Semua Bab ひらめき探偵エリカは毎日が新鮮: Bab 51 - Bab 60

63 Bab

日記50 直央の罪①

 最悪の目覚めだ……。 久しぶりに“あの日”の夢を見てしまい、目が覚めたときには、シャツが汗でぐっしょりと張りついていた。まるで水の中で眠っていたみたいだ。 喉がからっからで、脱水になる前に水分を摂ろうと、ベッドから起き上がった――その瞬間、視界に入った時計を見て、俺は凍りついた。 (……は!? いつもより、三十分も寝坊してる!?) 血の気が引いた。その瞬間、再び汗が噴き出す。いや、さっきの汗とは別の、冷たいやつだ。 目覚ましは?かけ忘れた?いや、そんなはず……! そんな混乱に頭が追いつかないまま、確認もせずにベッドを飛び出しエリカの部屋へと向かう。 朝起きたばかりのエリカは日記を読むという習慣を知らない。 つまり、一年前の高校入学前の時点の記憶のままその日をはじめるということだ。 なにも情報もなく、変わってしまった自身の周りをみた時にエリカにどんな影響があるか分からない。「エリカっ!!」 勢いよく隣のドアを開け放つ。 俺の部屋と同じ間取りのその部屋。けれど、ぬいぐるみやリボンで彩られた空間は、どこか柔らかくて、あたたかい。 その中心で、エリカは机に向かってちょこんと座っていた。「直央くん?おはよ。……どうしたの?そんな怖い顔して」 エリカは首をかしげて、きょとんとした表情で俺を見上げる。「エリカ……どうして……?」 戸惑う俺を見て、エリカは目をぱちぱちさせていた。 やがて彼女は「あっ!」と何かを思い出したように、ぱっと笑った。「えへへー。これのおかげ♪」 そう言って、ベッドの真上の天井を指差す。 その方向に目を向けると、天井に貼られた一枚の紙が目に入った。A4用紙に、太いマジックでこう書かれていた。 《起きたらまず日記を見る!》「ねっ、えらいでしょ?」 腰に片手をやり、胸を張ってキリッとしたどや顔をきめるエリカ。金髪がきらっと揺れて、髪までもエリ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-26
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日記51 直央の罪②

 エリカのお母さんが亡くなった瞬間──その光景を、彼女は見てしまった。 絶望と混乱に凍りついたまま、泣き声も上げられずに。 そして、その悲惨な光景により、エリカの精神は限界だった。 心は、もう壊れかけていた。 だけど、俺は思った。 たとえ、母を失った痛みが彼女を苦しめても…… “その瞬間の映像”さえ脳裏から消すことができれば、彼女は、きっと支えの中で生きていける。 そう信じて、俺は「記憶を消す方法」を探し始めた。 いくつもの論文を読みあさり、 PTSD治療に使われるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理)や、 バイノーラル・ビート、トラウマ記憶の再構築などを試した。 けれど、どれも“あの光景”をピンポイントで消し去ることはできなかった。 そんなときだった。 藁にもすがる想いで、俺はエリカのお父さんに、すべてを話した。 エリカがどれほど限界であるか。 俺が何をしようとしているか。 そして、彼女を救うには、“あの記憶”だけを消すしかないこと。 沈黙の末、彼は静かに頷いた。「……紹介できる者がいる。責任は、私も背負う」 彼が連絡を取ってくれたのは、心理学の臨床分野で知られる大学教授だった。 現在は大学を離れ、個人的に「記憶処理に関する非公式の研究」を続けている人物らしい。「特定の映像記憶を“選択的に上書き”できる方法がある」 その教授はそう言った。 深い催眠状態に誘導し、対象の記憶を再生させる。 そして“想起の瞬間”に、記憶映像を光で覆い、意識に定着させることなく焼き切る。 まるで、古いフィルムを白く塗りつぶすように。  危うい手法だとは分かっていた。 失敗すれば、記憶全体に障害が残る可能性もあるという警告も受けた。 それでも、俺と彼女の父さんは、同じ選択をした。 施術の日。 柔らかな照明の下、エリカは静かに横たわり、 教授
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-29
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日記52 スワンプマン

