All Chapters of 秋の夢、遅き哀しみ: Chapter 11 - Chapter 20

28 Chapters

第11話

しかし辰景は、悠依が自分を信じてくれなかったことにも苛立ちを覚えていた。あの時彼の手下はもうすぐで現場に着くというのに……彼はあと少し言葉を重ねれば、救出の時間を十分に稼げたはずだった。なのに悠依が彼を信じなかったばかりに、突然車から飛び降りた。……その結果、伴奈が傷つくことになってしまった。そのことを思い返すと、辰景は悠依に電話をかけたが、悠依はわけのわからない言葉を並べるばかり。その後、悠依の電話は二度とつながらなくなった。だが、辰景の胸の中には……怒りの感情に混ざって、悠依が無事に逃げられたことへの、ほっとした安堵も、わずかにあった。その後、辰景はやっと伴奈を落ち着かせ、ほっと一息つき、悠依の件に対処しようとした。だが、スマホを開くと、目に飛び込んできたのは秘書からの大量のメッセージだ。彼は眉をひそめ、秘書に電話をかける。「何があったんだ?」「社長、今すぐネットを見てください!海野さんが、とんでもないことをしようとしています!」辰景の胸がざわついた。慌ててSNSを開く。そこに映し出されていたのは、悠依による辰景への数々の告発がある。適当に一つの動画を開くと、最初の言葉は悠依のかすれた声で語られていた。「父が破産の真相を知った日……生きる希望を失いました。そして十階から飛び降り、幸いなことに雨どいに受け止められ、病院に運ばれました。私は堀辰景に手術費を借りようと頼むと、『酒を十分に飲んだら金をやる』と言われました。アルコールアレルギーの私は必死に飲みました。しかし彼は……仲程伴奈を迎えに行くためにバーを離れて、父を死なせてしまったのです」悠依はスマホを掲げる。その画面には、あまりに馬鹿げた100円の送金記録が映し出されていた。「仲程伴奈に贈った贈り物は数億円の価値があります。私が命がけで得たお金は……ただ私を追い払うためのたった100円でした」辰景はその言葉に手が震え、スマホを落としてしまった。――悠依の父は死んだ。自分のせいで死んだのだ。辰景は頭を抱える。あの日自分が何を言い、何をし、なぜ100円を振り込んだのかを思い返した。地面に落ちたスマホは、この二週間の騒動を延々と伝え続けていた。――辰景は一冊の本のために、悠依を仇敵の手に渡した。――
Read more

第12話

――そうだ!すべては悠依と海野家のせいだ。あいつらに自分は愛する人と引き裂かれる苦しみを、まる三年も味わわせてきた。すべては彼らの過ちであり、この結末も当然の報いだった。辰景はうつむき、スマホの壁紙に目を落とす。そこには、伴奈と文通していた頃の手紙の一部が切り取られて映っている。心が乱れるたび、彼はこの文字を見つめて自分を落ち着かせてきた。伴奈は彼の鎮静剤であり、救いであり、唯一愛する人であるのだ。深呼吸を幾度か重ねると、辰景は秘書に命じた。「何としても海野の居場所を突き止めろ。さらに広報部には徹夜で対策を練らせ、全力で対応に当たらせろ」そして彼は、悠依がライブ配信を始めるやいなや、全編の録画を開始した――悠依が一体何を見せようとしているのか、確かめるため。……しかし配信が始まると、画面に映ったのは真っ白な病室でベッドに座る悠依だ。スポーツブラとショートパンツ姿で、手には点滴がつながれている。彼女は青ざめた笑みを浮かべて言う。「皆さん、申し訳ありません。最近は移動が続いて体調を崩して、ここでしかお話できません」悠依の身体には、手術の縫合痕、転落や拉致の傷が白い肌と痩せ細った体に鮮明に刻まれ、見る者の胸を締めつける。次に、彼女の表情が引き締まる。「今日、私が配信をするのは、ある過去の出来事を公表するためです。それは、海野家が破産した背後には、大塚林太郎だけでなく、さらに重要な人物がいました。それは堀家の奥さん、堀辰景の母親――堀芳江です!」悠依の声は耳をつんざくように響き、辰景の心臓を強く打つ。辰景は普段、何事にも動じない。堀グループを継いでからは、すべての問題を完璧に処理してきた。しかし今、悠依が提示する生々しい証拠を目にし、彼は呆然とし、無力感と息苦しさに襲われる。証拠は示していた――三年前、芳江の口座から追加支出があり、海野グループの競合他社に支払われていたこと。さらに芳江の側近がその競合他社と契約を結び、海野グループの商業チェーンで極めて重要な協力関係を奪ったこと。さらに海野グループの幹部を買収し、運営計画を盗み出したことも。時間が経っており、加えて堀家の勢力が強すぎるため、すべての事柄は秘密裏に細かく行われ、芳江自身がほぼ表に出ないようにされていた。ゆえにこれらの
Read more

