天狐上司の不器用な初恋의 모든 챕터: 챕터 11 - 챕터 20

32 챕터

対価は身体で!?②

 週末の金曜日。借りを返すために、美亜は重い足取りで、指宿の自宅マンションを訪ねた。 時刻は20時。部屋番号は事前に知らされていたので、エントランスホールでオートロック機械に番号を入力して名を告げれば、あっさりと自動扉が開く。 今日に限って残業だったので、自宅に戻って着替える時間がなかった美亜の服装は、シンプルながら女性らしいツインニットと膝下スカートだ。 異性の部屋に上がるなら、警戒心を持ってスカートではなくパンツ姿にすべきだった。 自分の段取りの甘さを悔やみつつ、美亜はエレベーターに乗り、指宿の部屋の前に立った。「入れ」「っ!……お、お邪魔します」 チャイムを鳴らしていないのに、玄関扉が開いて美亜はちょっと引く。 出迎えた指宿は帰宅したばかりなのか、まだスーツ姿だった。「なんか飲むか?」「あ、いえ、おかまいなく」「なら、コーヒーでいいな」 部屋の奥に美亜を通した指宿は、セレブ仕様の対面キッチンに立つ。 放置された美亜は、ちょっと悩んでリビングではなく、キッチンのダイニングテーブルに着席した。 改めて見ると、このマンションは超が付くほど広い。リビングだけで美亜が住む2DKのアパートがすっぽり入ってしまいそうだ。 家具もモノトーン系でまとめられていて、いちいちお洒落だけれど、女性が使いそうな小物は見当たらない。 視線だけで指宿の住まいを盗み見ていた美亜だが、芳醇な香りに誘われキッチンカウンターに視線を向ける。 カウンター越しに立ち昇るのはインスタントコーヒーではなく、上質な豆の香り。しかも一杯一杯ドリップまでしてくれる。すごい、おしゃれ、何だか申し訳ない。 そんなことを思いつつも、美亜の頭は別のことでいっぱいだ。 だって恩を返すと言っても、具体的には何をするのか知らされていない。とはいえ男が夜に女を呼び出すとなれば、求められるのは一つしかない。「……課長、あのぅ」「ちょっと待ってろ」 身体ではない対価で支払えるものがあればと提案しようとした美亜だが、そっけなく指宿に遮られ、しゅんと肩を落とす。 できることなら……いや、絶対にそういうことはしたくない。そりゃあ初めてではないけれど。 でも、やっぱりそういうことは気持ちがあってこそのアレで、それに随分とご無沙汰だしうまくできるかわからない。 緊張と不安で身を縮こませた美
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対価は身体で!?③

「おい、目を開けろ」「んぁ?……えーーー!!」 唸るような指宿の声で目を覚ました美亜は、自分が置かれている状況を把握した途端、悲鳴を上げた。 足元には煌々と輝く街明かり。なんと今、美亜は空を飛んでいた。いや、正確には狐コスになった指宿に担がれて空中に浮かんでいるのだ。「か、かっ、かちょ……ちょ、ちょ、こ、これ……これは!!」「一仕事してもらうのに、肉体は邪魔だからおいて来た」「えーーー!!」 もう何度目かわからない悲鳴に、指宿はうんざりした表情を作った。「今から説明するから、いちいちでかい声を上げるな」「こうなる前に説明を!」「口で説明するよか、多少実体験してから話した方が早い」「私の心の準備がっ」「そんなもんしなくていい」「そんなぁ」 今度は悲鳴ではなく非難の声を上げる美亜を無視して、指宿は説明を始めた。「お前が今からやることは、とある神社に行って禍体を鳥居の前まで引っ張ってくることだ」「まがたいって何でしょうか?」「見りゃわかる。ま、簡単に説明すれば呪いの権化だ」「それはちょっと……私では無理だと思います」 すんっと真顔になった美亜は首を横に振る。しかし指宿は笑い飛ばした。「大丈夫だ。お前ならできる」「何を根拠に言ってるんですか!?」「天狐姿の俺にハッピーハロウィンって言うくらい神経が図太いからだ」「それ……根に持ってます?」「まさか」 わざとらしく目を逸らした指宿を見て、美亜は持っているのだと結論を下す。 あの時、ノリで言った一言でこんな目に合うなんて。口は災いの元とは良く言ったものだ。北風がちょっぴり目に染みる。 涙目になった美亜を無視して、指宿は目的地に向かう。青白い小さな炎──狐火を従えて。 ターン、ターンと指宿は高層ビルの屋上や電信柱の天辺を蹴り、高く跳躍しながら空を舞う。重力は一切感じない。「……なんだか私、木の葉になったみたい」「お、雅な表現だな。歌も読めるなら、今度ババアと歌合わせでもしてやれ。喜ぶぞ」「課長、偉大なる日本書紀のキャストをババア呼ばわりしたら罰が当たりますよ」「なんだ、ババアに絆されたのか。駄目男の次は、年増のババアか……お前、もう少し相手を選べ。間口が広すぎるだろ」「違います!くくり姫様はそんなんじゃなくって!!」「わかってる。……よし、調子が戻
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対価は身体で!?④

