All Chapters of 合縁奇縁、そんなふたりの話(BL): Chapter 51 - Chapter 60

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第五十一話

その後、寧人はようやく眠りについた。 ぐったりと力尽きたような寝顔で、呼吸は深く、時折小さく喉を鳴らしている。 それから数分後。 玄関の鍵が静かに回り、一護が帰ってきた。 「……ただいま」 返事はない。 予想通りだと、苦笑しながら靴を脱ぐ。 台所へ向かうと、脱ぎっぱなしのスーツが椅子に引っかかり、食べ終えた皿やコップがそのまま食卓に残されている。 テレビの前には、お菓子の袋と食べかす。 「寧人ったら……」 一つひとつ拾い上げ、洗い物を済ませ、散らかったものを元の場所へ戻していく。 「もう……僕がいないと、何もやらないんだから」 口では呆れながらも、手つきは慣れている。 世話を焼くことに、もう体が慣れ切っているのだ。 すべて片付け終えたあと、一護は寝室のドアをそっと開けた。 ベッドには、すでに眠っている寧人。 無防備な寝顔に、胸がきゅっと締めつけられる。 そして、ふと視線がゴミ箱に向く。 山のように詰め込まれたティッシュ。 「……あ」 すぐに察しがついて、苦笑がこぼれた。 「寂しかったのね……オナニーしてたのかな」 ベッドに腰を下ろし、寧人の頬にそっと触れる。 温かい。ちゃんと、ここにいる。 「ん……」 ムニャムニャと寝言を言う寧人が、わずかに眉を寄せる。 「……かわいい」 指先で頬を撫で、髪を整えながら、一護の胸にじわりと感情が溢れてくる。 「もう……過去のこと、忘れなきゃね」 ぽつりと呟いた瞬間、記憶がよみがえる。 ドラゴンに未練たらたらで、頼知とのセックスに嫉妬して、泣きながら帰った夜。 自分でも情けなくなるほど、心が乱れていた。 「……」 気づけば、涙が頬を伝っていた。 何度も失恋してきた。 原因は、だいたい同じ。 ――世話を焼きすぎる。 ――重い。 ――息が詰まる。 そう言われて、離れていかれた。 「寧人も……そのうち、離れていっちゃうのかな……」 喉が詰まり、声が震える。 「嫌だ……」 寧人の手をぎゅっと握る。 「セックスできなくても……それでも、大好きなの」 一護は、今日ようやく悟った。 一時的に性欲を満たしても、心が通じていなければ、ただ虚しいだけだと。 ドラゴンとのセックスも、まさにそ
last updateLast Updated : 2025-12-23
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第五十二話

 次の日。 一護は社長室の革張りの椅子に、クターンと身を沈めていた。背もたれに体重を預け、首を後ろに倒す。天井の照明がやけに白い。 ――あれから、だ。 さあ始まるのか、何か言われるのか。そう身構えたのも束の間、寧人は一護が無事に帰ってきたという安心感に一気に気が抜けてしまった。 それに加えて、三回。 我ながらどうかと思うが、枕相手に三回もやらかしてしまい、体力は見事に枯渇。結局、布団に突っ伏したまま力尽きて眠った。 朝。 キッチンから漂ってくる香りに目を覚ますと、一護がいつも通り料理をしていた。エプロン姿。何事もなかった顔。 その背中がやけに優しく見えて、寧人は罪悪感に耐えきれず、何度も何度も謝った。 ……その結果が、あれだ。 背後から不意に伸びてきた手。 服の上から、慣れた指先でつままれる感覚。 油断していた一護は声を殺す暇もなく、背中を反らせてしまった。「……っ、ちょ……」 耳元に落とされる低い声。 ゆっくり、執拗に、逃げ場を潰すような言葉攻め。 分かっていたはずなのに、乳首が弱いと自覚してからというもの、そこを狙われるとどうにもならない。 結果、朝っぱらからの大失態だった。「たく……」 一護は思い出したように苦笑し、椅子の肘掛けに肘を置く。「乳首が弱いって分かってから、乳首攻めばっかりするんだから。ほんとワンパターンよね。でも……」 言葉を切って、少しだけ頬を緩める。「……お漏らししちゃうほど、気持ち良かったわ。耳元で、あんな声で、何度も何度も言われたら……そりゃ、ね」 軽く肩をすくめる仕草は、呆れと照れが半分ずつ混じっていた。 そのとき。 ぴぴぴっ…… 室内に電子音が響く。 ビデオチャットの着信だ。「あら……もうこんな時間?」 一護は画面を一瞥してから、ふっと口角を上げる。「……一回抜いてから、出よっか」 誰に聞かせるでもない独り言を落とし、椅子に深く座り直した。 社長室のドアは、きっちり閉まっている。◆◆◆ 一方、ベクトルユー本社。 会議室には寧人、古田、そしてプロジェクトチームの面々が集まっていた。長机を囲む形で全員が席につき、資料はすでに手元に揃っている。それなのに、始まる気配がない。 理由は一つだった。 ――一護が来ない。 正確には、オンライン接続がされていない。 画面の
last updateLast Updated : 2025-12-24
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第五十三話

