ひらめき探偵エリカは毎日が新鮮 のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

35 チャプター

日記10:テスト勉強

それから、しばらく時が流れて。 テスト週間に突入し、活動は一時休止。明日からいよいよ期末テストが始まるということで、俺たち四人は“追い込み”の真っ最中だった。 場所はもちろん、喫茶アンサンブル。いつもの日当たりのいい席で、それぞれがノートや教科書と格闘していた。 真司はというと―― 「……グラマトン? グラマティカ……えーと、グラ……なんだっけ?」 虚ろな目で単語をぶつぶつ繰り返している。どうやら、昨日やっとテスト範囲のノートを写し終えたらしく、今日から本格的に暗記作業に入ったらしい。まったく、毎回どうしてそうなるのか。自業自得だ。 一方、茉莉花はというと、ちょっと疲れた顔をしているものの、真司とは比べ物にならないくらい余裕がある。 すでに範囲の勉強は一通り終えていて、今はチェックテストや要点の確認。完全に“定着率フェーズ”だ。さすが体育会系のわりには(?)、やることはしっかりしている。 俺はというと、まだ頭に入っていない初日の科目を、今まさに詰め込んでいる最中。黙々と暗記中……だが、集中力が時々切れて、ついエリカに視線がいってしまう。 ……エリカはというと。 「ふんふふ〜ん♪」 鼻唄まじりに、明日のテスト範囲をサクサクと要点まとめ中。 しかもそのノート、びっくりするくらい的確で簡潔。だが、その量は膨大でテストの範囲を全て網羅していた。実はエリカは、俺たちの中でいちばん成績がいい。 「エリカ、ずるいよな〜。普段はちょっと“あれ”な感じなのに、実は頭いいとか。なんか毎回、裏切られてる気がするんだけど」 真司が肩を落としながら、苦々しくぼやく。 「たしかにね。漫画とかだと、エリカみたいな“あれ”な子ってテスト壊滅か、よくても普通レベルなはずなのに。エリカ、毎回上位だもんね」
last update最終更新日 : 2025-10-23
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日記11:カラオケ

期末テストが終わり、明日からの部活再開を前に俺たち四人は、打ち上げがてらカラオケに来ていた。 七月に入る直前。外はしとしとと梅雨の雨。そんな天気の日に屋内で盛り上がれる場所といえば、ここしかない。 「よーし、俺の番だな!」 真司がマイクを手に、立ち上がった。 「一番点数が低かったやつが、ポテト奢りな! 約束忘れてねえよな?」 「ふーん。ま、どうせあんたがビリだけどね。90点超えた試しあったっけ?」 すでに一曲歌い終えていた茉莉花が、ソファに肘をついてニヤリと笑う。 彼女が選んだのは、歌手の心をまっすぐに表したかのような恋の歌。 茉莉花の歌声は、風に髪をなびかせて笑う女の子のように、明るくて眩しくて――だけどどこか切なさを帯びていて。 画面に表示された点数は、93点。納得の高得点だった。 「今に見てろよ。そっちが吠え面かく番だ」 そう言って、真司は曲を決定する。 選んだのは、ギターが火花を散らすようなイントロのロックナンバー。 画面が切り替わると同時に、部屋の空気がピンと張り詰めた。 マイクを握る手に力を込めて、真司は一気に歌い上げる。 まるで戦いに挑むような声。衝動と葛藤を、そのままぶつけるような激しいメロディ。 サビでは、立ち上がって片腕を突き上げる。カラオケのくせに本気すぎて、ちょっと笑えるけど、でも――熱かった。 歌い終わって、画面に表示された点数は……83点。 「ぐおおおおおおお!? な、なんでだ!? 今の完璧だったろ!!」 「クセ強すぎて機械がびっくりしたんじゃないの?」 茉莉花が腹を抱えて笑う。
last update最終更新日 : 2025-10-24
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日記12:二つ目の事件

