All Chapters of 恋するプレジデント♡ ~お嬢さま社長のめくるめくオフィスLOVE~: Chapter 21 - Chapter 30

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オフィスラブは難しい? PAGE5

「――とりあえず、萌絵にライン送っとこ」 スーツのポケットから手帳型カバーのついたスマホを取り出したわたしは、緑色のメッセージアプリを起動させる。〈萌絵、ゴメン! もう仕事始まっちゃってるよね? 明日のお昼は顧問弁護士の先生と会食の予定があるから、一緒に社食行けなくなった。 平本くんにもよろしく伝えておいて〉〈りょうかい☆ 社長になった途端に大変だね。 平本くんにも伝えとくよ。 その代わり、今日の会社帰り、三人でまた飲みに行く? 佑香の社長就任祝いに。〉 萌絵からはすぐに返信があった。きっと、上司である木村誠司室長の目を盗んでコッソリ送信してくれたんだろう。(今日の夜の予定……)「――ねえ野島さん、村井さんでもいいけど。わたし、今夜の予定は何か入ってる? 友だちが今夜、わたしの社長就任を祝ってくれるって言ってるんだけど」 二人の秘書のどちらが答えてくれてもいいように、わたしは訊ねた。「今夜の予定……ですか? ちょっとお待ち下さいね――」「今夜は何も予定は入っておりませんよ。すべての取材が滞りなく終われば、社長も定時にはお帰りになれるはずです」 自分の手帳をめくろうとする村井さんを制し、ちょうど電話をかけ終えた野島さんが答えてくれた。彼は手帳を開かなくても、わたしのスケジュールを数日分は完全に記憶しているらしい。「そっか、よかった。ありがとう。じゃあ友だちにさっそく返事しておくわ」〈今夜は何も予定ないって。というわけで一緒に飲みに行こ! じゃあ、また退勤後にね~♪〉 萌絵からまたすぐに「オッケー☆」というペンギンのキャラクターのスタンプが返ってきたので、わたしはスマホを閉じた。「野島さん、よかったらあなたも参加する? 今夜の飲み会」 ダメもとで一応、彼も誘ってみる。彼にもあの二人と親睦を深めてもらえたらいいなぁと思ったのだけれど。「いえ、僕は遠慮しておきます。場の空気を乱してしまいそうなので」「……そう。分かった」 やっぱりダメか……。どうせダメもとだったので、断られてもあまりショックは受けなかった。 確かに、野島さんと平本くんが顔を合わすと修羅場になりかねない。平本くんは野島さんのことをあまりよく思っていないみたいだし、あわよくば野島さんもわ
last updateLast Updated : 2025-10-20
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オフィスラブは難しい? PAGE6

「……社長って、初対面の時からおしとやかな方だと思っていましたけど、本当はごく普通の若い女性なんですね」 野島さんが少し驚いたような顔をした後、苦笑いしながらそんなコメントをした。「もしかして……わたしに幻滅しちゃった?」「いえ、幻滅なんて滅相もない。むしろ親近感が湧いてしまったくらいです。……ああ、失礼しました」 彼の口調が少し砕けたように聞こえるのは、わたしの気のせいだろうか? 多分、彼も無意識なんだろうけれど。「よかった。野島さん、あなたの話し方、今の感じでちょうどいいくらいよ。さっきまでのは堅苦しすぎて肩凝っちゃうから。村井さん、あなたもね。やっぱり仕事は楽しくしたいじゃない?」「そうですか? 分かりました。社長がそうおっしゃるなら、今度はそうさせて頂きますね」「ええ、私も同じく」 まずは二人の秘書たちとほんの少しだけ、距離を縮めることに成功したみたいだ。でも、野島さんがわたしのことをどう思っているのかまでは、今の時点ではまだ何とも言えない。 ――萌絵に言わせれば、わたしは美人で髪も肌もキレイで、そのうえスタイルもよくて色気もあるので振り向かない男性はいないらしい。 身長は百六十にちょっと届かないくらいで、自慢じゃないけれど出るところは出て引っ込むところはちゃんと引っ込んでいるという恵まれたプロポーション。顔は小さくて目はパッチリ二重で睫毛も長いのでマスカラいらず、小さめの鼻はすぅっと通っていて高く、唇はふっくらしていてツヤツヤ。外見だけなら女優さんやモデルさん、アイドルといい勝負だろう。  でも、わたし自身が「男は見た目より中身重視」であるように、男性側だって女を見た目だけで好きになる人ばかりではないだろう。その点、わたしはちゃんと中身も伴っているので心配はないのだけれど……。 (そういえばわたし、この人の好きな女性のタイプってまだ知らないんだよなぁ) 野島さんと知り合ったのはまだ就活をしていた三年前の秋、この会社の入社説明会の時だった。 入社してからも二年が経っていて、社内で顔を合わせれば話をする機会も多かったけれど、彼個人の内情などについて突っ込んだ話はしたことがなかった。ご実家が喫茶店だということや、南井さんの甥だったということを知らなかったのもそのためだ。 取材が始まるまではまだ時間があるので、
last updateLast Updated : 2025-10-21
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オフィスラブは難しい? PAGE7

