All Chapters of 恋するプレジデント♡ ~お嬢さま社長のめくるめくオフィスLOVE~: Chapter 61 - Chapter 70

97 Chapters

過去のどんな恋よりも PAGE9

「……わたしね、さっきふと思っちゃったの。あなたを他の誰にも取られたくない、わたしだけのものにしたい、って。でも、自分の中にもこんな醜い独占欲? みたいな感情があったことにビックリして……。ごめんね、引いちゃうよね?」 こんな感情、真也と付き合っていた時にも、その前の彼氏に対しても抱いたことはなかった。きっと彼だから……、初めて本気で好きだと気づいた相手だからだと思う。でも、こんなわたしを彼は果たしてどう思うんだろう? もし引かれてしまったら立ち直れないかもしれない……。「いえ、引きませんよ。独占欲なんて、誰もが普通に持ち得る感情じゃないですか。僕にだって、もちろんありますよ」「……えっ? あなたにも?」 彼が独占欲を抱くような相手は一体どんな女性なんだろう? もしかして男性だったりするの? ……なんて頭にいくつものクエスチョンマークが浮かんだけれど。彼のわたしに対する優しい眼差しが、その答えを物語っているように感じた。「はい。……すみません、信号が変わってしまいそうなので、この話の続きはまた後ほど」「あ……、うん」 クルマはわたしの家に向かって、またゆっくりと走り出した。 彼の話の続きを早く聞きたい自分と、聞くのが怖い自分とがわたしの中に同時に存在して、何だか落ち着かなかった。   * * * *「――野島さん、わざわざ送ってくれてありがとう。昨日は言えなかったから……」 クルマは無事故で成城にあるわたしの家の前に着いて、わたしはクルマを降りる前に彼に二日分のお礼を言った。「いえ、僕の方こそ、今日はごちそうさまでした。昨日のことはもういいですって。実は僕、ちょっと楽しかったんです。酔い潰れた佑香社長というのもなかなかレアだなぁと思って。……いえ、失礼」「レア……って」 人をアニメのモンスターか何かみたいに言わないでほしい。……まあ、わたしがあそこまで泥酔してしまうことはめったにないので、確かにレアなのかもしれないけれど。(……でも、「楽しかった」って? 迷惑かけちゃったと思ってたのに、そうじゃなかったんだ)「――あの、社長……いや佑香さん。先ほどの話の続きなんですが」「あ、うん。どうそ」 彼がいつ話してくれるだろうと待っていたら、ちゃんとわたしが帰る前に話してくれることになった。もう忘れているんじゃないかとも思ったけれど。「
last updateLast Updated : 2025-12-01
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オフィスラブ開始、とアイツの気持ち PAGE1

「――野島さん、キス……してみる?」 クルマを降りる前に、わたしから彼にキスをしかけてみた。これでもキスの経験くらい、人並みにはある。「……いいんですか?」「うん」 わたしが目を閉じると、彼の唇が重なる。優しく触れるだけのキスは、誠実な彼らしいなと思った。「……ありがとう、野島さん。大好き」「はい、こちらこそ。……あ、口紅付いてないかな……」 彼は慌てて、ルームミラーで確かめた。その光景が何だか微笑ましくて、わたしはクスッと笑ってしまう。「大丈夫よ。落ちた口紅、直してなかったから」「……ああ、そうでしたか。よかった。僕はいいんですが、佑香さんが……。お父さまに僕とキスをしたことがバレるのはマズいんじゃないかと思いまして」 彼が慌てていたのはわたしのためだったのか。わたしはてっきり、彼には見咎められたくない人でもいるのかと思ってしまった。たとえば……叔父の南井副社長とか。「わたしのことを気にしてくれたの? ありがとう。でもね、ウチの家族はみんな知ってるから大丈夫。わたしがあなたを好きだってこと。もちろん父もね」「えっ、そうなんですか?」「うん。……あ、そうだ。メッセージアプリのID、交換しようよ」 わたしはふと思い立った。彼や村井さんとの業務連絡はショートメッセージでしているけれど、恋人同士になったのだから、プライベートでのやり取りはショートメッセージでは味気ないと思ったのだ。「ええ、構いませんが……。ショートメッセージでも十分やり取りはできるのでは?」「いいから! それはそれ、これはこれよ」「…………はい」 彼は渋々、という感じでスーツのポケットからスマホを取り出したけれど、その表情は嬉しそうだ。「――はい、完了♪ それじゃあ、わたしはそろそろ降りるね」「あ、はい。今ドアを開けますね」「いいよ。ロックだけ外してくれたら自分でドア開けるから」 わたしがそう言うと、彼はドアのロックだけ解除してくれた。「じゃあね、野島さん。また来週。今日はお疲れさま」「はい。お疲れさまでした」 運転席の彼に見送られ、わたしは自分でクルマを降りた。 今日この瞬間から、わたしと野島さんは新しい関係に変わった。週が明けたら本格的なオフィスラブが始まる。(……あ、そしたら呼び方も変えなきゃかな……) 彼氏に対して「野島さん」と呼ぶのは他人
last updateLast Updated : 2025-12-02
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オフィスラブ開始、とアイツの気持ち PAGE2