熱々のポテトが運ばれてきたところで、ひとまず小休止。 それぞれ好みのジュースを手に、ポテトをつまみながらゆるゆると談笑タイムに入る。 「そう言えばこの間のことって日記に書いたの?」 茉莉花が俺とエリカに問いかけてきた。 「んー? なんのこと?」 「あーえーと……教室で相沢のアニメのクリアファイルだっけ? あれがなくなったーていった事件こと」 「うん! 日記とは別にね“事件ファイル“ってのを作ったの! それに書いてあるよ!」 「なんだ、事件ファイルって?」 真司がポテトを一気に何本か口に運びながら話す。 「俺が提案したんだ。日記とは別にそれを作ったら、探偵っぽくていいんじゃないかって」 新しいことに挑戦するのであれば、その形を残しておく方がいいだろうとの考えから、エリカに提案してみた。 毎日の日記に加えて、事件ファイルなんて物を書くとしたら負担が増えて大変になるかと少しだけ杞憂ではあったのだが。 「さっすが私の助手! 事件の記録をとるのは探偵の基本! あー速く次の謎来ないかな~」 よほど待ち遠しいのか、エリカは身体を左右にゆすりだす。 「……そういやさ」 真司が、ふと思い出したように口を開いた。 「そのことでお前らにちょっと面白い話があるんだけどさ」 その言葉に、エリカが即反応する。 「なにそれ!? 聞きたい聞きたいっ!」 乗り出してくるエリカに、真司はやれやれと肩をすくめて、両手を広げた。 「ま、慌てんなって。うちの部活の後輩から聞いた話なんだけどよ。期末テストの期間中、ちょっとした怪奇現象があったらしい」
last update最終更新日 : 2025-10-27
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日記13:教科書の謎①

「『教科書の謎』……?」 思わず、俺は首をかしげた。 「どうよ?このネーミングセンス!」 ドヤ顔で言い放った真司に、すかさず茉莉花が切り込む。 「いや、あんた。捻りゼロの直球じゃん。むしろ凡庸」 ビシッと斬られて、真司がちょっとだけむくれる。 「……ま、まぁいいじゃねぇか。とにかくだ、その話なんだけどよ。部活の後輩が、普段は学校に教科書置きっぱなんだとよ。で、テスト期間中だけは家で勉強するために持ち帰ったらしい」 「あるあるだな。特に男子は、教科書ロッカー派多いからな」 俺も頷く。何度かやらかしたことがある。 「私は女子だけど置き派だよ。部活の荷物もあるし、教科書ってマジで重いし」 茉莉花も同意するように続けた。 確かに、普段持ち歩かないものって、持っていく習慣がないとつい忘れがちだ。 「でよ、まあ、そこまではよくある話なんだけどよ……」 真司は声を潜めて、ニヤッと笑った。 「そっからが面白くてよ。休み時間に友達と笑い話にして、トイレから戻ったら──自分の机の上に、その教科書が置かれてたんだと。しかも、手紙付きで」 「手紙?」 俺が思わず身を乗り出すと、真司はスマホを取り出し、画像を表示させてテーブルに置いた。 「写真撮らせてもらったんだよ。ほら、これ」 画面に映っていたのは、柔らかい丸文字で書かれた一文だった。 ――『この時間は使わないから、使ってもいいよ。授業が終わったら、そのまま後ろの棚の上に置いておいて』 「……可愛い文字。絶対女の子だよ、これ!」 エリカが声を弾ませた。 「で、その手
last update最終更新日 : 2025-10-28
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日記14:教科書の謎②

俺は真司に向き直る。 「それで、その後輩に話聞けるかな?さすがにこの情報だけじゃ手がかりにならないし」 「おう、明日の部活終わりに時間作ってもらうように伝えとく。俺も気になるし、一緒に聞くわ」 と、そこへ茉莉花が少し不満げに口を挟む。 「えー、私も気になるけど……明日、バスケ部の後輩の子――千尋ちゃんって子から『ちょっと相談したいことがある』って言われちゃっててさ。部活の後は付き合う予定なんだよね」 「大丈夫、あとでちゃんと茉莉花ちゃんにも共有するから!」 エリカがニッコリ笑ってフォローする。 「ほんと?仲間はずれにしないでよね?」 茉莉花がちょっとだけ唇を尖らせる。 「よーしよし、仲間はずれは寂しいもんね~。かわいいなぁ、茉莉花ちゃんは!」 そう言ってエリカが、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でる。 「も、もーうっ、やめてってば! そういうんじゃないし!」 照れくさそうに言いながらも、茉莉花の顔はほんのり赤い。 ふと、じゃれ合っていたエリカがぴたりと動きを止めた。 くしゃくしゃになったスカートの裾をパンパンと直し、服の乱れをササッと整えると、 何かを思いついたように、唐突に口を開く。 「でも、今聞いたことだけでも、候補はかなり絞れるよ!」 「……え?」 唐突すぎる一言に、俺は思わずまばたきする。 「え、それどういうこと?」 茉莉花も髪を手ぐしで整えながら、ぽかんと聞き返した。 「んー?なんでだっけ?」 だけど、エリカは自分でもよく分かってないようで
last update最終更新日 : 2025-10-29
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日記15:教科書の謎③