 ――今日受けた取材は二十件ほどで、新聞社や経済誌、女性誌、ネットニュースなどのメディアが中心だった。 それも国内のメディアだけでなく、韓国やアメリカ、中国や果てはブラジルなど海外のメディアもあり、わたしは得意の語学力を活かしてそれぞれの国の言語で丁寧に対応した。 まだまだ取材を申し込んできているメディアはどっさりあるので、明日以降も順次対応していくつもりだ。 そして、野島さんのタイムスケジュールが完璧だったため、定時の夕方五時までにはすべての取材を受け終えた。「はぁ~~、何とか終わったぁ」 応接スペースのソファーでリラックスモードに入り、伸びをしていたわたしに野島さんが冷たい麦茶のグラスを持ってきてくれた。「お疲れさまでした、社長。まだ終業時刻までもう少しお時間がございますので、これでも飲んでひと休みして下さい」「ああ、野島さん、ありがとう。いただきます」 ちょうど喉が渇いていたので、わたしはありがたく頂くことにして、グラスを受け取った。ひと息に半分ほど飲むと、ホッと生き返ったような気持ちになる。「今夜はお友だちと、社長ご就任の祝賀会でしたね」「そんな大げさなものじゃないけど。……あ、そうだ。ドライバーの江藤さんに連絡しとかなきゃ」 わたしはスマホを取り出し、我が家のお抱えドライバーに電話をかけた。連絡を入れなければ、彼は間違いなく終業後すぐにこの会社のビルの前までまっすぐ迎えに来てしまうだろう。『――はい、江藤でございます。社長、何かご用でございましょうか』「江藤さん、ごめんなさい。わたし、今日は帰りに友だちと飲みに行くことになったの。帰りにはわたしから連絡するから、それまで待機しておいてくれる?」『かしこまりました。では、くれぐれも飲みすぎないようお気をつけ下さいませ。連絡をお待ちしております』「うん、分かった。わざわざ忠告ありがとう。じゃあ、また後で」 彼が物分かりのいい人でよかった。まあ、父も社長だった頃によく接待やら役員たちの懇親会やらで飲みに行っていたので、お店まで迎えに行くこともしょっちゅうだったからだろうけれど。「そろそろ五時になりますね。社長、今日一日お疲れさまでした。飲み会、楽しんでいらして下さいね」「うん、ありがとう。そっか、野島さんってマイカー通勤してるのよね。じゃあ、飲み会に参加できないのもムリないか
last updateLast Updated : 2025-10-22
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オフィスラブは難しい? PAGE8

