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第39話(7)

「ぼくの身元を調べた時点で、面倒な事態なら予測できていたはずです。それなのにどうして、ぼくを遠ざけるどころか、総和会と深く関わらせたのですか?」「面倒であると同時に、貴重だったからだ。あんたの血筋も境遇も含めた存在が。わしも総和会も、最初はあんたに深入りするつもりはなかった。賢吾や千尋が、あんたと一時の火遊びを楽しむつもりなら、と。しかし現実は、あの二人はあんたをオンナにして、長嶺組に迎え入れた。そこでわしは考えを改めた。長嶺の男たちの総意として、あんたは必要な存在だと」 多くの言葉を費やす守光だが、和彦の質問への返答としては、あまりに曖昧だ。 面倒だとわかっていながら和彦を長嶺組だけではなく、総和会にも深入りさせた挙げ句、結果として俊哉と接触を持つことになったというのに、守光はそれを憂いている様子はない。 俊哉を警戒はしているが、強い危機感を抱くまでには至らないと、守光の態度がそう和彦には思えて仕方なかった。「何も心配せず、あんたは長嶺の男たちに大事にされていればいい。いや、あんたの場合、それ以外の男たちにも――……」 話はこれで終わりだという空気を感じ取り、もっと核心をつく質問をしたかった和彦だが、思考が空回りして何も言えない。結局、頭を下げて立ち上がる。 部屋を出ると、疲労感がどっと押し寄せてくる。クリニックで勤務しているより、わずかな時間、守光と向き合って話すことのほうが気疲れをする。昨日の今頃は、俊哉を相手にやはり緊張していた。 和彦が堪え切れずため息をついたところで、待機していた吾川が静かに声をかけてきた。「お疲れ様です、佐伯先生。夕食はどうされますか? すぐに準備できますが」「いえ……、会長にお時間を取っていただいただけで十分です。ぼくはこれで失礼します」 力なく笑みを向けた和彦に、承知しましたと頷いた吾川が一度ダイニングへと向かい、すぐに預けていたコートとアタッシェケースを手に戻ってきた。 玄関でコートを羽織っていた和彦だが、ふと気になって、声を潜めて吾川に話しかけた。「……今日、ここに長嶺組長が見えられてい
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第39話(8)

「お二人はこちらでお話をされるときは、終始穏やかな雰囲気で会話を終えられることのほうが珍しいのですよ。長嶺会長は、必要な父子の団らんだと笑ってらっしゃるぐらいですから、そう深刻に受け止めることはないと、わたしは思いますよ」「つまり、雰囲気はよくなかったのですね……」 ため息交じりに洩らすと、吾川は今度ははっきりと苦笑を洩らした。お気になさらないようにと慰められながら、一緒にエレベーターホールへと向かう。 何げなく視線を先に向けて、ぎょっとする。なぜか南郷が待っていた。役目を引き継いだとばかりに吾川が一礼して守光の住居スペースへと戻ってしまい、エレベーターホールには和彦と南郷の二人きりとなる。 すでに到着していたエレベーターに、促されるまま乗り込む。ボタンを押す南郷を、斜め後ろの位置から睨むようにして見つめていた和彦だが、心の内では急速に不安が広がる。エレベーターどころか、帰りの車にも、護衛名目で同乗してくるのではないかと考えたのだ。 これ以上の気疲れはご免だと、和彦は口を開こうとしたが、南郷が先に言葉を発した。「長嶺組の車が、何がなんでもあんたを連れて帰るといわんばかりに、裏口の前に停まっている」「えっ……、ああ、そうなんですか……」 露骨に安堵するわけにもいかない和彦に対して、肩越しに振り返った南郷が皮肉げな眼差しを寄越してくる。疲れているから余計そう感じるのかもしれないが、嫌な目だった。「……それをわざわざ伝えるために、待っていたんですか?」「いや、あんたに一つだけ確認したいことがあったからだ」 すぐにエレベーターは一階に到着し、裏口へと促すように南郷が手で示す。二人は歩きながら話す。「確認したいこととは……?」「あんたの父親の口から、元悪徳刑事の名前は出なかったかと思ってな」 和彦の歩調が乱れたことに、南郷は気づいたかもしれない。「理由は、三日前に俺が言ったことで察しはつくだろう。すでにもう、あんたの父親と接触しているかもしれないと考えてな
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第39話(9)

