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合縁奇縁、そんなふたりの話(BL) のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

88 チャプター

過去編 第七十一話

一護はポテチを摘まむ。 手はかじかんでいるのに、どうしてもポテチを食べたいがため、指先のない手袋をしていた。中途半端な防寒だが、彼にとっては最適解らしい。 「食べ過ぎだろ。僕の分も残しておけよ」 「大丈夫。まだ二袋あった。シソとガーリック」 そう言って、一護は悪びれもなく袋を掲げる。 「癖の強いもんばっかじゃねぇか」 「精力つけるならガーリックでしょ。寧人は」 軽口のまま、袋をパーティー開けにして寧人の膝元へ置く。 頼まれてもいないのに、世話を焼く。 一護はそういう男だ。 今回の旅では、本来は寧人が支える側のスタッフのはずなのに、気づけば立場が逆転している。一護が寧人に手を焼き、寧人はそれを受け入れてしまっている。 「……まぁ、悪くないけど」 寧人は、指が空いていない手袋をちらりと見てから、それを脱ぎ、少しずつポテチを摘み始めた。 その様子を見て、一護は満足そうに頷く。 「そういえばさ」 と寧人が口を開く。 「一護って、フードジャンゴの跡取りだったんだよな。お父さん、先代社長で」 「ああ、そうだね」 一護はあっさり答えるが、その声には少しだけ距離がある。 「もともとは卸のスーパーだったんだ。フードジャンゴの前身。そこから外国のフーディーズと提携してさ。 『来てもらう時代じゃなくて、食を届けに行く』って考え方を早めに形にした。結果、デリバリーの大手になって上場」 「デリバリー……」 寧人は笑う。 「僕、引きこもりの時めちゃくちゃ助けられたわ」 「それはそれは」 一護は肩をすくめる。 「最初は贅沢だの、怠け者だの言われてたけどね」 気づけば、ポテチの袋は空になっている。 だが次の瞬間、新しい袋が静かに補充されていた。 「……注ぎ足しされた」 「気づかなかったでしょ」 寧人はため息をつきつつ、ポテチを噛む。 「ばあちゃんから聞いた話だけどさ」 寧人はふと思い出したように言う。 「胎教の頃からクラシックとか英語とか、浴びるように聞かされてたんだって? 生まれてからもずっと、社長になれ、継げ、継げって」 「うん」 一護は笑う。 「耳元で囁かれてた人生だね」 「でも、最初にやったのは美容院だろ?」 「そう。美容に興味あったから。 大学の時、先輩に誘われて
last update最終更新日 : 2026-01-03
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第七十二話

「小学四年まではさ」 一護はカップを両手で包みながら話し始める。 「自分は一人っ子だと思ってた」 静かな声だった。 「母さんがいなくなって、半年後に新しいお母さんを紹介されたんだけど。その人、子どもが二人いた。年子の兄弟」 「頼知と……今、フードジャンゴにいる二人?」 「そう」 一護は頷く。 「頭も良くてさ。でもやんちゃで、世話が大変だった」 「……だから今のお世話好きが?」 「それもあるけどね」 一護は少し首を振る。 「その前から、お手伝いさんの家事とか料理を見て真似してた。気づいたら自然と」 寧人は「ほぇー」と小さく声を漏らす。 同じ人間とは思えない。 「その後、さらに三人増えた」 一護は淡々と続ける。 「新しい母さんが、別の男との間に作った子どもたち」 「……え」 「下の三人も手がかかってさ。散々世話したよ」 少し間を置いてから、静かに言う。 「でも、それがバレたら――母さん、蒸発した」 「……なんだそれ」 「父さんが金を渡して、遠くに住まわせたって話は聞いた」 「島流しじゃん」 「言い過ぎ」 でも否定しきれない沈黙。 「会いに行けばいいんじゃないの?」 「……いつかはね」 一護は視線を落とす。 「今は思春期だろうし。 僕のこと、どう伝えられてるかもわからない」 「でもさ」 寧人は言う。 「この動画、見てくれたら嬉しいと思うよ。 自分の兄ちゃんが菱一護だって、知ってるんだろ?」 「……うん」 一護は短く答え、言葉を詰まらせた。 本当に、大切にしていたのだ。 寧人はそう確信する。 一護はそれ以上何も言わず、ココアをすすり、黙々とポテチを食べ続けた。 「頼知とも、正直あんまり仲良くない」 「なんで?」 「手をかけすぎて、うざがられた」 「あー……そっちか」 寧人は苦笑する。 一護の世話焼きは、 甘やかしてダメにするタイプ(寧人) 巣立たせるタイプ(ドラゴン) 鬱陶しくなって離れるタイプ(頼知) 見事に分かれる。 「じゃあ寧人は?」 「一人っ子」 「ぽいな」 「どこが!」 即座にツッコミが飛ぶ。 「親、自由人でさ。旅行行っても現地集合解散。 今も仲悪くないけど、好きに生きたいって実家売って別居」 「…
last update最終更新日 : 2026-01-04
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第七十三話

