大昭国(たいしょうこく)で最も皇帝に慈しまれた姫君が死んだ。亡骸が見つかったのは、北方を守護する鎮守、鎮北王(ちんほくおう)こと蕭聿城(しょう いつせい)の屋敷の奥庭。七日も前に降り積もった雪がようやく溶け、霜で覆われた亡骸が姿を現すまで、姫君の死に気づく者は誰もいなかった。その亡骸は、大きく膨らんだ腹を片手で庇い、もう一方の手を庭の外へと必死に伸ばすかのような姿のまま、凍りついていた。だが、その声なき声に応える者はいない。姫君は、その身に宿した新たな命と共に、吹雪の中で生きながら凍え死んだのである。意識が遠のいていく最中、趙婉寧(ちょう えんねい)の全身を苛んだのは、燃えるような後悔の念だった。もし、来世というものがあるのなら、もう二度と、あの男には関わらない…………「何を泣く。婉寧、これこそがそなたの望んだことだろう!」趙婉寧は首を締め上げられる痛みで意識を取り戻した。目を見開くと、自分が生まれ変わたのに気づいた。鎮北王、蕭聿城が薬を盛られたあの日に。前世で、婉寧は聿城を深く愛していた。初めて出会ったのは、大昭国で三年に一度開かれる秋の狩り場であった。父である皇帝と義兄弟の契りを交わした異姓の王、聿城が馬を駆って現れた。高く結い上げた髪に玉の冠を戴き、武官の礼装が鍛え抜かれた腰の線を際立たせる。その姿は、居並ぶ人々の中でも一際目を引く存在だった。その後、刺客が皇帝を襲い、最も寵愛を受けていた末の姫君である婉寧を人質に取った。その時、一矢で刺客を射抜き、婉寧をその腕で救い出したのが聿城だった。墨染めの外套が婉寧の体を包み込み、同時に、少女の恋心をも全て奪い去った。成人を迎えた年、姫君は九つ年上の鎮北王に想いを打ち明けた。しかし、それまで婉寧を慈しんできた聿城は血相を変え、幼子の気まぐれに過ぎず、ただの思慕と恋慕の違いも分からぬと厳しく叱責した。翌日、鎮北王は皇帝に願い出て、北疆(ほっきょう)の地へと発つことを決めてしまった。当時の婉寧もまた頑固で、皇居の門前で丸一日跪き続け、娘を溺愛する皇帝の心を動かし、ついに北疆へ向かう許しを得たのだった。北疆に着いてすぐ、鎮北王邸の者たちは皆、婉寧に恭しく接した。だが、屋敷で一ヶ月過ごしても、聿城に一度も会うことは叶わなかっ
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