◆◆◆ ――社長室。 一護は椅子に深く腰を沈め、荒い呼吸をゆっくりと整えようとしていた。 胸の奥がじんわりと熱を持ち、思考だけが取り残されたように遅れている。 カーテン越しの光が、やけに眩しい。 時計に視線をやると、針は容赦なく進んでいた。 そのとき、スマホが震えた。 寧人からだ。 「……一護? 起きてる?」 「……起きてる、よ」 返事をした瞬間、自分でも分かるほど声が掠れていた。 電話越しでも伝わるだろう、この息の乱れ。 「……声、変じゃない?」 一瞬、間が空く。 誤魔化そうとしたが、その前に、喉が勝手に緩んだ。 「……寧人ぉ」 名前を呼ぶだけで、空気が一段、重くなる。 「まさか……今……?」 「……うん。だって、朝のこと……思い出したら……」 それ以上言葉にしなくても、十分だった。 向こうで、寧人が小さく息を呑む気配がする。 「……会議、もうすぐ始まる」 理性の声。 けれど、距離は近いままだ。 「わかってる……でも、止まらなくて……」 自分でも驚くほど素直な声が出た。 甘えている自覚は、ある。だから余計に、引き返せない。 寧人が小さく舌打ちし、声を落とす。 「……どんな顔してる?」 「……見せられない顔」 「……ずるいな」 短いやりとりなのに、時間の感覚が曖昧になる。 沈黙の合間に、互いの呼吸音だけが、静かに重なった。 「……夜、帰ったら」 寧人の声が、少し低くなる。 「ちゃんと、続きしよう。逃げないから」 その一言で、胸の奥がきゅっと縮む。 理性より先に、心が反応した。 「……うん……」 しばらくして、電話越しに深い溜息が落ちる。 「……五分。五分だけ待つ」 「……ありがとう」 通話が切れる。 一護はスマホを胸に抱きしめたまま、しばらく動けなかった。 背もたれに頭を預け、目を閉じる。 (……ほんと、ずるい) そう思いながら、もう一度、呼吸を整える。 ――その頃。 寧人はトイレで手を洗い、鏡を見上げた。 映った自分の表情に、一瞬だけ眉をひそめる。 明らかに、平常心ではない。 「……ほんと、勘弁してくれよ……」 小さく呟き、水を止める。 顔を引き締め、何事もなかったような表情を作って、会議
last updateLast Updated : 2025-12-24
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調子に乗っちゃって編 第五十四話