「今日、実は秘書の野島さんにも声かけてみたの。でも断られちゃった。『場の空気を乱しそうだから』って。まあ、マイカー通勤だからっていうのもあるんだろうけどね」 わたしはお刺身盛り合わせのマグロをつまみながら、肩をすくめた。「あらら、残念だったね。あたしも見てみたかったわー、野島さんが平本くんと顔を合わせてどんな反応するのか」「けっ! 来なくていいっつうの、あんなヤロー。俺にとっちゃ敵だからな」 残念そうに言って明太子入り玉子焼きをつまんでいる萌絵に、ネギマの焼き鳥にかぶりついていた平本くんが吐き捨てた。「……あっそ」 予想通りの反応だったので、特に何とも思わなかったけれど。残念な気持ちはどこかへ飛んで行ってしまった。(やっぱり、野島さんに断られてよかったかも……。これは間違いなく修羅場になりそうだわ) 平本くんは相変わらず野島さんに敵対心剥き出しだ。二人を引き合わせるのは危険極まりない。「そういえば話変わるけど、社長の報酬って月額いくらもらえるの? ちょっと興味あるなぁ」 場の空気を変えようとしてか、萌絵がわたしにこんな質問をしてきた。下世話な話題だというのは、彼女も百も承知だと思う。「えっ、社長の報酬? えーっとね、確か一千万円とか聞いたような」「いっ……、いっせんまんんんっ!?」「マジか……、ケタ違うじゃん」 わたしの答えに、二人とも絶句した。というか、わたし自身も実際に受け取るまではまだ信じられないのだ。 ちなみに城ケ崎商事は給料が初任給から高いことでも有名で、一般職の初任給が手取り二十五万、総合職でも手取り二十八万もらえる。入社三年目の平本くんと萌絵は、今の手取りがだいたい三十二万くらいだろう。「えっと、OL時代の佑香のお給料が月額で……」「手取りで三十五万。総合職だったから」「だよね。ってことは……一挙に三十倍近くになるってこと? スゴすぎ」 わたしの隣に座っている萌絵がジョッキを持ったまま天を仰いだ。「なんか、急に佑香が雲の上の人になっちまったな」 向かい側に座る平本くんの反応も似たようなもので、萌絵もうんうんと頷いている。「待って待って、二人とも! 収入が変わっただけで、わたしは今までどおりなんにも変わらないから! お金を盾にして二人に無理難題ふっかけたり、ハラスメントやったりは絶対にしないよ」「そうだよね。
last updateLast Updated : 2025-10-23
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オフィスラブは難しい? PAGE9

「――すみませーん! ウーロン茶下さい。あと、鶏の唐揚げも追加で」「かしこまりました」 ジョッキを空にしたところで、わたしは店員さんに声をかけて追加注文をした。飲む気満々だった萌絵と平本くんが不思議そうな顔をしてわたしを見ている。「えっ? 佑香、もう飲まないの?」「うん、酔っ払ったら迎え呼べないし。ここからはソフトドリンクにしとく」「そっか。うん、そうだな。その方が賢い」「あたしも同感。じゃあ、あたしも次はソフトドリンクにして食べる方にシフトするかー」「じゃあ俺も……と言いたいところだけど、俺はもう一杯だけ酒頼んでいい?」「お好きにどうぞ。どうせ支払いするのはわたしだからね」「さっすが社長! 太っ腹!」「ちょっと平本くん! ここで『社長』呼びはやめてよ。変に目立っちゃうから」 上機嫌にはやし立てる彼に、わたしは顔をしかめた。ここでは社長ではなく、二人にとってただの友人でいたいのに。 ――というわけで、萌絵もコーラを注文して、ここからは第二ラウンドに突入した。平本くんは二杯目にハイボールを頼んだ。「……あ、そういやさ。今日の会見の時、記者の中になんか怪しいオッサンいたよな?」 ハイボールをグビグビ呷ってから、平本くんが思い出したようにそんなことを言った。「ああ、いたいた! 確か、『週刊イレブン』とかいうところの記者さんだったね」 わたしも思い出した。終始ニヤニヤと下品な笑みを浮かべていて、失礼極まりない質問をしてきたので憶えていたのだ。わたしもちょっとムカついたけれど、答えないのも大人げないので質問にはきちんと答えていたけれど。 そういえばあの人が質問していた時、南井さんがやたら上機嫌だった気がする。それはわたしもちょっと気になってはいた。「『週刊イレブン』って三流週刊誌だよね。芸能人とか有名人とかのゴシップやらスキャンダルやら、果てはエロ記事やらばっかり載せてるヤツ。……佑香、ヤバくない? そんな週刊誌の記者にを目つけられたらさ、あんた確実に足引っ張られるよ」「大丈夫よ、萌絵。わたしには今のところ、そんな記者に足を引っ張られるようなネタは一つもないから」 もし野島さんと恋愛関係になったとしても、わたしも彼も独身なのでスキャンダルにすらならない。企業のクリーンなイメージだって壊れることはあり得ないのだ。「でも、アイツは敵側の
last updateLast Updated : 2025-10-24
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スキャンダルの定義 PAGE1

