Semua Bab 私と先輩のキス日和: Bab 21 - Bab 30

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第五章『初デートのキス』 その1

笑理のもとで酔いつぶれた事件からの一週間、梢は土曜日に控える笑理とのデートを楽しみに、仕事に打ち込んでいた。久子への対応も、都度高梨に相談をしながら一緒に行うことができたので、少し気が楽になっていた。仕事をしながらも、頭の中に笑理のことを浮かべてしまっているのか、ある日高梨から不意に、「何か良いことでもあったのか?」と、尋ねられたことがあった。笑理とデートをするなど、上司には言えなかった。「いえ……西園寺先生の件で、高梨部長が間に入ってくださってるので、安心しちゃってるんです」もっともらしいごまかしができたと、梢は我ながら思った。「経験として、西園寺先生の担当を山辺君に任せようと思ったんだが、やっぱり気が重い仕事だったかな」「そんなことありません。西園寺先生のような大物作家の担当をさせていただけて、ありがたいと思ってます」「まあ、君がそう言うなら良いが、無理はしないようにな。これからも、彼女のことで何かあったら、俺に相談してくれ」「ありがとうございます」ここ数日、久子の言動は割かし大人しくなっていた。恐らく高梨が、久子に何か言ったのだろうとは梢にも想像ができていた。「西園寺先生に、何か仰ったんですか?」「別に。大したことは言ってないさ」高梨は苦笑したが、上手く説得をしたのではと梢は思っていた。先週、仕事終わりに個室居酒屋の久子のもとを訪れていた時、高梨は強く忠告をしていたのだ。「は? 本気でそんなこと言ってるの?」久子は呆れ顔で言ったが、高梨は動じず、「俺は文芸部長として、『ひかり書房』の小説部門の統括をしなければならない。立場上、部下や後輩を守らなきゃいけない責任もある。だからこそ、これ以上、うちの社員を困らせるようなことをすれば、今後『ひかり書房』で、西園寺久子の小説は出版させない」久子は一瞬ムッとしたが、すぐ鼻で笑った。「そんな権限まで持てるようになったんだね。相変わらず、誰かを庇うためなら一人の人間も犠牲にするんだね」かつての愛人から言われたこの言葉は、高梨にとっては耳の痛
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-19
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第五章『初デートのキス』 その2

金曜日の晩から、梢は明日のデートが楽しみで、まるで小学生の遠足前日のように寝付くことができなかった。笑理と再会してからというもの、マンションでお泊まりをしたり、笑理の小説を借りるのを口実に公私混同で会っていたが、デートというのは初めてであった。そして翌日。寝不足ながらも早起きした梢は、私服選びに苦戦していた。笑理とは何度も会っているが、デートとなると話は別で、街を笑理と一緒に歩いて恥ずかしくないものにしなければいけないと、使命感のようなものがあった。髪をセットし、化粧も完璧にした梢は急ぎ足で、集合場所である駅に向かった。改札口を出た梢は、遠目ながらも噴水の前で佇む笑理の姿に気が付いた。クリーム色のシャツに、紺色のテーパードパンツ姿の笑理は、スタイリッシュな大人コーデで、細く見えるシルエットがより魅力的だった。かたや時間をかけて決めた梢のファッションは、デコルテから肩までが出ている白のオフショルダートップスに、デニムのロングスカートである。「笑理!」と、梢が大きく手を振ると、気づいた笑理も微笑んで手を振り返した。「ごめんね、遅くなって。服装どうしようかと思ってたら、時間かかっちゃって」「可愛いよ」笑理にそう言われると、梢の顔には思わず笑みがこぼれる。「じゃあ、行こうか」「うん」笑理に手を握られ、梢は一緒に街を歩き始めた。土曜日の街は、家族連れや友人連れ、カップルなど、人ごみであふれていた。その中で、梢と笑理が手を繋いで歩いていても、決して違和感はなかった。映画館で映画を見た後、二人はオープンカフェに足を運んだ。注文したパンケーキを食べながら、笑理がふと呟いた。「私ね、いつか自分の書いた小説がメディアミックス化されるのが夢なんだ」「笑理の小説……いや、三田村理絵先生の小説なら、そろそろ映像化されても良いのにね」「まあ、世の中そんなに甘くないか。恋愛小説なんて、この世に五万とあるわけだし」「知名度をもっと上げて、今にいろんな作品が映像化されるのが当たり前みたいになれるように、私も編集者として頑張るから」「ありがとう。梢
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第五章『初デートのキス』 その3