 キャンピングカーの中へ、二人は身を滑り込ませるように入った。 一護の身長には天井が少し低いが、圧迫感はない。むしろ、外界から切り離された箱のようで落ち着く。「このソファもさ、クッション動かせばベッドになるらしいよ」 一護は軽く叩いて見せる。「でも……二階のほうがいいかも。秘密基地っぽい」「……うん」 寧人はそれ以上言葉を足さず、梯子を支える。一護が先に登り、続いて寧人も身をかがめながら上がった。 二階部分はさらに天井が低い。だがその狭さが、逆に二人の距離を否応なく縮める。 用意されている寝袋は二つ。だが、ファスナーで繋げれば一つになるタイプだった。最初から、そう使われる前提で。 言葉はいらなかった。 視線が絡み、自然に唇が重なる。「……こういう場所で、するのも悪くないよね」 一護が囁く。「狭くて、逃げ場がなくて」「……うん」 寧人は短く答えた。 一瞬、営業車の中で古田と過ごした時間が脳裏をよぎる。あの雑然とした、落ち着かない空間。 だがここは違う。ちゃんと“眠るための場所”で、柔らかい寝袋が用意されている。 一護が寧人のシャツに手をかける。コーヒーで汚れたそれを、ゆっくりと脱がせる。 今度は寧人が一護のシャツに指を伸ばし、同じように引き剥がした。 日焼けした肌。鍛えられた線。 灯りは小さなランプ一つだけで、淡い橙色が二人の肌を撫でる。その光が、輪郭を曖昧にして、妙に艶めかせた。「一護……」「寧人……」 名前を呼ぶだけで、胸の奥が熱くなる。 いつものように深く口づけ合い、体温を確かめ合う。だが、一護は途中でふっと身を離した。「待って」 そう言って、少し悪戯っぽく笑う。「ここからはさ……二人だけの秘密の時間」「カメラもない。だから、正直に答えて」「……どこ触りながら言ってんだよ」「そっちこそ」 軽口を叩き合いながら、触れる距離は保ったまま。 息が絡み、言葉が途切れがちになる。「……じゃあ聞く」 寧人が低く言う。「自分がゲイだって、いつ頃からわかってた?」「……ん、ちゃんと大人になってから」 一護は少し考え、そう答えた。「家に長く仕えてくれてた人がいてね。同性愛者で、独身で……」 声が揺れる。 寧人は黙って聞く。途中で遮らない。「ずっと面倒を見てくれてて。僕が一人の人間として自立した頃
last update最終更新日 : 2026-01-05
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第七十四話

