千尋に促されるまま舌を絡め合っているうちに、車内に微かに濡れた音が響く。急に羞恥を覚えてうろたえた和彦が唇を離すと、千尋が低く囁いた。 「ほら、先生やっぱり、興奮してる」 なんとも答えようがなくて和彦は、千尋の頬を軽くつねり上げる。 「……お前、他に相手を見つけろよ。家のことを知らせずに済む遊びの相手ぐらい、不自由しないだろ」 「純粋に遊ぶだけの仲間ならいるけどさ、こういうことをするのは、先生だけ。俺って意外に硬派なんだよ」 硬派な人間は、父親と〈オンナ〉を共有して楽しんだりはしないだろう。そう指摘したかったのだが、最近の和彦は、たとえ千尋相手でも、思ったことをそのまま口にできなくなっていた。自分の発言が、どんな形で返ってくるかわかったものではないからだ。 千尋が意味ありげな流し目を寄越してくる。 「先生、さっさと自分に飽きてくれと思ってるだろ。そうしたら、ぽいっと自分を捨ててくれるだろうって」 咄嗟に和彦が見たのは、三田村だった。共同所有を宣言されたあと三田村に投げかけた質問を、賢吾や千尋に報告されたと思ったのだ。しかし、そうではなかった。 「さっき先生が見せた暗い顔で、誰でもそれぐらい察しがつくよ。円満に組から遠ざかるには、俺やオヤジから、顔も見たくないって放り出されるぐらいしかないからね」 「……レストランでお前が話してくれたことを聞いたら、円満にフェードアウトするなんて無理な気がしてきた」 「まあね。先生は、利用価値がありすぎるんだよ。だからこそ、長嶺組の身内であり続けることが、結局先生のためなんだ。何かあれば、組の人間が必死で先生を守ってくれる。オヤジや俺のオンナだからというんじゃなくて、先生がもうすでに、身内を助けてくれたからだ」 身内と言われてすぐにはわからなかったが、千尋が自分の腹を指さしたので、それでピンときた。腹を撃たれた組員の手術を、和彦が手がけたことを言っているのだ。 「ああ……。助けたというか、助けさせられたという感じだけどな」 「だけど、撃たれた組員は、もう動き回れるようになった。先生が助けたからだ」 和彦が黙り込むと、千尋もそれ以上は話しかけてはこなかった。子供のような
Terakhir Diperbarui : 2025-10-27 Baca selengkapnya