桜の小学校入学を前に引っ越しする事が決まり3月に入った頃からゆっくりと荷物の整理をはじめていた。そして18日の日曜日に慣れ親しんだアパートの部屋から春陽、桜、ゆり子の3人は慶司のマンションへ移り住んだ。 数日後、残してきた家具の排出を見守る為に再びアパートの部屋へ春陽だけがやってきた。テキパキと慣れた業者は2時間もかからず帰っていった。 春陽は雑巾を濡らし床を丁寧に拭いていった。ゆり子の部屋、春陽と桜の部屋、キッチン。そしてリビング。 リビングの窓辺に立つと道伝いに公園が見える。 遊具はブランコと小さな滑り台があるだけの小さな公園だった。 だがそこには樹齢がいった見事な桜の木があった。 関東地方がやっと開花宣言されたばかりの今日、この桜の木も点々と花を咲かせているだけで蕾みがほとんどだった。この桜の木を初めて観た日もこの程度の開花だったと思い出す。 それから毎年この桜の木を観てきた。人生で一番長い時間眺めた桜の木だろう。 これから頻繁に観れなくなる事が淋しく感じる。 しばしの時間、春陽はぼんやりと窓越しに桜の木を眺めていた。 まだ籍は入れていなかったが先の事を考え4月から名字は九条を名乗っていた。小学校にも事情を伝え桜も入学からの呼名を九条桜としていた。 九条の義母は急にできた6歳の孫娘を無条件で受け入れかわいがってくれたが、早くキチンと家族になりたいのだと慶司と春陽に入籍を迫った。しかし入籍の日は2人で決めていた事もあり、ならば!とその矛先を結婚式に向けたのだ。 嫁と可愛い孫娘を早く表舞台に立たせてしまおうと。 しかしどんなに早く式を挙げさせたくても式場や来賓客などなどの事もあり、何より慶司の時間を作るにはそれなりの準備が必要で。結婚式は半年も先の10月となった。 10月30日。 「ママ可愛い!」 ヘーゼル色の丸い瞳を輝かせて言う桜の方が余程可愛いと思う春陽だが「ありがとう」と娘をハグした。 「春陽も桜ちゃんも可愛いに決まっているでしょ!私が自ら選んだお揃いのドレスデザインだし、何よりも着ているのが2人なんだから!」 舞は得意そうに言う。 「今日の主役はママなんだからママが可愛いければ私はいいの!舞姉、私はもっと普通のドレスでもよかったんだよ?」 そう言う桜に春陽と舞はお互いを見合っ
Last Updated : 2025-09-26 Read more