**** 千尋は今日も元気だ――。 犬っころのように目を輝かせ、落ち着きなく食器売り場を行き来するため、いつか食器を割るのではないかと見ているこっちがハラハラする。 実家に戻ってから、明らかに身につけるものの質が上がった千尋が今穿いているのは、あるブランドもののジーンズだ。スタイルがいい千尋にはよく似合っており、足元のレザースニーカーの組み合わせも様になっている。ラフに着ているTシャツも、きっと数万円はするのだろう。 おかげで、一見して育ちのいい好青年ぶりに拍車がかかり、デパートを歩き回っていると、特に目につく女性客から注目を浴びる。しかし当の千尋に自覚はないらしく、何かあるたびに嬉しそうに目を輝かせ、和彦を手招きする。 「――……躾のなってない元気な犬っころを散歩させている気分だ ……」 和彦がため息交じりにぼやくと、荷物持ちに徹している三田村が応じた。 「そのわりには、楽しそうだ」 和彦は振り返り、ニヤリと笑いかける。 「金を気にしなくていい買い物は好きだ」 なるほど、と言いたげに無表情で三田村は頷く。賢吾からカードを預かっている三田村は、和彦の買い物に関しての支払いをすべて担当している。和彦としては、ヤクザに物を買ってもらうことに抵抗がないわけではないのだが、さすがにクリニック用のテナントを用意してもらうと、その感覚が壊れ始めていくのを自覚していた。 それに今日の買い物は、千尋のわがままにつき合っているという大義名分があった。 ようやく和彦の新しい部屋にやってきた千尋は、さんざん寛いで一泊したあと、今日になって、食器を買いに行こうと言い出した。基本的に食事は外で済ませている和彦は、家に滅多に客を呼ばないこともあり、所有している食器は乏しい。それが、長居する気満々の千尋にとっては不満らしい。 『これからはたくさん客も来るんだから、コーヒーカップやグラスもいいの用意しないと』 十歳も年下の千尋にもっともらしい顔で説教までされてしまったので、必要ないとも言えない。それに、客がやってくるというのは本当だ。クリニック開業までに、打ち合わせのためにさまざまな
Last Updated : 2025-10-31 Read more