 週明けのこと。夕暮れとまではいかないが、太陽が傾きはじめた校舎の廊下を進み、目的の部屋の前で立ち止まった。 学校内にある他の扉とは違い、重厚な雰囲気を漂わせた扉。その上には「理事長室」と書かれている。 小さく息を吐き、ゆっくりとノックする。 コン、コン―― 決して強く叩いたわけではないのに、思ったよりも大きな音が響き、一瞬たじろぐ。「入りなさい」 扉越しに届いた声は大きくない。だが低く通るその声は、はっきりと耳に届いた。「失礼します」 ゆっくりと扉を開けて中に入る。 そこには、中年の男性がデスクに積まれた大量の書類と、険しい表情のまま向き合っていた。 彼は書類から視線を上げ、険しいままの表情で口を開く。「久しぶりだな直央。元気にしていたかね?」「はい。理事長先生は相変わらずお忙しそうですね」 そう答えると、彼は「やめろ」と言わんばかりに手をひらひらとさせ、ため息をつく。「今は私たち二人だけだ。よそよそしい呼び方はやめてくれ」「わかりました、正隆さん」 苦笑しながらそう呼ぶ。 海堂正隆(かいどう・まさたか)さん――この学校の理事長であり、エリカの実の父親でもある。 常に険しい表情を浮かべているが、俺やエリカのことを何より気にかけてくれる、頼りになる温かい人だ。 しかしその雰囲気から、話すときは自然と緊張してしまう。「すまないな、エリカのことを任せきりにしてしまって」「いえ。信頼して預けてもらえるのは、むしろ嬉しいです」 俺の言葉に、彼は表情を崩さぬまま「そうか」とだけ呟き、席を立った。「いつも通りコーヒーでいいかね?」「はい、ありがとうございます」 正隆さんは軽く肩をすくめる。 二人のときはもっと砕けた口調でいいと言われているのに、どうしても改まった話し方になってしまう。 雰囲気もそうだが、学校の理事長であり、しかも好きな相手の父親だと思うと、自然と固くなるのだ。 最近はもう諦めたのか、苦笑しながら「やれやれ」といった様子を見せるだけになっていた。 ソファに座って待っていると、コーヒーを二つ運んできた正隆さんが正面に腰を下ろし、さっそく本題に入った。「さて、その様子だとやはりエリカの状態は変わっていないようだな」「はい。ただ、ちょっと新しい取り組みをしてみようと思って」 俺は、二人で謎や悩みを解決する
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-31
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日記53 空き教室の謎①