「あ、そっか。肉体が無いから、足音はしないんだ」 これが取引先の社屋にある鳥居をくぐった美亜の最初の感想だった。 明かり一つないのに、しっかりと周囲が見えるのも、きっと肉体が無いからだろう。 人は暗闇を恐れる。逆を言えば、暗いと感じなければ、さほど怖くは無い。夜の人気のない神社なんて、肝試しでしかないはずなのに、美亜はそこそこ冷静さを保って歩くことができている。「……それにしても、禍体って何?」 屋上の本殿に到着した美亜は首を傾げる。きっと読んで字のごとく、禍々しいものなののはずだ。 名前からして出会いたくないものだが、それを想像しようとしても、あんな短い説明だけで、頭の中で形を描くことなんてできるわけがない。「見ればわかるって言ってたけど、せめて物なのか人なのか動物なのか聞いておけばよかった。ぜんぜんわかんな……って──っ!!」 ブツブツ呟いていた美亜は、境内の端っこにいた何かを見つけて固まった。「ギ……ギ……シネ、ニクイ……キエロ、コロス……ギギ、ギ……ユルサナイ、キエロ……クルシメ……ギギ……ギ」 老若男女が入り混じった声で負のワードを紡いだそれは、おおよそ人とは呼べない生き物だった。「……なに、これ」 一言で言い表すならば肉の塊。もう少し言葉を付け足すと、たくさんの顔がくっ付いた禍々しい肉塊。 憎悪を滾らせる男。悔し気に涙を流すお爺ちゃん。それから鬼女としか思えないロングヘアーの女性に、全てを諦めたような老婆。 しかも顔と顔の隙間には片目だけとか、口だけとか、醜く歪んだ顔のパーツがドット柄のようにへばりついている。 喜怒哀楽の怒哀だけをピックアップした顔達にも、当然口があって各々が好き勝手に呪詛を紡いでいる。「ちょ……ま、まさか」 ──これが禍体っていうやつなの!? 無意識に呟いた途端、ギロっと幾つもの目が美亜に向いた。「ひぃ……!」 声にならない悲鳴を上げた美亜は、腰を抜かした。ガクガクと自分の意思とは無関係に、身体が震える。「オマエ……ナカマニスル……オマエモ、ニクイ……コロス、クウ、タベル、ナカマダ、コロス、イッショ、オイデ、シネ、ナカマ、オナジ、クルシメ……オイデ」 物騒なのかフレンドリーなのかよくわからない言葉を吐きながら、肉の塊はにょきっと足を出して、ゆっくりとこちらに向かってくる
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対価は身体で!?⑤