「――ただいま!」  元気よく玄関ドアを開けると、いつもと同じように家政婦の礼子さんが出迎えてくれた。時刻はまだ夜の八時なので、みんなはまだ起きていると思う。 「お帰りなさいませ、佑香お嬢さま。今夜はずいぶんとご機嫌でございますねぇ。何かいいことでもございました?」  さすがはこの家に長く仕えている家政婦さんだ。彼女はもう六十歳近く、わたしが生まれる前からこの家に住み込んで働いてくれているらしい。 「うん! それが、すごく嬉しいことがあったの。それをみんなに報告したいんだけど、お父さんたち、まだリビングにいる?」 「ええ、みなさんお揃いでいらっしゃいますよ。後ほど、何かお飲み物をお持ち致しますね」 「ありがとう、礼子さん」  わたしは廊下を進み、リビングダイニングのドアを開けた。リビングスペースには父・母・そして日和の三人がいて、しかもみんな何だかニコニコしている。 「ただいま、みんな。……どうしたの? なんか三人とも楽しそうだけど」  まさか、わたしの恋が実ったことを三人とも見透かしてはいないだろうけれど。真っ先に口を開いたのは、妹の日和だった。 「おかえり、お姉ちゃん。お母さんから聞いたよ。今日、野島さんとデートしてきたんでしょ?」 「うん。デート……っていうか、二人でお食事してきただけだけどね。楽しかった」  本当はそれだけで終わらなかったのだけれど、ここはあえてすっとぼけて見せる。わたしは必死ににやけ顔を封印してクールに答えたつもりだったけれど、甘かった。 「ふーん? ホントにそれだけ? それにしてはお姉ちゃん、やけに嬉しそうな
last updateLast Updated : 2025-12-03
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オフィスラブ開始、とアイツの気持ち PAGE3