「部室? んなもん、ねーよ」 放課後、同好会の設立申請を提出した俺とエリカに対して、榊原先生は、いつものぶっきらぼうな調子で言い放った。 「えぇー!?なんでなんで! いっちー!」 「誰がいっちーだコラ。学校では“榊原先生”って呼べっつーの」 「はーい、榊原先生~」 榊原先生は俺たちの家、母が営む喫茶店アンサンブルの常連さんだ。昔から俺たちとも母とも面識がある。 だから、学校外でエリカは榊原先生のことをいっちーと呼んでいる。 「……で、どうして部室がないんでしょうか?」 俺があらためて尋ねると、先生は面倒くさそうに頭をかいた。 「決まってんだろ。同好会なんぞに部室与えてたら、校舎がいくらあっても足りねーよ」 どうやら、部室ってのは“正式な部活”に昇格して初めて割り当てられるらしい。同好会に関しても割り当てられているものもあるが、それは前年に活動実績があって、生徒会の審査を通った場合だけ──って、なかなかハードル高くないか? 「だからよ。同好会作りました、ハイどうぞ部室、なんて話にはなんねーの。現実見ろや」 「けちヒゲ……」 「おい、今なんつったエリカ? せっかくいい話があるっつーのに」 「えっ、えへっ、ヒゲが素敵って意味だよ? で、いっちー? その“いい話”って何?」 いい話があると言った瞬間のエリカの手のひら返しは、俺には真似ようとしても真似できない見事なものだった。 「最後まで聞けっつーの、まあいい。ちょうど頼みたいことがあったんだわ。ひとつ、謎を解決してくれたら、空き部屋ひとつ貸してやるよ。“掃除と管理”って名目でな」 「おぉ~! 詳しく詳しく!」 エリカの目が、わかりやすく変わる。 「旧校舎の西の奥に、しばらく使われてねぇ教室があるんだよ。で、最近その隣の手芸部の連中から、『中から物音がする』っつー相談がきてな」 先生は腕を組んで、ため息交じりに続ける。 「だけど、その部屋の鍵はちゃんと閉まってて、職員室の鍵も使われた形跡がねぇんだよ。5月に一度生徒と一緒に探し物をしにいったくらいでな……まあ幽霊かイタズラか知らんけど、お前ら、ちょいと様子見てきてくれ」 「それって……先生が確認しに行くべきでは?」 「はあ? あんなとこ冷房ねぇし遠いしで行きたくねーわ。危なそうなら戻ってこいって。電話一本でいいか
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-02
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日記54 空き教室の謎②

旧校舎に向かおうと、職員室を出て廊下を少し歩いた、そのときだった。 新校舎と体育館をつなぐ通路の先、校門のほうへと駆けていく人影がちらりと見えた。 「んじゃ、茉莉花先輩。私、外周行ってきます!」 ポニーテールを揺らして走っていくのは──昨日、水族館で偶然会ったばかりの花守さんだった。 「ちょっと、また外周? 琴音、体力も大事だけど、ちゃんとボールも触りなさいよ~」 体育館のドアから顔を出して、茉莉花が叫んでいた。 「いまの……琴音ちゃん?」 「ああ。髪型は違うけど。部活中はまとめてるみたいだ」 そんな会話をしている俺たちに気づいたのか、茉莉花がこっちへ顔を向ける。 「なにしてんのあんたたち、こんなとこで。部室はもらえたの?」 「んー、ちょっと訳アリでね。今から旧校舎」 「ふーん、そっか。また、詳しく聞かせてよねー」 と、体育館に戻ろうとする茉莉花にエリカが声をかけた。 「ねぇ、茉莉花ちゃん! その手首のリストバンドいいね! 部活中いつもつけてるの?」 茉莉花の手首には、ネイビーに白のラインが入ったリストバンドが巻かれていた。 「ああ、これね? うちの女子バスケ部のチームでお揃いのを頼んでいるの。 汗を拭うのにも、手首の保護にもいいから気に入ってるの、それじゃあね」 軽く手を振って、今度こそ彼女は体育館へと戻っていった。 その背中を見送りながら、俺とエリカは旧校舎に向けて、再び歩き出した。 まず訪れたのは、問題の空き教室の隣にある、手芸部の部室だった。 扉の前で軽くノックすると── 「ど~ぞ~」 ……と、やたらのんびりした声が返ってくる。 「失礼します」 俺はそう言って扉を開けると、手芸部の部室にいたのは一人だけだった。 スリッパの色をチラッと見れば、三年生を示す緑色。 俺たちの学校では、スリッパの色で学年がわかる。二年生は青、一年生は赤。そして──三年は、やさしさの色みたいな緑をしている。 窓際の机に向かって、のんびりと刺繍をしていたその人物は──まるで、たんぽぽの綿毛みたいな人だった。 ふわっとした空気をまとい、やわらかく微笑むその表情には、時間の流れすらゆるやかにしてしまいそうな穏やかさがあった。 肩までのゆるく巻かれた髪は淡い栗色で、ほんのり陽の光に透けている。制
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-05
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日記55 空き教室の謎③