第13話

真夜中、伴奈はふと目を覚ますと、突然何かがおかしいと感じた。目を開けると、辰景がベッドの脇に立ち、暗闇の中で死をもたらす死神のように佇んでいる。伴奈は心臓が一瞬止まったかのように震え、恐怖で体を起こした。口元には罵声が浮かんだが、今の自分のキャラクターを思い出すと、激しく鼓動する胸を無理やり押さえ、冷静さを装った。「どうしたの?なんで突然ここに立ったまま黙っているの?」辰景は何も答えず、ただじっと彼女の顔を見つめ続けた。伴奈の顔立ちは、攻撃的でもなければ、名家出身の優雅さも備わっていない。華やかで精巧な悠依の顔と比べると、むしろ平凡に見える。だが辰景は、伴奈と付き合う中で多額の金を費やし、美容やショッピング、内面の向上までさせた。その結果、平凡な生まれの伴奈が、あたかも名家で育てられた気品ある令嬢のように見えるようになっていた。辰景の人生は常に駆け引きの渦中にあるが、ただ伴奈のそばにいる時だけ、彼は久しぶりの静けさを感じることができた。しかし今、彼の鎮静剤とも言うべき存在は、もはや壊れていた。伴奈は、辰景が長く黙ったまま動かないことにいら立ちを覚える。鼻を突く煙草の匂いがさらにその感情を煽る。声には怒りが滲んだ。「煙草の臭いがする。嫌い、早く服を着替えて」だが今回は、いつも彼女の願いを聞いていた辰景が、なかなか動こうとしない。代わりに、一見関係のない質問をした。「三年前……どうやって俺が結婚するって知ったんだ?」「もう三年前のことよ。あなたが私に与えた傷は許した。今さら昔のことを蒸し返して何がしたいの?」伴奈は淡々とした表情を保とうとしたが、布団の中の手は、知らぬ間に恐怖で拳を握りしめていた。辰景が突然この話を持ち出した意図がわからず、彼女は戸惑いを覚える。そして、今の辰景は彼女に恐怖を感じさせた。まるで次の瞬間、獲物の喉笛を無情に噛み切ろうとする、牙を剥いた狼のようだ。その獲物が、まさに彼女自身なのである。だが伴奈は知らない――自分が巧みに隠したつもりの感情が、すべて辰景に見透かされていたことを。辰景はわずか二十歳で堀グループの社長となった。その能力は侮れない。以前は伴奈がすべて良く見えたのは、愛というフィルターを通していたからだ。しかし今、彼は調査した情報を思い起
Read more

