悠将さんが帰ってくるまでの僅かな時間で、黙々と荷物の整理をする。「マフラー、編み上がったのに」編んでいる間ずっと、喜んでくれる顔ばかり浮かんでいた。普通じゃないほど喜んで、このまま金庫に入れて保管しておく!とかいうところまで想像できたのに、それが見られないのは残念だ。このマフラーはあとで処分しよう。予定どおり、ジャニスさんと話をした翌々日に悠将さんが帰ってきた。「ただい、ま……」私の顔を見た途端、みるみる彼の顔が曇っていく。「李依?なにかあったのか?」そっと悠将さんの手が、心配そうに私の頬に触れた。……ああ。ダメだな、私。ちゃんと笑ってお別れしようって決めていたのに。「悠将……和家、さん」「李依?」名字で呼ばれ、眼鏡の奥で不安そうに瞳が揺れる。「お世話になりました。私と別れてください」自分の左手薬指から指環を外し、その手を取ってのせた。「李依、なにを言っているんだ?」「私のせいで、和家さんがホテルのひとつを失ったと聞きました。私と一緒にいたら、和家さんは幸せになれない。私じゃ和家さんを幸せにしてあげられない、から。子供は責任を持って育てます。だから、気にしないでください」視線は合わせられなくて俯いた。出てくるな、涙。彼の幸せを願うなら、これが一番いい選択なんだから。「……それは李依のいいところであり、悪いところだ」頭の上に悠将さんの声が落ちてくる。それは、怒っているようだった。「僕の幸せのために自分は黙って身を引く?李依はそうやって、自分に言い聞かせて諦めているだけじゃないのか」彼の声がずっしりと胃の腑に落ちる。私が諦めていた……?考えてみれば悠将さんの言うとおりだ。本当はハワイであの人に別れを告げられたとき、泣いて喚いて責めたかったかもしれない。でも、それで彼が幸せになれるんだからいいんだと自分に言い聞かせた。今だって。「自分の気持ちはちゃんと伝えろ。それすらせずに諦めるな」私の肩を掴む、悠将さんの手が痛い。しかしそれだけ、私を思ってくれている。「……悠将さんと一緒にいたい」自分から出た声は情けないほど震えていた。「悠将さんと子供と一緒に、温かい家庭を築きたい。私が悠将さんを幸せにしたい」おそるおそる顔を上げると、レンズ越しに目が合った。その目は石炭のように燃えてい
Last Updated : 2025-10-31 Read more