村田明里(むらた あかり)は不思議でたまらなかった。昨夜、夫である二宮潤(にのみや じゅん)はベッドの上で自分を激しく翻弄した。一体どうしたっていうんだ。そして今朝、明里は理由を知った。潤の弟・二宮隼人(にのみや はやと)が婚約するのだ。しかも、その女性は潤の初恋の相手だった。つまり、潤が長年想いを寄せていた女性が、彼の弟と結婚することになるのだ。なんとも皮肉な話だ。昨夜、潤が自分の腰を掴み、赤い目で、まるで狂ったように何度も激しく抱いてきたことを思い出し、明里は言いようのない虚しさに襲われた。明里が階下に降りると、既に身支度を整えた潤が出かけるところだった。190cm近い長身は、それだけで威圧感を与えていた。長年、高い地位にいるせいか、彼の整った顔立ちよりも、その強いオーラに目が行きがちだった。しかし、実際は、潤の顔立ちは端正で、どんなに冷徹な表情をしていても、美男子であることは隠しきれない。さらに、広い肩幅に細い腰、スラリと伸びた長い脚は、高級スーツに包まれ、力強さと自信を醸し出している。二宮家の御曹司である夫は、落ち着き払っていて、常に冷静沈着であることを、明里はとっくに知っていた。まるでこの世に、彼の感情を揺さぶるものは何もないかのようだった。ただ一人、あの女性を除いては……明里は胸に込み上げる苦しさを押し込め、潤を見ないようにして、ダイニングへと向かった。潤は明里を一瞥すると、カフスボタンを直し、そのまま出て行った。二人は一言も言葉を交わさなかった。ドアが閉まる音を聞き、明里は苦笑いした。胸に、じんわりと痛みが広がる。こんな冷え切った結婚生活を受け入れられると思っていたのに……自分の気持ちはどうすることもできなかった。この男に、少しずつ心を奪われていく。明里は朝食を食べるものの、味も分からず、ぼんやりとしていた。スマホが鳴り、明里は出ると、席を立った。「すぐ行きます」午後になり、明里は研究所で疲れ切っていた。これまで息の合った岩崎凪(いわさき なぎ)と組んでいたのに、彼は突然異動になり、新しく来た田中俊介(たなか しゅんすけ)はデータ分析が苦手だった。一人で二人の仕事を抱え、さらに心のモヤモヤも重なり、余計に疲れていた。仕事を終え、スマホを見ると、潤から
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