喫茶店の帰り道、梢と笑理はアンティーク雑貨店に足を運んだ。陶器やステンドグラス、ガーデニング用品、アクセサリー等、豊富な品揃えで、二人にとっては目の保養になっていた。商品を見ていくうち、笑理はバラの花をあしらった合金製のブレスレットを見つけた。「これ、二つください」と、笑理は店員に頼み、ラッピングをしてもらった。ふと振り返ると、梢は物珍しそうに、陳列されている食器を眺めていた。笑理が梢の元にやってくると、「何か、気になるものあった?」「可愛い食器だなと思って。せっかくだから、二枚買っちゃおう」「二枚?」「笑理がうちに遊びに来てくれた時、お揃いの食器があったら良いでしょ」梢は嬉しそうに言うと、金色のステンシル柄が縁取りされた白い皿を持って、レジへ向かった。夕方になり、梢と笑理は水族館を訪れた。水中を泳ぐイルカをガラス越しに眺める笑理の横顔が美しく見え、梢は思わず見とれていた。そんな視線に気づいたのか、笑理は梢の方を振り向いた。「どうした?」「ううん、何でもない」梢は慌てて首を横に振った。だが、それでも梢は、笑理の横顔を眺め続けていた。一通り水族館を回り終わって外に出ると、辺りは薄暗くなり始めていた。「ちょっと早いけど、夕飯食べに行こうか」「うん」「何食べたい?」「ええ、何だろう。お肉かな」梢が少し考えてそう言うと、笑理は手を一回叩き、「肉バルとか、どう?」「賛成!」「ちょっと待ってね、すぐ調べるから」マップアプリを起動させると笑理は歩いていき、梢も後に続いた。土曜日ということもあり店は少し混んでいたが、数分待つとすぐに席へ案内された。赤ワインで乾杯をした後、梢と笑理は注文した肉の盛り合わせやアヒージョを食べ始めた。「美味しそうに食べるね、梢は」「だって美味しいんだもん」「そうやって美味しそうに食べる梢の顔、好きだわ」じっと笑理に見つめられ、梢は照れくさそうにうつむいた。「笑理だって、さっき水族館でイルカ見てたとき
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第五章『初デートのキス』 その4

夕飯を終えた梢と笑理は、美しい夜景が輝く港沿いの広場を歩いていた。途中、立ち止まって、そよ風を受けながら港を眺めていると、梢は、「そういえば、今日雑貨店行った時、何買ったの?」と、尋ねた。すると笑理は紙袋を開け、購入したバラのブレスレットを見せた。「これ買ったの」「可愛いじゃん」「手、出して」笑理に言われ、梢が手を前に差し出すと、手首にブレスレットをつけられた。「私に?」笑理も自分の手首にブレスレットをつけ、「二つ同じやつ買ったの。お揃いにしたくて」「笑理……」アクセサリーをもらった梢は嬉しく、じっとブレスレットを見つめた。「写真撮ろうよ。最初のデート記念に」「うん」笑理がスマホのカメラを自撮り機能にすると、梢は自分もカメラに映るように笑理にべったりと体をくっつけた。幸せそうにカメラに映る梢と笑理は、まさに付き合いたてのカップルそのものであった。「ねえ、ここでキスしようか」梢はハッとなった。「え、ここで?」「この時間になると、全然人もいないしさ」梢は辺りを見回した。夕方はカップルが多いこの場所も、夜も九時半を回れば、人影は全く見受けられない。自分たちしかいないことを再度確認すると、「うん……良いよ」梢は瞼を閉じると、ゆっくりと顔を近づけてキスをする笑理を受け入れた。夜の気分ということもあるのか、梢はまだ笑理と一緒にいたい気持ちに駆られた。「そろそろ、帰ろうか」「笑理……。今日は、まだ笑理と一緒にいたい」「一緒にいてくれるの?」「うん」笑理は一瞬何かを考えると、目の奥から真剣な眼差しとなった。「あのさ……。私、梢と一緒に行きたいところがあるの」「行きたいところ?」「ひろーい!」梢はダブルベッドにダイブした。笑理が行きたいと言っていた場所は、繁華街の中にあるラブホテルだった。「真面目な
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第五章『初デートのキス』 その5

