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《血と束縛と》全部章節:第 1361 章 - 第 1370 章

1382 章節

第39話(17)

 下から内奥を突き上げられて、和彦は背を反らす。信じられないほど腹の奥に、熱い塊を感じるのだ。圧迫感に苦しんでいると、賢吾がうなじに唇を押し当てながら、胸元や下腹部にてのひらを這わせてくる。正面には、千尋がいた。向けられる強い眼差しに羞恥して、つい顔を背けると、それは許さないとばかりにすぐ側まで這い寄ってきた。 賢吾と千尋の手によって両足を立てて広げた姿勢を取らされる。身を起こして濡れて震える欲望も、賢吾に貫かれてひくつく内奥の入り口も、すべて千尋に見られてしまう。こういう状況は初めてではないが、やはり激しい羞恥は覚えるし、そこに背徳感も加わる。厄介なのは、和彦は羞恥と背徳感と非常に相性がいいということだ。 耳元に唇を寄せた賢吾が、ひそっと囁きかけてくる。「千尋に見られて、興奮しているだろ。中が、うねるように蠢いている。本当にお前は性質が悪い。俺を咥え込んだ途端、千尋を欲しがるんだからな」 そのまま耳の穴に舌先が潜り込み和彦が身を震わせると、賢吾に腰を掴まれて揺すられる。伸びやかな喘ぎ声を上げると、すぐ目の前までやってきた千尋に唇を塞がれる。 差し出した舌を千尋と絡め合いながら、賢吾には緩慢な動きで内奥を突き上げられていた。父子から与えられる快感のリズムが体の中で同調して、和彦は惑乱する。「んうっ」 下肢に千尋の手が伸び、賢吾と繋がり、擦れ合っている部分をまさぐられていた。たったそれだけの刺激を、快感で満たされていた和彦の体は耐えられなかった。ビクビクと腰を震わせて、二度目の精を先端からこぼす。見えなくても、内奥の反応でわかったらしく、賢吾が低く笑い声を洩らした。「イッたか、和彦」 あごを掴まれて促され、千尋と絡めていた舌を解くと、今度は賢吾に唇を塞がれる。激しく唇と舌を吸い合う間も、千尋の指先が繋がった部分をなぞってくる。まるで、無言で何かをせがむように。それを賢吾も察したようだった。唇を離すと、柔らかな苦笑を浮かべて言った。「お前が甘やかすおかげで、うちの跡目はどんどんワガママになっていく」 賢吾の指先も繋がった部分に這わされ、和彦は吐息をこぼす。「――とはいえ、俺もお前が欲しくてたまらねーんだ」 忌々
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第39話(18)

 痛みで意識が朦朧として、自分が今なにをしているのかわからなくなるが、皮肉にも、和彦の意識を正常に戻すのは、賢吾と千尋から与えられる痛みだ。正直、憎たらしいという気持ちさえ湧いてくる。「んっ……」 背後からゆっくりと突き上げられ、千尋の胸に手を突いて体を支える。限界以上に広げられた内奥で、父子の欲望が擦れ合い、せめぎ合っている。仲がいいのかそうでないのか、よくわからない関係だなと思ったところで、気がつけば和彦は口元に淡い笑みを湛えていた。千尋が惚けたような顔で見上げている。「和彦――」 千尋が片手を伸ばして、顔に触れてくる。唇をなぞった指が口腔に押し込まれてきたので、和彦は従順に吸ってやり、舌を絡める。一方の賢吾は、欲望を扱く手の動きを速めた。 父子は和彦の体を蹂躙しながら、献身的な愛撫を施してくる。痛みも快感も体に刻み込めと言うかのように。「あっ、あっ、嫌、だ……、ゆっくり、してくれ……」「してるだろ。ゆっくり、お前の体を愛してやってる」 賢吾に背後から突き上げられるたびに、頭の先まで駆け抜けるような痛みが走る。苦しくて堪らないが、二人の男の欲望を自分が包み込んでいるという実感は、奇妙な高揚感を生み出してもいた。苦痛から逃避するための錯覚だろうかと、ぼんやりと考えもするのだが、それで賢吾と千尋が悦ぶのであれば、なんでも受け入れてやりたかった。 自分は、この痛みは愛してやれるという確信が、和彦にはあったのだ。「ふっ……、んっ、んんっ」 耳元で感じる賢吾の息遣いが切迫してくる。和彦はぎこちなく顔を動かし、賢吾と唇を吸い合う。一方で、千尋とはしっかりと手を握り合う。 時間はかかったが、父子は和彦の中でそれぞれ精を吐き出した。** ひどい有り様だと、浴衣に包んだ体を布団に横たえて、和彦はぐったりとしていた。仰向けになれないのは、もちろん理由がある。体を横向きにしていても、腰が――いや、全身が痛い。 こうなった原因である男はすぐ隣で横になり、さきほどから和彦
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第39話(19)

