々しい力、為す術はないかと思うほどの勢い。 伸びた茨は暴れまわり、近づくものを吹き飛ばしていくっ!「ダメよ、ローラント殿! あなたとの約束が、まだっ!」 その時、ふわりと髪に飾られた、真紅の薔薇が仄かに灯った。イヅルが
last updateLast Updated : 2026-01-09
Read more

第104話 幕間劇 ~ 騎士は茨の夢を見る(前半)

 振るう剣が、鉛のように重たいのは――情が絡みついているからだ。 深い、深い。泥沼に浸かるような夢。   ああ、ひどく懐かしい。あそこは、いつも冷たい隙間風が入って来るんだ。 ボイズ家の屋敷。  ガリアからの亡命者ゆえに、後ろ指を指される一族。いつも不平不満に満ち溢れていた、我が生家。 俺は、あの頃、単なる弱虫の少年だった。  皆の鬱屈した苛立ちは、いつも一番弱い俺に向けられる。「貴様のような腑抜けは、ボイズ家の恥だ!」 父の吐き捨てる声。異母兄たちの嘲笑。拳が、鞭が容赦なく振るわれる。  幼い俺は、うずくまり、嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。「ローラント! ああ、なんてことをっ!」 駆け寄ってくれるのは、使用人の身分である母だけ。  俺の代わりにぶたれ、罵られながら、それでも抱きしめてくれた。「娘だったなら、政略結婚に使えたものを。この役立たずめっ!」 「申し訳、ございませんっ!」 殴られる痛みよりも、目に宿る軽蔑が、痛かった。  俺は兄たちを打ち負かすことができたはずだ。稽古場で、木人を叩いた数は数えきれない。  だが、いざそれを兄たちに向けると、身体が震えて止まらないのだ。「……誰も傷つけたくないよ。暴力なんか振るいたくない」 人を傷つける感触。肉を断つ音。血の匂い。  それらが、どうしようもなく恐ろしくて、俺は、ただ蹲ることしかできなかった。「騎士になんかならなくていいのよ、ローラント。人の価値は、そんなことじゃないの」 「……ごめんなさい、母さん」 「きっと、貴方には向いていないのだわ。だって、優しい子だもの」 腫れ上がった頬を撫でてくれる手は、いつも温かくて、ボロボロに荒れていた。  卑しい身分だと蔑まれていても、俺にとって、母は誰よりも気高く、美しい人だった。  そうだ、どんな騎士よりも、母さんの方が――。「でも、俺が立派な騎士になれば……母さんをこんな目に遭わせなくて済むのに」 なのに、俺は、誰かを傷つけることができない。  俺が弱いから。俺が、剣を振るうことすらできない臆病者だから、母さんが傷つくのだ。「殴られたら……相手だって痛いじゃないか」 なんて、そんな甘ったれたことを言っている間に、母さんの体は壊れていく。  そんな矛盾した日々は、唐突に終わった。 ――ある日、母さんは動か
last updateLast Updated : 2026-01-10
Read more

第105話 幕間劇 ~ 騎士は茨の夢を見る(後半)

