All Chapters of 捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~: Chapter 11 - Chapter 20

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第二章 責任を取ってもらおうだなんて思っていません 3

「ああ。僕のホテルに置くものは一流のものを揃えたい。今のよりもよりよいものがあるというのなら、確認しなくてはな」真面目に和家さんが頷く。彼のそういう姿勢は尊敬できた。「へえ、これが李依自慢の枕か」展示室で枕を受け取り、和家さんは手触りとか確かめている。「……初見さんは和家CEOとどういう知り合いなんだ?」「……ええっと……」ベッドに寝転び、枕を試している和家さんの傍で、こそこそと営業部長が話しかけてくる。まさか、ハワイでお世話になって一夜を共にした仲です、なんて言えない。「ちょっと、お世話になった方です」曖昧に笑って言葉を濁す。しかし。「どこで知り合ったんだ?随分親しそうだが」営業部長の追撃の手は緩まない。周りの上役たちも聞き耳を立てていた。当の和家さんはといえば……あれ、まさか寝てないよね?確かにあの枕は秒で寝落ちさせる危険な枕だけれど。「その……」彼らの疑問もわかる。和家さんの私に対する態度はちょっとお世話になった程度の関係ではなく、もっと親しげだ。まるで、恋人かのように。それ自体はハワイにいたときからそうだったので私としては違和感はないが、知らない彼らからすれば気になって仕方ないだろう。「……はっ。すまない、本気で眠ってしまうところだった」どう説明するべきか困っていたら、ようやく和家さんが起き上がった。「李依の言うとおり、これは最高の枕ですね。この布団も軽くて温かくて申し分ない。おかげで、こんなところなのについうっかり眠ってしまうところでした」「ご満足いただけたようで嬉しいです」営業部長がずいっと一歩前に出て和家さんに答える。あとは仕様や価格について話す彼らを黙って見ていた。「とりあえずサンプルと私個人用に一セットずつ、買わせていただきます。私は気に入ったけれど担当者たちとの協議は必要ですから」「はいっ、ありがとうございます!」バタバタと控えていた社員たちが商品や伝票の準備をはじめる。私はといえば、そのまま和家さんと共に社長室へ連行された。「和家CEOはどこで弊社の寝具をお知りになったんでしょうか」座るのは社長の隣……ではなく、強制的に和家さんの隣に座らされた。社長もそれに対して、なにも言う気はないらしい。「李依が――初見さんから、枕はうちの会社のものが世界一です、と熱く推し
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第二章 責任を取ってもらおうだなんて思っていません 4

「はい、そうなんです」和家さんもにこにこと笑ってはいたが、それ以上の追求を許さない空気を醸し出していた。商品の準備ができるまで、当たり障りのない世間話をしている社長と和家さんの横で、笑顔を貼り付けてその話を聞く。ようやく準備が整い、和家さんは腰を上げた。「本日はありがとうございました」「こちらこそありがとうございました。よいお返事、お待ちしております」上役たちと一緒に和家さんを見送る。せっかくの再会だが、子供の話を彼にする気はなかった。これは私が彼にそれを許した不始末。和家さんに責任はない。それに……こんなセレブの相手に、私みたいな人間は釣りあわない。「李依」車に乗ろうとしていた彼が振り返り、一歩私のほうへ足を踏み出す。「……あとでここに連絡をくれ」耳もとで囁き、小さな紙を握らされた。受け取ったそれを、ぎゅっと手の中に握り込む。「それでは」あらためて頭を下げ、今度こそ和家さんは帰っていった。「……で。初見さんと和家CEOはどういう関係なんだ?」和家さんの車が見えなくなった途端、上役たちに取り囲まれた。……ですよねー。一社員があの大ホテルのCEOと知り合いとなれば、いろいろ気になるに決まっている。「あのー、えっと。私が新婚旅行先のハワイまで行って挙式目前の彼と別れた話はすでにお聞き及びでしょうか」社内で私はハワイ離婚した女とちょっとした有名人だ。……こんなことで有名になってもまったく嬉しくないが。なので上役たちの耳に入っていてもおかしくない。「ああ、あれは君のことだったのか」そうだろうなとわかっていても、社長が頷き複雑な気分になった。「はい。それでホテルも追い出されて途方に暮れていた私を、助けてくれたのが和家……CEOでした。それだけの関係です」「そうか、わかった。それは災難だったな」皆さん納得してくだり、とりあえず今は乗り切った。しかし……妊娠がわかってお腹の子の父親を追求されたらどうしよう……。役目が済んで職場に戻り、和家さんから渡された紙を広げる。それには電話番号らしき数字だけが書いてあった。「……どう、しよ」和家さんに会いたい。彼のおかげで帰国してからも頑張れた感謝を言いたい。でも会ったら、今度こそ別れがつらくなるという確信があった。なら、会わないほうがいい。しかし……
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第二章 責任を取ってもらおうだなんて思っていません 5