いったん言葉は途切れ、二人は互いの体に集中した。 触れる、擦る、確かめ合う。その動きが自然と重なり、やがて同時に息を詰める。 熱が弾けるように、白が二人のお腹に散った。 「……イッた時の顔、見ながら出すのやめて」 一護は息を整えながら、視線を逸らす。 「恥ずかしい……」 「無理。可愛すぎる」 寧人は遠慮なく言い切る。 「ほら……たくさん出てる」 「言うな……」 しばらく余韻に浸ったあと、一護が思い出したように聞いた。 「……コンドーム、ある?」 「あるよ。今朝、コンビニで買った」 「今朝?」 一護は眉を上げる。 「もうこの旅で何回買った?」 「覚えてないな」 寧人は肩をすくめる。 「……正直、何回かはつけなかったし」 そう言いながら、寧人は一護の脚を持ち上げ、自然に股を開かせた。 「寧人……」 一護は息を吸い、思い出すように続ける。 「あの時……風呂上がりで、偶然あなたと鉢合わせたでしょ」 「ああ……」 「その時に見た。あの……大きなの」 一護は照れも隠さず、まっすぐ言う。 「もうその瞬間に決めてた。……欲しいって」 「……変態かよ」 「でもさ」 一護は悔しそうに笑う。 「ぜーんぜん挿れてくれなかった」 「今なら……いつでも」 寧人はローションを手に取り、一護の入り口にゆっくり垂らす。 自分にもなじませているうちに、熱はまたはっきりと主張を始めた。 一護はわざと甘えるような視線を向ける。 寧人はコンドームを指に通し、慎重に、だが確実にほぐしていく。 「……っ、あ……」 声が高くなる。 「ほしい……ほしい……」 「昼間と全然違うな」 寧人は低く笑う。 「カメラの前じゃ完璧なイケメン社長なのに……今は淫乱な子猫ちゃん」 「あなたこそ……」 一護は荒い息のまま言い返す。 「普段はへっぽこなくせに、そんな大きなの勃たせて……完全に暴走オス犬……っ、あああっ!」 寧人はもう待たなかった。 躊躇なく、一護の中に入る。 「……っ!」 一護の背中が反る。 「お前のせいで……」 寧人は歯を食いしばる。 「僕のアレが、快楽覚えちまったじゃないか……どうしてくれる」 「だったら……」 一護は涙目で笑う。 「もう、僕の以外ダメだよ」
last update最終更新日 : 2026-01-06
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第七十五話

二人の旅も、気づけば佳境に差しかかっていた。 最初はただの成り行きだったはずの道行きが、今では「ここまで来た」という実感を伴って胸の奥に溜まっている。 「ぼく、この地に来たの初めてなのにさ……みんな、ほんとに優しいよね」 一護は空を見上げながら、少し間の抜けた、でも心から嬉しそうな声で言った。 日差しに照らされた横顔は、旅の最初よりもずっと柔らかい。 「そうだな……」 寧人は頷きながら、少しだけ言葉を探す。 「動画も思った以上に見てもらえてさ。街の人たちも、もう俺たちのこと知ってて。 ……正直、俺の人生じゃ考えられなかったよ」 元引きこもり。 外に出るのが怖くて、人の視線が刺さるようで、世界はいつも画面越しだった。 そんな自分が、こうして旅をして、知らない土地で声をかけられている。 「こんなに外に出て、いろんな人に会って、いろんな人に知ってもらって……」 言葉にしながら、寧人は小さく笑った。 「……もしさ」 一拍置いて、続ける。 「俺があの日、麻婆丼を頼んでなかったら。 一護が配達人じゃなかったら。 一護がお世話焼きじゃなかったら……今の俺はいない」 一護の方を見ると、少し驚いた顔をしている。 「ありがとう」 照れ隠しのように、寧人は視線を逸らしながら言った。 「な、なによ。いきなり……」 一護は少し慌てたように笑った。 「なんとなく、言いたくなった」 「……ふふ」 一護は小さく息を吐いて、目を細める。 「嬉しいよ。ほんと……ご縁って不思議よね」 「うん」 そう答えた直後だった。 一護が急に顔をそらし、両手で顔を覆った。 「……?」 「どうしたんだよ、一護」 「なんでもない。ほら、早く行こう……休憩、終わり」 そう言いながらも、一護は立ち上がらず、その場に座り込んでしまう。 両手は顔を覆ったまま、肩が小刻みに揺れていた。 「……寧人がさ」 くぐもった声。 「調子に乗って、めちゃめちゃになったけど」 「おい」 「それでもね……こうやって、二人で旅できてよかったって……」 言葉の最後は、完全に震えていた。 「……まだ、この旅終わってほしくない」 一護の声が、かすれる。 「終わったら……どうなっちゃうんだろうって、思っちゃって……」
last update最終更新日 : 2026-01-07
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第七十六話

