──襲撃の報を受け、セイランが皇宮へ駆けつけていたそのころ。 皇宮東棟。 第一応接間。「……子どもを、下がらせろ」 息を切らせて駆け込んだカイが、腰に帯びた剣を抜いた。「ユリウス、後ろに」 室内には既に複数の黒衣の男たちが侵入していた。小柄なユリウスの身体を背後に庇い、カイは無言で一人、剣を構える。 ──守る。 あのときの誓いが、胸を焼くように蘇った。(家族は、俺が守る) その一太刀は、正確無比だった。 ──だが。 激しい戦いののち、静まり返った部屋の奥で、ユリウスがゆっくりと膝をついた。「……ユリウス……?」 「……大丈夫……ただ、ちょっと……少し……休めば……」 その額には、はっきりと冷や汗が浮かんでいた。 カイが駆け寄る。「しっかりしろ……ユリウス……!」 ユリウスは、微笑んだ。「……ううん、大丈夫。……すこし……寝たいだけ……」 その目が、ゆっくりと閉じかけた瞬間。 扉が開いた。「陛下──!」 セイランだった。 だが彼は、その場の空気を見て、即座に沈黙する。 カイが、涙をこらえるように、ぎゅっと抱きかかえてユリウスの手を握っていた。*** 翌朝。 反乱は鎮圧された。 だが――セイランが駆けつけたとき、ユリウスはすでに高熱を発しており、医官が枕元に控えていた。 王宮東棟、皇帝の私室。 柔らかな天蓋がかけられた寝台には、ぐったりとしたユリウスの身体が横たわっている。顔色は蒼白で、額には冷たい汗が滲んでいた。 医官が脈をとる手をそっと引き、沈痛な面持ちでセイランを見上げる。「……陛下は、深刻な衰弱状態にあります。高熱による臓器機能の低下も……今夜が峠かと……」 「下がれ」 セイランの低い声に、医官はすぐさま頭を垂れ、静かに部屋を退出した。 そこへ、カイがリュカを抱いたまま、息を切らせて駆け込んでくる。「ユリウスッ……!」 寝台の傍にひざをつき、カイはその顔を覗き込む。「おい……ユリウス、お前、ふざけてんだろ……なあ、起きろよ」 返事はない。 その言葉に応えるように、ユリウスのまぶたが、ほんのわずかだけ震えた。「……カイ……来てくれた……」 「ああ……! 来た、来たぞ、だから……!」 カイがその手を握る。 ユリウスの手はすでに力を失い、ひどく冷たかった。
Terakhir Diperbarui : 2025-11-18 Baca selengkapnya