「わたしも友だちも、そういう洒落たお店より大衆居酒屋みたいにワイワイ楽しく飲めるお店の方が落ち着くの。お酒もワインとかウィスキーより、ビールとか酎ハイとか日本酒の方が好きだし」 「そうなんですね」 「うん。でも、明後日行くお店はちょっとオシャレなお店を選んでおくわね。せっかく二人でお食事するんだし」 せっかくのデートなんだし……と言いかけて、言い方を変えた。わたしはそのつもりでも、彼にはそのつもりがないかもしれないから。 「――さて、と。今日のお昼は上沢先生と会食だったね。その他に予定は何かある?」 「いえ、午前は特に何も入っておりませんね。午後からは、昨日に引き続き取材が十件ほど入っておりますが」 「分かった。じゃあ、今日の仕事を始める前に……」 わたしはパソコンを起動させた。IDとパスワードを打ち込み、検索エンジンを開く。 「……社長、これからパソコンで何を?」 「ちょっとエゴサーチをね」 自分の会社の評判を知っておくことも、経営者の大事な仕事である。特にわたしは昨日社長として就任会見を開いたばかりなので、世間からどのくらい注目されているのか知っておきたい。 「そういえば社長、ご存じでした? この会社で女性が社長になったの、佑香社長が初めてなんですよ。……まあ、城ケ崎家の方ならご存じですよね。失礼しました」 「らしいね。だからわたし、余計に世間から注目されてると思うの」
最終更新日 : 2025-10-30 続きを読む