 一振りで太刀を消した指宿は、美亜の元に戻ると「俺は天狐で、稲荷神。要は商売の神で、パールカンパニーの守護神なんだ」と切り出した。 美亜は黙って、指宿の言葉に耳を傾ける。「ここだけの話、あそこの先代はパールカンパニーの大得意なんだが……飲む打つ買うの三拍子を全クリしたどうしようもない男だったんだ。ようやっと辞任してくれて、倅が社長になったんだが、まぁ……先代に向けての恨みつらみが倅にむかってしまったんだ。恨んだ方は、もう忘れているかもしれないが、落とした念ってのは消えないんだ。その願いが成就するまでは。で、誠実に頑張ってるのに今の社長は、やることなすこと裏目に出ている。ああ、そうそうウチの会長と先々代は、草野球をした幼馴染だったもんで、孫の就任祝いにちょっと厄払いをしてくれと頼まれて──」「その結果、私がビルからダイブしたってことですか!?」 我慢できず口を挟んだ美亜に、指宿は苦笑する。「それは、お前が張り切りすぎたからだろ」「でも課長は、なんにも掴めないって教えてくれなかったじゃないですか!知ってたら私だって、柵の前でブレーキかけますよ!」「はっ、どうだかな。あと俺は今、課長じゃない。風葉だ」 むーっと睨みながら非難する美亜に、指宿はしれっと斜め上の返答をする。「今はそんなのどっちだっていいじゃないですか!」「いや、一番大事だ」「もうっ、もう……!私、死ぬかと思いましたぁ」「肉体が無いんだから、ビルから落ちたって死ぬわけないだろ」「そ、そんなの!わかんないじゃないですかっ」 大人しく最後まで話を聞こうと思っていた美亜だが、指宿に軽くあしらわれ──感情が制御できず、これまでの不満をぶちまける。 指宿といえば、バツの悪い顔をしながらも「すまん、すまん」と誠意のない謝罪をするだけ。 それから数分後。指宿はもうこの話は終わりにしようといった感じで、空いている方の手を美亜の頭に乗せた。「ま、とにかく助かった。鳥居は神にとっての玄関なんだ。他の神は立ち入ることができない。だから、お前のように稀眼を持っている人間の手が必要だったんだ。ありがとう。こんなに早く対処できたのはお前のお陰だ……って、お前聞いてるのか?」 美亜は指宿から顔を背けて俯いた。華奢な肩が震えているのが、指宿の手
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対価は身体で!?⑥

 ピカピカに磨き上げられたキッチンに、和風だしの香りが広がる。コンロの火にかけた鍋から湯気が踊る。 プルルルルッと、カウンターの上に置いてあるスマホが鳴り、馴染みのある名前が表示される。 美亜は片手でそれを取り上げると、通話ボタンをタップした。「ん、私は元気だぃね。お兄も元気そうで安心したんさぁ。彼女さんとは仲良くしてるかぃ?喧嘩とかしてねぇ?……あーね、そんなんお兄が謝ればいんさぁ。年末の帰省なん?まだわがんねー……あーね、うんうん。それじゃーあ、また」 兄の俊郎からの定期連絡を早々に終わらせた美亜は、鍋を覗き込む。くつくつ煮えたお揚げは、テラッとしていて甘じょっぱい香りが食欲をそそう。 街灯りを見下ろしながら風葉にしがみついてワンワン泣いた後、美亜はそのまま彼の腕の中で眠ってしまった。 そうして目が覚めたら朝だった。前回同様、指宿の寝室のベッドの上で。 状況が飲み込めず、ぼんやりと部屋を見回していたら、寝室の入り口扉に背を預けて腕を組む指宿がいた。「やっと起きたか」 不機嫌な声音とは裏腹に、指宿の目の下には立派な隈があった。記憶が鮮明によみがえり、美亜の身体がびくりと震える。 自分は大泣きした後、彼の腕の中で寝落ちしてしまったのだ。 上司の腕の中で寝落ち──社会人としてあるまじき行動に、美亜は青ざめる。「あの、も、申し訳ございません。なんという失態を……その……」「言い訳は聞きたくない。起きたなら、こっちに来い」 小言を受けるだろうとびくびくしながら、指宿の後を追った美亜だが、予想に反して彼の口からは「腹は減ってないか?」と気遣う言葉が出てきた。 その返事をしたのは、美亜の腹の虫。「キュルル~キュル~」と鳴いてくれたせいで、美亜は真っ赤になる。 すぐさま声を上げて笑った指宿は、「何か食べに行くか?」と提案してくれた。でも美亜は、ここで料理をしたいと主張した。 兼業農家の家庭で育った美亜の趣味は家事。そんな美亜にとって、セレブ仕様のキッチンで料理をするのは憧れ中の憧れである。 極めて自分勝手な理由であるが、指宿はあっさりと了承した。しかも材料費は全部指宿持ち。しなやかな身体つきに似合わず太っ腹である。 そんな経緯を得てキッチンに立つ美亜は、至福の表情を浮かべながら、鍋の中の揚げを菜箸で一つつまんで状態を確認する。
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対価は身体で!?⑦