それから数日後。 二人は、旅のゴールとなるGテレビに向かって走っていた。 特別な事故も、大きな怪我も、命に関わる病気もない。 ――もちろん、筋肉痛は慢性的だし、転んだときのかすり傷や日焼けのヒリつきは全身に残っている。 それでも「無事に辿り着いた」と胸を張れる状態だった。 「……天気、いいな」 寧人が空を仰ぐ。 雲は薄く、風は穏やかで、やけに空が高い。 「気持ちいい……このゴール」 「うん! ゴールにふさわしい日だ!」 一護は声を弾ませる。 「よっ、晴れ男の一護ーっ」 「なによ、それ」 笑いながらも、一護の表情は誇らしげだった。 実際、この旅の間、不思議なほど大雨には遭わなかった。 多少の曇天や霧はあっても、致命的な悪天候は一度もない。 ――運がよかっただけじゃない。 寧人は、そんな気がしていた。 やがて、テレビ局の建物が視界に入る。 その瞬間、二人はほぼ同時に異変に気づいた。 「……ん?」 「……あれ?」 沿道に、人がいる。 一人や二人じゃない。 明らかに「待っている」数だ。 「どういうこと……?」 「……!!」 一護は思わず自転車を止めた。 寧人も続いてブレーキをかけ、地面に足をつく。 「こんなに……多いなんて……」 老若男女。子連れの家族、年配の夫婦、若者たち。 その中に、明らかに関係者と分かるスタッフの姿も混じっている。 「寧人……知ってた?」 「……いや」 寧人は首を振る。 「スタッフから“こっちから入ってください”って言われて、遠回りだなとは思ったけど……」 一瞬、言葉を詰まらせる。 「……こんな人数がいるなんて、聞いてなかった」 その中に―― 見覚えのある顔があった。 色恋沙汰で左遷された当時、露骨に距離を置き、陰で笑っていた上司や同僚たち。大きく旗を振っている。涙ぐむものもいる。 その光景を見た瞬間、寧人の目から、堰を切ったように涙が溢れた。 「……っ」 一護が何も言わず、寧人の肩を軽く叩く。 「行こ」 その一言に背中を押され、二人は再び自転車に乗った。 ゆるやかな坂を、ゆっくりと登っていく。拍手と歓声が、波のように押し寄せる。 「なんで……なんで、いるの……」 一護の方も、目を見開いている
last update最終更新日 : 2026-01-07
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第七十七話

ゴールの喧騒の中で、最初に動いたのは一護だった。 クラッカーの音も、拍手も、名前を呼ぶ声も一瞬置き去りにして、真っ直ぐ弟と妹たちのもとへ向かう。 「……っ」 言葉になる前に、体が動いた。 弟と妹をまとめて抱きしめる。その拍子に一護の喉から嗚咽が漏れた。 「来て……くれたんだ……」 「当たり前じゃん」 「動画、毎日見てたし」 「兄ちゃん、すげーかっこよかった」 その横で、頼知もまた涙を浮かべていた。 決して仲が良かったわけじゃない。 むしろ、距離のある関係だったはずなのに――。 「……お疲れさま」 そう言って、頼知は一護に抱きついた。 一護は一瞬驚いた顔をしたあと、何も言わずにその背中を抱き返した。 一方、少し離れた場所でその光景を見守っていた寧人のもとに、Gテレビの同僚たちが集まってきた。 「寧人くん」 所長が、両手で寧人の手を強く握る。 その目は赤く、声も震えていた。 「君が……君が、こんなにたくましい男だとは思わなかった」 ぐっと息を詰めてから、続ける。 「いきなり企画を押し付けてしまったのに、それでも投げ出さず、ここまでやり切ってくれて……本当にありがとう」 「い、いえ……」 寧人は戸惑いながらも、頭を下げる。 「確かに、最初は無茶振りでしたけど……この企画が成功したのは、一護……さんや、スタッフのみんなのおかげです」 その言葉に、周囲から拍手が起きた。 手を叩く音が重なり、寧人は一瞬、現実感を失う。 (……俺が、こんなふうに人に囲まれて仕事を終える日が来るなんて) 胸の奥が、じんわりと熱くなった。 そのときだった。 「はーい!!」 よく通る声とともに、あのタレントが現れた。 目を真っ赤に腫らし、泣きながらマイクを握っている。 「もう、本当に……!」 彼女は二人の間に割って入り、涙声のまま叫ぶ。 「お二人の熱い絆、私たち全員の心を打ちました! 市内だけじゃありません! ミーチューブを通して、全世界から応援が届いています!」 ぐっと鼻をすすり、 「私も……涙、涙ですっ!」 そう大きく言われて、寧人も一護も思わず照れてしまう。 「あ、そういえば!」 タレントが急に声のトーンを切り替えた。 「一護さん! ここで“どうしても話したいこ
last update最終更新日 : 2026-01-08
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第七十八話

