二度、三度とかけ直して、ようやく伊吹が出た。だが、返ってきた声は冷たかった。「よほどのことじゃなかったら、ただじゃおかない」温子の胸が、すっと冷えた。こんなときまで、どこかで期待していた自分が馬鹿みたいだった。温子は何も言わずに通話を切り、今度は海舟へ電話をかけた。「お兄様、一人、調べていただきたい人がいるんです」「誰を?温子、まだ起きているなら、こっちへおいで。今夜はホテルで会議があって、会議室を使っているんだ。落ち着いて話せる」温子は小さく息をついた。「ありがとうございます。今から伺います」クラウディ・コーヴの人間が入れ替わってから、屋敷の者たちは、温子の動きを何かにつけて伊吹へ知らせるようになっていた。夜十時。温子がクラウディ・コーヴを出て数分もしないうちに、その知らせは伊吹のもとへ届いた。伊吹の目が、暗く沈んだ。その目つきから、最後に残っていた温度まで消えていく。一本電話をかけると、すぐに温子の居場所が送られてきた。続けて、相手が低い声で告げる。「社長、今夜は海舟様も同じホテルにいらっしゃいます」伊吹はスマホを握りしめた。指先に力が入り、今にも砕いてしまいそうだった。背もたれに体を預ける。その顔は、夜の底のように暗かった。そのころ、温子はホテルの会議室に着いていた。会議室は一階ロビーからそう離れておらず、照明も明るい。外には人の出入りもあった。海舟はまだ会議中だった。温子に気づくと、横の席を軽く指し、先に座っているよう目で示した。温子も邪魔をするわけにはいかず、黙って席に着いた。三十分後。時刻はもう十一時を回っていた。会議を終えた海舟が、まっすぐ温子を見た。「それで、誰を調べたい?」温子は少しだけ不思議に思った。電話で済ませられそうな話なのに、どうしてわざわざここまで呼んだのだろう。「川島麻衣です。この配信に出ている人です」温子はスマホで配信画面を開いた。麻衣の配信には、すでに四万人近い視聴者が集まっていた。今夜はずっと投げ銭も飛び交っている。おそらく、一千万円分ほどにはなっているはずだった。海舟は秘書に電話を入れた。それから、温子へ穏やかに言った。「二十分ほど待てるかな」「はい。ありがとうございます、お兄様」温
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