 ――夕食の後、自室に戻ったわたしはバスタブにお湯を張っている間に、野島さんにメッセージアプリから初めてメッセージを送った。〈野島さん、明日は何か予定ある?〉〈明日は朝から両親の喫茶店を手伝うことになってます。 すみません!〉「……いや、別にそこは謝らなくても」 彼からの返信に、わたしは思わずツッコミを入れた。ただ、明日も彼に会いたいけれど予定はどうなのかなぁくらいの気持ちで訊いただけなのだ。〈謝ることないよ。ただ、明日も会えるかなーと思っただけだから気にしないで。 お店のお手伝い頑張ってね。 そういえば、野島さんって今も実家に住んでるの?〉 彼が実家住まいなのか、それとも実家を離れてひとり暮らしをしているのか、社員のデータベースにはそこまで載っていなかった気がする。 面と向かって訊ねたこともないし……。〈社会に出てからは、実家の近くのマンションに部屋を借りてひとり暮らしをしてますよ。 家賃は十二万くらいですが、週末に店を手伝うことで父が半分出してくれてます。 まあ、バイト代の代わりということですね。〉 彼は最後に「ありがとうございます。佑香さんのおかげで明日も頑張れそうな気がします」と書いていた。「……ホントに真面目な人なんだなぁ、野島さんって」 わたしはまた彼の知らなかった部分を知れたことが嬉しくて、「こちらこそありがとう。おやすみなさい」とやり取りをしめくくった。(……なんか、こういう気持ちって初めてかも。好きな人のことを一つずつ知っていくのが楽しいって、今まではなかったもんなぁ) バスルームで髪と体をキレイに洗って、ゆったりと広いバスタブに浸かりながら、わたしはそんなことを考える。 真也は自分のことをわたしにわりと何でもペラペラしゃべる人だったので、付き合っていくうえでの新たな発見というのがあまりなかった。 そういうのがイヤだったわけじゃないけれど、何だか刺激がなくて単調でつまらない感じだった。恋愛っていうのは、もっとワクワクドキドキするものだと思っていたのに……。 それはその前の彼氏と付き合っていた時もだった。というか、恋愛で今ほどドキドキワクワクしたことなんて、過去にはなかったんじゃないかと思う。「やっぱりわたし、本気で誰かを好きになったのは野島さんが初めてなのかも」 彼と出会った瞬間から、過去に好
last updateLast Updated : 2025-12-03
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オフィスラブ開始、とアイツの気持ち PAGE4

 ――翌日、土曜日。わたしは朝から萌絵と二人で渋谷まで連れ立ってショッピングに来た。 ショップや商業ビルを何軒も回り、洋服やコスメをたくさん買い込んでいたら時刻はもうすぐお昼。二人ともお腹がすいてきた。 ちなみに、野島さんと付き合うことになったという報告は今朝彼女に会っていちばん最初にした。彼女はリアクションの薄かったウチの家族とは違ってすごくビックリして、そして「よかったね、佑香! おめでとう!」と一緒に喜んでくれた。やっぱり彼女はわたしにとっていちばんの親友だと思えた。「――ねえ佑香、お腹すいたねー。お昼はどこで食べようか?」「そうだねー……。あ、そうだ。どうせならちょっと足延ばして高円寺まで行かない?」「高円寺? ……っていうと、そっか。野島さんのご実家の喫茶店ね」 わたしが脈絡なく出した地名に、萌絵は一瞬首を傾げたけれど、すぐにわたしの意図を理解してくれたようだ。「うん、そう。彼のご両親が経営されてるお店に、これから突撃訪問しようと思って。萌絵、急なお願いだけど付き合ってくれる?」「いいよ。あたしも行ってみたい! そこって食事メニューもある感じなの?」「あるんじゃない? 喫茶店なんだから、カレーライスとかサンドイッチとかパスタとか。わたしはチョコレートパフェが目当てなんだけどね。あと、彼がお店を手伝ってる姿もちょっと見てみたくて」 普段はオフィスで、スーツ姿でバリバリ働いている彼が、ご両親の営む喫茶店でエプロンを着けて接客をしている姿……。想像がつかないけれど、多分わたしにとってはギャップ萌え必須だろう。「あらまぁ、付き合って早々ノロケ? あたしもうお腹いっぱ~い! お昼ゴハンいらな~い!」「え~!? 萌絵ー、そんなこと言わないで付き合ってよ~」「あはは、冗談だよ。でも、いきなり行ったら野島さんビックリするだろうね。まだ付き合いたてのホヤホヤでしょ? ご両親がどんな反応するかなぁ」「それは考えないことにしよう? 今日はわたしもあくまでお店のお客さんとして行くだけなんだから」 彼のご両親がお店をやっていてよかった。もしも会社員とかだったら、お会いするのにグンとハードルが上がっていただろう。 もちろん、今日はあくまでもお店のお客としてお昼ゴハンを食べに行くだけだけれど。今後もそういう理由でいつでもお店を訪ねていけ
last updateLast Updated : 2025-12-05
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オフィスラブ開始、とアイツの気持ち PAGE5

