紬が慎の車のドアを開けた瞬間から、寧音という本命が登場して追い払われるまで、一部始終をばっちり見ていたのだ。思わず首を振って笑った。どうして自分はいつも、こういう面白い場面に遭遇してしまうのか?どうりで紬が少し前に慎を見つめていたわけだ。また新しい作戦を思いついたのだろう。ほら見ろ、同じ車に乗り込もうとして、最終的に本物の彼女に撃退されたじゃないか。「何が面白いんだ?」携帯の向こうから、低く響く、気だるそうな男の声が響いた。正樹はようやくタバコの灰を弾いた。「面白い芝居を見たんだよ。お前もよく言うだろう、モテすぎるのも罪だな。女が男の気を引こうとする時の手管ってやつは、本当に多種多様だ」向こうが軽く、痛いところを突いてくる。「お前はいつからそんなにおしゃべりになった?」正樹は言葉に詰まった。「お前だけには言われたくないな。ただの高みの見物だよ」タバコを揉み消し、話題を変える。「ところで凛太、お前はいったいいつ帰国するんだ?大晦日には戻れないのか?」「状況次第だ」向こうの声は相変わらず落ち着いている。正樹が舌打ちした。「錦戸先生、お前の才能を海外で浪費するより、さっさと戻ってきて国内の数え切れないほどの患者を救ってやった方がいいぞ」「ああ、考えておく」正樹は笑いながら悪態をつき、電話を切って車に乗り込んだ。……全エリアの見学が終わると、時計の針はすでに四時を回っていた。紬は智也とフライテックの年末プロジェクトについて熱く語り合った。智也は感極まった様子だった。「このプロジェクトは、国内技術の空白を埋める、画期的なものだよ。紬、本当にやらないならともかく、やるとなったら徹底的だ。このプロジェクトが軌道に乗れば、フライテックの上場も目前だね」承一も深く頷いた。もし紬が数年前に結婚を選ばず、彼らと一緒に働き続けていたら、フライテックはとっくに世界的な企業になっていただろう。たとえフライテックにいなくとも、彼女は間違いなく親父と共にこの国の航空宇宙工学の最前線に立っていたはずだ。幸い、紬はまだ若い。すべてを取り戻すのに、遅すぎるということはない。紬は淡々と微笑んだだけで、未来については何も語らなかった。目の前の課題を着実にこなしていけば、結果は自然とついてくる。宏一が率いるチームの後任
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