湊は、包丁の刃先が誤って静奈を傷つけるのを恐れていたのだ。そのあまりにも過保護な様子を見て、静奈は少し呆れたように笑った。「湊、そんなに心配しなくていいわ。怪我なんてしないから」「気をつけるに越したことはない」静奈はそれ以上逆らわず、食材を洗う作業に戻った。ほどなくして、すべての食材の下ごしらえが終わり、ダイニングテーブルに並べられた。二つに仕切られた鍋の片方では昆布だしが透き通り、もう片方ではすき焼きの割り下が甘辛い香りを漂わせながら、ゆっくりと煮立っている。白い湯気が立ち上り、二人の間を柔らかく包み込んだ。熱々の鍋をつつきながら、窓の外に降るしとしととした雨の景色を眺めるのは、格別の風情があった。静奈は濃い味付けはあまり好まないが、ふと気まぐれを起こし、すき焼きの鍋から和牛の薄切りを一枚すくい上げ、口に放り込んだ。濃厚な甘味と熱さが口の中に広がった。思わず「熱っ」と涙目を浮かべた。湊はすかさず、あらかじめ切っておいたフルーツを彼女の前に押しやり、温かいお茶の入ったコップを差し出した。静奈はしばらくして、ようやくその熱さと濃い味から立ち直った。夕食が終わり、二人はソファに身を寄せ合って映画を観ていた。フロアランプが一筋の柔らかな光を落とし、画面の映像だけが静かに流れている。静奈は湊の肩に寄りかかったまま、いつの間にか深い眠りに落ちていた。湊は彼女を起こさないよう、そっとテレビの音量を下げた。雨の日のせいか、湊の背中の傷痕がうずき始め、チクチクと引きつるような痛痒さが走った。背筋が微かにこわばったが、彼は肩で熟睡している静奈を起こすまいと、じっと痛みを堪えて身じろぎ一つしなかった。ふと、静奈が浅い眠りから目を覚ました。顔を上げると、彼が痛みを必死に堪えている様子が目に入り、胸が締め付けられた。「湊、どうしたの?」湊は反射的に誤魔化そうとした。「いや、何でもない」「背中の傷が痛むんでしょ?私が薬を塗ってあげる」湊は一瞬言葉を詰まらせたが、低く応じた。「……頼む」彼は上着を脱ぎ、ソファにうつ伏せになった。縦横に走る古い傷痕が、背中全体を覆っている。最近毎日薬を塗っているおかげで、傷痕は以前より少し薄くなり、初めて見た時のようなおぞましさは和らいでいた。静奈は用意し
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