シャワーを浴びた後、梢は脱衣所にあるバスローブに身を包んだ。睡眠時はパジャマしか着たことがなかった梢にとって、初めてのバスローブだった。ベッドのほうへ戻ってくると、先にシャワーを浴びた笑理が、同じようにバスローブ姿で小さく座り込んでいた。「どうしたの、笑理?」「ごめんね、さっきは」「何で謝るの?」梢は微笑むと、笑理の太ももの上に跨った。「梢……」「さっきは心の準備ができてなかったけど、今なら大丈夫だよ」「良いの?」「うん」優しく梢が頷き、二人はそのままベッドに横たわった。「梢って、前よりずっと可愛くなったね。いや、綺麗になった」笑理に唇を撫でられて、梢は照れくさそうに微笑んだ。「笑理といるんだもん、美意識ってうつるのかもしれないね」笑理はまず、梢の額に一度キスをすると、そのまま唇、そして首筋にキスをした。笑理からの愛撫を受けている梢には、これまで感じたことのないゾクゾクした感触が襲い、思わず息が漏れてしまった。笑理は愛撫を続け、梢は鼻息を荒くしながらもグッとシーツを強く握りしめた。翌朝、床には二枚のバスローブが落ちていた。ベッドで笑理と体をくっつけて眠っている梢が、ゆっくりと目を覚ました。目の前に映る笑理は、まだぐっすりと眠っていた。梢はふと、昨晩の情事を通じて本当に笑理と結ばれたものだと実感していた。また、自分の手首のブレスレットと、笑理の手首についている同じものを見つめ、昨日のデートの余韻に浸っていた。すると腕を伸ばして大きなあくびをしながら、笑理が目を覚ました。「おはよう」梢がささやくように言い、笑理も微笑んで、「おはよう。よく寝たわ」「朝風呂入ろうよ。ほら、浴槽大きかったじゃん」「うん、入ろ」浴槽の湯が溜まり、風呂に入った梢と笑理はお互いに足を伸ばした。「あのさ、笑理。またデートしてくれる?」「当たり前じゃん」「やったー!」梢は腕を高らかに上げた。これでまた、仕事をするための張り合いができたのだ。自然と
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第六章『ごほうびのキス』 その1

笑理とのデートから一ヶ月が経ち、梢は笑理とプライベートでも仕事の打ち合わせでも顔を合わせており、充実した日々を過ごしていた。まもなくして、『ひかり書房』の文芸部では、部長である高梨を筆頭に、梢をはじめとした文芸部所属の編集スタッフが集まり、今後の出版企画についての会議が開かれた。梢は笑理や久子の他に数名の作家を担当に抱え、同僚たちもそれは同じであった。新人作家発掘のために企画した公募では数多くの応募があり、最終審査に残った一人が『ひかり書房』からデビューをすることが決まったが、こちらは高梨が担当をすることに。出版会議は、企画を検討するところでもあり、当然内容次第では著名な作家でも企画が通らないことがある。梢の担当する作家は笑理や久子を含め、企画がすぐ通ったので問題なかったが、内心久子の一件については、上手く口裏を合わせて企画を通してくれた高梨に、梢は深く感謝をしていた。その日から、梢は連日残業が続いていた。作家の書いた原稿を読んでいる間は、作品の世界観に浸るため、時間を忘れて没頭することが梢にはよくあった。「やっぱり、まだ残業してたのか」現実世界に戻った梢がハッと頭を上げると、コンビニの袋を持った高梨が立っていた。「あ、すいません。原稿読んでたら、時間忘れちゃって」「無理するなよ。良いものを作るために残業する気持ちは分かるが、こういうのは変に根詰めたらかえって悪循環になるかな」高梨は自分のデスクに戻る途中、袋からおにぎりと栄養ドリンクを取り出し、梢はそれを受け取った。「ほら、エネルギー補給しろ」「ありがとうございます。高梨部長も残業ですか?」「出版会議も無事に終わっただろ。新人の子の編集をするだけなら良いんだけど、管理職って言うのは、他にもいろいろ雑務があってね」苦笑しながら、高梨はPC眼鏡をつけて、パソコンを起動させる。「そんなに遅くまで残業して大丈夫なんですか?」「家で待ってる家族もいないからな。今の俺には、仕事が家族なんだよ。まあ、その仕事で家族を壊しちゃったけどさ」「壊した……?」梢は訝しそうに尋ねた。「山辺君も、俺の過
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-20
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第六章『ごほうびのキス』 その2