「李依」待ち合わせの場所は和家さんのホテルであるハイシェランドホテルだった。すぐに彼が私を見つけ、寄ってくる。「お疲れ。食事をしながら話そう。腹、減ってるだろ」私を連れて彼はエレベーターに乗った。「帰ってからまともに食べているのか?ハワイにいたときよりも痩せた気がする」「そう、ですか……?きっと気のせいですよ」笑って答えてみせる。和家さんは心配そうだが……まさかつわりで食べられないなんて言えない。和家さんが入ったのは、フレンチの店だった。「李依との再会に」「……再会に」彼がシャンパンのグラスを上げ、私も小さく上げる。口に運んだが飲むフリをした。「まさか枕を見に来るだなんて思いませんでした」「だって李依が激推ししていたからな。気になるに決まっているだろ?」おかしそうに和家さんが笑い、カッと頬が熱くなる。「まあ、枕はついで……というより口実?送った荷物は住所不明で届かないし、李依の居場所のヒントが勤め先しかなかった」「うっ」結局、彼とは連絡先すら交換しなかった。私の財布を人質に取っていたのでそこから個人情報を抜いたとしても、引っ越しして住所も変わっているし、携帯も前の彼との関わりは全部絶ちたくて番号を変えたので無理だ。「ここにもいなかったらどうしようと不安だったが、まだ勤めていてよかった」レンズの向こうから彼が真っ直ぐに私を見つめる。「それに、もしかして僕は李依に嫌われてしまったんだろうかと……怖かった」不安そうに揺れる瞳に、胸の奥がぎゅっと締まった。「……嫌うなんて、そんな。和家さんには感謝しています」「よかった、李依に嫌われたわけじゃなくて」眼鏡の奥で彼の目が泣きだしそうに歪む。なにか言わなきゃと思ったタイミングで、前菜が出てきた。「さあ、食べよう。ここの料理は美味しいんだ」「そうなんですね」勧められてナイフとフォークを取る。冷たい料理なのでにおいは薄いからそこはまだ大丈夫だが、オリーブオイルのかかったそれは食べられる気がしない。それでもおそるおそる口に運んだものの。「……うっ。すみません、ちょっと」「李依?」怪訝そうな和家さんには悪いが、席を立ってお手洗いに駆け込む。「うぇーっ。やっぱり、ダメか……」少し前から身体が食べ物を受け付けない。食べなきゃダメだと無理に食べ
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第二章 責任を取ってもらおうだなんて思っていません 6