**** 初めて羽織った〈とんびコート〉の着心地が新鮮で、和彦は意味もなく腕を上げたり下ろしたりして、そのたびにケープがふわりと揺れる様子に見入ってしまう。 丈の長いコート部分と、上半身を柔らかくすっぽりと覆うケープ部分の組み合わせが、妙に和彦の心をくすぐる。昔読んだ探偵小説の挿絵で、探偵が似た形のコートを着ていたことを思い出したりするのだ。 今の和彦は、新しく仕立てられた着物姿だった。寒くなってきたということで、長着は厚みのある濃紺の生地のものとなり、その下に着込んでいる長襦袢も小物の類も一式すべて、やはり落ち着いた色合いのものを揃えられていた。 着物に関しての知識がない自分は着せ替え人形らしく、与えられたものを身につけるだけだと思っている和彦だが、新しく仕立てられたものを見るたびに嬉しくないわけではない。やはり、心は浮き立つのだ。 自分のために仕立てられたという感覚は特別だし、それを、忙しい男が心を砕いて調えてくれるのだから、なおさらだ。 特に今回は――。 形式張った外出ではないからということで、用意されたのは羽織ではなく、黒のとんびコートだった。やけに手触りがいいと思ったら、カシミヤだという。 和彦は、地面に伸びる自分の影を見下ろしながら、もう一度腕を動かしてみる。すると、背後から抑えた笑い声が聞こえてきた。ハッとして振り返ると、賢吾と千尋が並んで立って笑っている。 賢吾はいつものようにスーツ姿だが、その上から珍しくレザーコートを羽織っており、一方の千尋は細身のジーンズに、きっちりと前を留めたミリタリーコートという出で立ちだ。三人並ぶと見事に統一感がないが、賢吾と千尋は意に介していないようだ。「――ずいぶん、そのコートが気に入ったようだな」 賢吾の言葉に、和彦の頬は熱くなってくる。はしゃいだ姿をさんざん披露しておいて、否定するのも大人げない。渋々頷いた。「こういう型のコートは初めて着たんだ」「冬用の着物一揃いを見立ててもらっていて、こういうのもシャレていいんじゃないかと勧められてな。一目見て、先生が羽織っているところを見たいと思った。実際、よく似合っ
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第39話(10)

 賢吾の手が背にかかり、促されるまま歩き出す。護衛の組員たちは、いつもより心もち距離を置いて背後からついてくる。「昔の男とか?」 澄ました顔で賢吾に返され、一拍置いてから和彦は足早に先を行こうとしたが、肩を掴まれ止められた。「冗談だ、先生。去年の梅雨時、俺が見舞いに行っている間、先生に一人で観光させたときのことだろう」 賢吾の言葉に反応したのは、千尋だった。ピクンと体を震わせると、すぐに和彦に詰め寄ってくる。「それ、覚えてるっ。俺に内緒でオヤジと出かけたと思ったら、泊まりで温泉に入ってくるって先生が電話してきた」「……出かけたというか、連れ出されたんだ。それに、急に予定を変えて、泊まることになって……」 和彦は組員とともに車で観光地巡りのようなことはしたのだが、雨が降っており、車中からは景色がよく見えなかった。今いる場所も、車で通り過ぎただけだ。 あれからもう一年半近く経ったのかと、少しだけ感慨深さに浸っていたが、横から賢吾が余計なことを言う。「あのときは、楽しかったな。雨が降って鬱陶しいと思ったが、あれはあれで風情があった。俺と先生、雨音が聞こえる宿でしっぽりと――」 思わせぶりに言葉を切った賢吾が、ニヤリと千尋に笑いかける。当然、千尋が目を吊り上げてムキになる。「ムカつくっ。いっつも、先生を勝手に連れ出しやがって。確か、二人で花見に行ったときも、一泊してただろ」「悔しかったら、お前もとっておきの場所を見つけて、先生をエスコートするぐらいのことをやってみろ。ああ、俺から小遣いをもらってる身じゃ、まだ無理か」「俺だって働いてるんだから、正当な報酬だっ」 自分を間に挟んでの父子のやり取りに、嘆息した和彦は心の中で呟く。二人とも大人げないと。 それとも、深刻な雰囲気にならないよう示し合わせているのかもしれない。和彦は横目でちらりと賢吾を一瞥する。狙っていたようなタイミングで目が合い、薄い笑みを向けられた。「せっかくだから、同じ宿を取っておいた」「……前に泊まった宿のことか?」
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第39話(11)