 ――それから思う存分飲んで食べて(三杯目からはみんなソフトドリンクだったけれど)、わたしと萌絵の女子コンビはシメにデザートまで平らげて(!)、今日の飲み会は解散となった。  わたしはお会計をする前、お手洗いに立った時にドライバーの江藤さんに連絡を入れておいた。「もうすぐ終わるから迎えに来て」と、お店の名前も伝えた。「……佑香、クレカもそろそろゴールドじゃない?」 クレジットカードで支払いをしていると、萌絵がそんなコメントをした。「そうだねぇ。これから収入もグンと増えるわけだし、申請してみようかな」 もしかしたらブラックもいけるかも……。いやいや! まずはゴールドカードからだ。いきなりブラックカードなんか持ってしまったら、野島さんに引かれてしまうかもしれない。「でも今日だけだかんな、お前のおごりは。俺は女におごられるのあんまり好きじゃねえんだよ。今日はお前が社長に就任した日だから特別に折れてやったけど」「はいはい。次からはまた割り勘に戻そうね」 口を尖らせる平本くんをわたしがなだめると、彼は満足気に「おう」と頷いた。 彼は特別プライドが高いわけではないのだけれど、どこか古風というか、フェミニストというか、そういうところがあるのだ。(……っていうか、普通は逆だよね。わたしは二人に奢ってもらっても不思議じゃないんだ) でも、お金は持っている人が払うのが筋だと思っているので、わたしはこれまでも同世代の友だちや彼氏にごちそうしてもらったことがない。よくて割り勘というところ。目上の人からなら、多少遠慮しながらもごちそうになるのだけれど。「……じゃあ、今日はこれで解散ね。萌絵、平本くん、また明日!」「うん。佑香、お疲れ! また明日ね……はいいんだけどさ。あんた、まじで気をつけた方がいいよ。あの三流週刊誌の記者。もしかしたら家まで押しかけて来るかも」「何なら、俺が送ってってやっても――」「ああ、それなら大丈夫。ウチのドライバーさんに迎えに来てもらうし、家もセキュリティーはバッチリだから」「……、そうでした」 ボディーガードになる気満々で平本くんが言いかけたけれど、わたしはそれを遮った。というか、「酔っぱらったら迎えが呼べない」と言っていたのを忘れているんだろうか?「ってことで、また明日な!」「うん。また明日!」 二人と別れてすぐ、江藤さ
last updateLast Updated : 2025-10-25
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スキャンダルの定義 PAGE2

 ――翌朝。わたしはいつものように出社の支度を整えて、自宅一階のリビングダイニングへ下りて行った。 もう社員ではなく社長なので、早起きする必要はないはずなのだけれど。それでも少し前までは社員だったためか早起きの習慣で朝早くに目が覚めてしまった。 ちなみに今日は、淡いピンク色のスーツを選んだ。インナーは白無地のVネックのカットソー。〝シンプルだけれど可愛い〟が今日のコーデのコンセプトだ。 父はリビングに、ダイニングテーブルには母と日和がいて、礼子さんが朝食の準備で動き回っている。 礼子さんが「おはようございます、佑香お嬢さま」と声をかけてくれたので、わたしからも「おはよう」と挨拶を返した。「――おはよう、お父さん。今日は出社するんだよね?」 わたしはソファーに腰かけて新聞を広げている父に声をかけた。父もスーツにネクタイという服装だったので、今日はご出勤なのだろう。「ああ、佑香。おはよう。今日は会社に顔を出す。お前、こんなに早く起きて支度する必要はあったのか?」「なんか、そういう習慣がついちゃっててね。でも、社長が早く出勤しちゃいけないって決まりはないでしょ」「まあ、そうだな。――ところで、これを読んでみなさい。昨日のお前の就任会見の記事が載ってるぞ」「うん」 父がわたしに、ページを開いたまま新聞を手渡す。そのページは経済面で、わたしの写真とともに会見の様子やスピーチの内容が描かれた記事が大きく扱われていた。「わぁ……、わたしってこんなに世間から注目されてるのね」 自分が新聞に載っているというだけでも不思議な気持ちなのに、全国紙の紙面にここまで大きく取り上げられるなんて信じられない。「ああ、城ケ崎ホールディングスは今や国内どころか世界から注目を浴びている企業だからな。これからお前の一挙手一投足が、いい意味でも悪い意味でも世間から目立つことになる」「へぇ~……」 父のそんな言葉を聞いて、わたしは昨夜、萌絵と平本くんと話していた内容をふと思い出す。あの三流週刊誌、〈週刊イレブン〉の記者のことだ。「そういえば昨日の会見場に、週刊誌の記者も来てたの。ゴシップとか低俗な記事ばっかり載せてるような。ってことはわたし、スキャンダルにも気をつけないといけないってことよね? 例えば恋愛とか」「そんな記者が来ていたのか。だが、恋愛くらいではスキャンダルに
last updateLast Updated : 2025-10-26
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スキャンダルの定義 PAGE3