 そこからは、早かった。 剣術ギルドの大会で、圧倒的な強さを見せ、最年少で|剣師《マイスター》となり、王宮への出入りを許された。 暴力を振るえば振るうほど、周囲は俺を称賛する。優れた騎士とは……制御可能な暴力装置だった。 そうして、あの方――バージル殿下の目に留まり、護衛騎士団に入団。すぐに、筆頭護衛騎士へと取り立てられた。「これで、母さんに胸を張れる。誰もが認める、立派な騎士になれた」 でも、本当にそうだろうか? なにも達成感がない。 皮肉なことに、このバージル殿下こそが、俺の恩人であるカゼッラ様を、日陰へと追いやった光の存在でもあったのだが。「ローラント。私は民のために、なにが出来るだろうか」「うーん。この身は、一介の騎士でして。まつりごとはどうにも……」「まずは、民の暮らしを知らねばならないのではないか? どこか視察に出たいと思う」「またですか? 陛下に叱られますよ」 不器用ながらも、理想に燃える殿下。 文武両道な完璧主義者として、知られていたが、根は冒険譚や騎士物語を好む、言ってしまえばロマンチストだった。「いつか、遠くへ旅が出来たらいいな。名と身分を隠し、正義の騎士として、各地を巡るなんてどうだろうか!」「えーと……何と言いますか。とても、難しいことかと」「不可能なのは、わかってる! なんだ、融通の利かないやつだな!」「……それを殿下が言いますか?」 バージル殿下の私室は簡素だった。 でも、大学の私的研究室では、気晴らしに異国の風景を絵筆で描く姿。(城の誰にも、見せたくない一面なんだな。……“強い兄”だったはずのバージル殿下は、一人の人間だった。そう、それも……とても善良な) 近くで接すれば接するほど、俺は、この高潔な王太子に、惹かれていく自分を止められなかった。胸の奥がざわつく。
last updateLast Updated : 2026-01-11
Read more

第106話 真夏の夜の悪夢、覚め遣らぬ

 かくして。 後の世に『ハンノキ事変』、あるいは『真夏の夜の悪夢』と呼ばれることになる一連の騒動は、こうして幕を閉じたわ。 王宮からの公式見解はこうよ。『異界より来たりし、魔王によるシュタウフェン王国への攻撃であった』 そこに、大国ガリアの思惑? とか、宰相派だとかシャーデフロイ派の対立とか、よくわからない陰謀はなかったという話になったの。 だから、操られた人はお咎めなし! そんな魔王による攻撃を、派閥を越えて手を取り合った若き令嬢令息……特に、『薔薇の乙女団』の活躍は目覚ましく、賞賛に値する勇ましき令嬢たち~なんて、華やかに語られたわね。「わたくしが贈った薔薇のブーケが、こんなことになるなんて。でも、男子生徒たちもボロボロになるくらい頑張ったのにね?」 それから、うちのシャーデフロイ家の精鋭。王太子バージル殿下が、護衛騎士団を率いて奮闘し、無事解決した。と。「もうっ、美味しいところはちゃっかり持ってこうとするんだから」 もちろん、被害は、甚大だったわ。王宮もあちこちボロボロ。貴族にもけが人は出たし、心の傷が大きかった人もいる。 ああ、そうね。洗脳されていた令息たちは、正気に戻った後、自らの行いに強いショックを受け、しばらくは療養が必要だとか。 けれど、驚くべきことに。 ――死者は、奇跡的にゼロだった。「嘘みたいね! あんな大乱闘だったのに!」 わたくしが、驚きの声を上げると、傍らに控えるイヅルは、涼しい顔で紅茶を淹れながら答える。「ええ。なんと、あの鉄拳カール殿も、重体でしたが一命を取り留めたそうで」「まあ、それは良かったわ! ……でも、背中から一突きまでされたのに?」「刺された剣は、内臓や重要な血管を避けていたようですよ」「……人間離れしすぎじゃない? ローラント殿の剣技」「『あの野郎、手加減しやがって!』などと、ベッドの上で悪態をつくくらいには、回復されているそうですから。我が家の秘伝ポー
last updateLast Updated : 2026-01-12
Read more