 いつになく鋭い眼差しに和彦がまず感じたのは、千尋が変わりつつあるということだった。背に刺青を入れたことによって、千尋は身の内に物騒な何かを飼い始めたのかもしれない。 危惧と呼べるほど物騒ではなく、むしろ甘い予感めいたものに和彦がそっと息を詰めると、ケープの下に千尋が手を入れてくる。驚いて目を丸くすると、素早く手首を掴まれた。「先生、あそこから川のほうに下りられるみたい。行ってみよう」 返事をする前に引っ張られ、勢いに圧されるように和彦は千尋についていく。 橋の近くになだらかな坂道があり、そこから河原へと下りられるようになっている。さすがに河原には大小の石が転がっているため草履で歩くわけにはいかず、その手前で立ち止まる。千尋が名残惜しそうに手を離した。 冷たい風が川を渡ってくるのもお構いなしで、河原にも人の姿がちらほらとある。子供は石を投げて遊んでいるが、大半の人の目的は、紅葉と川という組み合わせのようだ。少し遠くに見える山は、紅葉の赤だけではなく、緑や橙、さまざまな色をまとってまるで絵のように美しい。 和彦は目を細めながら、ケープから両手を出す。頬だけではなく、指先でも空気の冷たさを感じた。「やっぱりこの辺りは寒さが違うな。十一月に入ったばかりとは思えない」 陽射しもあるため、歩いているうちに暑くなってくるのではないかと思っていたが、余計な心配だったようだ。むしろ、いくらか厚着をしているおかげで、寒さを防げていたのだと実感する。和彦の格好を見立てたのは賢吾で、何もかも万全だと感心するしかない。 ふと視線を感じて隣を向く。案の定、千尋は和彦を見ていた。せっかく紅葉狩りに来たというのに、さきほどから千尋の目に鮮やかな紅葉は映っているのだろうかと心配になってくる。「――ぼくはここにいるから、川の近くまで行ってみたらどうだ」「別に、いいよ」「だったらどうして、ここまで下りてきたんだ?」 問いかけに対して、千尋の視線が橋へと動く。欄干にもたれかかった賢吾がこちらを見ていた。「先生とオヤジがイチャついてたから、ちょっと邪魔してやりたくなった」「してなかっただろ……」
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第39話(12)

 部屋に入ると、すでに三組の布団が延べられていた。別の階の、賢吾の名で取られた部屋には、一組の布団が延べられているはずだ。当の賢吾は、どちらの部屋で休むつもりなのかは知らないが――。 風呂上がりで火照っているせいばかりではなく、別のものによって和彦の顔がさらに熱くなる。 着込んでいた丹前を脱ぐと、お茶を一口飲んでから窓に歩み寄る。まだ宵の口といえる時間のため、通りは街灯や店先の明かりで照らされており、昼間ほどではないが人が行き交っている。中には、浴衣に丹前姿の人もあり、それがいかにも温泉街らしい。 今の自分は寛いでいるなと、ふと和彦は実感する。今日一日、実家のことをまったく思い出さなかったのが、その証拠だ。本宅を出るとき、賢吾に言われて携帯電話を置いてきたことも関係あるだろう。 知らない顔をしていれば通り過ぎる嵐ではない。相手が父親だからこそ、きちんと向き合い、なんらかの対処をしなければならないし、話はもう個人レベルではなく、家同士の問題となっている。和彦をオンナにしている限り、賢吾も難しい判断を迫られるのは明らかだ。 寸前まで、寛いでいると実感していたはずなのに、すでにもう、自分が厄介な存在であるという現実に胸を塞がれている。惜しみなく与えられる、男たちからの情愛に報いたいという気持ちがあるからこそ、どうにかしたいと足掻きたくなる。 ふっと息を吐き出した次の瞬間、窓ガラスに反射して映る自分以外の人影に気づく。慌てて振り返ると、浴衣姿の千尋が立っていた。「風呂に入ってきたのか?」 笑みをこぼして和彦が尋ねると、頷いた千尋が側にやってくる。「入った。ほかほかだよ。……先生も、一緒に入ればよかったのに」「せっかくの機会だから、やっぱり大きい風呂のほうを選ぶんだよ」 言うまでもなく、千尋の背には大きな刺青が入っているため、貸切にでもしない限り大浴場には入れない。些細なことだが、千尋はもう普通の生き方ができる青年ではないのだと、改めて実感する。 再び窓の外に目を向けていると、肩に腕が回される。自分で言った通り、浴衣を通して千尋の高い体温が伝わってくる。一方の千尋も、同じことを感じたらしい。
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第39話(13)

