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All Chapters of 秘密の花: Chapter 21 - Chapter 30

36 Chapters

シングルマザー

「……ン、ギャア」桜の鳴声に反応してウトウトしていた春陽は身体を起こして桜の元へ寄った。桜を抱き上げて胸を除菌ペーパーで一拭きしてお乳をあげると待ってましたと桜は飲みはじめる。出産後一週間の入院だけで無事2人で退院できた。不慣れながらも必死に子育てをはじめたが、3時間毎に与えるお乳とオムツ交換、たまに愚図るのをあやしてと数日で子育ての大変さが身にしみた。それでもやはりこうして桜にお乳を与えている時は幸せだ。必死に飲む桜を見る目は優しく笑んでいる。満足した桜を抱えなおしポンポンと背を軽く叩いて刺激してあげると「ゲフッ」と立派なゲップをはいた。「お腹いっぱいになったからゆっくり寝んねしてね」とスヤスヤ寝息をたてるまで抱っこを続ける。静かに窓越しに敷いた布団に寝かせるとソファに戻る。「ウトウトしてたから少し昼寝でもする?」ゆり子がトレーにティーポットとカップを乗せてきた。「紅茶?」「カモミールとレモンバームのハーブティーよ」独特のスッキリした香りに貰うとこたえる。ゆり子はトレーを置くと2つのカップにハーブティーを注いでくれた。リラックス効果のあるハーブティーをゆっくり口にしていく。「寝ていると本当に天使ね」「よく寝てよく飲んで、たった1ヶ月で1キロ以上重くなるんだもん。腕とかぱんぱんになる時あるもん。凄い速さで大きくなって逞しくてすごいよね、赤ちゃんって」「小さな春陽が抱っこしているとお姉ちゃんが妹を抱っこしてあげてるみたいに見えるからねぇ、」買い物先などで背も低めで割りかし童顔の春陽がママだと言うと驚かれる事は多い。「私、ちゃんとお母さんしてるよ」そう言葉にしたけれど春陽の瞳には褒めて褒めてと甘えの感情があらわになっていた。「そうね、春陽はいいお母さんだわ」フフっと微笑みながら春陽の頭を撫でてあげる。それを気持ちよさげに受けいれながらその時間を楽しんだ。「そうだ」春陽は伝える事を思い出した。「明日は昼間に舞ちゃんと公園に散歩に行くからお昼はいらない」「明日は寒くないの?」「昼頃は風が吹かないみたいだし気温も18度位まで上がるみたいだから公園で少し散歩しようと思って」「そう、気をつけて行ってね」「うん、……それでね、おばあちゃん」「まだ何かあるの?」「私、車の免許を取ろうと思ってるの」ゆり子は目を見開いた。身
last updateLast Updated : 2025-11-16
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正木 廉

店の入口は厨房からわずかに見えるようになっていた。客が来店するとどんな客層か程度に確認をしていた。店を開店させた直後位にベビーカーを押して来店した女性2人組も確認程度に見てそれだけの認識に留まっていたのだが。ふと、1ヶ月程前に大きなお腹を抱えて来店した女性を思い出した。--あの子か?何処かで見かけた事があるように感じたからか記憶していた子だった。髪型はかなり短くなっていたがクルッとカールした髪の感じに丸い瞳が身長の低さと相まって何かの小動物に見える。ウサギかリスか、いやハムスターか?冗談混じりに考えるがすべてにおいて可愛いという印象だった。自分よりいくつか若そうだがもう結婚して子供もいるなんて大変だな、と感じただけで。個人的な意見はそれだけだった。頼んだデザートにアイスとフルーツを加えたのも本当に他意はなく、出産に対してのサービスだったのだ。見た目も真逆と言っていい、彼女の連れがまさかナンパ扱いしてくるとは思いもよらなかった。アイドルをしている時も今もナンパするほど異性に困った事はなかったし、見た目のタイプというならば彼女の連れの方がタイプに近いだろう。しかし、あの子がシングルマザーだとは思いもよらなかった。イメージでは相手に好かれて優しくされて幸せな家庭をもっているのだが……。ランチ営業を終えて賄いの準備をしながらそんな事を考えていた。トゥルル、トゥルル。廉のスマホが鳴る。発信者をみてすぐにスマホを手にした。「もしもし」廉は懐かしい相手に話しかける。「そっちはまだ夜中だろ?」相手はニューヨーク在中。日本で14時をまわった時間ならばあちらは夜中の0時をまわったばかりだろう。『あぁ、0時になったばかりだよ』「珍しいな、忙しくて電話もできなかったんじゃないのか?」『忙しかったよ、早く日本に帰りたい』「……帰って来れそうなのか?」大学卒業式を待たずに父親の命令でアメリカの提携会社へ行かされた友人とは中々連絡もとれないでいた。電話も数ヶ月ぶりの事だ。「年内?」『嫌、それは流石に無理だな。早くても来年春かな』「そんな先じゃないだろ」『俺は今すぐ帰りたいけどな……』「仕事がうまくいってないのか?ずいぶんと弱気な声じゃないか?」『仕事は順調すぎる位だ、じゃなければまだ帰れそうなんて言えない。ただ……』「……ただ?」
last updateLast Updated : 2025-11-18
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不本意な見合い