「えっ、私のこと……知ってるんですか?」 「もちろんよ~。金髪で青い目の美少女っていえば、うちの学校じゃちょっとした有名人だもの~。それに、理事長のお嬢さんでしょ? 海堂グループの~」 「は、はい……」 エリカがなんともいえない表情をうかべる。 美少女といわれるのは嬉しいが、理事長の娘だと特別視されるのは嫌なのだろう。 「だとしたら、そっちの彼は……雨宮直央くんかな~?」 「お、俺も……ですか?」 「うん。私の学年の男子たち、よく噂してるもの~。お昼休みにね、パン食べながら話してるのよ~。“あんなかわいい彼女ねたましい”って」 「……」 「で、そのあとにね、“でも正直うらやましすぎてしんどい”とか、“あれは罪だよな”っていう嘆きタイムが始まるの~。ふふっ、青春ねぇ~」 「……その話は、聞かなかったことにします」 俺はそっと目をそらす。エリカはなぜかもじもじしつつ嬉しそうだった。 「ふふっ。私は綿貫日和(わたぬき・ひより)です~。手芸部の部長をしてるの。で、今日はどういうご用件かしら~?」 「あのですね! 実は、隣の空き教室についてお聞きしたいことがあって!」 「ああ~……もしかして、調べてくれてるの? あのこと~」 綿貫先輩は、ひと針、刺繍の手を止めてこちらを向いた。ほんの少しだけ、迷うそぶりをみせたあと。 「そうだね~……ちょうど先月くらい、だったかな? ふとしたときに、隣から物音が聞こえたの」 「物音……ですか?」 「うん。使われてないはずの空き教室なのに、不思議よね~。最初は気のせいかなって思ったんだけど」 綿貫先輩は、小首をかしげながら続けた。 「一度気づくとね、ほとん
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-07
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日記56 空き教室の謎④

綿貫先輩の話を聞いたあと、俺たちは例の「空き教室」へとやってきた。 何があるのか、何が起きているのか。俺はさすがに胸のざわつきを抑えられない。 「よーし、直央くん!開けて確かめよう!」 だが、隣でエリカは、いつも通りの笑顔でウキウキしていた。まるで宝探しにでも来たかのように。 俺はごくりと息をのむ。意を決して鍵を開けようとした、そのとき―― ガタン! 教室の中から何かが倒れるような音が響いた。 (今の、絶対誰かいる……!) 思わず開ける手が止まる。だが隣を見ると、エリカが「早く開けて!」と言わんばかりに目をキラキラさせている。……いや、もう顔に書いてあるレベルで「ワクワク!」が漏れてる。 俺は覚悟を決めた。開ける手とは反対の手で、エリカをそっと自分の背中へとかばうように回す。 何があっても、この子だけは守らないと。 カチャ。 慎重に鍵を開けて、警戒しながらドアをゆっくりと押し開ける。 ……だが。 「……誰も、いない?」 拍子抜けした声が漏れる。教室は、静まり返っていた。 「ええっ!? 絶対いたよね今の音!?」 俺の脇からひょっこり顔を出したエリカが、目をまんまるにして中を見回す。 たしかに、音はした。絶対に誰かがいたはずなのに。 俺たちは中に入る。空気の流れが妙に生々しく感じられる。 棚や備品には薄くホコリが積もっているのに、椅子やテーブル、扇風機にはそれがない。しかもテーブルには、ついさっきついたような水滴の跡。そして扇風機のコードは、まだコンセントに差ささったままだった。 「誰か、いたんだね……」 「うん、絶対間違いないって!こんなの、動かしてなきゃできないもん!」 俺は窓へと視線を向ける。昔ながらの引き違い窓。内側には半月型のクレセント錠が付いていて──ちゃんと鍵はかかっていた。 よく見ると、鍵のあたりに青っぽい繊維のようなものが絡んでいた。 窓の外には、白いメッシュフェンスと住宅街の通りが見えるだけで、特に変わった点はなかった。 「窓の鍵、ちゃんと閉まってるね」 「えーでも……教室の中に隠れる場所なんて、ないよね?」 エリカが教室の中を見回す。確かに物は多いけど、どれも人が隠れられるようなものじゃない。 「つまり……この教室は、俺たちが鍵を開けるまでは完全な
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-09
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日記57 空き教室の謎⑤