新聞小説の連載が無事に終わり、梢から出版会議で企画が通ったことを聞かされた笑理は、早速新作小説の執筆を始めていった。梢と交際をスタートさせてから、思えば初めて仕事を一緒にすることに気づいた笑理は、これまで以上に執筆に対しての集中力を高めていった。書斎兼作業部屋にあるデスクには、創作に関するメモやアイディアを殴り書きしたノートがあり、笑理はそれを見ながら作品を執筆している。初稿を書き終えるまでの二ヶ月間、笑理は執筆に専念するために梢とのデートも行わない徹底ぶりだった。梢も考えを尊重してくれたことで、笑理は安心して執筆することができたが、初稿を書き終えた後も創作に対する時間を惜しまないほどである。集中して聞こえなかったのか、ふとインターホンが何度も鳴っていることに気づいた笑理は、慌ててボタンを押した。「笑理、いる?」インターホン越しから聞こえたのは、梢の声だった。「ごめん、今開けるね」仕事終わりの梢は、コンビニスイーツを差し入れするために来てくれたのだ。「初稿執筆、まずはお疲れ様でした」「ありがとう。直しがあったら、いつでも連絡して」「これから、じっくり読む。ようやく前の作家さんの修正が終わったから」「同時進行で、何人もの作家さん抱えて大変だね」「まあ、それが仕事だから」苦笑して答える梢に対して、笑理は改まったように姿勢を直した。「どうしたの、笑理?」「あのさ、梢。今の作品が書き終わるまで、プライベートで会うのはやめない?」考えた末での笑理の決断であり、梢に告げるのには随分と考えたものである。梢は優しく微笑んで、「良いよ。笑理……いや、三田村理絵先生が良い作品を書くためだもんね。私もその間、編集者として装丁デザイナーさんや校閲部の人たちと協力して、三田村先生の新作を形にできるように頑張るから」「ごめんね……梢」「気にしないで」梢がそう言い、二人は袋から出したプリンを食べ始めた。「美味しいね」と、梢は微笑んで笑理を見たが、笑理には梢の顔の奥にある寂しさ
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第六章『ごほうびのキス』 その3

笑理と会う時は仕事モードになろうと言い聞かせた梢は、一晩ゆっくりと眠り、翌日には三田村理絵の編集担当者の顔になって仕事に臨んだ。笑理の執筆した新作は高校を舞台にした恋愛もので、梢はミーティングルームでノートパソコンを立ち上げると、イラストレーターやデザイナーをリモートで繋げて、装丁デザインについてのディスカッションを始めた。「私にとって、三田村理絵先生と初めてご一緒する作品なので、皆さんのお力添えをお願いします」仕事でありながらも、やはり心から愛している笑理に喜んでもらいたい一心で、梢は画面越しにイラストレーターとデザイナーに頭を下げた。それから梢は、笑理の執筆した初稿をじっくりと読みながら、作品における矛盾点や、登場人物の一人称や二人称の呼び方の整合性などを確認した。あくまで恋人の笑理ではなく、担当作家の三田村理絵として接することを決めた梢は、初稿の気になった点を赤ペンでチェックし、それをスキャンしたデータを笑理にメールで送った。同時に、DTB部のオペレーターのもとへ行き、体裁などの打ち合わせを行い、本を作るための工程を少しずつ踏んでいった。一方、梢からの原稿チェックを確認した笑理は、梢の指摘した部分を含めた二稿の執筆を進めていた。本が完成するまでプライベートで会わないと自分で決めたものの、やはり内心、梢に寂しい思いをさせてしまっていることを笑理は痛感していた。笑理のデスクには、初デートの際に自撮りをした梢とのツーショット写真が、写真立てに飾られている。原稿執筆の合間、梢のことを思う笑理は、写真立てを手にすると、そこに笑顔で映っている梢をじっと見つめていることも多々あった。「ごめんね、梢……」自分が原稿を書き終え、梢が無事に編集者として本を作り終えるまでの工程が終わったら、ちゃんと梢と向き合う時間を作ろうと、笑理は心に決めていた。数週間が経ち、一足先に原稿を進めていた久子の新作小説のゲラが完成した。印刷会社から届いたゲラを見た梢は、完成を目前にしたことでひと段落。「何とか、ここまでできたな」高梨も同じように確認すると、胸をなでおろしていた。「高梨部長のバックアップのおかげで、トラブ
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第六章『ごほうびのキス』 その4