古田は、笑っていた。 以前会ったときよりも、どこか肩の力が抜けている。 髪も短くなり、表情も柔らかい――まるで別人のようで、寧人は一瞬、言葉に詰まった。 (……雰囲気、変わった?) 「なに?」 古田が首を傾げる。 「“古田さん”だなんて、他人行儀だな。 リンでいいのに」 口元だけで笑う。 「もう僕、君の上司じゃないんだし」 「……な、なんで……その、リンがここに……」 動揺がそのまま声に出た。 「え? ああ……ベクトルユーの同僚として?」 そう聞くと、古田はゆっくり首を横に振った。 「違うよ」 短く、きっぱりと。 「ここに“呼ばれて”来たんだ」 視線が、寧人の背後に向く。 「……なぁ、一護」 その瞬間、一護が古田の隣に立ち、自然な動きでその肩に手を回した。 「リンにはね」 一護は、いつもの穏やかな声で言う。 「僕の会社に入ってもらうために、ベクトルユーを辞めてもらったんだ」 「……は?」 寧人の頭が追いつかない。 「この旅の間に色々準備してくれてたのも、リンだよ」 「……え、じゃあ……」 寧人は古田と一護を交互に見る。 「ってことは……また僕の同僚になるってこと?」 一瞬、胸の奥がざわついた。 せっかく一護と“ここまで来た”のに、 過去の関係を知る男が、また近くにいる――。 そんな寧人の内心を知ってか知らずか、古田は吹き出す。 「何言ってるんだよ」 肩をすくめて、軽く言った。 「だからー、同僚じゃない」 そして、にやりとする。 「寧人は――僕の“上司”になるんだよ。社長」 「……は?」 世界が一瞬、止まった。 「……ぼ、僕が……社長?」 「うん」 古田はあっさり頷く。 「一護、何も話してなかったの?」 「ね、ねえ一護……」 寧人は完全に混乱している。 「僕が社長って……どういうこと? リン、そんなの……どうすればいいの?」 「さあ」 古田は肩をすくめる。 「それは知らないけど」 一拍置いて、 「副社長が、話したいことあるらしいよ」 「……副社長?」 もう何が何だかわからない。 寧人は一護に詰め寄った。 「ちょっと待って、聞いてない、何も聞いてない……!」 だが、一護の顔は驚くほど穏やかだった。
last update最終更新日 : 2026-01-09
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新生活編 第七十九話