「それが恥ずかしいんだろっ」「……相変わらず、妙なところでモラリストだよね、先生」「その言い方だと、妙なところ以外はインモラリストってことにならないか……」 違うの? と真顔で千尋に問われ、今度は力を入れて頬を抓り上げてやった。 肩にかかった手を押し退けてカーテンを閉めると、布団を敷いた部屋へと戻る。すると、背後から近づいてきた千尋に飛びつかれ、和彦は布団の上に倒れ込んだ。のしかかってきた千尋が真上から顔を覗き込んできたかと思うと、首筋に鼻先を擦りつけてくる。「犬みたいだな、お前」 さりげなく千尋の肩を押し上げようとした和彦だが、びくともしない。一見ふざけているようで、しっかりと押さえ込みにかかっているのだ。 和彦は、浴衣に包まれた千尋の背に両腕を回し、てのひらでさすってやる。「――……心配しなくても、ぼくは実家に戻るつもりはない。ただ、そうは言ってもすぐには諦めてくれそうにないから、時間を稼ぎながら、わかってもらうしかないんだけどな。それとも、会長が上手く交渉をしてくれるか……」「わかってくれそうなの?」「難しいな。昔から、子供の意見を聞き入れてくれたことのない人だ。なんでも、思う通りにぼくを動かしてきた。ぼくも、逆らわなかったし。……正直、今のようなぼくは佐伯家に必要ないと言って、縁を切られるんじゃないかと、少しだけ希望を持っていた。でも、父さんに久しぶりに会って、その気はまったくないんだと思い知った。よくも悪くも、ぼくは〈大事〉にされている。佐伯俊哉の息子として」「それでも、戻るつもりはないと言い切るんだ」 千尋がまっすぐな眼差しを向けてくるのは、和彦の胸の内を探るためだ。少しでも気持ちが揺れていないか、里心が出ていないかと。不安だからではなく、強い執着心ゆえだ。 和彦は自分に向けられる執着心に、快感にも似たものを感じてしまう。「戻らない。ここにいたいんだ」 現金なほどパッと表情を輝かせた千尋だったが、目を細めた和彦が優しく髪を梳いてやると
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第39話(14)

 ギリギリのところで力を加減しており、血が滲むようなことにはならないが、じわりと痛みが走る。ただしその痛みは、肉欲の疼きを伴っている。千尋の後ろ髪を掴んで和彦は訴えた。「痛いのは嫌だ」「ごめん。……痛かった?」 ベロリと首筋を舐め上げた千尋が、今度は機嫌を取るように柔らかく吸いついてくる。浴衣を脱がされ、肩先を愛しげに撫でられて、和彦は揺れる茶色の髪を見つめる。人懐こい大きな犬に乗りかかられているようだと思ったが、千尋のプライドを慮り、この状況で声に出しては言わない。 手を伸ばし、千尋の浴衣の帯を解いてやると、待ちかねていたように一気に浴衣を脱ぎ捨てた。向けられる期待を込めた眼差しの意味を、即座に和彦は解する。思わせぶりにゆっくりと、千尋の背に両手を這わせてやると、それだけで若々しい体がブルッと震えた。「俺の背中の絵は、和彦だけのものだから。この先ずっと、誰にも触らせない」 若い肌は、刺青を入れたあとでも元の滑らかさを取り戻そうとしているのか、ざらつきは少し治まっているようだ。こんな変化を知ることができるのも、ある意味、特権なのかもしれない。「――お前が初めて刺青を見せてくれたとき、ぼくに言った言葉を覚えているけど、すごいな、お前は。この先、心変わりがあるかもしれないって、全然疑ってないんだな」「和彦が俺のことを、嫌いになるかもしれないってこと?」「反対だ。お前がぼくのことを、ということだ。どうして断言できるのか、本当に不思議なんだ」 和彦の言葉に、ムッとしたように千尋が眉をひそめる。「俺の告白を真剣に受け止めてない?」「受け止めているから、そう思う。……客観的に見て、お前は魅力的だから、この先もぼくが独占できるとは思えない」 十歳も年下の青年に、こんなことを告げるのはひどく勇気を必要とする。それでも言わずにはいられなかったのは、やはり千尋の、そして長嶺組の将来を思うからだ。 和彦の安穏とした人生設計を狂わせた存在が、今の和彦を丸ごと抱えて大事にしてくれている。そのことに和彦は居心地のよさを感じているからこそ、やはり〈彼ら〉を大事にしたいの
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第39話(15)