間宮愛美の元に友人などが集まり早めのクリスマス会という名のパーティーを楽しんでいた。「明日は何時に発つ予定なの?」長年の友人浅田麻里が聞いた。「9時発の予定よ」「年明けまでアメリカだなんてさみしくなるわ」豪華なメンバーの中にいても存在感が秀でている愛美の周りには自然と人が集まっていた。「愛美さんはアメリカに行かれるの?」「アメリカのどちらに?」質問がとぶが愛美本人は答えず隣に立つ麻里が皆の質問に答えていく。「明日からニューヨークに行くのよ」「この時期のニューヨークでは寒いのではないですか?」場所を聞いた女性の1人が不思議そうに問う。「愛美は観光に行くわけじゃないもの」「あら、じゃあ今の時期に態々ニューヨークにまで行く理由は?」他の女性が興味深気に聞いた。「お見合い相手に会われるんですよね」何故だか本人よりも勝ち誇ったように麻里が言った。「まぁ!」そんな話しが大好きな年頃の面々が更に興味深く聞く。「お相手は?」「相手は……」名前を言おうとしたところで愛美がそれを遮る。「まだ決まっていない相手の名前を言ってうまくいかなければ私が笑いものになってしまうわよ」ふふっと微笑みを浮かべて制した。「愛美をふるような相手はいないわよ」麻里は断固として言った。「そうだといいけれどね。皆さんには来年紹介できればよいと私も思うわ」ニコリと美しい唇に笑みをつくった。「楽しみにしていますわ」周りはそれ以上相手の追求はしなかった。麻里は相手の名を言えず残念そうだったがすぐに愛美の隣で笑顔を作り橋渡しを続けた。--九条慶司。次にこのメンバーが集まる時は必ず婚約者として隣に立っていてもらうわ。愛美は笑顔の下で獲物を狙う猛獣のような鋭さをその目に宿したが誰かが気づくことはなかった。12月25日17:30。レオナードピクチャーズ社内専務室で1人机にむかっているところへやってきたのは秘書という名のお目付け役、佐々木潤(ささきじゅん)だ。「あと30分で約束の時間になるぞ」その言葉をまったく気にする事なく書類に目を通していく。「慶司、いい加減用意してくれないか」「……」また1枚と書類をめくる。佐々木はハァァとため息をついた。「相手のお嬢さんはわざわざ日本から来ているのに、お前が行かないはないだろ」「ならばお前が行って相手を
last updateLast Updated : 2025-11-22
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運転免許