「病気、ではないので」「病気じゃないわけが……」そこまで言って、彼の言葉が途切れる。なにかに気づいたのか顔を上げ、私を見た彼の目はこれ以上ないほど大きく見開かれていた。「……もしかして、……妊娠、しているのか」それには答えられなくて、つい目を逸らしていた。「そうなんだな」「違います」否定したところで、こんな態度ではバレバレだ。それでも必死に首を横に振る。「僕の子、だよな」「違います」「違わないだろ」彼は苛ついて、私の手を引っ張り立たせた。「とりあえず部屋に行こう。話はそれからだ」私を軽く支え、彼が歩きだす。私の肩を抱く手は強く、振り払えない。仕方なく彼が滞在しているであろうスイートへ連れていかれた。「僕の子を妊娠しているんだろ?」ソファーに私を座らせ、その前に跪いて和家さんは私の顔をのぞき込んだ。それに黙って首を振る。「なんで否定するんだ」今度は強く言われたが、それでも唇を硬く引き結ぶ。和家さんに迷惑をかけたくない。だから、もう聞かないで。「李依!」私が否定し続けるものだからついに彼が大きな声を出し、びくりと大きく身体が震えた。「あ、……すまない。怯えさせるつもりはないんだ」悲しそうに和家さんが力なく笑い、心臓が鷲掴みされたかのように胸が痛んだ。そのせいで唇がつい、緩む。「……ひとりで産んで、育てるので」「李依?」「……和家さんに迷惑は、かけません。これは私の責任、です。和家さんに責任を取ってほしいとか、言いません」ぽつりぽつりと話す私の言葉を、彼は黙って聞いている。「だからもう、私を忘れてください」「忘れられるわけがないだろ!」出てきそうな涙を堪え、顔を上げる。途端に和家さんに抱き締められた。「結婚しよう。李依も、お腹の子も僕が幸せにする」「だから私はっ」腕の中から抜け出ようとするが、彼はますます力を込めた。「私じゃ、和家さんと釣りあわないんです。こんな私と結婚しても、和家さんは幸せになれない」「釣りあわないとか幸せになれないとか誰が決めるんだ?そんなの、僕自身が決める。李依にも決めさせない」強い意志のこもった声で、暴れていた身体が止まった。「言っただろ?李依が誰かの幸せを願うのなら、僕が李依を幸せにするって。僕に李依とお腹の子を、幸せにさせてくれ」その
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第二章 責任を取ってもらおうだなんて思っていません 7

「僕に責任を取らせてくれ。子供には父親が必要だろ?」「それは……」彼の言うとおりだ。妊娠している今、いつまで働けるのかわからない。貯蓄もそんなにないし、産んだあとも職場に復帰できる確証もない。なにより、母子家庭が不幸だとは言わないが、子供を愛してくれる父親がいるのならそのほうがいいに決まっている。「自分のためじゃない、子供のためだと思えばいい。それで李依が……少しずつでいいから僕を好きになってくれたら嬉しい」私を抱き締める和家さんは優しい。それに私は彼が嫌いなわけではない。むしろ――好き、だ。ただ、ほとんど私のことを知らないのに彼がここまで私に拘るのかわからなくて、一歩を踏み出せずにいた。しかし、子供を理由にされたら。「……そう、ですね。子供には父親が必要ですもんね」「そうだ」「わかりました、和家さんと結婚します」「わかった」和家さんの手が頬に触れ、その親指が私の目尻を撫でた。「よろしく、李依。これからゆっくり夫婦に――家族になっていこう」「はい」眩しいものでも見るかのように和家さんが眼鏡の奥で目を細める。私もそれに笑い返していた。和家さんの言うとおり、焦る必要はない。ゆっくり和家さんを知って、愛して、家族になっていこう。とりあえず今日は家に送ると言われ、住んでいるマンスリーに送ってもらう。「……本当にここに住んでいるのか?」「はい、そうですが……?」和家さんは絶望的な顔をしているが、なんでだろう?「こんなところに李依を一分、一秒たりとも置いておけない。帰るぞ」「えっ、あっ」戸惑う私を無視して、和家さんは私をリムジンに押し込んだ。そのまま、またホテルのスイートに戻ってくる。「しばらくここで生活してくれ。本当は李依を連れてアメリカに戻るつもりだったが、妊娠しているなら出産して落ち着くまではこっちがいいよな」「えっと……」ソファーに座り、落ち着かず部屋の中をうろうろする和家さんを見ていた。「早急に落ち着ける家を買おう。それから……」「あの」「李依のご両親にも挨拶に行かないとな。あとは」声をかけたものの彼は聞こえていないらしく、ブツブツ言いながらぐるぐる歩き続けている。「和家さん!」「ん?どうかしたのか」少し強く声を出したら、ようやく和家さんは足を止めて私へ視線を向けた。
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第二章 責任を取ってもらおうだなんて思っていません 8