仕事は順調だった。 フードジャンゴへの新規プロジェクトは無事に承認され、寧人は営業兼プロジェクトリーダーに抜擢される。 肩書きが変わっただけなのに、周囲の見る目は明らかに変わった。 社内で名前を呼ばれる回数も増え、相談を持ちかけられることも多くなる。 以前なら一歩引いていた場面でも、今は自然と前に出て指示を出している自分がいた。 古田はその補佐となり、リモートワーク中心だった働き方をオフィスワークへと切り替えた。 それ以降、二人はほぼ毎日のように営業に出ている。 移動中の車内は、即席の作戦会議室だ。 「鳩森リーダー! 今そちらに送ったデザイン案で進めようと思うんですが、いかがでしょうか」 「ありがとう。もうすぐ到着するから、その案で一度走らせてみよう。助かるよ」 助手席で電話を取り、ノートパソコンを膝に乗せたまま応じる寧人。 視線は画面に落としながらも、声は落ち着いている。 ハンドルを握っているのは古田だ。 ミラー越しにちらりと寧人を見て、鼻で笑う。 「……お前、ほんと様になってきたな」 「そうですか……? 古田さんのおかげです」 「いやぁ、もはや俺は運転手だろ。ほとんど全部お前が話してる」 冗談めかした口調だが、そこに嫌味はない。 むしろ、少し誇らしげですらある。 「古田さんが横にいるからできるんです。それに……」 言いかけて、寧人は言葉を切る。 続きを飲み込み、窓の外に視線を逃がした。 「……もぉ、着いたよ」 古田は軽くため息をつきながら、しかし口元を緩める。 「仕事終わったら……ちゃんと、構ってやるから」 「……はい」 二人は一瞬だけ視線を交わし、ふっと笑った。 だが古田の胸の奥には、消えない違和感が残っている。 仕事はうまく回っている。 寧人も、確実に成長している。 それでも――。 ――寧人と一護。 あの関係が、どこへ向かうのか。 ヒリヒリする予感だけが、どうしても拭えなかった。 ◆◆◆ 寧人は古田と共に、不定期でバタフライスカイにも通っている。 忙しい日々の合間に、ふとできる空白。 誰にも説明しなくていい時間。 そこへ、足が向いてしまう。 「ヨシくん、こないだは違う子を指名してたでしょ。僕のどこがいけ
last updateLast Updated : 2025-12-25
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第五十五話

隣の部屋から、相変わらず古田の声が聞こえてくる。 壁越しでも分かるほど、やけに上機嫌で、やけに甘い。 「今日は古田さん、店長のスペシャルマッサージ受けてるの」 ドラゴンの何気ない一言に、寧人の意識が引き戻される。 「店長……あのヨリトモってひと?」 問いかけると、ドラゴンはほんの少しだけ間を置いてから頷いた。 寧人は、以前一度顔を合わせた“頼知(ライチ)”と、そのヨリトモが同一人物だとは、まだ気づいていない。 「でもね、寧人は僕のものだから」 独占欲を隠そうともしない声。 ドラゴンは笑っているが、目は笑っていない。 「わかんないよぉ。店長だから、すっごく気持ちいいんだろ?」 「僕のほうが気持ちいいってば。店長仕込みのマッサージなんだから」 その言葉に、隣室から聞こえる古田の声が重なる。 いつもより高く、いつもより無防備で――。 (……あんな声、聞いたことない) 胸の奥が、ちくりと痛む。 「古田も……盛りやがって……」 思わず零れた本音に、ドラゴンが視線を上げる。 そのまま距離を詰め、寧人の注意を自分に引き戻す。 「……ね、ヨシくん」 嫉妬を煽るようでいて、どこか必死だ。 寧人はその気配に気づきながらも、軽く笑って誤魔化す。 「ごめん、ドラちゃん……」 場の空気は、再びゆっくりと溶けていく。 ◆◆◆ その後は、シャワーとケアの時間だ。 ドラゴンは慣れた手つきで寧人の体を洗い、丁寧に触れていく。 今日はいつもより工程が多い。 全身のゴマージュ、時間をかけた保湿。 肌は驚くほど滑らかになり、指先が吸い付くようだ。 「……すごいな」 素直な感想に、ドラゴンは嬉しそうに微笑む。 施術が終わるころには、体も思考も、とろとろに緩んでいた。 二人は並んで横になり、しばらく何も話さず、呼吸だけを揃える。 「肌、柔らかくなったね……」 ドラゴンはそう言って、軽く口づける。 触れ合いは穏やかで、どこか名残惜しい。 「前の店長ってさ……すごい人だったのか?」 寧人が何気なく聞くと、ドラゴンの手が一瞬止まる。 「……ええ。とても」 少しだけ遠くを見る目。 「他にもお店を持っていたのに、ここにも顔を出して。一から全部、教えてくれた……」 「もう会えない?
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第五十六話

