さよならと言えない恋 のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 26

二人がある断崖に到着するやいなや、近づく前に銃声が聞こえた。朝海は用心棒を雇っていた！この結論に達した二人の男の顔には、一瞬の懸念が浮かんだ。利政は手元のトランクを差し出し、ボディチェックを受けた後、賢人と共に倉庫の中へ入った。朝海は腹部が大きく膨らんでおり、今にも産気づきそうだった。利政を見ると口元を吊り上げたが、賢人を見るなり目に悪意を込めた。朝海は大股で、後ろ手に縛られ崖縁に吊るされている千鶴の前に歩み寄り、その髪の毛を掴み上げた。歯を食いしばりながら言った。「このクソ女のどこがいいっていうのよ！あんたたち二人とも、命がけでこの女に入れ込めるほどに！」この時の千鶴は無残な様子だったが、幸い目立った外傷はない。二人は思わず安堵した。しかし、千鶴が危険な場所に置かれ、寒さで顔色が青ざめているのを見て、胸が締め付けられる思いだった。賢人は慌てて二歩前進した。「彼女に手を出すな！」彼が心を痛めるほど、朝海はより一層喜んだ。「私は彼女を苦しめたいの！」そう言って、千鶴を叩こうと手を上げた。賢人は衝動的に飛び出そうとしたが、傍らの用心棒に銃を向けられた。彼は焦り、大声で叫んだ。「この女にいくら払った？僕が二倍払うから、この女を捕まえるのを手伝ってくれ！」哀れにも、彼はまだ若すぎ、人の心の険しさを知らない。利政は彼が助けになるとは期待せず、心底の痛みを懸命に抑えた。落ち着いた態度で口を開いた。「要求した金は持って来た。これ以上余計なことをする必要はない」彼が千鶴の負傷に対して少しも心を痛めた様子を見せなかったことに、朝海は非常に満足した。上げた手をゆっくりと下ろした。「トランクを開けろ」利政は彼女の望み通りにした。「ここには十億円はない」「十億円は持ち運べない」利政は懐からカードを取り出した。「このカードには暗証番号はない。君が人をやって金を引き出してもいい。金を受け取ってから人質を解放しても構わない。だが、一つだけ要求がある。この間に人質が少しでも傷ついたら、十億円全額を手に入れることはできないと思え！」縛られている千鶴が彼を見た。二人の視線が空中で交錯する。利政は彼女に安心させるような目線を送った。朝海は千鶴を憎み抜いていたが、今日金を

あの日の状況を奈々未も見ていた。利政が病院に運び込まれた時、全身血まみれだった。十時間にも及ぶ手術を受け、二度も危篤状態に陥った。奈々未は自身の立場で考えれば、もし自分のために命を顧みない男がいるなら、自分なら感動のあまり泣いてしまうだろうと思った。だから、千鶴と利政が復縁したとしても、彼女には受け入れられないことではなかった。千鶴は保温弁当箱のスープをしばらく見つめてから答えた。「彼の命がけの救助には心から感謝してるわ。でも、それは私がまだ彼を愛してるかどうかとは別の問題よ」千鶴は戸惑いながら言った。「私は彼を丸六年も愛した。この心臓を彼に全て捧げてもいいとさえ思った。たぶん、かつての愛が強すぎたからか。今の私は、どうやって人を愛せばいいのか、もう分からなくなってしまったみたい。もうこれ以上、誰かのために緊張したり、不安になったりすることはない。彼の命の恩に全てを尽くして報いることはできる。でも、以前のように彼を愛し続けることはもうできない」奈々未は自ら彼女を抱きしめた。「あなたがどんな決断をしても、私は永遠にあなたの最も強固な支えよ」千鶴は利政の世話を引き受けた。利政はこの機会を利用して、恥も外聞もなく弱さを見せ始めた。千鶴が真面目に話し合おうとするたびに、彼は痛みを訴えた。彼が痛みを訴えるたび、千鶴はあの日の断崖の光景を思い出した。利政が彼女を救うために全身血まみれになり、危うく助からなかったこと。そのため、彼女は離婚の話を持ち出すに忍びなくなった。この出来事のせいで、千鶴は精神的に消耗し、笑顔も減ってしまった。しかし、利政は千鶴の看病に浸りきっており、全く気づいていなかった。数日経ち、医師から回復が確実となったとの診断を受けた。彼の体はもう大丈夫で、あとは静養するだけだ。千鶴はついに彼と腹を割って話すことを決意した。ところが、思いがけず病院でアシスタントの木下に出くわした。さらに予想外だったのは、木下が誰かに愚痴をこぼしているのを聞いてしまったことだ。「もうこれ以上、パーティーに俺を誘うな。あのアホな社長は、奥さんを取り戻すために命まで捨てたんだ。まるでテレビドラマでも撮っているみたいだ。恋愛ドラマだってこんな脚本は書かないだろう。哀れな俺は馬車馬のように働かされてる

二年後、千鶴は有名デザイナーとして帰国し、初の国内個展を開催する準備を進めていた。今回の展覧会は、C氏が匿名でスポンサーとなっており、会場には千鶴の最新作だけでなく、過去の作品も並べられる予定だ。千鶴がC氏と知り合ったのは二年前。彼はどうやら彼女のデザインに並々ならぬ愛着を抱いているようだった。彼女がデザインしたジュエリーは、オークションに出るたびに最高値で彼に落札されていた。千鶴は元々帰国するつもりはなかったが、C氏から「国内で展覧会を開くことに興味はないか」という招待が舞い込んだ。当初、千鶴は断った。すでに海外の生活に慣れてしまったこと、そして何よりあの男と再会するのが怖かったからだ。二年前、千鶴は病院を去った後、専門の弁護士を立てて利政に弁護士意見書を送る準備をした。しかし、翌日、相手はサイン済みの離婚協議書と株式譲渡書を送ってきた。千鶴は株式は一切受け取らず、望み通り離婚した。こうして三年にわたる二人の婚姻関係は完全に終焉を迎えた。その後、利政が彼女の生活に現れることはなかった。ただ、祝日には必ず、彼女の個人メールボックスに、匿名の祝福が届くのだった。最初は千鶴は相手をブロックしたが、すぐに新しいアカウントから再び祝福が送られてくるようになった。次第に千鶴はそれを無視するようになった。まる二年間、千鶴は一度も返信しなかったが、相手は休むことなく送り続けた。「千鶴、荷物を受け取ったよ」賢人の呼びかけが千鶴の思索を遮った。彼女は微かに微笑み、彼と共に空港を出た。この二年で、彼女と賢人は非常に息の合ったパートナー関係となっていた。二人が空港を出てタクシーを拾おうとした時、一台の黒い車が彼らの前に止まった。「神野千鶴様でいらっしゃいますか？」千鶴が頷くと、相手は言った。「私たちはC様の者です。C氏が特別に神野様とご同行様をお迎えに参りました。ホテルも手配済みですので、いつでもご入居いただけます」千鶴は少々恐縮した。「お気遣いありがとうございます。ホテルは既に予約済みですので」彼女の拒否を受けても、相手は困った様子を見せず、次善の策を提案した。「神野様、まずは車にお乗りください。ホテルをご利用にならなくても結構ですが、今は人が多くて空港でタクシーを拾いにくいですから、C