--眠い。ただただ正直な思いはそれだけだった。生後4ヶ月を過ぎ桜の首もすわるようになり少しばかり離乳食も始めだした3月はじめ。母乳は完全にやめた事もあり春陽は教習所へ通いだしていた。その教習所の学科時間は春陽にはまるで子守唄の流れるベッドの中の様なものだった。眠気に必死にあらがうがまぶたが重い。なんとか耐えぬくと事務室の機械で空きの時間に次の予約を入れる。「あら?なんか見た事ある人がいる」後ろからそんな声が聞こえたので振り返ると2人の人影があった。「本当だ、こんな所で会うなんて」「……あ、浅田さんと石川さん?」中学校卒業ぶりでも誰だかはわかった。浅田麻里と石川由宇の2人だ。「久しぶりだね、渡辺さん」「いつぶりかな、中学?」「渡辺さんて何処の高校に行ったんだっけ?」「今何してるの?大学?」「え、大学?何処?」春陽の答えなどいらないとばかりに2人だけで会話が続いていく。小学生時代のあの事があってから会話を交わした記憶などほとんど無い。中学校に入ってからはクラスも別れた為顔すらほとんど合わせなかった2人だ。見かけたくらいで声などかけなくてもいいのに、と春陽は内心で思った。「渡辺さん?」黙り込みぼうっと2人を見ているだけの反応がつまらなかったようで麻里が呼んだ。「え?」2人の話しを大して聞いていなかった春陽は間の抜けた返事になってしまう。麻里て由宇がイラっとしたのがわかる。それでも春陽は気に留めようとはしなかった。「外に人を待たせているから私は帰るね」この場を去る為についた嘘ではないが、早くこの2人から離れたくて春陽はそう告げると出口に歩きだす。「ちょっと……!」待ちなさいよ、と追いかけてくる。「久しぶりに会えた事だし、いい話しをしてあげようって思ったんだから聞きなさいよ」ならば先に言えばいいのに、と思う。「渡辺さんて、確かエアネストのファンだったよね」春陽が周りに公言していなくてもちょっとした持ち物などでわかっていたのだろう。でも今更そうだった、でどんないい話しになるのだろうか。「愛美がお見合いしたのよ」--愛美ちゃん……。笑顔を絶やす事なく周りに接するけど多分誰よりも人を蔑みている人。春陽は日本人形の様だった愛美を思い出す。「相手は九条グループの跡取り九条慶司さん。渡辺さんにわかる様に言うと元エ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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はじめての買い物

ウィルモットでゆっくり食後のドリンクを飲んでいると廉がやってきた。「これ。試作のプリンだけど食べてみて」「プリン、2個ある……」春陽と舞の前にそれぞれ2つのプリンが置かれた。「こっちのプリンは卵と牛乳と砂糖だけで作ったいわゆる昔ながらのプリン。こっちは卵黄と牛乳、生クリームと砂糖で作ったプリン。どちらがいいか決めかねてて。2人の意見聞こうとしているんだ」春陽と舞がそれぞれプリンを口にするのを廉は横で見ている。「もうすぐ春休みだし、公園が賑やかになると子供連れの客が増えるから作ってみたけどどちらがいいかな?」「私ならこっちが好きね」舞はトロっとした生クリームを使ったプリンを選んだ。「渡辺さんは?」ゆっくり味わっている春陽もトロっとした柔らかな生クリーム入りを美味しいと思ったが。「私はこっちが好きかな、コレに生クリームとチェリーがのっていたら最高」まさしく「昔ながら」のプリンだった。子供の頃に母と祖母3人で行ったレストランで食べた懐かしい味がした。食後に出される生クリームと缶詰の真っ赤なチェリーがのったプリンがとても好きだった。「懐かしい味がする」懐かしい風景を思い出して春陽の口元に笑みが溢れた。「そう、よかった」「まあ、私も硬めのプリン好きだからいいんじゃない?」「え、私も生クリームのプリンすきだよ?」舞の言葉に春陽が慌てて言ったが、舞が言った意味を理解して春陽が言ったわけでは無かった。--まだまだまったく眼中に入ってないわね。春陽の反応に舞はニコニコと笑っていた。「それじゃあ、そろそろ出ようか」気分がいいウチにさっさと帰ってしまおうとする。「そうだね」しばらくおとなしくしていた桜もさすがにそろそろぐずりだすかもしれない。ベビーカーを覗き込むと桜はまだスヤスヤと寝息をたてている。「桜ちゃん、まだ寝てるね。ならもう一杯何か飲む?」廉の言葉に断りの言葉を返したかったがプリンのおかげで何か飲みたいのが正直な感想だった。「なら私はコーヒー」遠慮と言う言葉は存在しないとばかりに頼んでいる。ウィルモットによく来店するようになり、廉からたまにサービスをしてもらいながら話しをするようになってこの感じが続いている。「じゃあ私はアイスコーヒーで」空いたコップをトレーにのせて廉は一度奥に戻って行った。「まったく、気があるなら
last updateLast Updated : 2025-11-29
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お久しぶりです