「あいたっ」デコピンされてヒリヒリ痛む額を押さえる。「僕はできるだけ李依と一緒にいて、李依を甘やかせたいの。だから素直に甘えとけ」和家さんの手が、言い聞かせるように軽く私の頭をぽんぽんした。「それに母国である日本に、李依の待つ家があると思うと嬉しい」「そう、ですか」「うん」彼が私の隣に腰を下ろす。顔が近づいてきてあれ?とか思っているうちに、彼の唇が私の額に触れた。「まあ、正直に言えば、僕は家が嫌いでほとんど帰っていなかったんだ。でも、李依が待っているなら喜んで帰る」「家が、嫌い……?」さらっと出てきたけれど、それってどういう意味なんだろう?「和家さんのご両親って……?」親と同居で仲が悪いとかならわかる。「僕に両親はいない。育ててくれた祖母ももう死んだ」さっきまでと違い和家さんの声は淡々としていて、感情がない。なにか、地雷を踏んでしまった……?「その。……すみませんでした」「なんで李依が謝るんだ?それにどのみち、結婚するんだから家族の話はしなければいけない」それはそうだけれど、やはり聞いてはいけない話だった気がする。これからは触れないように気をつけよう。「それより、身体は大丈夫なのか?今日だってほぼ食べてないし」「あー……。食べられるときは食べているので」適当に笑って誤魔化してみる。カロリーゼリーでどうにかやっているだなんて言えない。「つわりでも食べられるもの、調べておくな。ここにもノンカフェインの飲み物を常備するようにする」「ありがとうございます」「つらかったらいつでも言えよ。そうだ、李依の両親へのご挨拶は今度の週末でいいか?早く籍も入れたほうがいいと思うし」どんどん先の予定を決めていく和家さんはとても楽しそうだ。それを見ていると私も嬉しくなってくる。「入籍日、いつがいい?この日とかどうだ?」携帯を操作し、和家さんは直近の記念日なんかを調べている。そういうのが凄くいいなと思った。……でも。和家さんは子供ができたから、仕方なく結婚するんじゃないのかな?そうじゃないならなんで、私と結婚するのかやっぱりわからない……。
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第三章 幸せにすると誓います 1

朝は和家さんが会社まで送ってくれた。……例の、リムジンで。「その。手前で降ろしてください」「なにを言っているんだ、会社まで送るに決まってるだろ」私のお願いはにっこりと笑った和家さんによって却下された。……このリムジンは目立つんですよ!心の中で抗議したって彼には聞こえない。それに言ったところで彼が聞いてくれないのは学習済みなので、もう言わない。会社の前にリムジンが横付けされる。何事かと出勤してきた人たちが集まってきて、今から降りるのだと思うと気が重い。運転手がドアを開け、和家さんが先に降りた。私は奥に乗せられたのでそうなる。「送ってくださり、ありがとうございました」「ん、いってらっしゃい」お礼を言ってさっさと会社に入ろうとしたら和家さんの顔が近づいてきて、唇が重なった。「……は?」固まっている私を置いて和家さんが車に乗り、ドアがバタンと閉まる。すぐに窓が開いて彼の顔が見えた。「李依、愛してるー」ひらひらと手を振りながら去っていく和家さんを呆然と見送った。あの人はこんなところで、いったい、なにを。周りの視線が、痛い。「あー、えっと。あはははっ」なんとなく笑い、逃げるように建物の中に入った。職場に着くと同時に、速攻で上司の元へ向かう。先手必勝、だ。「課長。和家CEOと結婚することになりました」「そうか、結婚か。おめでとう。お相手は和家CEOか。……ん?」温かくお祝いムードだった課長が笑顔のまま固まる。「……和家CEOと結婚?」「はい、そうです」「へぇー、そうなの……か?」「はい、そうなんです。よろしくお願いします」止まったままの彼を置いてさっさと席へ戻った。妊娠は……まだ報告しなくていいよね?仕事はいまのところ、どうなるのかわからない。昨日はほぼ、妊娠を和家さんに知られ、結婚を決めるだけでいっぱいいっぱいだった。彼からも今日帰ってからあらためて今後の話をしようと言われている。私と和家CEOの結婚の話は瞬く間に広がり。「……ねえ。あの人が」「……ああ、例の」こそこそ話す声が聞こえてきて、足を速めて経理部まで戻る。「……面倒」あっというまに私の噂が上書きされた。ハワイで男から逃げられた女から、ハワイで浮気して結婚直前だった彼に別れを告げられた女に。不名誉度は断然、後者が
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第三章 幸せにすると誓います 2