 公開プロポーズのあと、食事会があり大いにまた盛り上がった後に2人は食事会の行われたホテルに泊まった。 プロポーズ後もあり2人は燃え上がるかと思ったが、久しぶりの飲酒で酔いつぶれて寝てしまったのであった。 次の日の朝も酒が残っている。一護も珍しくヘロヘロである。 そしてトイレで吐いてしまった。背中をさすってあげるのは寧人である。「僕も若くないなぁ、君に介抱されるなんて」「だな、僕の方がまだなんとか大丈夫」「お水もありがとう。せっかくの初夜なのに……なにもできなかった」 寧人は一護の口元を拭いてやる。「旅中に何度も愛し合ったんだからさ……いいんじゃない?」「そうだね、寧人」 一護は寧人に寄りかかる。「朝起きたらさ、夢かと思ったら薬指に指輪があるんだもんな……」「夢じゃないよ、でも今までの出来事があっという間過ぎて夢のようだよね」「でもこんな夢のような出来事も君と出会えたからだよ」「……寧人ってさ、素直じゃないよね」「……」「ちゃんと好きって言わないから僕が回りくどい手を使って言わせたようなもんだし」「一護はそこまでして言わせようとするのもお節介というか、らしいっていうかさ、何というかさ」 寧人は笑うと一護も笑った。「これから大変だな。仕事もやめて、新しい会社立ち上げて……あーっ、もう考えたくない。このまま夢から覚めないでくれ!」「いい夢なんだから覚めないで」 二人の手は強く握り合う。 そして昼過ぎに一護の体調も安定したところでチェックアウトして寧人はアパートに戻った。「久しぶりの我が家ー……? ん?」 寧人は目を丸くした。「おい、何もないっ! 泥棒かっ?」 旅の始めに寄ったこの部屋が抜け殻。寧人はあたふたし始める。その後ろで一護が笑う。「また一護っ! なにかしたでしょっ」「うん、新居に全部運んであるから。あ、ちょうどリンちゃんがアパートの前に来たって。車の音もする」 寧人は慌てて玄関に行き駐車場を見ると古田が車から降りてきた。「おい、ホテルから出たら電話しろって言ったろー」「ごめーん、ちょっと寧人にサプライズしたかったのー」 一護は悪魔のような笑顔で笑う。「新居ってどこだよ」「ん、古田と向かうよ」「まさか市外か?」「うん、戻るよ……前に住んでいたところに」「……おい、こっから時間かかるぞ」「
last update最終更新日 : 2026-01-10
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第八十話

 あれから一年経った。「リン、明後日からのスケジュールを追加しておいたから後で共通カレンダー確認しておいてくれ」「はいかしこまりました、社長」 古田の運転する車の後部座席でパンをかじりながらパソコンと睨めっこしている。 仕事の方は何とか順調で一護の人脈のおかげで社員の人数も増え仕事もうまくいっている方である。 今まで人の上に立つことを避け、人も働くことを避けていた寧人が今では社長だ。 41歳となった今、部下たちに指示をしながらも自分からも足を運び多くの店とその店の料理を食べたい人をつなげる仕組みを構築するために奔走している。「副社長はまたサイクリングだそうで……」「仕事もしっかり終えてリフレッシュなんだから。今度はサイクリングチーム作るとか言って一週間でメンバー集めたからびっくりしちゃったよ」「いいんですか、今日は……」 寧人は共通カレンダーを見る。花のアイコンが先頭についている。「覚えていてくれたんだね、リン……」「僕は秘書ですから……これくらい……」 古田は運転しつつも少しはにかむ。「このあと少し時間が空いた……どこかで休みたい」「……かしこまりました……ではあの駐車場に。大きなモールですので昼休憩、としておきましょう。フィットネスもありますし先にそこへ行きましょう」「ああ……」 ◆◆◆「あんっ……社長っ……今日はそこから攻めるの?」「首筋も弱いもんな……リン。お前の太い首、血管……どくどくと流れる血液……」「……キスマークはつけないでくださいね……はあっ……て言ってる最中から……」 寧人は古田の首筋に吸い付き、赤く跡がついた。 そしてそのまま胸元まで舌を這わせて乳首を責める。「社長ううっ……もっと、もっと激しくっ」「リン、声を出せ、もっと!」「んんんーっ、はぁっはあっ……」 寧人と古田はあれほど一護に関係を持つなと言われたのにも拘わらず、再燃してしまったのだ。 寧人はもちろん愛してるのは一護だが、体は古田を覚えていた。そして古田からの猛アピールで再開してしまった。 GPSやボイスレコーダーは付いているものの、電源を切ればボイスレコーダーは機能せず、今回のように会社が提携している店や複合施設の駐車場に車を置けば仕事だと言い切れるのだ。 そして一護も意外と執着はしていない。わざと二人を泳がせているのだ。
last update最終更新日 : 2026-01-12
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