朝の光は、カーテンの隙間から静かに滑り込んでいた。白く柔らかなその輪郭は、夜の残り香をすべて押し流すほどに静謐で、澄んでいた。キッチンではコーヒーメーカーの低い機械音が響いている。湯気が立ちのぼり、豆の香ばしさが空気に広がっていく。岡田は無言のままマグカップを取り出し、その手つきはすでにルーティンに馴染んでいた。いつもの場所、いつもの手順、変わらない朝。振り向けば、洗面所の扉が少しだけ開いていて、晴臣がタオルで顔を拭く気配があった。「おはようございます」その声に、岡田は少しだけ遅れて返した。「おはよ」歯ブラシが二本、並んで立てられている。それを目にした晴臣が、さりげなく片方を手に取る。もう一本は、岡田の手の中に。洗面台に立つふたりの肩が、鏡の中で静かに並ぶ。歯磨き粉の蓋を閉める音、コーヒーの抽出が終わる音、朝の音がいつもの順番で鳴る。すれ違っていた時間の中で感じていたわずかな違和感が、今はもう、生活の一部として受け入れられていた。岡田はふたり分のマグをトレイに乗せてリビングへ戻り、テーブルに置いた。ソファの背にもたれかかりながら一口すすると、口の中にひんやりとした苦味が広がる。晴臣も向かいの椅子に腰を下ろし、目を細めてコーヒーを見つめた。「今日も早いんですか?」「うん。新しい企画が佳境で」岡田はうなずいた。必要以上に聞き返すことはしない。ただ、そういう日はまた増えるのだろうと、心の中でだけ思った。「午前中は社内。午後から外回りやな」晴臣は、そうですか、と小さく答える。言葉はそれ以上続かないが、どこか心地よい余白がそこにはあった。玄関に向かうとき、ふたりは同時に立ち上がった。昨日までの緊張が少しずつほどけていることに、お互いが気づいていた。靴箱の上には並んだ革靴が二足。晴臣の黒、岡田のブラウン。並び方すら意識してしまうほど、今朝の空気は繊細だった。岡田がしゃがんで靴を履きながら、ふと口を開いた。「また、すれ違う日もあるかもな」淡々としたその声には、
Terakhir Diperbarui : 2026-01-27 Baca selengkapnya