ガイド役を終え、客を見送ると、碧が彼女を見つめた。「明里さん、よかったら、この後食事でも?」明里がやんわりと断る。「今日はちょっと……私、用事があって」危うく「病院へ」と言いかけて、言葉を飲み込んだ。三年に及ぶ海外生活を経て、碧も、かつての青臭い少年から、頼れる一人前の男へと成長を遂げていた。離婚も、出産のことも、隠し通せるはずがなかった。碧は今でも彼女を「明里さん」と呼び、まるで何も変わっていないかのように接してくれている。出産の際には、祝いの品まで贈ってくれたほどだ。その後、明里の生活に踏み込もうとする素振りを見せたが、明里は頑なに一線を引いてきた。彼が目にしたのは、異国の街角で明里が子供を抱く姿、ただ一度きりだ。かつては若さゆえ、研究者としての能力への尊敬に過ぎなかった。だが三年経って、碧は自分の明里への感情が「憧れ」以上のものだと自覚していた。たとえ離婚歴があり、子供がいようとも、募る想いは変わらない。だが明里は頑として、つけ入る隙を見せない。告白の機会さえ封じられている。彼がそれらしい雰囲気を出すたびに、明里は必ず巧みに話題を逸らすのだ。碧も分かっていた。明里は自分を恋愛対象として見ていない。おそらく、彼女は年齢差を気にしているのだ。自分が彼女より年下であることを。だが碧にとって、それは障害ではない。「あの、明里さん……」碧が真剣な眼差しで彼女を見る。「せめて、少しだけ聞いてください」「碧……」「明里」碧が初めて彼女を名前で呼んだ。「僕の話を聞くのが、そんなに嫌なのか?ほんの数分の時間も、くれないのか?」明里はまさか彼がこんなに直球で来るとは思わず、一瞬虚を突かれた。碧がその隙に彼女の手を掴む。「年下だから、頼りないか?僕ももう大人なんだ。君も、お子さんも、すべて支える自信がある。僕に、機会をください」明里は実は碧の好意を薄々感じていた。海外へ行く前はまだ良かった。二人の接点は研究上の付き合いに限られていたから。だが海外に行ってから、必然的に距離が縮まった。異国の地では、同郷の人間同士、結束は強まるものだ。まして同じ大学、同じ研究室の仲間だ。しかし明里の頭には、恋愛などという文字は欠片もなかった。今、全てのエネルギーは子供と仕事に注がれている。新
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