「直央くん、しっ。しゃがんで、耳を澄ませて!」 エリカは素早くドアに耳をぴたりと当てる。俺もつられて同じようにすると―― カラカラ…… ……窓の開く、小さな音が聞こえた。 ――誰かが、教室の中に戻ってきた。 その瞬間。 「そこまでだよ、琴音ちゃん!」 バンッ! エリカが勢いよくドアを開けた。 「ひぃっ!?」 中にいたのは、驚いたように目を見開き、机の下に隠れようとしてそのまま固まって、こちらを見つめる── 花守さんだった。 花守さんは、ドアの向こうにいた僕たちを見て、ぴたりと動きを止めた。まるで時間が止まったみたいに、固まったまま。 そんな彼女を見て、エリカはゆっくりと一歩前に出ると── 「この教室に、不法侵入して……隣の手芸部の子たちを怖がらせた犯人は……」 一度、目を閉じて深呼吸。溜めを作る。その動きがやたらサマになっている。 「あなたよ、琴音ちゃん!」 ビシィッ! キリッとしたバッチリ決まった表情で、エリカが花守さんを指差した。 「ひぃぃ、ごめんなさいぃぃ……っ。つい出来心で……!」 うん、ノリが良いなこの子。 「……花守さん、どうしてここに?」 俺が聞くと、花守さんは目を泳がせながら答えを探す。 「え、えーと……その……」 「部活、サボるためだよね~?」 エリカがジト目でにやにやしながら追い打ちをかける。 「……は、はいぃ……」 罰が悪そうに視線をそらし、しょんぼりうなだれる花守さん。リスか小動物みたいでちょっとだけ罪悪感。 でも、気になってたことを聞いてみた。 「……エリカ、どうして花守さんが中にいるって、分かったの? 姿も見てなかったよね?」 そう、エリカは教室に入る前から、名前までバッチリ呼んでた。あの確信、どこから来た? 「それはね~。さっき琴音ちゃん、校庭走ってくるって言ってたでしょ? それとね、窓の鍵に青っぽい繊維がついてたの!」 そう言って、ドヤ顔エリカが「どうだ!」と胸を張る。 うん、やっぱりこうなるよね。と思いながら、 俺はもう一度、教室の中を見渡す。そして、花守さんの手首に目をやった。 ──ネイビーに白いラインが入ったリストバンド。茉莉花がよく着けてる、女子バスケ部のやつだ。 さらに思い出す
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-12
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日記58  空き教室の謎⑥

