周防院徹(すおう いんてつ)の行方不明だった初恋の相手が見つかった。警察からの電話を受けた院徹は血相を変え、上着も手に取らずにオフィスを飛び出した。新しい提携について商談中だった取引先は呆気に取られ、思わず安濃静月(あんのう しずき)に視線を向けた。「大丈夫です。続けましょう」静月は院徹を追っていた視線を戻し、上品な笑みを浮かべ、院徹が言いかけた言葉を淀みなく引き継いだ。「新しいプロジェクトへの投資の件について……」一時間後、静月は自ら取引先を見送った。オフィスに戻り、スマホを手に取って確認するが、院徹からのメッセージは一件もなかった。静月が院徹に電話をかけると、数回の呼び出し音の後、繋がった電話から聞こえてきたのは若い女性の声だった。「もしもし?」「院徹、いる?」静月は一瞬の間を置いて尋ねた。「キッチンで料理をしてる」向こうの少女は少し戸惑っているようだった。スマホを握る静月の手に無意識に力がこもる。胸に一つの推測が浮かんだ次の瞬間、院徹の冷たい声が聞こえてきた。「何の用だ?」静月は目の奥が熱くなるのを感じ、必死に感情を抑えながら尋ねた。「説明してくれるべきじゃない?」結婚して三年、院徹が彼女のために料理を作ったことは一度もなかった。料理をできることはずっと前から知っていた。藤咲雅乃(ふじさき みやの)と一緒にいた頃、雅乃のためにわざわざ覚えたのだ。静月が何について聞いているのか分かっているはずなのに、院徹は冷たく言い放った。「取引先の件なら、俺から直接説明する」静月は何度か口を開きかけたが、言葉は一つも出てこなかった。空が暗くなるにつれて、窓の前に立つと、ガラスに映る自分の目元が赤くなっているのが見えた。午後の取引先たちの、彼女に向ける憐れみや、面白い見世物を見るような視線を思い出した。それでも静月は何かよほど大事な用事があるのかもしれないと庇ったのに、その「大事な用事」が雅乃に会いに行くことだったとは。長い沈黙が流れた後、電話の向こうで雅乃が小さな声で尋ねた。「院徹、誰なの?」「社員だ」その答えを聞いて、静月の涙腺はついに決壊した。電話の向こうで二人が小声で囁き合っているのが聞こえる。受話器は手で覆われているのか、声がくぐもってよく聞き取れない。静月が電話を切ろうと
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