第107話 剣なき身軽さを、自由と呼ぶには

 窓の外から、カーン、カーンと、槌音が響いていた。 崩れた石材は運ばれ、新しい足場が組まれていく。 『ハンノキ事変』で傷ついた王宮の修復工事が、急ピッチで進められているのだ。日常が戻りつつあることの証左。 ローラント・ファン・ボイズは、そんな光景を眺めていた。(どうにも、己だけが世の流れから、取り残されている気がする) 視界には、包帯が巻かれた右手。分厚く巻かれた包帯の下には、異界の茨がもたらした痕が刻まれている。 指先を動かそうと念じるが、上手く力が入らない。分厚い綿が、感覚を遮っているようだった。「……悲劇の騎士、か」 サイドテーブルに置かれた新聞に、踊る大見出し。『魔王の洗脳に抗い、自らを犠牲にして戦った悲劇の騎士』『王太子を守り抜いた忠臣、名誉の負傷』 見舞いに来る者たちは口々に言う。「立派だった」「貴殿の忠義は、王国の誇り」だなどと。 そんな言葉を聞くたびに、ローラントはこう叫びたくなる。「違う。俺は抗ったのではない。自らの意志で、友を、主君を裏切ったのだ」 だが、真実を誰かに語ることは許されなかった。 王家からの沙汰は、簡潔。即ち――沈黙せよ、だ。 魔王の介入は、内部勢力とは何ら関係のない事象でなければならなかった。カゼッラ第二王子の件も、なにもかもが国家機密として葬られる。 あらゆる派閥が手を取り合って、魔王の目論見を挫き、次代を担う若者たちが活躍した。 それ以外の物語は、この国に不要なのだ。 「バージル殿下は……最後まで、反対しておられたようだが」 思わず、苦笑する。バージル殿下らしいことだった。 結局、折れてしまわれたようだが。「だが、きっと。ご自身ではなく、誰かのために嘘を選ばれたのだろうな」 そう、例えば、この|裏切り者《ローラント》のため、だとか。 ローラントは、身に起きている温情が、きっと幾人もの想いによってもたらされているのだろう、と感
last updateLast Updated : 2026-01-14
Read more

第108話 餞別の青、舞台袖の沈黙美

 王都を出る城門で、馬車が止まる。「……フム。どうやら、お見送りのようだぞ」 ジャンジャックの視線先。城門の脇、二つの人影。 燃えるような赤髪の令嬢と、影のように付き従う黒衣の執事。 ローラントは馬車を降り、不自由な身体で深く頭を下げた。「ベアトリーチェ様、なんと言えばよいのか。……その、わざわざ、お見送りに?」「ごきげんよう、ローラント殿。もちろんよ。お加減はいかがかしら?」 ベアトリーチェは、ローラントの包帯だらけの姿を見て、一瞬痛ましげに瞳を揺らした。 が、すぐに、いつもの勝気な笑顔を作っては、扇を広げる。「おかげさまで。命だけは、拾いました」「そう? まだ、もっと色々残っていると思うけれど」 言われても、ローラントにはこの身に何が残っているか、思いつかない。 言葉に困り、助けを求めようにも、隣に立つイヅル・キクチは、相変わらず何を考えているか読めない。涼やかな微笑。「本当は、バージル殿下も来たがっていたけれど、お立場が許さないって。それに、他にも来たがっていた人はいたのだけれど……大々的には出来ないから。だから、わたくしだけで来たわ」「そう、でしたか」「寂しい見送りでごめんなさいね。でも、殿下ったら、歯を食いしばって、目も真っ赤。泣く寸前になっていましたわよ?」「……あまり、民衆に見せてはいけなさそうな姿ですね」「でしょう? だから、かえって良かったかもしれないわ」 ローラントは、想像して目を伏せる。(もし、会えていたら。……俺は、ここから離れがたくなってしまっただろうな) すると、「あっ!」とベアトリーチェが声を上げた。「それより約束、でしたわよね。これ、受け取ってくださる?」 差し出されたのは、一枚のハンカチ。 上質な絹の布地。その隅に繊細ながらも、力強い糸運びで、刺繍が施されている。
last updateLast Updated : 2026-01-15
Read more

第109話 悪役令嬢ダ・カーポ、修行延長?(前半)