「あんたにも会長にもまだ言ってなかったことがある。……父さんに脅されたんだ。総和会全体を相手にするのは無理だが、一つの組を弱体化させる手段ぐらいは持っているって。どういう手段なのかはわからないけど、今はあの人を刺激したくない。やると言ったら、本当にやる人だから」「なるほど。先生が父親と会った日に、安定剤を飲んで泣きじゃくっていた本当の理由は、それか。――怖かったんだな」 今度は賢吾の手が頬にかかり、息もかかる距離まで顔が近づく。さきほどまで強い情欲を滲ませていた目には、今はひどく理知的な光が宿っていた。その奥からうかがえるのは、警戒する大蛇の気配だ。「安心しろ。俺は臆病で慎重な蛇だ。無闇やたらと獲物に飛びかかったりしない。先生の背中に張り付いている犬っころも、同じだ。世間知らずだが、相手を見定めるぐらいの頭はある」 返事のつもりか、千尋が肩先にぐりぐりと頭を擦りつけてきた。和彦はふっと表情を和らげ、腰にかかった千尋の腕をそっと撫でてやる。 賢吾と千尋を愛しいと思うし、この二人から向けられるときおり窒息しそうになるほどの強い執着心や独占欲すらも、心地いいと感じる。できることなら和彦は、守りたかった。自分が非力であると自覚しながらも。 だからこそ、今できることは――。 短く息を吐き出し、ひたと賢吾の目を見据える。「何かに使えるかもしれない切り札がある。多分、この切り札を使えば、佐伯家から簡単に金を引き出すことができると思う。それと、和泉家からも」「和泉家……。確か先生の母親の旧姓だったな」「やっぱり、きちんと調べてあったんだな」 皮肉ではなく、素直に感心して見せると、賢吾が複雑そうにわずかに唇を歪めた。「けっこうな資産家らしいな。山林や不動産を多く所有して、地元で絶大な影響力を持っているとか。佐伯家の血筋も立派なものだが、和泉家のほうもかなりのものだ。莫大な資産は、順当にいけば先生の母親に、そして先生たち兄弟に受け継がれていく。確か、先生たち以外に、直系の人間はいないんじゃなかったか?」「……今の当主は祖父で、娘が二人いた。三つ
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第39話(20)

 ああ、と賢吾が声を洩らす。すべてが腑に落ちたという声だった。さきほどから黙ったままの千尋は、険しい顔つきで和彦の髪に触れてくる。その行為の意味をなんとなく想像して、和彦は笑ってしまった。「別に、ぼくは自分の生い立ちをいまさら不幸だとは思ってないし、落ち込んでもない。今、こうして話したのは、長嶺組の組長と跡目に、利用してほしいと思ったからだ」「利用?」 首を傾げた賢吾の手を、ぐっと握り締める。両目に力を込めて和彦は告げた。「もし父さんが、長嶺組やあんたたち父子に何かしようとするなら、この話を取引の材料にしてくれ。ぼくという証拠も一緒に。さすがの父さんでも無茶はできない――と思いたいが、どうだろう。なんとも思わないかもしれない。でも、佐伯家の事情を何も知らないよりは、マシだろう」「……お守り、ということか。だが、先生がさっき言ったように、二つの名家から、俺たちが金を引っ張ることもできる。本当に話してよかったのか?」「ぼくの誠意として話したことだ。あんたがどう扱うかは、任せる」 大蛇の警戒がふっと緩むのを感じた。その証拠に、賢吾が柔らかな声でこう返した。「誠意という名の、先生からの愛情だな。――粗末に扱ったら、バチが当たる」「別に……、恩に着せるつもりで話したんじゃないからな」 わかっていると言うように、賢吾に手を握り返された。 和彦は、ずっと背負っていた重荷の一つを下ろしたような感覚に襲われていた。楽になった反面、自分の選択に正直不安は覚えている。誰かに、自分の選択は間違っていないと肯定してもらいたかった。 揺れる心情が表情に出たのか、賢吾と千尋が顔を覗き込んでくる。誤魔化すように和彦は頼み事を口にしていた。「――……体を拭いてもらったけど、やっぱり、湯を浴びたい」「一人じゃ危なくて、この部屋のシャワーは使えねーだろ、先生。とはいっても、狭いから二人入るときついだろうし……。よし、この時間でも家族風呂に入れるか聞いてくる。三人で入るぞ」 そう言って賢吾が立ち上がり、止める間も
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第39話(21)