 ――萌絵はカレーライスと特製プリンとアイスティー、わたしはミックスサンドとチョコレートパフェとホットコーヒーを注文し、そこに野島さんも加わってドリンクを作ってくれているお父さまとのトークを楽しむことにした。「お父さま、わたし、昨日から忍さんとお付き合いすることになったんです」「そうなのか、忍? 父さんも母さんも聞いてないぞ」「ごめん。なんかついつい言いそびれて……。でも、佑香さんは僕にはもったいないくらいステキな女性だよ」 お父さまが漏らした不満に、彼は申し訳なさそうに謝りながらも胸を張ってわたしのことをそう評価してくれた。父親と息子って、恋バナとかあまりしなさそうだと思っていたけれど、お父さまは話してほしかったのかもしれない。ウチは女の子二人だから、父はわたしたち姉妹の恋愛話をよく聞きたがるけれど。「わたし、社長になってから毎日、忍さんが淹れてくれる美味しいコーヒーを頂いてるんですよ。あれはきっとお父さま譲りなんですね」「そうですか。私はそこで妻と一緒に調理をしている長女が生まれてから、脱サラしてこの店を開いたんですがね。もう三十年になりますか。忍も高校生の頃まではこの店を継ぎたいと言っていたんですがね、長女が継ぐと言ってくれたので、忍は大学に進学してそのまま商社に就職することになったんです」 ……なるほど、彼はこのご両親のお店を継ぐつもりでコーヒーのことも勉強していたんだろう。だからあれだけ美味しいコーヒーが淹れられるようになったわけか。 ちなみに確か、三兄弟のいちばん上はお兄さまで、彼の六つ年上だった。お兄さまは食品会社で研究員をしているらしい。「ねえ忍さん、……って呼ばせてもらっていいかな? お母さまは昔、パティシエをなさってたんじゃない?」「ええ、そうです。確か、銀座の有名なパティスリーで働いてたそうで。だよな、父さん?」「ああ、そうだ。まだ〝パティシエ〟なんて言葉が日本では定着していなかった頃の話だがね。会社勤めをしていた頃に、父さんがその店のイートインスペースに通い詰めてな。そこで母さんと恋に落ちて結婚し、お前たち三人の子供たちに恵まれ、今この店を夫婦でやっているというわけだ」「へぇー、ステキ! なんかロマンチックな馴れ初めですね。いいなぁ……」 野島さんのご両親の馴れ初めを聞いて、うっとりと萌絵は目を細めて
last updateLast Updated : 2025-12-06
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オフィスラブ開始、とアイツの気持ち PAGE6