第14話

「……三年前、俺が結婚したことは、誰にも知らせずに進めたんだ」長い沈黙の後、伴奈の意識が朦朧とする中、辰景はついに口を開いた。でもその言葉は、伴奈を氷の穴に突き落とすようなものだった。辰景は伴奈を解放すると、今度は優しく彼女の頬を撫でた。二人の動作は明らかに親密で曖昧だったが、伴奈はただ死にそうな気分になるだけ。辰景は淡々と語り続ける。「結婚式は意図的にお前に隠した。俺の親しい友人と堀家の者以外、あの場には蚊一匹すら入れなかった。どうやって知った?どうやって別れる知らせを俺に伝えた?この三年間、お前はまるで姿を消したように、俺がどれだけ手配を尽くしても足取りが掴めなかった。言ってみろ……どうやって堀家の世界中に張り巡らされた情報網をくぐり抜けた?三年後、なぜちょうど悠依の父親が転落した日、お前は突然現れ、偶然にも俺の秘書の目に留まり、しかも俺を呼び出して気を散らせ、悠依に金を渡す機会を逃がさせた?」辰景の口調はだんだ、重く圧迫感を増していく。伴奈は怖くて首を振るしかない。ついには声も出ず、涙が止めどなく流れ落ちた。絶望の気配が、狭くもない部屋の中に満ちていく。辰景は突然、昔の自分は大馬鹿者だと思った。かつては伴奈を深く愛していたから、彼女の言うことは何でも信じた。どんなものでも甘んじて受け入れた。しかし今、伴奈にかけられていたフィルターを外したとき、辰景は初めて気づいた。――この人は、実に疑点だらけだと。……辰景の秘書は堀家の全力を使い、すぐに調査結果を出した。伴奈の元夫は、林太郎の妻の遠縁の叔母の息子で、伴奈と彼は小学校の同級生、いわば幼なじみだ。そして伴奈の登場は、まさに辰景のために仕組まれた計画だった。伴奈の性格や嗜好、初めて出会った場面に至るまで、すべて綿密に設計されていた。当時、伴奈が読んでいた本のページすら、辰景向けに準備されたもの。当時、堀家では本家と分家の争いが絶えず、辰景の父親は仕事に専念して家庭を顧みず、芳江も長年の争いで疲れ切り、この家への愛を失っていた。そんな冷たい家庭で育った辰景は、愛情を渇望していた。その時、辰景には文通相手ができた。彼女は春風のように、彼の眉間のしわを和らげてくれた。長年の手紙のやり取りの後、辰景はようやく会うこと
Read more

第15話

辰景が伴奈を追いかけた五年間、そしてその後悠依を傷つけた三年間――合わせて八年の歳月は、すべて安人たちによって仕組まれた罠だった。この事件で最も無実だったのは悠依で、そして最も悲惨なのは、正道の転落死だった。全ては安人の仕業だ。悠依に諦めさせ、伴奈に席を譲らせるための演出だった。辰景が堀グループ社長になったことで、安人が長年かけて築いた計画は水の泡になった。だから彼は辰景を苦しめるために、海野家父娘の不幸を利用し、伴奈の手助けで復権を目論んだ。辰景は思った――自分は悠依に、申し訳ない、と。立ち上がると、彼は手をハンカチで嫌悪感を込めて拭い、冷たくボディーガードたちを睨んだ。「仲程を連れて行け。そして悠依が味わったすべてを、倍返しで彼女に味わわせろ!」……その後の一週間、伴奈は深い悪夢の中に置かれた。一日目――彼女は十メートルのバンジージャンプ台に送られ、十回も飛ばされた末にようやく降ろされた。吐き気に耐え、命を削るような苦しみの中、口をゆすぐための一杯の温水さえ与えられなかった。二日目――伴奈は椅子に縛られ、庭に座らされ、ボディーガードが頭上から百桶もの水を浴びせた。そしてその水は彼女に用意されたという「薬草水」と同じ、汚水そのものだ。強烈な悪臭に伴奈は気絶して、半死半生の状態でICUに三日間横たわり、ようやく退院を許された。六日目――伴奈は強心剤と栄養剤を打たれ、かつて講演した母校へ連れて行かれた。全世界の面前で、彼女の仮面は剥がされた。実は彼女は名門大卒などではなく、中学を中退して働いていた、口先だけの能力で林太郎に拾われ、訓練され、利用された詐欺師だった。伴奈の名誉は失墜し、誰もが叩く対象となった。この時点で伴奈の精神状態はすでに不安定だったが、辰景は決して彼女を放そうとはしなかった。最終日――彼は伴奈の元夫を海外から呼び戻し、二人に薬を盛った。全世界に向けてライブ配信され、この二人は数千万の人々の前で醜態を晒した。伴奈が目覚めると、自分の醜態がネット中に拡散しており、泣き笑いする狂乱状態に陥った。彼女は飛び降りようとしたが、辰景が手配したボディーガードに止められた。椅子に座り、気楽に煙草を吸う辰景を見た伴奈は、狂気じみた顔で怒鳴った。「堀辰
Read more

