胡桃が駆けつけた時、明里はまだ車の中に座り込んでいた。身動きひとつせず、手足に力が入らず、目は泣き腫らして真っ赤だった。胡桃は胸が張り裂けるような痛みを覚え、彼女を運転席から抱き出すようにして、自分の車に乗せた。明里を後部座席に横たわらせ、病院には行かず、まずは自分のマンションへ連れ帰った。先ほどの電話で、明里は途切れ途切れに事情を話していた。拓海から、緊急の知らせが入ったのだ。彼女がアルバイトをしていた化学工場で事故があったと。以前、ある作業員が不注意で、強力な放射線を発する機器のスイッチを切り忘れ、丸一日つけっぱなしにしていたという。その機械の放射線量は極めて高く、病院のレントゲンとは比較にならないほど強力なものだ。通常、医療用なら、照射時間はほんの一瞬だ。だがその機械は、二十四時間近くも放射線を放出し続けていた。その機械と同じ部屋にいた人間が、あの日どれだけの線量を浴びたか、想像するだけで戦慄が走る。化学工場でこれほどの被曝事故が起き、現場はパニックに陥っていた。誰かが拓海に連絡し、拓海が真っ先に明里に知らせてくれたのだ。あの日、明里も現場に行っていた。彼女も放射線が降り注ぐ部屋に、長時間とどまっていた。しかも、正確な時間は覚えていない。だがあの放射線量なら、お腹の胎児への影響は甚大だ。障害が残るリスクどころか、そもそも母体内で無事に育つかどうかさえ危ぶまれる。明里には、賭けることなどできなかった。胡桃は、明里がこの子をどれほど待ち望み、愛おしんでいたかを知っている。だが誰が予想できただろう。神様がこれほどまでに残酷だとは。胡桃は明里を家に連れ帰り、ベッドに寝かせてから、樹に連絡を取った。帰る車中で明里の希望を聞き、樹の実家が経営する私立病院で手術を受けることにしたのだ。樹は弁護士だが、実家は医療法人を含め、手広く事業を行っている。この私立病院もその一つだ。電話を受けた樹は、数秒の沈黙の後、短く答えた。「手配する」胡桃が電話を切り、ベッドの傍らに腰を下ろす。何度も口を開こうとしたが、どんな慰めの言葉も空虚に響きそうで、かける言葉が見つからなかった。「大丈夫よ」明里が自ら胡桃の手を握り、弱々しく首を横に振る。「心配しないで」「どうして……」胡桃は、こんな時でさ
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