週末の金曜日。借りを返すために、美亜は重い足取りで、指宿の自宅マンションを訪ねた。 時刻は20時。部屋番号は事前に知らされていたので、エントランスホールでオートロック機械に番号を入力して名を告げれば、あっさりと自動扉が開く。 今日に限って残業だったので、自宅に戻って着替える時間がなかった美亜の服装は、シンプルながら女性らしいツインニットと膝下スカートだ。 異性の部屋に上がるなら、警戒心を持ってスカートではなくパンツ姿にすべきだった。 自分の段取りの甘さを悔やみつつ、美亜はエレベーターに乗り、指宿の部屋の前に立った。「入れ」「っ!……お、お邪魔します」 チャイムを鳴らしていないのに、玄関扉が開いて美亜はちょっと引く。 出迎えた指宿は帰宅したばかりなのか、まだスーツ姿だった。「なんか飲むか?」「あ、いえ、おかまいなく」「なら、コーヒーでいいな」 部屋の奥に美亜を通した指宿は、セレブ仕様の対面キッチンに立つ。 放置された美亜は、ちょっと悩んでリビングではなく、キッチンのダイニングテーブルに着席した。 改めて見ると、このマンションは超が付くほど広い。リビングだけで美亜が住む2DKのアパートがすっぽり入ってしまいそうだ。 家具もモノトーン系でまとめられていて、いちいちお洒落だけれど、女性が使いそうな小物は見当たらない。 視線だけで指宿の住まいを盗み見ていた美亜だが、芳醇な香りに誘われキッチンカウンターに視線を向ける。 カウンター越しに立ち昇るのはインスタントコーヒーではなく、上質な豆の香り。しかも一杯一杯ドリップまでしてくれる。すごい、おしゃれ、何だか申し訳ない。 そんなことを思いつつも、美亜の頭は別のことでいっぱいだ。 だって恩を返すと言っても、具体的には何をするのか知らされていない。とはいえ男が夜に女を呼び出すとなれば、求められるのは一つしかない。「……課長、あのぅ」「ちょっと待ってろ」 身体ではない対価で支払えるものがあればと提案しようとした美亜だが、そっけなく指宿に遮られ、しゅんと肩を落とす。 できることなら……いや、絶対にそういうことはしたくない。そりゃあ初めてではないけれど。 でも、やっぱりそういうことは気持ちがあってこそのアレで、それに随分とご無沙汰だしうまくできるかわからない。 緊張と不安で身を縮こませた美
최신 업데이트 : 2025-10-15 더 보기