エレベーターホールへ行くと、そこでは野島さんではなく村井さんが出迎えてくれた。 昨夜の告白があった手前、わたしは彼に顔を合わせづらかったのでちょっとだけホッとしたような、それでいてガッカリしたような複雑な気持ちだ。「――おはようございます、社長。重役出勤お疲れさまです。バッグ、お持ちしますね」「村井さん、おはよう。ああ、ありがとう。……あれ、野島さんは?」「野島くんは今、給湯室で社長のためにコーヒーの用意をしてくれてますよ。彼、十時半が近づくにつれてソワソワしてましたから。『そろそろ社長が来られる頃ですかね』って」「えっ、ホント? 嬉しい! 今朝は寝坊したし、二日酔いだったから家でコーヒーを飲み損ねて来ちゃったの」 わたしは毎朝、朝食前にコーヒーを飲むことを日課にしているのだ。でも、今朝は起きるのが遅かったので急いで出社する支度をしていたし、正直二日酔いのせいで胃の調子もおかしかったのでとても飲める状態じゃなかった。頭痛薬と一緒に胃薬も飲んできたので、とりあえず胃のムカつきは治まったみたいだ。「そうだったんですね。では、彼が社長室で待ってますから、行きましょう」「うん」 ――こうして、今朝は村井さんと二人で高速エレベーターに乗り込んだ。「……あのね、村井さん。実はわたし、今日はちょっと野島さんと顔を合わせたら気まずいと思うの」「えっ、そうなんですか? 寝坊されたことなら彼は何も気にしてないと思いますけど。それとも、何か他に理由がおありなんですか?」 村井さんとなら女同士だし、彼女はわたしの恋を応援してくれているはずなので、わたしは正直に打ち明けることにした。「うん……。実はわたし、昨夜酔っ払った勢いで、彼に『大好き』って言っちゃったの。彼に負ぶさった状態で」「あら、そうだったんですか。それで……彼の返事は?」「それがね、その後わたし寝ちゃったみたいで、彼の返事までは聞いたかどうか憶えてないの。でも、今朝の電話でそれとなくその話題に触れたら、なんかうまくはぐらかされちゃって……。彼はきっと、聞かなかったことにしたいんじゃないかと思うの」 わたしとしては、彼がそうしてくれた方が気まずくならなくて済むので助かるけれど。ちゃんと「好き」と伝えたのは初めてだったので、それをなかったことにされてしまうのも、それはそれで何だか悲しい。「う~ん
Last Updated : 2025-11-17 Read more