 ――数日後のこと。 わたくしは、バージル殿下に呼び出され、王宮の庭園を歩いていた。あら、すっかり修復されたのね。 午後の柔らかな日差しが、手入れの行き届いた白薔薇の生垣に降り注ぎ、甘やかな香りが風に乗って漂う。 砂利を踏む、ザッ、ザッという足音が心地よい。「……此度の件、改めて礼を言う」 足を止めた殿下は、わたくしに向き直ると、黄金の頭を下げた。 公式記録に、記されてならない。王族が頭を下げる行為。飾らない礼。「そなたがいなければ……私は、友を失い、国を失っていたかもしれない」「頭をお上げください、殿下。わたくしは、自分のしたいことをしただけですわ」「その上、ローラントへの見送りまでも、果たしてくれたな。私の分までも」「……きっと、ローラント殿には届いていますわよ。殿下のお気持ちは」 イヅルへの侮辱は、まだ許せないけれど。 でも、あの夜、傷つきながらも、まっすぐにローラント殿にぶつかっていったお姿。 悔しいけれど……正直、感動したの。(だからこそ、わたくしは……腹を割って話そうと思いますの) パチン。扇を閉じ、わたくしは殿下の瞳を見つめ返した。「わたくし、今回のことで殿下を見直しましたわ」「……そうか? ……そうかっ!!」「だから、殿下。もし、やり直せるなら……また一から、始めたいと思っております」 わたくしは、正直な気持ちを伝える。「――わたくしたち、やり直しませんこと?」 すると、バージル殿下は、パァァァッ!と、見たこともないような明るい表情になった。 年相応の少年のお顔で、無防備に手を取り、強く握りしめてくる。「ベアトリーチェっ! やはり、そなたもそう思ってくれていたか! 私も同じ気持ちだっ!」「まあっ
last updateLast Updated : 2026-01-16
Read more

第110話 悪役令嬢ダ・カーポ、修行延長?(後半)

「……はぁ。結局、振り出しに戻ってしまいましたわ」 帰りの馬車の中。 わたくしは、がっくりと項垂れていた。こんなにお天気なのに、乙女心は土砂降り雨模様よ。 すると、向かいに座るイヅルが、優雅に脚を組み替えながら、涼しい顔で水を差す。「まあ。この状況での婚約解消など、殿下にとっては想定外もいいところでありましょう」「なんでよ!」 思わず、手近なクッションをぎゅっと抱きしめて抗議する。「夜会で、あんなに派手に暴れましたのよ? 複数人の殿方を侍らせて、前代未聞のスキャンダルを起こしたではありませんのよ! 普通なら、愛想を尽かされて当然ですのに……」「ええ、確かに。普通ならばそうでしょうね」「どうして、バージル殿下の頑固さが、あんな斜め上の方向に進化してしまっているのかしら? ハッ、まさか……王族って、特殊な性癖とかおありになるの???」「お嬢様。その邪推は、あまりに不名誉すぎて、不敬罪でございますよ」 そんなツッコミは一旦、無視よ。不敬罪くらいで、今さら怖がってなんかいられないわ。「はて、そこまで大暴れされても、婚約解消はしたくない。そんな男心が、ビーチェお嬢様に伝わらないのはなぜなのでしょう。……あまりに眼中になさ過ぎる?」 続く、イヅルのぼやきも、あとまわし。  わたくしは頬杖をつき、馬車の窓ガラスに映る自分の顔を睨みつけた。でも、しょぼくれてはいられないわよね。「やはり、初心に帰るべきなのよ」「初心、でございますか?」「ええ。奇策に頼らず、コツコツと積み上げるの。手始めに、中断していた『恋愛スキャンダル計画』を、継続するしかありませんわ!」 わたくしは、拳を握りしめて宣言した。 そう、こうなったら長期戦の構えっ! 悪役令嬢延長戦に突入よ!「やっぱり、ヒュプシュ卿にお願いしようかしら。あの方なら、ノリノリで協力してくれそうですもの! もう、『恋人のフリ』のプロフェッショナル
last updateLast Updated : 2026-01-17
Read more
PREV
1
...
789101112
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status