窓の外に雲が広がっていた。光が淡く、湿った空気が部屋の中にもじわじわと入り込んでくるようだった。休日の昼下がり、晴臣は洗濯物をたたみながら、リビングの静けさに耳を澄ませていた。テレビの音も、音楽もつけていない。唯一聞こえるのは、キッチンの奥で食器を片づける岡田の食器同士の音と、時おり響く引き出しの開閉音。カーテン越しの光は、時間の進み方を忘れさせるほどゆるやかだった。それなのに、晴臣の指先は、畳んだシャツの袖を整えるたびに、わずかに硬くなっていた。キッチンから、コトン、と陶器が軽くぶつかる音がした。その音に、晴臣の肩がぴくりと動いた。ソファに座ったまま、彼はふたつの靴下を重ねるように揃えたあと、ふと声をかけた。「……岡田さん」返事はすぐには返ってこなかった。晴臣はわずかに声のトーンを下げて、もう一度呼ぶ。「それ、食器は上の段に入れてもらえると…助かります。下の段だと、使うとき取りにくくて」すると、キッチンの奥から、岡田の少し間の抜けた返事が聞こえてきた。「おお、すまん。つい癖で」返事の声に怒気はなかった。だが、その軽さが、晴臣の中にじわりと沈殿していく。「前も言ったんですけど…こっちの棚に、使用頻度順で分けてあるんです」「うん、わかってる。気ぃつけるわ」言葉としては謝罪に聞こえるそれが、晴臣の中にはまるで届かなかった。わかってる、と言いながら何度も繰り返される小さなズレが、じわじわと心に刺さっていた。リビングに戻ってきた岡田は、タオルを手にぶらさげたまま、ソファの隣に腰を下ろした。そこに微かな石鹸の香りが混じる。食器用洗剤の匂いと、岡田の肌の匂いとが入り混じって、どこか湿ったような空気を作っていた。「次は気をつけるで」「……お願いします」そのあとの沈黙が、ふたりのあいだに薄く降り積もる。晴臣は洗濯物の続き
Terakhir Diperbarui : 2026-01-17 Baca selengkapnya