寧人は部屋の前で立ち止まり、古田を待った。 さっきドラゴンに言われた言葉が、頭から離れない。 「……他の人の匂いもする」 そんなに分かるものなのか。 自分でも、ふと手首に鼻を近づけてしまう。 「そんなに匂うのか……」 そのタイミングで、古田が部屋から出てきた。 髪も服も乱れていないのに、どこか満足そうな顔をしている。 「おう。行くぞ」 「は、はい……あの」 寧人が呼び止めると、古田は足を止めた。 「聞きたいことがあって」 「なんだ?」 古田は、さっきまで自分がいた部屋のドアを一度だけ見る。 その視線につられて、寧人も視線を泳がせる。 「……今度、店長にしてもらいたいなって」 一瞬の沈黙。 古田は小さく息を吐いて、苦笑した。 「ああ、いいんじゃないか。彼も、寧人のこと気になってたみたいだし」 「そ、そうなんだ……」 胸が早鐘を打つ。 「童貞くん、卒業させてあげるってさ」 「えっ……」 古田は一歩近づき、寧人の尻を掴んだ。 「でもな」 低く、含みのある声。 「最初は、僕がいい」 湿った視線で見つめられて、寧人は思わず照れたように笑い、おでこにキスをする。 「そんな目で見るなよ」 「……ずるいな」 「リンちゃん……忘れ物」 背後から声がして、振り向く。 バスローブ姿の頼知が立っていた。仮面をつけているため、寧人は正体に気づかない。 頼知は古田に名刺入れを渡し、慣れた仕草で軽くキスをする。 それから寧人を見る。 「今度、また来て」 仮面の下、口元が柔らかく笑っている。 その色気に、寧人は理由もなくどきっとした。 帰り道、古田の車でコンビニに寄り、寧人はそこで降ろしてもらう。 「なぁ……僕って、臭い? 臭うかい?」 「いきなりだな」 古田はハンドルに肘をついたまま、横目で見る。 「もちろん、寧人の匂いは分かるよ。会った頃より、少し変わった」 「えっ……そんなに?」 寧人は自分の服の袖を嗅ぐ。 柔軟剤の香り。最近使い始めたものだ。一護と暮らすようになってから変えた。 「服もだけど、身体からの匂いが違う。ちゃんとしたもの食べてる匂い」 「じゃあ前は……?」 「正直言うと、ちょっと清潔感なかった」 「うわ……それは参った」 「でもな
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第五十七話

寧人は、自分が古田に後をつけられていたことなど知る由もなく、呑気にマンションへ帰った。 いつもならそのまま一護の待つ台所へ向かうところだが、今日は違った。 ――匂い。 ドラゴンと古田、二人から続けて言われたその言葉が、妙に引っかかっていた。 玄関を入るなり、寧人は台所の気配を横目に、まっすぐシャワー室へ向かう。 バタフライスカイでもシャワーは浴びてきた。 だが、あそこで使われている石鹸は匂いが控えめで、その分、店そのものの空気や、人の気配が残りやすい。 店全体に漂う甘い香りは、それを隠すためのものだ。 スーツもだ。 一日中着ていれば、布に匂いは染みつく。 自分では気づかないが、他人には分かる――そういうものなのだろう。 寧人は深く考えることをやめ、とにかく洗うことに集中した。 頭からシャワーを浴び、いつも使っているシャンプーで髪を洗い、ボディソープで体を洗う。 仕上げに、風呂上がりには欠かさずボディクリーム。 どれも、一護と共用のものだ。 気づかないうちに、その匂いは寧人の肌に、髪に、しっかりと染み込んでいる。 ドラゴンや古田が気づいたのは、それだったのだろう。 脱衣所に出ると、すでに一護がいた。 「えっ……」 寧人は思わず声を上げ、しどろもどろになる。 一護は何でもないことのようにタオルを差し出し、部屋着を手渡した。 「はい、これ。早く冷えるわよ」 結局、着替えまで世話を焼かれてしまう。 洗濯物だけは自分で、とネットに入れて洗濯機に放り込む。 ――もう自分のことは自分で。 それは自立のためでもあり、同時に、隠し事を覚えた結果でもあった。 着替え終えると、一護が柔らかく声をかける。 「お疲れ様。もうご飯、できてるから」 「うん……ありがとう。それより……」 言い終わる前に、寧人は一護にキスをした。 「はいはい。ご飯食べよ」 そう言われても、寧人は離れず、一護をぎゅっと抱きしめる。 そして、そっと匂いを確かめる。 一緒に暮らし、同じものを食べ、同じ洗剤を使っている二人。 もはや基本の匂いは同じだ。 ただ、一護からは料理の匂いがしている。 それに、ほんのり石鹸の香り。 会社と家の往復だけとはいえ、帰宅後にきちんとシャワーを浴びた痕
last updateLast Updated : 2025-12-27
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第五十八話