『すまない。俺は、いなり寿司が苦手なんだ』 絞りだすようにそう言った指宿を見て、美亜はクールな彼でも冗談を言うのだと、とても驚いた。 正直言って、ネタとしてはさして面白くはない。けれど、社会人のマナーとして乗った方がいいだろうと結論を出す。「そうでしたか。知らなかったとはいえ申し訳ありませんでした、課長」「いや。まぁ……他のものは美味しそうだ。いただこう」「あ、そうですか。では、どうぞ」 手早くサーモン、いくら、そぼろのいなり寿司を小皿に取り分けた美亜は、それを指宿の前に置く。 すぐさま指宿の眉間に、皺が寄った。「おい、これは嫌がらせか?それとも人の話を聞いてなかったのか?」「あ、ウサギのいなり寿司も欲しかったですか?意外ですね。キャラ弁とか鼻で笑いそうなのに」「違うっ。根本的に間違ってる!」 強く否定した指宿は半目になっていた。「あれ?えっと……冗談を言っていたんじゃ……」「ない!」 鋭く否定され、美亜は本当に指宿がいなり寿司が苦手なことを知る。 でも……そんな、まさか。だって指宿は──「天狐なのにですか?」「ああ」「狐なのに、いなり寿司が嫌いなんですか?」「ああ!そ、う、だ!」 大事なことなので二度確認したが、指宿はどちらも肯定した。二度目に至っては食い気味ですらあった。 いなり寿司嫌いの狐の神様がいる。あまりの衝撃の事実に、美亜は驚きを通り越して豪快に笑い出してしまった。 だって天狐は稲荷神。世間一般では、商売の神様の前に、いなり寿司が好物という方が認知度が高いはず。 それなのに、苦手ときたものだ。何でもアリのラノベだって、そんなキャラ設定するわけない。「やだもうっ。課長ったら、ウケるー。あはっはははっ」「おい、笑うな!笑いすぎだ馬鹿!ったく、どこにウケる要素があったんだよ!」 素の口調で笑ってしまった美亜に、指宿はくわっと目を剥いて叫ぶ。 その顔は、スマホをいじりながら「自分、残業しない主義なんで帰っていいっすかね」とほざいた新入社員の川口君を叱った時より怖かった。「……お前、いい度胸してるな」 唸るように吐き出した指宿の言葉で、リビングが一気に凍り付いた。 天狐様を本気で怒らせてしまった美亜は、カタカタと震えながら箸置く。そしてダイニングテーブルに両手をつき、深々と頭を下げた。
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対価は身体で!?⑧

 海鮮やみそ汁の香りに混ざって、泣きたくなるほど懐かしい匂いが指宿の鼻孔をくすぐった。 匂いの元は、ご馳走の中に紛れた貧相ないなり寿司。三つ並んだそれは、居心地悪そうであり、申し訳なさそうでもあった。 何かの予感がして、二度と口にしないと決めたはずのいなり寿司を手に取った。 豪快にかぶりついた途端に、口の中が痺れてしまうほどのお揚げの甘さが広がる。次いで、シャキシャキとした歯ごたえと共に、白菜漬けの味が遅れてやってくる。 暴力的な甘さと、それを打ち消す酸味はやみつきとなり、指宿はもう一つ地味ないなり寿司を手に取った。「あっ、ちょっと!!これは私が最後に取っておいたやつなのにっ」 向かいの席に座る小娘が頬を膨らませるが、指宿は無視して手に持っているいなり寿司を口に放り込んだ。 ──ああ……ああ、懐かしい。 この味は、最後に食べたいなり寿司と同じ味。天狐である風葉を生かしてくれた、命の味だった。* 遥か昔。人が平安時代と名付けた頃、風葉はただの狐として生まれ、生まれてすぐに親狐と離れ離れになってしまった。 自然界は厳しい。餌の取り方がわからない小狐は一瞬で淘汰される。しかし天狐は年老いた猟師に拾われ、風葉と名付けられ大切に育てられた。 猟師は家族を亡くし、孤独だった。小狐を育てるのは、心の傷を癒す為だったのだろう。 だがしかし猟師と同じ寝床で過ごし、ごつごつした大きな手で撫でられ、愛情あふれる言葉を受けた風葉は幸せだった。誰かの代わりだったとしても。 その後、数幾つもの季節を過ごした風葉は立派な狐となり、猟師は天に還った。「風葉よ、どうかお前は長生きしておくれ」と願いを託されて。 猟師の祈りは天に届き、風葉は妖力を得て、人に幸をもたらす善狐となった。 迷い子を里に届けたり、身体の弱い老婆の為に薬草を玄関先に置いたり、畑を荒らす害獣を追っ払ったり。 そんなことをしながら流れに流れて、時には行きずりの女性と身体を重ねたりして、風葉の親代わりだった猟師によく似た男がいる村の近くの森に住み着くようになった。 貧しい村だった。しかし人は皆温かく、風葉は精一杯、村人の為に尽力した。 数年が経ち、いつしか村人たちの間でこんな噂が広がった。「裏の森に妖狐が住み着いている。しかしそれは畏怖の対象ではない。守り神が、あの森に降りたってくださったのだ」
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対価は身体で!?⑨