「えっ!? ……ゴホッゴホッ! あー、ゴメンゴメン。続けて」 アイスティーをストローですすっていた萌絵は、わたしの告白にむせた。「うん。……萌絵、大丈夫? ゴメンね。――えっと、平本くんってわたしのこと好きなんだよね? ってことはさ、知らずにいたらこの先もずっと不毛な恋を続けていっちゃうことになるわけじゃない? 彼とはこれからもいい友だちでいたいから、いつまでも苦しんでてほしくないんだよね」 これはあくまでわたし側だけの気持ちで、都合がよすぎるのかもしれないけれど。「確かに、他の誰かから知らされるよりは佑香本人から聞いた方が、アイツもいいかもねぇ。キッパリ『ムリ!』ってフってやった方が諦めもつくだろうし。……アイツが諦めるとは思えないけど」「それはわたしも思った。もしかしたら逆恨みされるかも、って。でも、だからってわたしはどうやっても平本くんの気持ちに応えてあげることはできないもん。だから諦めてもらうしかないの」「う~ん、そうだねぇ……。大丈夫、あたしは佑香の幸せをいちばんに願ってるから」「ありがと、萌絵」 わたしもやっと気持ちが軽くなって、コーヒーカップに口をつけた。「――お待たせしました。ミックスサンドと、カレーライスです。薬味はお好みでどうぞ」 そこに野島さん――忍さんが、二人の食事メニューを運んできた。「わぁ、ありがとう! いただきま~す!」「ありがとうございます、野島さん。いただきます」 彼は萌絵に、「ウチのカレーは母の手作りなんだよ」と言っている。レトルトカレーを温めて出すだけ、という喫茶店が多い中で、カレーまで手作りだというこのお店は人気があるだろうなと思った。それほど広いお店ではないけれど、今もランチタイムだからか五つのテーブル席はほぼ埋まっている。 ミックスサンドもパンがフカフカしていて、からしマヨネーズの辛さもちょうどいい。タマゴはみじん切りにしたゆで卵ではなく、スクランブルエッグをマヨネーズで和えたものが使われている。「……ん! このカレー、美味しいです! 玉ねぎの甘味が効いてるし、お肉もゴロゴロ入ってる。これ、豚肉ですか?」「そうだよ。ウチでは創業した当時からずっとポークカレーなんだ。家でもそうなんで、子供たちからはよくブーイングされてたなぁ」「父さん! もう昔のことだろ。恥ずかしいからやめてくれよ!」 忍
last updateLast Updated : 2025-12-07
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オフィスラブ開始、とアイツの気持ち PAGE7

 ――日曜日は忍に会えず、萌絵と出かける予定もなかったので、ひとりで図書館に行って本を五冊借りてきて、部屋で読書三昧をして過ごした。  父と結婚する前は図書館司書だった母の影響で、わたしは子供の頃から読書が好きだ。 社会人になってからはライト文芸や恋愛小説・ミステリーなどの小説もよく読むけれど、ビジネス書も読むようになった。今はいち経営者となった身なので、経営の勉強をするのに必要なことである。  早く父のような……いや、父の真似をしなくても立派な経営者になりたいと思っているけれど、まだ若いわたしには心を惑わされる問題がまだまだ山積みだ。まずは平本くんに、彼の恋がもう叶わないという現実を知ってもらわなければならない。 「彼との今までの関係が壊れちゃうのは怖いけど、こればっかりは仕方ないよね……」  就寝前のひと時、読みかけの恋愛小説のページを指でなぞりながら、わたしは大きなため息をついた。  忍とは会えなかった分、メッセージアプリでやり取りをした。  彼は今日もお店を手伝っていたそうで、お母さまから「今日くらい、お店の手伝いを休んで社長さんとデートしてきたら?」と言われたらしい。でも、「佑香さんには会社で毎日会えるから」という理由でそれを断ったのだとか。  〈わたしももちろん、会社で毎日忍に会えるのは嬉しいよ。 でも、せっかくだからデートもしたかったなぁ……〉  〈すみません、佑香さん! 次の週末、佑香さんに予定がなければ店の手伝いを休むので、デートしませんか?〉  
last updateLast Updated : 2025-12-08
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オフィスラブ開始、とアイツの気持ち PAGE8

