「――とりあえず、萌絵にライン送っとこ」 スーツのポケットから手帳型カバーのついたスマホを取り出したわたしは、緑色のメッセージアプリを起動させる。〈萌絵、ゴメン! もう仕事始まっちゃってるよね? 明日のお昼は顧問弁護士の先生と会食の予定があるから、一緒に社食行けなくなった。 平本くんにもよろしく伝えておいて〉〈りょうかい☆ 社長になった途端に大変だね。 平本くんにも伝えとくよ。 その代わり、今日の会社帰り、三人でまた飲みに行く? 佑香の社長就任祝いに。〉 萌絵からはすぐに返信があった。きっと、上司である木村誠司室長の目を盗んでコッソリ送信してくれたんだろう。(今日の夜の予定……)「――ねえ野島さん、村井さんでもいいけど。わたし、今夜の予定は何か入ってる? 友だちが今夜、わたしの社長就任を祝ってくれるって言ってるんだけど」 二人の秘書のどちらが答えてくれてもいいように、わたしは訊ねた。「今夜の予定……ですか? ちょっとお待ち下さいね――」「今夜は何も予定は入っておりませんよ。すべての取材が滞りなく終われば、社長も定時にはお帰りになれるはずです」 自分の手帳をめくろうとする村井さんを制し、ちょうど電話をかけ終えた野島さんが答えてくれた。彼は手帳を開かなくても、わたしのスケジュールを数日分は完全に記憶しているらしい。「そっか、よかった。ありがとう。じゃあ友だちにさっそく返事しておくわ」〈今夜は何も予定ないって。というわけで一緒に飲みに行こ! じゃあ、また退勤後にね~♪〉 萌絵からまたすぐに「オッケー☆」というペンギンのキャラクターのスタンプが返ってきたので、わたしはスマホを閉じた。「野島さん、よかったらあなたも参加する? 今夜の飲み会」 ダメもとで一応、彼も誘ってみる。彼にもあの二人と親睦を深めてもらえたらいいなぁと思ったのだけれど。「いえ、僕は遠慮しておきます。場の空気を乱してしまいそうなので」「……そう。分かった」 やっぱりダメか……。どうせダメもとだったので、断られてもあまりショックは受けなかった。 確かに、野島さんと平本くんが顔を合わすと修羅場になりかねない。平本くんは野島さんのことをあまりよく思っていないみたいだし、あわよくば野島さんもわ
Last Updated : 2025-10-20 Read more