並ぶ中古車の価格は軽自動車とはいえ80〜120万。--車ってやっぱり高いなぁ。キョロキョロと見回しての素直な感想だった。「春陽ちゃんは好きなタイプとかあるの?」一緒に見て回ってくれているおばさんが聞いてくれるが春陽は車に関してまったく知識がない、タイプもなにもまったくわからないではなく知らない。「安ければいいって言ったんですけど」「!」笑顔を崩すことはないけれどピクリとこめかみが動いた。「その考えは駄目って舞ちゃんに怒られちゃいました」苦笑いしてもうそれだけでは決めませんと話す。「買う時に少し高いと思うかもしれないけどウチの車はみんな第三者機関に鑑定してももらっているし保証も三千キロか3カ月になっているわ。安いからって買ったあとに修理で何十万かかかるなんて詐欺はしないから」アハハと語る姿はやはり舞に似ていた。車を買おうと思うと舞に相談した時にしっかり言われた。信頼できる店で買う事。メンテナンスをしっかりする、買った後の出費も惜しまない事。税金、車検、オイル交換、ガソリン代とお金がかかるものだと。車種にこだわりはないが、やはりしっかりと選ばなければと思いながら展示場を一回りした。「気に入った車はあった?」違う車に目移りして買いたくなるからと店内で桜をみていてくれた舞が戻ってきた2人に声をかけた。「やっぱりよくわからないかな?」舞から桜を受け取り抱きかかえながら見てきた車達を思い返すが皆同じに見えてしまう。「決まっているのは軽自動車って事位か」「そうねぇ、春陽ちゃんは色は何色が好き?」「色…ですか?」春陽の頭に思い浮かんだのは先ずはやはり満開の桜が魅せる桜色。そして緑。腕の中でじっと春陽の顔を見つめる桜の綺麗で不思議な瞳の色。慶司の瞳の色。「桜色とか緑色かな」「……車の色ではマイナーな色だけど今は結構そんな色も出てるから少し検索しておいてあげるわね。いい車があったら資料舞に渡しておくからみておいて」「ありがとうございます」そう言って事務所内に向かった後ろ姿を見送る。「さて、帰ろうか」「そうだね」今日は桜も長い時間ベビーカーに乗っていたので帰って楽にさせてあげたい。来客用駐車場に向かおうとしていた2人に手を振るおじさんが1人立っていた。「舞、渡辺さん!」「定男叔父さん!」「大塚店長」舞の叔父であり、高校
last updateLast Updated : 2025-12-05
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たいへん……

ぶぅぅっ「また気にいらないの?」はじめて重湯を口にした時は簡単だったけれど、それはただ桜の機嫌が良かっただけだったみたいだ。口に入れた柔らかな粥を口からダラダラと垂らして桜が泣き出す。「今日は食べたくないみたいね」「そうみたい……」泣く桜を抱き上げてその背を撫でてあやす。一緒に用意しておいたミルクの入った哺乳瓶を桜の口元に近づけるとチュウチュウと勢いよく飲み干していく。「離乳、簡単だと思ったのに……」小さく出た春陽の言葉にゆり子は笑った。「ずっと抱いてもらってミルクを飲んでたのよ?座らされてスプーンで食べるのは赤ちゃんも不安になるのよ。ゆっくりでいいのよ、子育ては」--確かに、母親の自分も抱いてあげられない離乳はさみしい。腕の中の桜を見てそう思う。「うん、ゆっくりだね」今しか見れない桜の成長を大事にしていかなくては。「今日は教習所の後すぐに帰ってくるの?私は昼過ぎまで出かける予定があるけど」「天気も良いし、たぶんまた公園に寄ると思うけど」引越してからちょくちょく買い物に行っている商店街で友達もできたらしいゆり子は最近お茶をしに出る事も増えた。気晴らしができる場所がゆり子にあって春陽は嬉しかった。「今日も舞ちゃんとお昼食べてくるからこっちの事は心配しないで楽しんできて」「ありがとう、夕飯は今日は私が用意するわね」「うん」お互い助け合い、お互いができる時できる事をして春陽とゆり子は静かで平穏な暮らしを続けていた。「支度が終わったら出るね」トートバッグにオムツお尻拭きブランケットにタオルミルクスティックに哺乳瓶、適温にしたお湯の入ったボトル。ウサギ柄が可愛い小さなタッパーにお粥を入れて赤ちゃん用カトラリーと一緒に袋へ入れてトートバッグへしまう。教習所の教材は違うバッグに入れ、さらに貴重品用のバッグに財布やスマホをしまう。桜にピンク色の春用上着を着せて抱き上げ、それぞれのバッグを肩にかけようとしたら見かねたゆり子がバッグとベビーカーを持って駐車場まで運んでくれる。「おばあちゃん、ありがとう」既に停まっていた舞の車に桜を乗せてゆり子が運んでくれたバッグとベビーカーを乗せる。「じゃあね」ゆり子に手を振って春陽も助手席に乗り込むと舞は車を発進する。「舞ちゃん、今日もありがとう」「春休みの期間位はたっぷり手伝うわよ」
last updateLast Updated : 2025-12-07
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寝返った!

