「ライトの種類が違うからだよ!」「ライトの……種類?」 藤田さんが首を傾げると、エリカは説明を始めた。「メインのプールは LED に変わってるけど、練習用のプールはハロゲンライトのままですよね?」エリカが天井を指差して、藤田さんはそれにつられ、天井を見上げる。「……ええ、そうね」 エリカは立ち上がり、二つのプールの天井を見比べる。「LEDって、光が白くて強いんだ。真下に向けて光を当てると、水面で反射が強くなって“鏡みたい”になるの」 対して、練習用プールの光は柔らかく広がっていた。「でも、ハロゲンライトは暖色で光が広がる。だから、水がちゃんと“水の色”に見える」 藤田さんが小さく呟く。「……だから水面の青さが違って見えたのね」「そう。水質は同じでも、光が違えば、水の見え方が変わるの」 俺はスマホの画面を操作しながら、エリカから引き継ぐ形で説明する。「イルカたちは、俺たちより“視力がいい”。しかも、水中で光の反射や影にとても敏感。つまり……メインプールのLEDが眩しすぎて、イルカが上を見られなかったってことか」「その通り!」 エリカが指を鳴らした。「ジャンプもバブルリングも、イルカが上を見る行動なんだよ。でも、LEDの強い白い光が水面で跳ね返って、イルカには“何が映っているのか判断できない世界”になっていたの」 円さんが息を呑んだ。「……だから、ジャンプする寸前で止まったり、位置がズレたりしたのね」「あの子たち、本当はやりたかったんだ。でも、“上が眩しくて見えなかった”。それだけ」 エリカの言葉は、決して責めていなかった。 ただ、イルカの気持ちを代弁するような優しさに満ちていた。 藤田さんは唇を噛み、震える声で言った。「……気づいてあげられなかった」「違うよ、藤田さん」
最終更新日 : 2025-11-22 続きを読む