「だったら。『同じ日に、その教室で』って言ってたのは、どういう意味なんだ?」 「んー? だってさ、本を貸したままだと、今度は自分が困るじゃん? だからだよっ!」 エリカはドヤ顔で説明してくるけど……やっぱりちょっと飛躍してる。確かに借りパクされたら困るが、別日に受けるのであればその日は困らないんじゃ?いや、待てよ。 「ああ、そっか。返す場所が“教室の後ろの棚”だから、そう思ったのか?」 「そうそうそれーっ!一発正解!」 「……どういうこと?」 茉莉花が、完全に置いてけぼりという顔で首をかしげる。 「わざわざ“匿名”で貸してるのに、返す場所が“教室の後ろの棚”で、しかも“授業の後に返してね”って指定されてるんだ」 真司も腕を組みながら口を挟む。 「それが、どういう意味になるんだよ?」 「よく考えてみろよ。匿名で貸してるのに、教室の棚なんて目立つ場所に返すなんて、おかしいだろ? それでも指定したのは、自分がすぐに使わなければならなかった。そう考えれば、その日に同じ授業を受ける子って仮説がつながるんだ」 「うんうんっ! 直央くん、さっすが私の助手だね〜!」 嬉しそうに身を乗り出してくるエリカ。俺の仮説は、どうやら当たっていたらしい。 「でもよ、そんなの偶然かもしれないじゃん? 深く考えてなかっただけかもだし」 茉莉花の冷静なツッコミ。けど、エリカは―― 「うーん、それもあるかもね〜!」 あっさり認めた。 「おいおい、それだとダメじゃねーか。だったら、答えとして成立してねーだろ」 真司がツッコミを入れるけど、俺はそれを否定する。 「いや、そもそも情報が少ないから、限界がある。大事なのは、手がかり
last update最終更新日 : 2025-10-30
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日記16:エリカと日記

入浴後の静かな夜。 俺が机で読書している横で、エリカは俺のベッドの上に寝そべりながら、上機嫌に日記をカリカリ書いている。 以前、一度だけその日記を覗こうとしたら、 ――「だめっ! 乙女の秘密を盗み見ようなんて、変態のすることだよっ!」―― と、めちゃくちゃ怒られた。 それ以来、日記は“決して触れてはならない禁書”に指定されている。 だけど、ふと気づく。 普段書いている日記とは別に『事件記録』と書かれたノートが一冊、側に置かれていた。 「エリカ、今回のこともちゃんと記録してるんだね」 俺が問いかけると、エリカは顔を上げて、そのノートを手に取り、キメ顔で答える。 「うん! せっかく直央くんが提案してくれたから。流石私のワトソンくんだよ!」 「俺がワトソンなら、エリカがホームズか?」 エリカは首を傾げて、少しだけ考えた後、楽しそうに笑いながら話す。 「金髪蒼眼の美少女、女子高生ホームズでてんこ盛りだね」 つられて俺も笑いながら言葉を返す。 「コナン・ドイルもびっくりなホームズだな」 エリカが欠伸をしながら、ゴロンと寝返りを打つ。 時計を見ると、もう11時59分。話に夢中になって、時間のことなんてすっかり忘れてた。 「エリカ、自分の部屋に戻った方が――」 声をかけかけて、言葉が止まった。 彼女はもう、静かに寝息を立てていた。ぴったり、12時00分ちょうど。まるで、それを待っていたかのように。 エリカは、一年前の春から毎日12時00分に必ず眠るようになった。 それは、一年前に彼女が巻き込まれた事件の影響なのか、それとも……
last update最終更新日 : 2025-10-31
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日記17 教科書の謎④

翌日、昼過ぎ。 真司から「部活終わったぞー」とメッセージが届き、俺たちは学校近くのファミレスで待ち合わせすることになった。 エリカと一緒に自動ドアをくぐると、店内から冷房の涼しい風がふわっと吹き抜けてくる。 外のじめじめした梅雨の空気が、まるで別世界みたいに感じられた。 店員さんに「先に来ている者がいます」と伝え、奥の方へ進むと―― ドリンクバーを前に、真司ともうひとり、真司より少し背の低い、後輩らしき短髪の男子が待っていた。 「おーう! こっちこっちー!」 真司が豪快に手を振ってくる。 180cm近い長身とがっしりした体格、通る声まで合わさって、見事に店内の注目を集めていたけど……本人はそんなことお構いなしだ。 「やっほ〜、お待たせ〜!」 次はエリカが手をひらひら。 今度は一斉に、こっち側に視線が流れてきた。 ……まあ、そうなるよな。 エリカはエリカで、別ベクトルでめちゃくちゃ目立つ。 イギリス人とのハーフで、さらさらの金髪に、空の色より透き通った青い瞳。 スラッとしたスタイルで、顔立ちは“可愛い”と“綺麗”のちょうど真ん中――まさに、見る人の感性次第ってやつだ。 アイドル? 女優? 全然超えてる。 というより、存在がリアリティを超えてる。 当然、店内の男性陣の視線はエリカに釘付けになるわけで――
last update最終更新日 : 2025-11-04
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日記18 教科書の謎⑤

