アーケードの商店街を抜けた先、小さな路地に足を踏み入れた瞬間、空気の温度が変わった。人混みとネオンから解放された歩道は、ひどく静かで、どこか取り残されたように感じられた。ふたりの足音だけが、カツン、カツンとアスファルトの上に落ちていた。正月休みの終盤とはいえ、初売りセールで混雑していたモールの喧噪が、まだ耳の奥に残っている。だが今は、その反動のように、あまりにも静かだった。晴臣は、岡田の右隣を歩いていた。互いに半歩ずつズレた歩幅。岡田のポケットに入った手と、晴臣の手がぶつかりそうでぶつからない位置。ふたりとも、口を閉ざしていた。何かを言いたいのに、言えない。そんな沈黙が、重くではなく、じれったくふたりの間を漂っていた。陽は西に傾き、空は茜に染まっていた。遠くにある電車の音が、小さく耳に届いた。晴臣は視線を落としたまま、岡田のスニーカーと自分のブーツがアスファルトを踏む音に耳を澄ました。――さっきのあの一言。ベッド売り場で岡田が言った「一緒に住むかって気分なるな」という軽い調子の言葉が、頭の中で繰り返されていた。軽口だった。冗談に違いない。…でも、少しだけ、違って聞こえた。それがただの気のせいなら、自分のこの動揺はなんなのか。岡田は、何も言わなかった。いつもと同じように、気怠げな横顔をして歩いている。だからこそ、余計にわからなかった。沈黙が続く。ふたりの間には、ちょうど猫一匹が通れるくらいの距離があった。それがたまらなく、遠く感じた。晴臣は一度、唇を開きかけてやめた。喉が渇くような感覚に、襟元を指で少し引いた。岡田が気づいたふうもなく、空を見上げたまま、肩をすくめるように歩いていた。もうすぐ駅だ。このまま電車に乗って、家に帰って、いつもどおりの夜に戻る。そうしたら、あの言葉も、今感じていることも、全部なかったことになってしまうかもしれない。でも。「……課長」ようやく晴臣が言葉
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