**** 佐伯俊哉という人物を語るうえで欠かせないものの一つに、華やかな交友関係があった。 社会的地位の高さと家柄のよさ、何より自身の魅力的な容姿を、俊哉は実に効果的に活用している。野心を満たすために人脈を作り上げ、味方――というより使える手駒を増やす。佐伯家で頻繁に行われていた〈勉強会〉への参加者は、そのまま俊哉の信奉者たちだった。 人を惹きつける笑顔も弁舌も、己の利得のためなら惜しまない俊哉だが、反面、家族に対しては非常に素っ気なかった。冷淡と言ってもいいかもしれない。 そんな俊哉を尊敬し、憧憬の情を抱く兄の英俊とは違い、和彦はまったく親しみを覚えることはなかった。 だが俊哉には、家庭でも職場でも見せない、また別の顔があると、些細な出来事から気づくことになる。 控えめな男性用のコロンしかつけない俊哉が、ある日の深夜に帰宅したとき、やけに甘ったるい香りをまとわりつかせていたのだ。まだ子供だった和彦だが、それが女性からの移り香だと気づいた。香りは日によって種類が変わり、ときには俊哉宛てに女性の声で電話がかかってくるときもあった。 六つ歳の離れた英俊はどういう状況なのか、和彦よりも早くすべてを理解しており、俊哉に向けられない苛立ちや嫌悪感という感情を、和彦にぶつけてきた。俊哉を尊敬しているからこそ受け入れ難い現実を、不義の子である和彦にすべて背負わせ、痛みを与えることで紛らわせていたのだ。 母親は、それを知りながら見て見ないふりをした。元凶ともいえる俊哉を、責めもしなかった。佐伯家の内情は歪で、淀んではいたが、それぞれのやり方で、完璧な家庭の形だけは保っていた。 そして和彦は、完璧な佐伯家の中では異物だった。それでも、とりあえず普通の子供として成長できていたのは、俊哉だけは、血縁者としての情を示してくれたからだ。ただしそれは、優しさとも穏やかさとも違うものだった。 俊哉は普段、和彦の存在など目に入らないかのように振る舞っていたが、ときおり気まぐれに書斎に招き入れてくれた。書斎は特別な場所だ。優秀な英俊ですら立ち入りを許されなかったぐらいだ。 一定の距離を取って向き合う形でイスを置き
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第39話(22)

 声を洩らして、ゆっくりと瞬きをする。夕食後、入浴を済ませてから客間に入り、総和会から回ってきた書類に目を通していたのだが、堪らなく眠くなってきて、少しだけのつもりで横になったのだ。 体調が悪いわけではなく、単に昼間、クリニックが忙しかったせいだ。寒くなってきて、肌を露わにする機会がめっきり減ると、この間に肌のトラブルを解決しようという患者の数が増えてくる。もちろん、美容整形の施術目的の患者も訪れるため、朝から晩まで予約で埋まり、息つく暇もない。 忙しいと余計なことを考えなくて楽な部分もあるのだが、和彦の帰宅時間が遅くなると、少々機嫌が悪くなる男たちがいるのだ。 身を起こした和彦は、このときになって自分が寝汗をかいていることに気づく。布団もかけていなかったため、暑かったというわけではない。 ふっと息を吐き出して、夢見が悪かったなと、心の中で呟く。俊哉と対面してから、子供の頃の記憶が、やけに鮮やかに夢の中で蘇る。和彦にとっては、はっきりいって嬉しいことではない。強烈な恐怖と不安という感情に、いつも夢の中で足首を掴まれているようなのだ。 自分が抱えた秘密を賢吾と千尋に打ち明けて、何かが大きく変わったということはない。二人は相変わらず、和彦を大事に扱ってくれるし、それが過ぎて過保護なほどだが、それはいつものことだ。むしろ変わったのは、和彦のほうだろう。 佐伯家を捨てた自分というものを、漫然とながら考えるようになっていた。そして、そんな和彦を引き留め――咎めるように、子供の頃から積み重ねてきた俊哉とのやり取りを、夢に見てしまう。 これは父親に対する情の現れだろうかと考え、和彦は身を震わせる。怖かったからではなく、寝汗が引いて急に肌寒くなったからだ。 体にかけていた茶羽織に袖を通し、もそもそと這って布団の上から下りる。再び文机に向かう気にもなれず、だからといって買い込んで積んである本を読む気分でもなく、なんとなく客間を出ていた。 ダイニングでコーヒーを飲もうと思っていたが、廊下を歩いているうちに気が変わった。途中で会った組員に、賢吾が帰宅しているかを確認して、向かう先を変更する。 声をかけて部屋に入ると、寛いだ格好で賢吾が座卓につき、携帯電話を手にして
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第39話(23)