「桜にはミルクあげたばかりだけど私達のお昼はどうする?」時刻は12時をまわったばかりだ。いつもならばどこかのお店に入ってランチを食べているだろうけれど春のポカポカした陽気がとても気持ち良い日になっていて今日はもったいない気がした。「今日は公園で食べようか」ゴザを敷いてのんびりと桜を眺めながら食べようか、と春陽はきいてみた。「ウィルモットじゃないの?」「え?ウィルモットに行きたかった?」--舞ちゃんはウィルモットの料理好きだよな。食べたかったかな?「ウィルモットでもいいよ?」「春陽が外がいいなら私は外でいいけど」--春陽はウィルモット行くと思ったけど……あの男にはあまり興味が無かったのかな?「今なら公園に屋台も出ているからそれでもいいね」舞の車で花見の為満車にちかい位の花塚公園駐車場まで移動した。「さすがに混んできたね」広場には既に点々とゴザが敷かれていた。「このへんでいいかな?」小さな桜の苗木の横にゴザを敷いて桜の荷物が入ったトートバッグを重しがわりに置いておく。「じゃあ、お昼でも買ってこようか」広場の横にあるボート池の乗場は売店も併設されていたしその周辺には花見客用に屋台やキッチンカーもいくつか出ていた。「キッチンカーまであると悩むわね」売店にはおにぎりやパン、お菓子。屋台は定番のたこ焼き、焼きそば、かき氷、クレープが並び。キッチンカーはケバブ、ガパオライス、唐揚げが並んでいる。お昼時の為ほとんどの場所で数名が並んで待っている。「私唐揚げたべたいな」舞が唐揚げのキッチンカーにできている列を確認する。「私、唐揚げ買ってくるから春陽はたこ焼き買ってきてくれる?買ったら売店の前で待ってて」意外に祭りメニューが大好きな舞はごやはりご飯物よりも唐揚げとたこ焼きを選び時間短縮の為に別々に買い出しする事にしていた。過去に舞と何度か祭りに行っていた春陽はそれには既に慣れていたので「じゃあ売店でね」とだけ応えてたこ焼きの列に並んだ。「あら、可愛い」列の前にいた初老の女性がベビーカーの桜を見て言った。「女の子?男の子?何ヶ月?」今日の桜は黄色いワンピースにベビータイツの格好だが下半身にはブランケットがかかっていたため一見ではわからなかったのだろう、質問が続く。「ママと2人きりかな?パパはどうしたの?」最近では男性の育児
last updateLast Updated : 2025-12-12
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帰国