 ――平本くんと二人、まだ誰もいない休憩スペースに入ったわたしは、まず自販機で冷たい缶コーヒーを二本買って一本を彼に渡した。ちなみに彼のはブラックで、わたしのはカフェオレだ。「はい」「サンキュ。……あ、コーヒー代――」「ああ、いいよこれくらい」 コインケースをスラックスのポケットから出そうとした彼を制止し、わたしは先にプルタブを起こした。まず一口グビッと飲む。「……で? 話って何だよ?」 彼も缶コーヒーに口をつけてから、わたしに本題を促した。「あのね、平本くん。わたし、金曜日から野島さんとお付き合いしてるの。だから……、もうわたしのことは諦めてくれないかな?」「…………マジ?」「うん、マジ。なんかごめんなさい。あなたの知らないところでそんなことになって」「いや、謝ることはねえけどさぁ。……やっぱショックだわ」 彼が顔を曇らせてガックリと肩を落とすのを見て、わたしは良心がチクリと痛む。こうなると分かってはいたけれど、やっぱり彼のこんな顔は見たくなかった。でも、自分のしていることは間違っていないと信じたい。「……わたし、平本くんの気持ちは知ってるつもり。でも、自分の口から伝えたいっていうなら、聞く耳くらいは持ってるよ。これが最後のチャンスかもしれないから。……受け入れられる自信はないけどね」 今まで、彼はわたしに態度では好意を伝えてきていたけれど、直接言葉で「好きだ」と言われたことは一度もなかった。金曜日のお昼休みにだって、遠回しに言われただけだったし……。「じゃあ……、初めてちゃんとお前に告るよ。――俺、大学の頃からずっとお前のことが好きだ。多分、これから先もずっと。『諦めてくれ』って言われても、お前に悪いのは分かってるけどさ、やっぱりどうしても諦めきれねえよ」「……うん」「なあ、今ならまだ遅くねえよな。佑香、俺と付き合おう? 俺にしとけよ。頼むから」 彼の真摯でひたむきな言葉を聞けば聞くほど、本気でわたしのことを想ってくれているのが伝わってきて胸が痛む。わたしも、彼の気持ちを素直に受け止められたらどれだけ楽になれるだろう。 でも……、やっぱり自分の気持ちにウソはつけない。彼には本当に申し訳ないけれど、わたしが好きなのは忍だけだし、彼と付き合えることになって本当に幸せなのだ。「……平本くん、ありがとう。ちゃんとあなたの気持ちを聞
last updateLast Updated : 2025-12-09
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オフィスラブ開始、とアイツの気持ち PAGE9

「――おはよう」 社長室に入ると、そこに忍の姿はなく、村井さんだけがいてデスクの花瓶に花を生けていた。父の話によると、彼女は高校時代に華道部に所属していたらしく、毎週のようにこうして花瓶の花を新しくしてくれて、毎日水を入れ替えてくれているらしい。「あ、社長。おはようございます。今日のお召し物もステキですね」「ありがとう、村井さん。あれ、しの……じゃなかった、野島さんは?」 思わず彼の下の名前を呼びそうになり、ここはオフィスだったと慌てて呼び直した。村井さんはまだ、わたしたちが恋愛関係になったことを知らないのだ。「野島くんなら、今総務課に行ってますよ。社長宛てのメール便が届いているって内線で呼ばれて」「メール便? ……そう、ありがとう」 今日、わたし宛てに届く予定のメール便なんてあったかな……? わたしは首を傾げた。 ちなみに、この会社に届く郵便物やメール便などを受け取り、各部署に振り分けるのは総務課の担当で、そこへ各部署の担当者が受け取りに行くことになっているのだ。社長室の担当は、第一秘書――つまり現在は忍である。「…………あら? 社長、何かありました? 何だか目が少し赤くなっているような……」 わたしの顔をしばらく見つめていた村井さんが、わたしの微かな異変に気づいた。さすがは女性である。「これは……えーっと、さっきちょっと泣いちゃって……」「……まぁ、おっしゃりにくいのでしたら、あえて理由はお訊ねしませんけど。個人的なことでしょうし」「…………うん、ありがとう。ああでも、野島さんにも泣いてたことバレちゃいそう。目薬でもさしておこうかな」 わたしはデスクの回転チェアーに腰を下ろすと、バッグの中のコスメポーチから目薬とコンパクトを取り出し、赤くなっている両目にさした。少しヒリヒリしたけれど、しばらく目を閉じていると痛みがスーッと引いていくのが分かった。「……よし、これで大丈夫」 コンパクトの鏡で確かめると、充血はすっかり治まっていた。これで彼に泣いていたことがバレる心配はないだろう。「――おはようございます、社長」「おはよう、野島さん。総務まで行ってたんでしょ? 朝からご苦労さま」 彼は「野島さん?」とわたしがまた苗字で自分を呼んでいることに少しキョトンとなっていたけれど、オフィスだからそうしたんだとすぐに気づいてくれ
last updateLast Updated : 2025-12-10
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