第16話

辰景が立ち去った後も、伴奈の嘲笑うような視線が頭から離れなかった。何かが胸騒ぎを起こさせ、この先のことが完全に制御不能になるのではないかという予感がする。しかし今は、そんなことに構っている暇はない。会社はほぼ全面的に麻痺状態に陥っていたから。悠依のライブ配信から、すでに丸一週間。堀家の技術チームは、いまだに悠依の居場所を突き止められていない。どうやら、彼女の現在の居住地には相当なファイアウォールが構築されており、誰かが常に仮想IPを付与して検索を妨げている可能性が高い。だが、悠依の告発やライブ配信による余波は、堀グループに対して計り知れない悪影響を及ぼしていた。まず、堀グループ傘下のすべての製品が、ネット民による自発的なボイコット対象となり、悪意ある返品要求まで発生した。さらに、長年堀グループと取引してきた協力企業のうち、情勢を見て損失を承知で契約を解除する者まで現れた。わずか一週間のうちに、堀グループの業界内外での評判は急落し、株価は暴落し、株主の不満は高まり、一部は公開の場で堀グループの株を手放した。また、辰景の父親と同年代で、辰景の成長を見守ってきた古参従業員の中には、辰景の解任を求める投票を提起する者もいる。しかし、辰景はまだ三十歳に過ぎないものの、幼少期からの経験で悟っていた――自分が冷酷でなければ、この家での存在価値はなく、いつか必ず見捨てられる運命にあると。そのため、彼の深謀遠慮で、古参たちさえも完全に不意を突かれた。結局、辰景に対するあらゆる非難は、彼の素早くて強力な手段で徹底的に鎮圧された。その代償として、辰景は丸一週間ほとんど休むことなく、煙草とコーヒーだけでしのいだ。普段、彼はあまり煙草を吸わず、煙の匂いを嫌っていた――商談時の印象に影響するから。しかしこの一週間、彼が吸った煙草は平常の半年分に匹敵し、部屋中がもうもうと煙に包まれている。しかも、この一週間の毎日の平均睡眠時間は四時間に満たず、まさに命を削るように働いていた。社員たちは皆、悠依に不満を抱いていたが、辰景がすべて抑えていた。彼は聖人ではない。悠依のやり方は容赦なく、冷酷非情だったことに対して怒りを覚えたこともある。だが、悠依の体に刻まれた傷を思うたび、彼の怒りはまたすぐに消えていった。それはすべ
Read more

第17話

道中、辰景はまだ疼く胃を押さえながら、かすれた声で秘書に問いかけた。「なあ……あの時、悠依が三階から落ちたとき、俺より百倍も痛かったんじゃないか?」秘書はその問いに直接答えなかった。代わりに、一見関係のないことを口にした。「社長、数日前、遊園地で仲程さんを救おうとして怪我をなさいましたね。彼女は手術が終わるとすぐに去りましたが、海野さんは鎮痛剤を飲みながら、夜通し社長のお世話をしていらっしゃいました」辰景は秘書の言葉を聞き、胸が針で刺されるような痛みを感じた。その痛みは重くのしかかり、息も詰まるほど。あの遊園地の件で、彼は悠依に深く申し訳ない気持ちでいっぱいだった。もしあの場所が彼女にとってどれほど大切かを知っていれば、伴奈の無理な要求を決して受け入れなかった――たとえ当時、彼が伴奈を心底愛していたとしても。しかし辰景は、悠依が自分にこれほど傷つけられたにもかかわらず、病院で看病してくれていたとは夢にも思わなかった。一方、彼は伴奈に全てを捧げ、心の底から尽くしたいと思っていたのに、彼女はその真心を一度も真剣に受け止めようとしなかった。その瞬間、過去に辰景が悠依に対して行った冷酷な仕打ちが目の前に鮮明に浮かんだ、まるで彼を嘲笑うかのように。辰景は三年前に戻り、もう一度悠依と知り合って、無限の愛情を注ぎたいとさえ思った。あるいは、かつて悠依にしたすべての行為を、今度は自分自身に味わわせたいとも考えた。――自分が痛むことで、初めて彼女は癒され、許してくれるかもしれない。だが、それも叶わない。この会社と家族の全ては、彼一人で支えている。懺悔のためだけに、会社を放棄するわけにはいかない。しかし、悠依の復讐を手助けすることはできる。……そう考えているうちに、車は堀家の旧宅に到着した。かつては堂々とした百年の名家の邸宅も、今はどこか重苦しい雰囲気に包まれている。別荘の周囲には鉄格子が設置され、訓練された警備員が巡回している。内部には高度な信号遮断設備も整えられ、ネット接続は全くできず、中の人間は事前にダウンロードされたコンテンツしか閲覧できない状態っだった。そのため、辰景が邸宅に入った時、すでに気が狂いそうになっていた芳江が飛び出してきて、彼の襟をつかみながら訴える。「辰景、私はもう丸一週
Read more