「……虫?」 一護は、ため息混じりに微笑んだ。 「そうよ。最近、あなた人と会いすぎなの」 一護は寧人の胸元を指でなぞりながら続ける。 「私が使ってるのは女性向けでしょう? 寧人と接する人たちに分からせるためよ。“女がいる”“しかも嫉妬深くて、世話焼きで、抱いてる女が”って」 そんな意図があるとも知らず、寧人はただ普通に使っていた。 「……今だから言うけどね」 一護の声が、少し低くなる。 「服に、決まって私の嗅いだことのある匂いがついてるのに気づいてた」 「……!」 「古田さんに送り迎えされるようになってから」 「……! 同じ車に乗ってるから、かな……」 「かもね。でも」 一護は首を振る。 「それだけじゃ、まとわりつかない匂い」 「……!!!」 シャワーを浴びたばかりなのに、寧人の背中に汗が噴き出す。 冷や汗なのか、恐怖なのか、自分でも分からない。 「パンツには、あなたの精液」 一護は淡々と告げる。 「それと、古田さんの汗と精液の匂い」 「……」 「それから最近、スーツに残る独特な匂い」 「……」 寧人は、力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。 一護はすぐに抱き寄せ、きつく腕を回す。 「……バレてないと思ってた?」 「……」 「シックスナインも、教えてもらったのかな?」 「……!」 気づけば一護の手が、寧人のそれを掴んでいた。 いつもより強く、逃がさない力で。 「こないだの乳首攻めも……」 「や、やめて……ご、ごめん……!」 一護はさらに力を込める。 「最近、調子に乗りすぎよ」 声が震えている。 「こういうことをさせるために、あなたを引きこもりから外に出したわけじゃない……!」 「やめ……っ、やめて……!」 部屋着の上からしごかれ、寧人は耐えきれず射精してしまった。 「あら……出ちゃった?」 一護は冷静に言う。 「パンツ、洗うから脱いで」 震える手でズボンと、精液に汚れたパンツを脱ぐ。 それでも、まだ反応は収まらない。 「あの古田くんと一緒にさせたのが間違いだったわ」 一護は呟く。 「……私のミス」 「ごめん……ごめんなさい……」 一護は再びそれを握る。 「言葉攻めも、自然に覚えたのね。他の人と遊んで……」 一瞬、怒気が滲む。
last updateLast Updated : 2025-12-27
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第五十九話

