月島綾子(つきしま あやこ)は神宮寺柊(じんぐうじ しゅう)が裏の世界から奪い取った女だ。だが彼女は気性が強く、彼に妻と息子がいると知ると、無理やり屋敷に留められても、執事としてしか仕えることを許さなかった。やがて神宮寺家のさまざまな事務はすべて彼女の手に委ねられ、彼女は百条もの新しいルールを定めた。神宮寺家の正妻である雨宮七海(あめみや ななみ)でさえ、そのルールの前では反抗できない。そんなある夜、息子が高熱を出し、七海はやむなく息子を抱いて屋敷の門へ駆け出した。だが綾子が数人のボディーガードを連れて立ち塞がる。「奥様、門限を過ぎています」綾子が腕時計をちらりと見て、微動だにしない声で言った。「外出はお控えください」「今は非常事態なの!息子が高熱なのよ、どきなさい!」七海は歯を食いしばるように叫ぶ。だがボディーガードたちは一歩も動かない。「明朝六時になれば、予定通り開門いたします」綾子の声は礼儀正しい。「何だって?」七海は信じられない思いで彼女を見つめる。腕の中の子は頬が真っ赤に染まり、呼吸も荒い。七海の声は震えた。「明日までなんて待てないのよ!お願い、一度だけ……」「神宮寺家のルールは破れません」綾子の表情には一片の感情もない。「ルールより人の命のほうが軽いの?」七海がついに堪えきれず、最も近くにいたボディーガードを蹴り飛ばす。だが彼はよろめきながらも一歩も引かない。綾子が小さく息を吐き、片手を上げると、黒服のボディーガードたちが一斉に取り囲んだ。「申し訳ありません、奥様」子を無理やり奪われた瞬間、七海の体は震え、喉が詰まって声にならない。そのとき、背後から低く冷たい声が響いた。「これはどういうことだ?」七海は救いを見たように、縛られていた手を振りほどき、声の主のもとへ駆け寄る。「柊!息子が熱を出してるのに、外に出させてもらえないの。早く病院へ連れて行って!」柊は彼女の頬を伝う涙を拭い、跪くボディーガードたちに目を向けた。「神宮寺様、ご命令の通り、我々はすべて月島様の指示に……あっ!」銃声が夜を裂いた。柊の瞳に宿る怒気は凍てつくほど鋭く、その声は氷のように冷たい。「息子にもし何かあったら、お前たち全員、地獄まで付き合え」彼が息子を抱き上げようとしたその瞬間、綾子が一歩前に出て、彼の前
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