「しかし愚かなりに、最低限のものは守っているようだ」 ベンチに座り直した俊哉が、ゆっくりと辺りを見回す。さきほどから目の前の道を人が行き交っているが、俊哉の目が捉えようとしているのは、総和会の男たちだろう。楽しそうな口調でふいにこんなことを語り始めた。「昔……、お前が生まれる前だが、長嶺守光に会った。あのときの奴は、どこかの御曹司のように見えた。行儀がよくて控えめで、話し方も品があった。会話を交わしてすぐにわかったが、当時のわたしの同期たちよりよほど頭がいいと感じた。見た目とは裏腹に、抜け目ないが、少なくともわたしの前では、極道の地金は出さなかった。わたしの抱えたトラブル処理のために、よく手を回してくれたよ。どうしてそこまでするのかと聞いたら、当時組長だった父親に命令されたと言っていた。わたしが頭を垂れて感謝したくなるほど、徹底して尽くせとな。だから遠慮なく尽くさせた」 俊哉の口から語られる守光の話に、不思議な感覚を味わう。和彦が知っているのは、総和会会長としての守光だ。しかし俊哉の記憶にある守光は、まだ長嶺組の組長ですらない。おそらく今の和彦と変わらないか、わずかに上ぐらいの年齢だったはずだ。「どうしてぼくに、そんな話を――……」「わたしはあの男を恐れていないということだ。今ではずいぶん大物になっているが、人間の本質はそう変わらない。わたしは昔、長嶺守光の本質を見抜いた。もっともそれは、向こうも同じだろうがな」「……ごめん、父さん。何を言いたいのか、よくわからない。ぼくにとっては長嶺会長は、ただ畏怖の対象だ。大事にはしてもらっているけど、怖い。逆らえない」 ふっ、と俊哉は短く声を洩らして笑った。「どれほどの化け物だと思っているのか知らないが、あの男も弱みがないわけじゃない。――まだ三十そこそこの、わたしと変わらない若造のくせに、妙に家に固執している男だった。長嶺という家を。いや、血というべきか」「ああ、それは……」 わかる、と心の中で和彦は答える。「いざとなれば、こちらも手段を選ばない。総和会全体を相手にするのは無理だ
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