「でも、どうやって教室に入ったの? あそこ、密室だったよね?」「うーんとね、窓の鍵が開いてたからだよっ!」 ……って言われても、全然ピンとこない。だって、さっき見たときは、どう見ても鍵はちゃんと閉まってたように見えたし。「あ、それはですね。こういう仕掛けなんです」 花守さんに連れられて、俺たちは窓の前へ。「このテープを、鍵のツメとレバーの間に貼ってから鍵を閉めると──ほら、見た目はちゃんと閉まってるように見えるんです」 言いながら、花守さんはぺたりとテープを貼って、カチリと鍵を回す。「あっ、爪が届いてない!」 なるほど。テープが間に挟まってるせいで、見かけだけはロックされてるけど、実は引っかかってない。つまり――「だから、外から押せば、簡単に窓が開いちゃうんですよ」「すごいね、花守さん………こんなこと、よく思いついたね?」「えへへ……ミステリー小説が大好きでして。それをちょっと思い出しちゃって!」 俺がそういうと、花守さんはちょっと照れたようにはにかんだ。 さっき鍵のところにリストバンドの繊維がついていたのも、テープを貼っていたからなんだと気づいた。「でもさ~、やってることはダメなやつだよ? 茉莉花ちゃんとか先生が知ったら、怒られちゃうよ~?」 エリカがいたずらっぽく言うと、「ひぃ~っ、それだけはご勘弁を~!」 花守さんは勢いよく頭を下げて、さらにその頭の上で手を合わせた。「部活がちょっとキツくてですね……。5月に先生とここに備品を取りに来たとき、だれも使ってないって聞いて、つい、魔が差しちゃいました」 要するに、バスケ部がめっちゃ厳しくなって、こっそりサボるためにこの教室を“避難場所”にしちゃったらしい。「うちのバスケ部、去年から外部コーチ雇ってて、急にガチ化したらしいんですよ。私、もっとゆるいとこだと思って入ったのに……あれ? 話がちがう!って」 それでも、仲良くなった先輩や友達がいるから辞められなかったんだって。「でも、やっぱりダメだよ?こんなことしたら、まわりに迷惑かけちゃう」「……ですよね。バスケ自体は好きだし、ちゃんと頑張ってみます」 しっかり反省はしてるみたいだけど、名残惜しそうな表情も浮かべる花守さん。「だったらさ、どうしても無理なときだけ、この部屋使っていいよ。私たち、これからここを“ひらめき探偵
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-16
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日記59 空き教室の謎⑥

榊原先生には、「猫が教室に忍び込んでたんです! よく見たら窓の鍵、開いてたんです! きっと器用に開けちゃったんですよ!」という、どこまでも無理がある言い訳を、エリカの勢いと笑顔で押し切った。 当然ながら先生の目は明らかに怪しんでいたが──深く追及はせず、「約束は約束だから」と言って、教室の使用を許してくれた。 「ふ~んふふんふ~ん♪」 エリカは鼻歌まじりに、ご機嫌で俺の隣を歩いている。 「よかったな。教室、使えるようになって」 「うんっ!念願の探偵事務所だよ! これからいっぱい依頼が来ちゃうかも~!」 エリカは小さな拳をきゅっと握って、高く掲げる。目がきらきらと輝いていて、テンションは完全に最高潮だ。 「明日から、さっそくお片づけだね!使えるように整えなきゃ!」 と、そこでふと、彼女の表情が変わった。 横顔から俺の方へ視線を向け、まっすぐに真剣な眼差しを向けてくる。 「ねぇ、直央くん。……いつも私の思いつきに付き合ってくれるのは知ってるけど、今回のことは、なんだか直央くんの方が気合い入ってる気がするんだよね。やっぱり、私のため?」 無邪気なようでいて、鋭い。 何も考えていないようでいて、周囲の空気も、人の気持ちも、ちゃんと見ている。 そして、本当に必要なことを、ちゃんとわかってる。 「うん。エリカがやりたい“謎解き”を通して、なにか……新しい刺激が見つかるんじゃないかって思ったんだ。きっかけって、案外そういうところに転がってるから」 俺がそう答えると、エリカはぱっと笑って、そして優しく言った。 「ありがとう、直央くん。私も、頑張るね」 前を向こうとしている。その瞳に、少しだけ決意が宿っていた。 ふいに、過去の記憶の残像が、脳裏に淡くよみがえる。 ――棺の蓋は、最初から閉じられていた。 白い布に包まれた棺の前で、誰も言葉を発しなかった。まるで、そこに触れてはいけない何かがあるように。 “お顔は……お見せできない状態です” そう告げた葬儀社の人の声だけが、妙に鮮明に耳に残っている。 エリカは、無言だった。 制服姿のまま、ただまっすぐに棺を見つめていた。涙ひとつこぼさず、唇ひとつ動かさず。 まるで、壊れかけの人形のように無表情だった。 遺影に映る笑顔だけが、そこにあった。 だ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-19
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