「お疲れ、李依」「お迎え、ありがとうございます」和家さんはわざわざ降りて、私を奥へ乗せてくれる。とにかく早くこの場を離れたくて、なにも言わずにさっさと乗った。「その、送り迎えはありがたいんですが、あの」……このリムジンは目立つからやめてほしいです。というのはなんか、言いづらい。「今日はたまたま、だな。ちょうど時間に余裕があったんだ」「ああ、そうですか……」なら、これからはない?それならちょっとだけ安心だ。「僕自身が行けない日は、迎えを寄越すから心配しなくていい」和家さんはそれが当たり前だというふうな顔をしている。その申し出は大変ありがたいが、それもこのリムジンではないと思いたい。「しかしハイヤーになると思うから、すまないな」「いえ……」……ハイヤー大歓迎!とか心の中で大喜びしていたのに。「どうせ李依用の車もいるし、もう一台リムジンを買うかな……?」なんて和家さんが悩みだしてどきまぎした。ホテルに帰り、夕食は部屋に取ってくれた。「あの、取っていただいたのに申し訳ないのですが、食べられる気がまったくしないので……」「いいから」肩を押されて渋々椅子に座る。和家さん側にはパスタやなにかが並んでいるが、私のほうにはスープと、トマトのサラダらしきものが置いてあるだけだった。さらに。「……においが」冷めているのかあまりにおわない。それだけではなくこんな料理だとしそうなにんにくやなんかのにおいもなかった。「李依に合わせてもらった。これなら大丈夫か?」少し心配そうに和家さんが私の顔をうかがう。「そうですね、いまのところは大丈夫です。でも、申し訳ないです……」私のために冷めた料理を食べさせるとか。「李依のためだったらなんだってするからいいんだ」和家さんは笑っているが、私としては大変心苦しいです……。「さて、食べようか」「……そう、ですね」そこまで彼が気を遣ってくれたものの、食べられるかどうかはかなり怪しい。この頃は食べたら吐くのが怖くて、口に入れるのが怖いというのもある。「つわりでも食べられそうなものをリサーチして作ってもらったんだ。少しでいいから食べてみないか?」迷っている私に和家さんが勧めてくる。「じゃ、じゃあ、少しだけ……」スープなら少しは飲めそうな気がしないでもない。トマトのサラダも
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第三章 幸せにすると誓います 3

