カーテンの隙間から差し込む光が、部屋の白を少しずつ溶かしていく。冷えた空気の中に、コーヒーの香りが柔らかく広がっていた。岡田はマグカップを片手に、ソファの背にもたれたまま、リビングの時計をぼんやりと見上げていた。午前八時。仕事納めの翌日。外はまだ静かで、どこか現実の境界が曖昧に思える朝だった。隣の寝室から、布団の擦れる小さな音がした。晴臣が寝返りを打ったのだろう。薄い布団越しに、静かな寝息が聞こえる。岡田はマグカップを唇に運びながら、その音に耳を傾けた。ふと、何の気なしに笑みがこぼれる。「俺、三十七やぞ…」自分でも驚くほど、自然に言葉が漏れた。静かな部屋にその呟きが溶けていく。九つの歳の差。これまで意識したことなんてなかった。だけどこうして、寝起きの光の中で、晴臣の寝顔を見ると、ふとした瞬間に距離のようなものを感じる。白いシャツの袖口から見える腕。整った寝癖のない髪。唇の端が少し緩んで、穏やかな寝息を立てている。岡田は視線を逸らした。年齢なんて関係ないと、ずっと思ってきた。けれど、彼の若さを眩しいと思うことがある。自分の時間が止まっていたように感じていた頃、彼が現れて、それを当たり前のように動かし始めた。笑い方を思い出し、声を出すことを思い出し、そして、誰かと同じ部屋で朝を迎えるという感覚まで。カップの中のコーヒーが少し冷めていく。岡田は立ち上がり、キッチンへ向かった。カウンターの上には、昨夜のまま置かれた二つのマグカップ。片方はまだ、晴臣の分だ。「課長」背後から眠たげな声がした。振り返ると、寝間着姿の晴臣が、髪をぐしゃぐしゃにしたまま立っていた。目の端にまだ眠気が残っていて、指先で軽くこすっている。「起きたんか」「はい。…おはようございます」「おう」晴臣がゆっくり
Terakhir Diperbarui : 2025-12-27 Baca selengkapnya