第18話

芳江はゆっくりと手を放し、よろめきながら二歩後退する。声を震わせて問いかけた。「あなた……もう全部知っているの?」辰景は一歩ずつ詰め寄りながら言う。「俺だけが知っているんじゃない、世界中が知っているんだ。堀家の奥さんが、一人息子のために他人を家ごと滅ぼすよう仕組んだことを。母さん、この三年間、悠依は毎日あなたのそばで仕え、日々孝行を尽くしてきたんだろう。母さんが三年間も俺に隠していたことは、もういい。だが、どうしてそんな彼女があなたの前であれほど卑屈に振る舞うのを、平然と見ていられたんだ?」最後の言葉に、辰景の声には冷たい響きがにじみ、むしろ問い詰めるような、歯ぎしりするような意味さえ込められていた。精神的に追い詰められていた芳江は、この詰問に耐えきれず、あっという間に崩れ落ちた。彼女は理性を完全に失い、声を鋭く尖らせて叫んだ。「私が……そうしたのはあなたのためじゃないの!」彼女は悲嘆に暮れる。「堀家のこの代、表向きはあなた一人だけど、実際にはあなたのお父さんには外にあなたと同年代の私生児が何人もいるのよ。あなたがあんなに勝手に、仲程を追いかけて家を出ると言ったとき、私が守ってやらなかったら、どうする?」話すうちに、芳江の声は泣き声に変わり、辰景を驚かせた。物心がついて以来、芳江が泣くのを見たのは、辰景の父親の浮気を知った最初の時と、辰景が事故に遭った後だけ。しかし今、芳江は涙とともにますます悲しみに沈み、言葉もまとまらなかった。「あの時、海野家に少し手を加えて、正道に娘を嫁がせようとしただけ……まさか……」彼女は言葉を途切れ、目の奥の後悔が彼女を飲み込むかのようだった。「海野家が……これで破産するなんて」辰景にとって、もはや不明な点は何もない。芳江は他人に手配を任せ、自分は背後に隠れていた。彼は深いため息をつく。「母さん、今日からここにいて。心を込めて仏に祈り、よく反省して。徐々に人と設備は撤去する。小林おばさんの言うことはもう信じるな」小林とは芳江の親友で、堀家に一緒に嫁ぎ、安人の妻となった人物だ。芳江は守られすぎてはいたが、決して愚かではなく、辰景の言葉の真意を理解する。――かつて海野家に手を加えたのは小林家の人脈を借りたもので、親友は夫のために彼女を欺いた。芳江はソファに倒れ
Read more