 村が炎に包まれたのは、突然の出来事だった。夜がすっかりと明けきらない時分、空から炎が降って来たのだ。 木々を燃やし、民家を燃やし、実った作物を燃やし、人を燃やした。 業火に見舞われた村は、村人たちの悲鳴と断末魔で、鳥の声も獣の咆哮も聞こえない。風葉の社も当然、灰となった。 森を作るのに、最低でも50年。人の一生は、約60年。付喪神が生まれるまで、100年──それが一瞬で消えた。「……神に虚しさを与えるなど、人間とは末恐ろしい生き物だ」 人も、鳥も、獣もいなくなった焼け野原で一人立つ風葉の胸にあるのは、己に向けての怒りのみ。「何が守り神だ、こんちくしょう!!」 風葉は、地面に膝を付くと荒ぶる感情のまま叫んだ。 村の一人一人を愛していた。きっと守れると思っていた。そうあるために、自分はここにいると信じて疑わなかった。 その結果が、これだ。 守るべき村人は焦げた肉塊になった。降って来た炎に直撃して人の形すら残っていない者もいる。炎が収まった後、苦しみながら息絶えた者もいる。 なんだよ、なんなんだよっ。どうして、こうなった!?誰が悪いんだ!何が悪かったんだ!! いっそ全てを呪い尽くす祟り神に、風葉はなりたかった。 しかし人に愛された狐は、どこまでいっても善狐でしかいられない。「なぁ……俺はこれからどうしたらいいんだ」 風葉は崩れ落ちたまま、空を見上げた。答えの代わりに、異国の鉄の塊が我が物顔で雲一つない空を泳いでいた。 社を失い、信仰してくれる民を失った風葉は、みるみるうちに力を失った。まるで手で掬い上げた水が、指の間からこぼれ落ちていくように。「どうせなら、森の中で死にてぇな」 神に【死】という言葉は適切ではないかもしれないが、ただの狐から始まった生、最後は生まれた場所に近いところで消えたかった。 フラフラと風葉は、ささやかな……本当にささやかな人助けをしながら、気の向くままに北上した。すれ違う人たちは皆【絶望】の二文字を顔に張り付けていた。 玉音放送から流れる音声で、人々は日ノ本が戦に負けたことを知ったのだ。「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び……って言うけどよぅ、知ってるか、お偉いさんよ。まだみんな耐えてるんだぞ」 風葉は、この国の一番偉い人に向けて言った。無論、その声は届かなかった。誰の元にも。 ほんの少し前までは、日ノ本
last update최신 업데이트 : 2025-11-02
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対価は身体で!?⑩