「一護……ごめん」 「……うう……」 ベッドの上で、二人は言葉もなく抱き合っていた。 肌の温度が近すぎて、呼吸が絡まり合う。 一護はまだ泣いていて、寧人は何度もその背中を撫でた。 「……ずっと黙ってたことがあるの」 「うん……」 「前に、美容師でオーナーやってたって話したよね」 「うん」 「その傍らでね……メンズエステの会社も経営してた」 寧人の動きが止まる。 「……まさか」 「バタフライスカイ。そう」 一瞬、頭が真っ白になる。 けれど一護は視線を逸らさず、続けた。 「古田さんが常連だったことも知ってた。でも、私は相手してない」 寧人は何も言えず、ただ息を呑む。 「スーツに残ってた匂い。お店と同じだった」 「……」 「それから、ドラゴンの匂いも」 一護は苦笑した。 「……抱かれたんでしょ」 「……一番、落ち着くって言われて」 「だってあの子、私が育てた子だから」 一護の声が少し揺れる。 「あなたと出会うまで、付き合ってた人」 寧人は返事をせず、ただ一護を抱き寄せた。 「今の店長は、頼知がやってる」 「……指名しようとしてた」 一護はふっと力を抜いて、二人並んで横になった。 「よかった……」 一護は小さく笑う。 「頼知に、寧人の“最初”奪われるところだった」 ぎゅっと抱きついてくる。 「リンちゃんにも奪われなくてよかった」 「……大変だった」 「でしょうね」 少し沈黙が流れる。 寧人は一護を見つめ、意を決したように言った。 「……一護」 「なに?」 「童貞、卒業させてほしい」 一護は目を瞬かせた。 「他には行かない。一護だけ」 必死な声。 「一護がいなかったら、俺……仕事も人生も、立て直せてなかった」 「そこ、否定しなさいよ」 「できない」 二人は思わず笑って、軽く口づける。 「でもね」 一護は指を立てる。 「私にハマると、もっとダメになるわよ」 「なら、責任取って」 「……ほんと、生意気になったわね」 いい雰囲気になりかけた、その瞬間。 ――ぐううう。 二人同時にお腹が鳴った。 「……あ」 「……そういえば、何も食べてない」 見つめ合って、吹き出す。 「今夜のご飯はね」 一護はわざと明るく言う。
last updateLast Updated : 2025-12-27
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第六十話

「あん……っ、ん……」 「ふぅ……ふ、ぅ……」 息が絡み合い、言葉が途切れ途切れになる。 一護の声に誘われるように、寧人はゆっくりと動きを進めた。 「……そう、少しずつ……」 「一護、入ったぞ……」 一護は短く息を吸い、すぐにそれを吐き出す。 肩にかかる力が強まり、指先が無意識にシーツを掴んだ。 「うん……もっと……」 「あ……っ」 寧人が動くたび、一護の喉から抑えきれない声がこぼれる。 その反応が、寧人の背中をぞくりと震わせ、理性を少しずつ削っていく。 「やばい……一護……」 「寧人……もっと……」 確かめるように、寧人は一度だけ動きを緩めた。 一護の表情を覗き込む。その瞳は潤んでいるが、逃げる色はなかった。 「……大丈夫か。痛くないか」 「……止めると、逆に……だから……そのまま……」 一護の言葉に、寧人は小さく息を呑む。 それから、覚悟を決めたように動きを戻した。 「……わかった」 「……うん……」 声と呼吸が重なり、部屋の輪郭がぼやけていく。 時間の感覚が薄れ、ただ互いの存在だけがはっきりと残る。 やがて、寧人の動きが乱れ始めた。 肩で息をし、額に滲んだ汗が一護の頬に落ちる。 「……っ、いく……」 「……や……」 一護の声が追いかけるように重なり、 次の瞬間、すべてが一気に抜け落ちた。 「……いっちゃった……」 「……寧人……」 「……は、ふぅ……」 しばらく、どちらも動けなかった。 耳鳴りのような静けさの中で、互いの鼓動だけがやけに大きい。 寧人はそっと一護を抱きしめる。 腕の中に収まる体温が、遅れて現実味を連れてくる。 ――本当に、触れたんだ。 夢みたいだ、と思うほど、まだ実感が追いつかない。 一護も、静かに腕を回した。 力は弱いが、離れない意思だけははっきりしている。 初めて、二人がちゃんと結ばれた。 拍子抜けするほど自然で、だからこそ胸の奥がじんと熱くなった。 「……一護」 「……ん?」 少し間を置いて、寧人が小さく呟く。 躊躇いと欲が混ざった、低い声。 「……もっかい……」 一護は一瞬だけ目を伏せる。 胸の奥に、名前のつかない違和感が小さく疼いた。 この先、何かが変わってしまうかもしれない―― そんな予感。 それでも、一護はゆっくりと頷いた。
last updateLast Updated : 2025-12-27
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