大学在学中に応募した文学賞をきっかけに小説家デビューをした笑理は、文学賞の主催先でもあった『ひかり書房』の他にも、別の出版社とも契約を交わしており、まさに売れっ子作家の一人でもあった。連載していた新聞小説が無事に最終回まで書き終えた後、別の出版社から発売する小説の執筆に追われながら、梢とのやり取りを何度も交わし、無事に最終稿を書き終えることができた。梢の意見には妥協がなく、改めて担当編集者になってくれて良かったと、笑理は心底思っていた。また装丁デザインのデータも、つい先日梢からのメールで確認をしたが、これもなかなかのクオリティだった。水彩画タッチの校舎のイラストに、『忘れられない青春』と書かれたポップなロゴマークは、今回執筆した笑理の作品に見事にマッチしていたのだ。ゲラを持った梢が笑理のマンションを訪れたのは、室内にいてもセミの鳴き声が響くのがよく伝わる八月の下旬のことだった。「こちらがゲラになります。最終確認、よろしくお願いします」梢から封筒を受け取った笑理は、クリップに留められた分厚い校正データを取り出して、読み始めた。「いよいよ、完成も目前になってきたね」「はい。私も一通り確認して、あとは三田村先生の最終チェックが済んだら、そのまま校閲部にも最終チェックをしてもらいます」「今回は時間かかったなぁ。プロットが出版会議で通って、そこから初稿を書き上げてさ……約三ヶ月半か」笑理は感慨深そうに、カレンダーを眺めた。三ヶ月半、それはつまり梢とプライベートで会わなかった時間でもある。「本ができるのは、いつ頃になりそう?」笑理が尋ねると、梢はなおも仕事モードの顔で、「ISBNコードも書籍コードも取得しましたので、後は印刷会社に完全データを入稿して、諸々の手続きを終えれば完成するので、遅くとも九月中旬には完成するかと思います」「完成が楽しみね。他の作家さんのほうはどう?」「全て順調に進んでます。出版会議は月一であって、その都度同時進行でいろんなプロジェクトが動いていくので、分身が欲しいほどですけど」苦笑して答える梢を見て、笑理は改まったように姿勢を直し、
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第六章『ごほうびのキス』 その5

九月中旬、笑理の最新作『忘れられない青春』は全国の書店や通販サイトで流通することになった。また同じ日、久子の最新作も日の目を見ることになった。書籍発売の日ではあったが、梢にとってはいつもと変わらない一日だった。担当している作家の原稿を読んだり、デザイナーと装丁デザインに関する打ち合わせをしたり、日々の業務に追われていた。久しぶりに定時で仕事を終えた梢は、無事に自分の担当している作家の最新作が出版されたことに安堵したのか、自身のマンションに着くと、ドッと疲れが出たようでベッドにそのまま横になった。するとインターホンが鳴り、気だるそうに体を起こしてモニターを見た。「笑理……」画面に映った笑理の姿を見て、梢は慌ててドアを開けた。「どうして……」梢が尋ねたが、笑理は黙ったまま梢を強く抱きしめた。「ごめんね。長いこと、寂しかったよね。梢のおかげで、無事に作品が世に出た。ありがとう」こんなに密着できるのは約三ヶ月半ぶりで、梢の顔にも笑みが浮かんでいる。「ずっとお預けになってたもんね。でも、もう我慢することないよ」「とにかく上がって」梢は笑理の手を取って、そのまま居間に案内した。やがて、ベッドに座っていた梢は、背後の笑理からバックハグをされ、幸せなひと時を過ごしていた。「やっとこうやってできる」笑理からささやかれ、梢の腕には鳥肌が立っていた。「そうだね」「梢、頑張ったね。西園寺久子の作品も無事に完成させてさ。さすが『ひかり書房』の編集者」「いろいろ大変だったけど、形にできて良かった」笑理に頭を優しく撫でられた梢は、キスの流れだと思い瞼を閉じた。が、何も起きなかったので、もう一度目を開くと、じっとこちらを見つめる笑理の顔があった。「もう……」照れた梢の耳は、真っ赤になっていた。「どうした?」「今の流れ、キスだと思うじゃん。だから待ってたのに」「ごめんごめん。三ヶ月半頑張った、ごほうびのキスあげるね」「うん」
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