玄関の扉が開く音がした。沙弓は、湊が連日の仕事で疲れ切って帰ってくるものと思い、小走りで出迎えた。「湊、帰ったの?」「ああ」靴を脱いでリビングに入る湊の背中に、沙弓は矢継ぎ早に問いかけた。「今日の午後、叔母さんが会社に押し掛けてきたんでしょ?変な言いがかりをつけられなかった?うまく丸め込めたの?」湊は足を止めず、淡々と応じた。「全部片付いたよ。叔母さんも、叔父さんが実刑を受けるって現実をようやく受け入れた。もう二度と本邸に乗り込んでくることもないし、この件で騒ぎ立てることもない」「えっ……!?」沙弓は信じられないというように目を丸くし、言葉を失った。あの気性の荒い祈が、それほどあっさりと引き下がるはずがない。今朝もあんなに大勢の親戚を引き連れて、泣き喚いて実力行使に出たというのに。目的を果たせないまま、おとなしく引き下がるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない。心配をかけまいとして、適当な嘘をついているのではないか。「あの人がそんなにあっさり引き下がるわけないじゃない!湊、お母さんに本当のことを言って。一体何があったの?どうやってあの人を黙らせたの?」湊は唇の端をわずかに動かし、事実を淡々と並べた。「叔父さんはここ数年、決して大人しくはしていなかったからな。外に愛人を囲って、もうすぐ隠し子まで生まれる予定だったんだ。叔母さんも賢い人だ。あのまま無理やり叔父さんを助け出して愛人を喜ばせるか、手を引いて自分と子供たちの財産を守るか。どちらが得か、すぐに天秤にかけて答えを出したよ」その言葉が落ちた瞬間、沙弓はポカンと口を開けたまま固まってしまった。「慎之介が、外に愛人を……?しかも隠し子まで?いつの間にそんなことに!私、これっぽっちも噂すら聞いたことなかったわよ!」傍らで聞いていた秀夫が、たまりかねたように口を挟んだ。「もういい、沙弓。それ以上深く聞くな。湊ももう大人だ。彼が手を下したことなら、万に一つも抜かりはない。お前がいちいち心配することじゃないだろう」沙弓もハッとして頷いた。長年連れ添った本妻ですら全く気づいていなかったのだ。自分が知る由もないのは当然だ。胸の奥の驚きと好奇心を無理やり押し殺し、パッと明るい笑顔を作る。「そうね、そうよね!綺麗に片付いたならそれが一番だわ!
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