 和彦の反応に貪欲な千尋は、柔らかな膨らみすらも口腔で愛撫したあと、舌先をさらに奥へと這わせてきた。「足、自分で抱えてて。もっと気持ちよくしてあげるから」 興奮気味に掠れた声でそう言った千尋が、一度だけ視線を上げる。獣じみた鋭い視線に、和彦は逆らえなかった。自分の両膝に手をかけ、千尋にすべてがよく見える姿勢を取り続ける。 愛撫を期待してすでにひくついている内奥の入り口に、温かく濡れた感触が触れる。この瞬間、和彦はピクンと爪先を揺らし、短く息を吐き出した。 執拗に内奥の入り口を舐められ、ときおり舌先を潜り込まされると、理性が溶けていくのに比例するように、柔らかく解れていく。「ふっ……」 指を挿入されて、唾液を擦り込むようにゆっくりと出し入れされる。和彦が痛みを訴えないとわかると、即座に指の数が増やされた。 襞と粘膜を優しく擦られているうちに、息が弾む。ようやく顔を上げた千尋は、自分の愛撫の成果を満足げに見下ろし、目を細めたあと、舌舐めずりした。その表情に、和彦の中で淫らな衝動がゾロリと蠢く。「――今、中、すごく締まった。気持ちいい?」「そんなこと、聞く、な……」「えー、聞きたいな。和彦の口から、気持ちいい、って」 千尋に名を呼ばれるのは、そうすぐに慣れるものではない。いつもの千尋とは違っており、耳に新鮮だ。気恥ずかしくもあるが、もっと聞きたくもある。和彦が顔を背けて息を喘がせていると、ぐうっと指が深く突き込まれる。返事を求めているのだ。「言わなくても、わかるだろっ……」「うん。でも聞きたい」 和彦が睨みつけると、千尋はしたたかな笑みを浮かべながら、見せつけるように己の欲望を軽く扱く。すでに十分高ぶり、逞しく反り返っていた。 千尋が内奥を掻き回すように指を動かし、湿った音が和彦の耳にも届く。浅い部分を執拗に擦られ、押し上げられ、広げるように圧迫されると、堪らなくなった。無意識に腰を揺らし、必死に内奥を収縮させて、強い刺激を求めてしまう。すかさず指が引き抜かれ、熱く硬い感触が擦りつけられた。「和
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第39話(16)

「驚いてるな、先生。俺がしばらく戻らないと思ったか? 早々に用を切り上げるのに苦労したんだぜ」 話しかけられ、応じようとした和彦だが、千尋にあごを掴まれて有無を言わせず唇を吸われていた。 強引な口づけで、今は自分だけを見ろと千尋が訴えてくる。賢吾の存在を意識しながらも、和彦はおずおずと口づけに応え、舌を絡め合う。繋がった下肢では、しっかりと千尋の欲望を感じていた。突然の賢吾の登場ながら、呆れたことに――いや、感心するべきなのかもしれないが、千尋はまったく動揺していないのだ。 腰を揺すられて内奥を攻め立てられる。同時に、精を放ったばかりの欲望を、千尋の引き締まった下腹部で擦り上げられる。和彦は下肢から間断なく送り込まれる快感に、すぐに激しく乱れることになる。 唇が離されると、堪えることができず放埓に悦びの声を上げ、千尋の腰にしっかりと両足を絡める。乱れた息の下、千尋がこうせがんできた。「背中、触って」 言われるまでもなく、和彦がすがりつくように背に両手を這わせると、内奥深くを抉るように突かれる。咄嗟に背に爪を立てていた。若い体に彫られたばかりの大きな犬に傷をつけるようで心が痛んだが、それも一瞬だ。「あっ……」 千尋が一度動きを止め、深くしっかりと繋がっている感覚を二人で共有する。和彦の内奥は物欲しげに蠢動を繰り返し、一方の千尋の欲望は力強く脈打っている。「もう、限界っ……」 耳元で洩らした千尋が緩やかに二度、三度と腰を突き上げたあと、ブルッと体を震わせる。内奥深くに精を注ぎ込まれ、和彦は体の隅々まで行き渡るような充足感を味わう。 二人は抱き合い、呼吸が落ち着くのを待っていたが、千尋の欲望は内奥で硬さと熱を保ったままだ。すぐにまた求められるのではないかと、和彦は甘い危惧を抱きながら、千尋の頭を撫でる。ここで、傍らに座っている賢吾に目を向けると、冗談交じりで言われた。「ようやく俺の存在を思い出してくれたか、先生?」 賢吾は、口元に薄い笑みを湛えてはいるものの、両目は怖いほど真剣だった。怒っているのではない。欲情しているのだ。 それを和彦が悟ったと
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