「うおっ、マジすか!? 初めて近くで見たっスけど、エリカ先輩……噂の10倍くらい美人っスね!? って、うわ、すみませんっ、うるさかったスか!?」 バタバタと手を振る姿に、思わずクスッとしてしまう。 ちなみに、エリカはこの外見と性格のおかげで、学校内ではもちろん、町でもちょっとした有名人だ。 「えへへ~、ありがとっ。でもそれより、さっそくお話、聞かせてもらってもいい?」 笑顔でそう切り出すエリカに、日向くんもすぐ真剣な表情に切り替わった。 そして、今回の出来事について改めて話をしてくれた。 ……といっても、話の内容は大方、真司から事前に聞いていたものと同じだった。 「それで、他に何か気になったこととか、思い出したことってある?」 俺が尋ねると、日向くんは少し唸ってから、ひとつの可能性をひねり出すように話し出す。 「うーん、状況的にっスけど……教室で周りに話を聞かれてたと思うんスよ。だから、そんとき教室にいた誰かじゃないかなって」 「ん? どういうこと?」 「えっと、忘れたのって日本史の教科書なんスけど、その前の授業が現代文だったんスよ。俺はそのまま教室に残って次の授業も受けてたんスけど、選択授業で別の教科を取ってる生徒は移動しなきゃいけないから……そのタイミングで誰かが見てたのかなって」 なるほど。うちの学校では一部の授業が選択式で、時間ごとに受ける科目も教室も変わる。だから、同じ教室にいたはずの生徒が、次の時間には全く違う場所にいるなんてこともよくある。 「ねえねえ、それって何曜日のこと? あと、日向くんは
last update最終更新日 : 2025-11-05
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日記19 教科書の謎⑥

日向くんはスマホを取り出し、友人にメッセージを飛ばして水曜日の時間割を確認していった。 その結果、5限目と6限目に日本史を履修しているパターンは、たったの2つだけ。 ① 3限目:倫理/5限目:日本史/6限目:現代文演習 ② 3限目:倫理/5限目:現代文演習/6限目:日本史 「で、問題の時間割で授業受けてるのが、全部で8人。うち女子は2人だけっすけど、ヤバいすね」 なにがヤバイのかは分からないが、日向くんが指で数を示しながら言う。 その2人の名前は── 蒼井 千紘(あおいちひろ) 花守 琴音(はなもりことね) 「だいぶ絞れたね。もうすぐ答えって感じだけど……顔が暗いよ?」 僕の言葉に、日向くんは目をそらして口ごもる。 「……あ、いや……」 さっきまでのテンポの良さはどこへやら。明らかに様子がおかしい。 「楓、なんかあるならはっきり言えよ」 真司がズバッと切り込むと、日向くんは観念したように肩を落とした。 「……実は、蒼井千紘って、俺の幼馴染で……。4月に告白して、振られてるんすよ。しかもバッサリと……。それ以来、気まずくて話してないっス……」 「え、そういう意味のヤバいってことか」 まさかの展開だった。 けれど、そんな空気をぶった切るように、エリカが声を上げた。 「じゃあさ、直接聞いてみよっ! たしか今、茉莉花ちゃんと一緒にいるはずだよ、千紘ちゃん!」 一瞬、話が飛んだ気がしたけど、すぐに思い出した。昨日、茉莉花が言ってたバスケ部の後輩。その後輩の子を千尋ちゃんと呼んでいた! 「どうする? 日向くん、聞いてみる?」 「……お願い、してもいいっすか」 日向くんの了承を得たので、俺はスマホを取り出して茉莉花に電話をかけた。 2、3コールで、すぐに繋がる。 ――「もっし~? どったの?」―― 「茉莉花、今ちょっといい? 聞きたいことがあって──」 と、そのときだった。 電話の向こうと、俺の耳元じゃない“反対側”から、まったく同じ声が聞こえてきた。 「ママ~! お腹空いた~! ハンバーグ食べた~い!」 ――「ママ~! お腹空いた~! ハンバーグ食べた~い!」―― ……えっ? 僕は一瞬フリーズし、それからゆっくりと顔を上げた。 「……なあ、茉莉花
last update最終更新日 : 2025-11-06
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