食事のあとは今後の相談をした。「両親に連絡ついて、明日、大丈夫だそうです」「わかった」明日は土曜で私が休みなので、両親に挨拶へ行こうと言われていた。予定だけ確認して紹介したい人がいるから、と、あとは既読スルーしているのできっと今頃ヤキモキしているだろうが……ごめん。前の彼と別れたばかりなのにでき婚だとか言いづらい。「それで。李依はいつまで仕事を続けるんだ?」……きた。和家さんとしてはそこが気になるところだろう。「あの。仕事を続けてはダメでしょうか」レンズの向こうと視線を合わせ、真っ直ぐに彼を見る。結婚渡米の予定がなくなったのなら、仕事は続けたい。「李依はそんなに、今の仕事を続けたいんだ?」「はい」「じゃあ、どうして続けたいのか、僕が納得できるように説明して」和家さんはいつもの甘い顔とは違い、少し怖い顔をしている。もしかしてこれが、経営者としての彼の顔なのかな……?「それは……」口を開いたものの、なにも出てこない。今の会社は好きだが、生涯を捧げるほどではない。あるとすれば経理部配属が決まって通った専門学校が、もったいなかったかなというくらいだ。しかし。「……仕事を辞めて専業主婦になり、ただ和家さんに養われるのは嫌です。自分のお金くらい、自分で稼ぎたい。そうじゃないともしなにかあったときに困りますから」……和家さんに捨てられたときとか。この結婚は子供ができたから仕方なくという以外、理由がない。だから余計に今は私を可愛がっている和家さんだって別れた彼のように、急に心変わりしないとは言えなくて不安だった。「ん、わかった」しかし彼の言葉は重く、反対されるのかと身がまえる。「李依のそういう姿勢、いいと思う。でも李依は今、妊娠している。食事もまともに取れていない。だからしばらくはお休みしてもいいんじゃないかな」彼の言うことはもっともだ。まだ会社ではバレていないが、仕事がつらいときもある。それにどんなに頑張っても出産前後は休みを取らなければならない。なら、……一旦辞めるものあり?でも、それって。「……それは逃げるみたいで嫌です」私はあんな噂を立てられたくらいで、会社を逃げだしたくない。それって、その話は本当ですって認めるも同じだ。それじゃなくても和家CEOは人妻を誑かす最低男、という噂も流れて
last updateLast Updated : 2025-10-31
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第三章 幸せにすると誓います 4

翌日は和家さんと一緒に実家へ帰った。「……車両貸し切り」「どうかしたのか?」「いえ」笑顔を作って和家さんの隣に座る。実家まで車だとかなり遠いが、新幹線なら二時間かからないからそちらになった。……のはいいが、車両貸し切りは意味がわからない。「李依のご両親ってどんな人なんだ?」私の手を握り、和家さんが聞いてくる。「普通の人ですよ。父は普通の会社員ですし、母もパートです」だから私のでき婚以上に、相手がこんなセレブだなんて知ったら、気絶しかねない。「そうか。も、もし、ハワイで結婚直前の彼から別れを告げられて弱っている娘につけ込んで孕ませるなんてとか、言われたらどうしよう」想像しているのか、和家さんは青くなってガタガタ震えている。この人でも結婚相手の親に会うのは怖いのだと意外だった。「大丈夫ですよ、私こそ旦那と別れた直後にそんなふしだらなってち、父に……」今度は私が、みるみる血の気を失っていく。……怒鳴られる。確実に怒鳴られる。ううっ、今すぐこの新幹線を止めたい……。「大丈夫だ。僕がきちんと説明をする」私を力づけるようにきゅっと、和家さんの手に力が入った。「いえ。これは私の問題なので、私がちゃんと説明します」あの夜、それを和家さんに許したのは私なのだから、私の責任だ。彼に負わせるわけにはいかない。「そういう李依、格好よくて惚れ直す」ふふっとおかしそうに彼が笑い、頬が熱くなっていった。「けれど僕にも説明させてくれ。李依ひとりに守られているだけだなんて、格好悪すぎるだろ」ちゅっと和家さんの唇が私の頬に触れる。「でも……」これは私の問題。私だけの問題だ。和家さんに迷惑をかけるわけには。「ひとりで背負わない。子供はひとりで作れるものじゃないだろ?」軽く、彼が私の額を弾く。「僕にだって責任はある。それにまだ籍は入れてないとはいえ、僕たちはもう夫婦だ。だから李依の問題は僕の問題」和家さんはそれが当たり前といった顔だが、本当にそうなんだろうか。「なんでもかんでも自分のせいだと思わない。それは、李依の悪いところだ」「ふがっ!?」黙っていたら鼻を摘ままれた。「そういう悪いところは直そうな」「……はい」ヒリヒリ痛む鼻を押さえた私を、和家さんは笑って見ている。これだけ言われても、やはりわからない
last updateLast Updated : 2025-10-31
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