 肩にかかった賢吾の手が動き、ゆっくりと腕をさすられる。ますます引き寄せられ、ぴったりと賢吾に身を寄せると、浴衣の衿の合わせからさりげなく片手が侵入してくる。甘く淫らな予感に、ズキリと和彦の胸が疼く。「うちとしては、もっと甘えてもらってもいいぐらいなんだがな」「ときどき、たっぷり甘えさせてもらうから、いいんだ。すごくほっとできるし、ここは居心地がいいと実感できる」「先生は、一人で過ごす時間が必要か。……俺たちとは違う、繊細な生き物だからな。無理に閉じ込めて、窒息させたくない」 ぐっと手が深く差し込まれ、荒々しい手つきで胸元をまさぐられる。和彦は思わず賢吾の膝に手をかけた。「千尋は、まだ帰ってないのか……?」「なんだ。三人で楽しみたかったのか」「違っ……。何度でも言うが、宿でのようなことは、二度と嫌だからな。本当に、あとが大変で――」 こちらは必死で訴えているというのに、賢吾はニヤニヤと笑っている。「大変なのは、俺もだな。一週間以上、先生と一緒に寝られない。隣にいると、寝ぼけて襲いかかっちまいそうで」「……それの何が大変なんだ」「蛇の生殺しって言葉があるだろ。毎晩、俺はそれを味わってる」 刺激され続けているうちに、胸の突起が硬く敏感に尖る。さんざんてのひらで転がされたあと、賢吾の指先に捉えられ、和彦は喉の奥から声を洩らす。誘われるように顔を寄せてきた賢吾と唇を重ね、柔らかく吸い合う。「千尋は用があって今夜も泊まりだ。総和会とは別件でな。あいつも、呼ばれたらあちこちに顔を出す立場になったんだ。そうやって顔を広めてから、満を持して、長嶺組の正当な跡目として披露できる。それまでは、長嶺組の坊ちゃん扱いだな」「それでもここのところ、それらしくなった」「極道らしくなった、ということか?」 どうかな、と返事を濁すと、短く笑った賢吾に軽く唇に噛みつかれた。囁かれて、促されて立ち上がった和彦は、肩を抱かれながら隣の部屋へと移動する。 すでに延べられていた布団の上に押し
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第39話(24)

 和彦の体の強張りを感じ取ったのか、機嫌を取るように今度は内腿にてのひらが這わされ、撫でられる。力を抜けと言われているようで、和彦はおずおずと息を吐き出した。 片腕が腰に回されて、持ち上げられる。賢吾に望まれるまま、腰を突き出した扇情的な姿勢を取った。尻の肉を強く揉まれながら、和彦は全身を熱くする。わざわざ背後を確認しなくとも、賢吾がどこを凝視するのかわかって――いや、感じていた。「やっぱりまだ、少し腫れているな。いつもより、赤みが強い。……あのとき、血も出ていたしな」 内奥の入り口を軽くくすぐられる感触に、和彦は大げさなほど腰を震わせる。「だが正直、血を流している先生の姿に、興奮した。多分、千尋もな。痛みに弱い先生が、俺たちのためにここまでして耐えてくれたのかとな。あとは純粋に、先生に血の赤さが映えていたんだ」「……危ない父子だな」「そうだ。俺たちは危ないんだ。何かの拍子に、簡単に狂って、猛るぞ」 ひくつく内奥の入り口に、熱い息遣いが触れる。ゾクゾクするような興奮が和彦の全身を貫き、尾を引く喘ぎ声をこぼしていた。「あっ、あぁっ……。んんっ、んっ、んくっ」 熱く濡れた舌先が繊細に蠢き、内奥の入り口を優しくくすぐってくる。与えられる感触はささやかながら、どこを舐められ、その様をしっかりと間近から見つめられているのかと考えると、全身が震えてくる。同時に、嫌でも情欲が高まり、感覚が鋭敏になる。 無意識に腰が逃げそうになるが、容赦なく尻を叩かれた。「逃げるな。消毒できねーだろ」「そんなっ――」 抗議の声は、あえなく吐息となる。内奥にわずかに押し込まれた舌先の感触に小さく悲鳴を上げ、突き出した腰を揺らす。和彦の痴態に感じるものがあったのか、賢吾の片手が両足の中心に入り込み、慣れた手つきで柔らかな膨らみを愛撫し始める。「くうっ……ん、そんなところまで……」「可愛くて健気なオンナのためだ。いくらでも感じさせて、悦ばせてやる。遠慮せず、いくらでも腰を振って、いや
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第39話(25)