寝返りを覚えた桜は少し目を離すとうつ伏せになって手足をばたつかせている。「すぐにハイハイもしそうね」抱き上げて仰向けに直す春陽を横目にゆり子が言った。「でも、うつ伏せになっているとこわくて」ごく稀ではあるけれどうつ伏せ寝の赤ちゃんが死亡したなどを聞くと心配してしまう。「赤ちゃんの成長過程よ、あまり過剰にならない方がいいわよ」「そうだよね」桜の頭を撫でながらゆり子の優しい先輩の教えに頷いた。桜は春陽を見ながら「アーアー」と、もっと撫でてと言いたげに手を伸ばした。「桜はご機嫌だね」しゃがみこみ桜の頬に自分の頬を付けてスリスリしてあげると「キャッ」と笑い声をあげた。東京、国際空港。黒いスーツに身を固めた慶司が国際線ターミナルの出口に出てくるとちょうどのタイミングでスマホが鳴った。「あぁ今出てきた、何処にいる?」言いながら辺りを一周見回す。「江戸舞台前で立ってる」日本を強調した派手な舞台前で通話中の相手を見つけるとスマホをしまい手を上げながら近寄る。「久しぶり」迎えに来てくれた廉の肩をポンと叩く。「おかえり」廉は慶司をハグするとその背を軽く叩いた。「迎えは俺だけでよかったのか?」「ウチの関係者じゃ一息付く事もできないからな、態々悪かったな」「いいよ、どうせ今日は店休みだったから」ウィルモットの店休日にしていた火曜日がたまたま慶司の帰国日と重なった。久々会える友相手に断る理由はなかった。「柚希達は仕事だから皆ではまた会おうって言ってた」「近いうちに時間合わせよう」気心知れたメンバーで集まるのは慶司も廉も楽しみにしている事だ。「時間、つくれるのか?帰国したばかりでも仕事が詰まってるんだろ?」「まぁ、仕事の方は忙しいけど」約1年前、アメリカでの会社買収合併の責任者としていきなり指名され渡米させられた。大幅合意に至りやっと帰国はできたけれどまだまだ日本側で調整しなければいけない事は多い。時間がいくらあっても足りない位だ。「仕事だけじゃぁ、な」「意味ありげな発言だな」グループ会社のどこかの令嬢と見合いをさせられたらしいという話は誠から少し聞いていた。その見合い相手なのか、はたまた違う女性なのか。慶司のその言葉が異性絡みのような気が廉にはした。「とりあえずマンションまで乗せていくよ」「あぁ、頼む」慶司の新居とな
last updateLast Updated : 2025-12-13
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同窓会

テーブルの上に置かれていたいくつかの郵便物を確認していると春陽宛の封筒が1つ。手にとり中身を確認すると眉根を寄せる。用紙に書かれていた見出しは市立花塚北小学校同窓会のお知らせ。春陽達の学年は今年度が成人式となる。20歳を迎える祝いの年だからか公式な生徒幹事の同窓会や私的な友達同士の同窓会がいっきに増える。手にしていたのは小学校時代の同窓会の知らせ。春陽にとってはいい思い出もなく、同級生も先生も1番会いたくない時の同窓会、同封されていた返信用ハガキの欠席にすぐチェックをした。明日、教習所へ行く時にでも投函しようとハガキをバッグにしまった。翌日。「今日は桜の事よろしく」舞も大学が始まった為、桜はゆり子へ預ける。「大丈夫よ。いってらっしゃい」桜の頭を撫でてあげ「行ってくるね」と伝えると春陽へ手を伸ばしてきて「アー」と抱っこをねだる。抱っこをしてもらえないと気づいた桜の顔が歪む。「大丈夫だから、早く行きなさい」泣き出した桜に後ろ髪がひかれたがゆり子に促されて外へ出る。教習所まで電車で一駅、駅を降り徒歩で15分すれば着いてしまう。今日は教習の最終課程的な高速教習の日。これが終わればもうすぐに卒検となる。受付を済ませ今日乗る教習車の前まで行くと既に一緒に乗る事になる2人が立っていた。その2人の姿やを見て春陽の足が止まる。「やだぁ、偶然だねー」「あと1人って渡辺さんだったの」麻里と由宇の2人だった。「渡辺さんてば連絡先渡したのに連絡くれないんだもん」「教習所でも会えなかったし、今日は偶然に一緒で良かったね」--偶然。まさかこんなタイミングよく一緒になってしまう偶然があるなんて、と春陽は苦虫を噛み潰したような気分になる。「今日は2時間よろしくね、渡辺さん」よりによって高速教習は2時間連続だった。「うん、よろしく」社交辞令で笑顔もなく春陽が応えた。「あら、もう3人揃ってたの」今日の担当教官はまだ若く見える女性教官だった。「今日の担当、中村です。よろしく」「よろしくお願いします」3人は同時に挨拶をした。中村教官は教習車に仮免許のプレートを取り付け後部には高速教習中のフダを置いた。「今日の高速教習は順番に運転してもらいます。1人目はまず寄木から高速に乗って上山SAに入ってもらって2人目に交代。上山SAから前崎で一
last updateLast Updated : 2025-12-15
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