――わたし・城ケ崎佑香はいわゆる社長令嬢である。父は一部上場企業・城ケ崎商事の社長で、曾祖父が創業したこの会社の三代目社長にあたる。 結婚前は図書館で司書として働いていた母とは恋愛結婚で、母は経営者一族である城ケ崎家に嫁いで来ることにも抵抗はなかったらしい。姑にあたる祖母が、母のことを好意的に受け入れてくれたからだそうだ。 そして、わたしはそんな両親の二人姉妹の長女として生まれ、三歳下の妹がいる。 男子の生まれなかった城ケ崎家において、後継ぎは当然長女であるわたしということになっている。もちろん、わたしもそのつもりで幼いころから父の後継者となるべく、〝帝王学〟ならぬ〝女帝学〟を身につけて育ってきた。英語・フランス語や中国語・韓国語などの多国語も習得したし、大学では経営学も学んだ。 でも、まずはごく普通のOLライフを満喫したくて、縁故入社ではなく実力で入社試験を受け、内定を勝ち取った。 会社では経営戦略室に所属し、他の先輩方や同期たちと一緒に仕事をして、社員食堂でランチをして、終業後は気心の知れた友人たちとお酒を飲みに行ったりカラオケを楽しんだり。そう過ごしていくうちに、友だちにも恵まれた。 そして、好意を寄せる人もできた。それが恋なのかどうかは分からないけれど……。 その人――野島忍さんは父の第二秘書を務めている人で、わたしにも優しかった。ただ単に、わたしが社長令嬢だからだっただけだったかもしれないけれど……。 そんなわたしの平凡なOL生活は、入社三年目の六月、突然ガラリと変わってしまうことになる。父が株主総会の日に放った予期せぬ一言のせいで――。
Last Updated : 2025-09-30 Read more