** 覚束ない足取りで和彦が客間に戻ったのは、日付も変わった夜更けだった。だるい体でなんとかシャワーを浴びてから、一緒に寝たらどうだという賢吾の誘いを振り切った結果だ。 あの男の側にいたら、いつまで経っても情欲が鎮まらないという危機感があった。それこそ、精が尽きるほど賢吾の手と口で果てたというのに、いまだに胸の奥で燻ぶるものがあるぐらいだ。到底、隣で穏やかに眠れるとは思えない。 和彦はふらふらと畳の上にへたり込み、熱っぽい吐息を洩らす。さすがに今夜はもう、堅苦しい書類に再び目を通せる集中力はなかった。部屋の電気を消す前に、明日の出勤の準備を整えておこうと文机に這い寄ったところで、あることに気づく。「あっ……」 出したままにしておいた携帯電話二台のうち一台に、着信表示があった。里見との連絡用に使っている携帯電話だ。一瞬、和彦の脳裏を過ったのは、いよいよ俊哉から連絡がきたのかということだった。履歴を見る限り、里見の携帯電話からかかってきたようだが、慎重にならざるをえない。 無視することもできず、おそるおそる折り返し連絡をしてみると、すぐに呼出し音は途切れた。『――ああ、よかった。かけてきてくれたんだね』 聞こえてきた里見の穏やかな声に、心底ほっとした。前回、連絡を取ったときは、里見のもとに誰かが訪れた様子で、妙な空気で電話を切ったのだ。「里見さん……。ごめん、こんな遅い時間に。もう休んでたんなら、日を改めるよ」『気にしないでくれ。おれのほうこそ、驚いた勢いで電話をかけたから、君の事情をまったく考えてなかった。……今、話して大丈夫?』 里見の口ぶりが気になり、和彦は咄嗟に質問で返していた。「……驚いたって、里見さん、何かあった?」『今日……、もう昨日になるけど、君のお父さんに会ったんだ。話があると言って呼ばれて』 俊哉の話題が出た途端、心臓を締め付けられたような苦しさを感じた。和彦は硬い声で応じる。「そう、なんだ…&h
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第39話(26)

『迷惑をかけられたとは思ったことはない。いつだっておれは、和彦くんのことを心配しているだけだ』 里見の優しさが、心に絡みついてくる。昔なら素直に受け入れられたかもしれないが、大人となった和彦にはそれはあまりに甘すぎた。わずかな忌避感を覚えるほどに。「――……里見さん、すっかり〈おれ〉に戻ったね。やっぱりそのほうが、ぼくの知っている里見さんらしいよ」 電話の向こうで、里見は数秒ほど言葉に詰まった様子だったが、すぐに笑い声を響かせた。『また君に会いたいよ。君と一緒に過ごせていた頃が、おれは一番楽しかったし、充実していた』「機会があれば、そのうち」 返事として正しいのかよく考える間もなく、和彦はそう答えていた。そして、逃げるように電話を切る。こうでもしないと、いつまででも里見と話し込んでしまいそうだったのだ。 携帯電話を充電器にかけてから、やはりどうしても気になり、障子を開ける。もちろん、廊下に人の姿はなかった。**** 予約状況で想像できていたが、今日もクリニックは忙しかった。 ありがたいことではあるが、いつ長嶺組や総和会から呼び出されてもおかしくない立場である和彦としては、心情としては複雑なところだった。つい二日前に、クリニックの忙しさについて賢吾にも笑われたばかりだ。 清掃を終えて、あとは大丈夫だからとスタッフたちを帰すと、クリップボードを手に一人黙々と薬品庫の在庫確認を行う。今週中に発注をかけておく必要があるものに印をつけながら、長嶺組が管理している薬品庫も近いうちに見ておきたいなと考える。和彦の仕事を増やさないようにと配慮してもらっているが、何もかも他人任せというのも落ち着かない。 薬品庫を施錠してから診察室に戻ると、なんとなく壁の時計を見上げる。終業時間からすでに一時間以上経っていると気づいた途端、どっと疲労感が押し寄せてきた。 暖房を切ってから、帰り仕度のため仮眠室にコートを取りに行く。そこでふと感じるものがあり、ブラインドの隙間から窓の外を見てみる。案の定、雨粒がガラスを叩いていた。雨が降っていると知ったからではな
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