第19話

彼は確かめたかった――悠依が、自分の魂を縛り付け、夢にまで現れるあの女性なのかを。ついに、書斎の隅で一冊の手作りの帳簿を見つけた。それは、彼が印刷用に使った廃紙を裁断して綴じたものだ。ページをめくると、女性の文字は、彼女自身のように、繊細で優しく、それでいて芯の強さを感じさせる。帳簿にはこう記されていた。「3月18日、家事を完成、100円」「3月19日、体調不良、最安の風邪薬を購入、10円」「3月20日、昔の先生が私の絵を買いたいと言ってくれた。一番気に入っていた作品、今では200万で取引される。嬉しい。今後もこんな機会があればいいな」「……」帳簿というより、むしろ悠依の心の歩みというものだ。辰景はこの平穏な文字を握りしめながら、心臓が見えない手に繰り返し締めつけられるような感覚に襲われる。悠依のことについては、以前から耳にしていた。社交界で最も優雅な令嬢、舞台上で不屈のダンスの精霊、学問を一身にまとった才女……もし家運が没落せず、正道の手厚い養育のもとで育ったなら、悠依の人生は今とは想像もつかないほど輝かしかった。それが今、陰謀と芳江の身勝手、そして彼自身の怒りによって、すべてが破壊されてしまった。最後のページには、新たに小さな文字でこう記されていた。「堀辰景、これを見たとき、私たちはすでに決別し、二度と会わない」辰景は床に崩れ落ち、絶望が心を侵食する。――そうか……悠依は、とっくに彼だと気づいていた。そして、盲目で愚かな自分は、最も大切な人をみすみす逃していた。「悠雲」――あの気高く冷静で、それでいて若々しい活力を持つ、彼の文通相手の少女。この名前と普段の口調からして、平凡な伴奈などではあり得ない。胸を引き裂くような絶望が辰景を飲み込む。彼は仰向けに倒れ、血を吐き、完全に闇に呑まれた。……一年後、花の香りあふれる小さな町で、悠依は長袖のロングドレスを着て、自ら育てた花の前に立ち、柔らかく微笑んでいる。この花は高価ではない。ある日散策中、100円で野の花を売る子供たちから買ったものだが、彼女にとってはかけがえのない宝物だった。実は、彼女にとって、すべての花は大切で、手をかけ、絵に描き留めることさえ惜しまない。それは生命の象徴であり、自由の象徴でもある。
Read more

第20話

風が吹き、悠依の前に置かれた線香の煙が揺らめく。背の高い颯爽とした影が彼女のそばに近づき、自然に腰をかがめて花を手伝いながら言う。「腰が痛いんだろ?俺が運ぶよ。やっぱり小さなベランダに置くのかい?」悠依は彼の顔を見ると、思わず微笑んだ。「違うの、今日は隣のおばあちゃんの家に持っていくの。花の香りを楽しみたいって言うから」西園寺則行(さいおんじ のりゆき)はまず彼女の笑顔を少し見つめ、その後口元を緩めて頷いた。悠依が今住む場所は、もはや辰景の元を逃れてライブ配信をしたあの町ではなかった。ここは則行が後に厳選して手配した場所で、周囲に住んでいる人は全部善良な方だった。この地域に住む人々は、ほとんどが高齢でネットを使わない方々が多く、若者たちも彼女の過去に干渉せず、無責任な発言をすることもない。悠依はここで、ようやく心安らぐ日々を送れるようになった。……則行の存在も、なかなか興味深いもの。悠依には二人の文通相手がいた。一人は辰景、もう一人は、あの事件後に自ら探し出した則行だ。悠依が辰景の隠された素性に気づいたのは、ほとんど出国する直前のことだった。当時の彼女の精神状態は非常に不安定で、少年時代に最も会いたかった文通相手がこれほどまでに堕落していることに衝撃を受けた。彼女の世界には誰もおらず、もはや誰にも心を開けなくなっていた。その後、海外のカフェでアルバイトをしていた際に偶然出会った則行にも、すぐには自分だと明かさなかった。再び傷つくことを恐れたから。しかし、客のために書いた願い札の筆跡で、則行が彼女の身分をすぐにわかった。その日の午後、則行は仕事を終えた悠依をカフェの外で待ち、名乗り出ようとした。だが、悠依の反応は激しく、取り乱して逃げ出し、声も震えていた。則行は彼女の変化に気づき、これ以上激しい行為をしなかった。ただその後、時折この店にコーヒーを飲みに来るようになり、言葉が通じずにトラブルを起こす客がいた時も、いくつか解決を手助けしてくれた。徐々に悠依も心を開き、過去のことを少しずつ話すようになる。同じ国の出身で、長年文通を続けた間柄でもあったため、二人はすぐに打ち解け合った。二か月前、則行は彼女の誕生日を祝う名目で、電車に乗ってこの町まで一緒にやってきた。その日に
Read more
PREV
123
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status