「――おはよ、佑香っ!」「うっす、佑香」 いつもどおりの時間に出社すると(ちなみに江藤さんの運転する例の黒塗り高級セダンで、だ)、「社長、おはようございます」と敬語で挨拶してくれる社員のみなさんの間を縫って、萌絵と平本くんがわたしに駆け寄ってきてくれた。昨日と同じく、二人は他の社員たちから「社長にため口とは何事か」と非難の目を向けられているけれど、萌絵も平本くんもそんなの気にも留めていない。「あ、おはよう二人とも。昨日は楽しかったね」「うん。今日はお昼、社食に来られないんだよね? 確か、顧問弁護士の先生と会食だっけ」「あー、そういやそんなこと言ってたな、昨夜」「そうなのよー。でも、これも社長の仕事だからね、仕方ないわ」 もちろん、今日の会食はただ「これからもどうぞよろしくお願いします」という挨拶代わりのようなもので、そんなに堅苦しい食事ではない。だから、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、と野島さんにも村井さんにも言われたけれど。やっぱり、二人と一緒にランチができないのはちょっと淋しい。「だからって、さすがに二日続けて飲みに行くのもねー。……あ、そうだ。佑香、ちょいちょい」「……ん、なになに?」 萌絵がわたしを手招きして、彼女に近づいていくと、平本くんに聞こえないように耳打ちしてきた。「佑香、そろそろ野島さんに対して行動起こしたらどうよ? たとえば……色仕掛けとかさ」「…………ええっ!? ちょっと萌絵、何言い出すのよ!?  色仕掛けって」 わたしもビックリしたけれど、小声で反論する。そもそも、いきなり色仕掛けなんてわたしにはハードルが高すぎる。「いやいや! 別にいきなり彼を誘惑しろって言ってるわけじゃないよ。佑香って可愛いからさ、『一緒にゴハン行きましょ』って言ったら彼もイヤな気持ちはしないと思うんだよね。『親睦を深めたいから』とか何とか理由つけてさぁ。それくらいだったら大丈夫でしょ?」「うん……まぁ、それくらいなら……」 わたしだって、そろそろ野島さんと親睦を深めたいなぁとは思っている。 社長に就任してまだ二日目だけれど、彼と知り合ってもうそろそろ三年経つ。一目ぼれだったので、わたしの片想いは三年近く続いていることになるのだ。それなら、ここらでわたしから何かアクションを起こしてみるのも悪くないかもしれない。「でしょ? そういう
last updateLast Updated : 2025-10-27
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スキャンダルの定義 PAGE4