 マリーと名乗った少女の容姿は髪も目も黒く、雛人形にしか見えない。どう目を凝らしても異国の血を感じることはできなかった。 あからさまに戸惑う風葉を目にした少女は、照れ臭かったのだろう。頬を掻きながら、すぐに「本当の名は、鞠子だ」と言った。 正直、マリーだろうが鞠子だろうがどちらでも構わない。それより人形にすらなれない空狐の自分を見つけたことの方が驚きだ。 いや、それより何より日が暮れた今、少女が外に出ていることが一番の大問題だ。「もう外は暗い。用があるなら、俺が済ましてやる。休憩させてもらった礼だ」 取ってつけたような言い訳を紡いだ風葉に、鞠子は首を横に振った。「おめーじゃー無理。今から夜這いに行ぐんさ」「へぇ」 女が男を襲うなど、時代が変わったなと風葉は乾いた笑いを浮かべた。 その笑みが馬鹿にされたと思ったのだろう。鞠子はムッとした表情を浮かべたかと思えば、しゅんと肩を落とした。「やっぱり男はそうゆうことをする女はやなものか?」「知らねえ」「ふしだらな女は義文さんの嫁に相応しくねぇか?」「……さぁ」 人間の色恋など、狐に訊かれててもわかるわけがない。まして義文がうんちゃらかんちゃらと問われたところで、会ったことも見たことも無い人間のことなどわかるわけがない。 そんな気持ちを素直に言葉にすれば「使えねー狐だ」と嘆かれた。酷い言われようだが、その通りだ。悔しさはあるが、風葉は黙って頷いた。 てっきり鞠子は、役立たずの狐など無視して義文という男の元に夜這いに行くのだろうと思った。でも、なぜか風葉の隣に腰掛けると一方的に語りだした。「うちのお父は戦争から帰ってきてから変わったぃね。お酒ばぁい飲んで、働きもしね。我が家はどんどん貧乏になっていぐ。お母と私とじゃ蚕の世話だって満足にでぎねぇ。義文さんだって婿に来たくねぇだんべぇ……。昔は優しいお父だったぃのに」「……そうか」 ここに来るまでに風葉は、死んだ目をした元兵隊を幾人も見た。彼らは死線をくぐり抜けて、生まれ故郷に戻って来ることができたが、どこかに大切なものを落としてしまったのだろう。 戦争はどこまでも人に傷を残す。詮無いことだとわかっているが、何故こんな馬鹿げたことをしたんだと、風葉は誰かに詰め寄りたくなる。「あーあ、私がもっと
last update최신 업데이트 : 2025-11-03
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対価は身体で!?⑪

「そうは言っても、かなり厳しいな」 弱音を吐く風葉の姿は、一応鞠子の姿を保ってはいる。だが人で例えるなら瀕死の状態でいる風葉は、いつ術が解けてもおかしくはない。「根性見せろよ、俺」 自分自身を叱咤激励し、風葉は鞠子を抱えて民家の引き戸を静かに開ける。 囲炉裏の前では、父親らしき男が酒瓶を抱えて眠りこけていた。母親はいない。離れた場所から物音が聞こえるから、風呂にでも入っているのだろう。 風葉は物音を立てぬよう細心の注意を払い、鞠子を畳の前に横たえた。 そこで運良く風葉は、箪笥の上でコロコロ転がりながら一人遊びをしている、かつて簪だった付喪神と目が合った。「……お前、義文って奴の場所知ってるか?」「ヨシフミ?マリノ……スキスキナヒトノコト??」「ああ」「シッテル。ヨシフミ、ニシノ……エット……キヲミッツコエテ……エット、エット」「ついてこい」「アーウーー!!」 強引に付喪神をさらった風葉は、義文の元を訪ねた。 彼は恐ろしいほど純情な男で、鞠子を目にした途端、顔を真っ赤にして「明日、婿入りの話をお父としに行くからっ」と言って手すら握らず頭を下げた。 来なかったら承知しないよ!と風葉が念を押せば、嘘偽りない強い瞳で「絶対に行く」と宣言した。 その後、元の姿に戻った風葉は、囲炉裏の前で寝ている鞠子の父親を叩き起こし、喝を入れた。なけなしの霊力でどこまで悪いものを祓えたかはわからないが、それでも昨日よりはマシになっているはずだろう。 後は、鞠子も、義文も、鞠子の父親も、己の頑張り次第。 カラッカラッに力を使い果たした風葉は、夜明け前に森の中に入ると静かに目を閉じた。消失するその時を迎えるために。 意識が途切れる直前、遥か昔に知り合った縁結びのババアのことを思い出す。息災だろうか。まぁ、しぶといババアならきっと消えずにいるに違いない。 そう結論付けて、風葉は意識を手放した──けれども、どれだけ待っても、風葉は消えることができなかった。 一体、どれくらいそうしていたのだろうか。 仰向けに転がった姿勢にいい加減疲れた風葉は、ノロノロと起き上がると再び森を下りた。 季節はいつの間にか変わっていた。小鳥がさえずり、山桜が美しく咲く中、祝言の宴が行われていた。 障子が開け放たれた座敷の奥には、金屏風の前に座る 黒五つ紋付羽織袴と白無垢姿が
last update최신 업데이트 : 2025-11-04
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