「――おはようございます、社長。昨夜は飲み会、楽しまれましたか?」 重役専用フロアーへ向かう高速エレベーターの前で、野島さんがわたしを出迎えた。わたしは彼に普通に挨拶を返したいけれど、さっき萌絵に言われた色仕掛け云々の話のせいでなかなか彼と目を合わせられない。(意識しちゃダメよ、佑香! 彼に不審がられちゃうから。平常心、平常心!) 何とか自分に言い聞かせ、心を落ち着かせた。「おはよう、野島さん。うん、楽しかったよ。お酒は最初の中生ジョッキ一杯だけにしたけど」「そうですか。社長はお酒が苦手だとおっしゃっていましたね」「接待とか、楽しめないお酒が苦手なの。でも友だちと楽しく飲むなら、中ジョッキ二杯か三杯くらいまではいけちゃうかな」「そうなんですね……。ああ、エレベーター、来ましたよ」 彼は昨日よりも少し口調が砕けているように感じる。わたしが昨日言ったことをちゃんと心がけてくれているようで嬉しい。「うん」 二人でエレベーターという密室に乗り込むと、わたしはイヤでも(……まあ、イヤでもないのだけれど)彼のことを意識してしまう。 野島さんは身長百七十九センチで、スラリと痩せていながら程よく筋肉は付いている細マッチョ体形。短い黒髪は少々猫っ毛。涼しげな切れ長の目に、鼻は高くて唇は薄い。わたしが今まで惹かれた男性の中では断トツでイケメンだ。 いつも紺色のスーツをスマートに着こなしていて、今日のネクタイは落ち着いたブルーのストライプ柄。いかにも〝仕事のできる男性秘書〟という感じで、性格もクールなので絶対に女性社員たちからモテるだろうなと思うのだけれど……。(でも、好きな人がいるかどうかは上手くはぐらかされたんだよね……) それがわたしだったらどれだけいいか、とは思う。でも、この人の叔父が南井副社長だという事実がネックになっていて、素直に喜べない自分もいて何だか複雑だ。「……昨日の飲み会、野島さんは来られなくて正解だったかも」「えっ、そうなんですか?」「うん。実はね……、平本くんがあなたのことを目の敵にしてるみたいで。わたしは彼のことをただの友だちとしか思ってないんだけど、彼はわたしに好意を持ってるみたいだから、それでね」 自分にライバルがいることを知ったら、野島さんはどんな反応をするんだろう? ――わたしはちょっと実験的にそんな話を
last updateLast Updated : 2025-10-28
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スキャンダルの定義 PAGE5

「――おはようございます、社長」 野島さんと一緒に社長室に入ると、わたしのデスクを拭いてくれていた村井さんが笑顔で挨拶してくれた。でもその笑顔は、ニコニコというよりちょっとニヤニヤしているようにも見える。わたしが野島さんと一緒だから……というのは考えすぎだろうか?「村井さん、おはよう。デスクを掃除してくれてたの? ありがとう」「はい。社長に快適にお仕事をして頂くために、掃除も秘書の大切な仕事ですから。私も野島くんも早くから出勤してやっているんですよ」 彼女はおでこの汗を手の甲で拭ってから、胸を張って誇らしげに答えてくれた。 今日の村井さんはダークグレーのパンツスーツでビシッと決まっている。昨日のスカートもよかったけれど、パンツスタイルもまたステキだなと思った。わたしもたまにはパンツスーツにしようかな。「そうなの? いつもホントにありがとね。ところで村井さん、今日はパンツスーツなのね」「ええ。私、普段からどちらかというとパンツ派なんです。昨日は佑香社長の就任日だったので、スカートにしたんですけど」「そうなのね。昨日のスカート姿もステキだったけど、パンツもいいね。バリキャリって感じ」「ありがとうございます。でも私、一般職で入社したんですよ。この会社の秘書室の社員は、室長以外はみんな一般職なんです」「そうなんだ……。ってことは、野島さんも?」「はい。僕も実は一般職です」「へぇ~、そうだったんだ」 社長になって、また新しい事実がひとつ分かった。そうして考えると、ちょっと不本意ではあるけれどわたしはやっぱり選ばれた人間なんだという事実を認めざるを得ない。「――あ、そうだ。唐突なんだけど。野島さん、今度一緒に夕食でもどう? よかったら村井さんも一緒に」 わたしはデスクの側にバッグを置き、着席しながら萌絵からの提案を実行することにした。「えっ、お食事ですか。社長がごちそうして下さるんですか?」「うん。二人とこれからもいい関係で働いていくために、親睦を深めたくて。……あっ、別に強制じゃないからムリにとは言わないけど」 本当は野島さんだけを誘いたかったけれど、ここは形式上村井さんにも声をかけておいた方が無難だろう。彼に不審がられたくないし、わたしの彼への好意を知っている村井さんならきっと、わたしの隠された意図を感じ取ってくれる
last updateLast Updated : 2025-10-29
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