亡き先代の番に囚われたΩ宰相は、息子である若きα摂政に夜を暴かれる

亡き先代の番に囚われたΩ宰相は、息子である若きα摂政に夜を暴かれる

last updateDernière mise à jour : 2025-11-30
Par:  悠・A・ロッサComplété
Langue: Japanese
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Ωである帝国宰相セイランは、かつて亡き英雄アレクシスと番(つがい)を結んでいた。 その死を経て、彼が育てたのは――英雄の息子であり、皇帝の後継者となる少年・カイ。 養父として与えた庇護と教養。だが成長したカイ(α)は、番の刻印を刻むことで、今度はセイランを手に入れようとする。 「父上、あなたのすべてを、俺にください」 重なる罪と愛、政と欲望。 帝国の運命を背負いながらも、ふたりは背徳の境界を越えて、番《つがい》として結ばれる。 ――これは、育てた子に番として奪われた男と、父の影を超えて愛を誓う青年の、血と罪にまみれた永遠の恋の記録。 ※本命以外との関係描写あり(最終的に本命と結ばれます)。

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Chapitre 1

第1話 金の宰相と黒の跡継ぎ

 静かな寝室に、甘く重い香が満ちていた。

 肌に触れた舌先が、ぞくりとした痺れを残していく。

 セイランは目を伏せたまま、肩をわずかに震わせた。

「……痕、疼くだろ?」

 囁きと共に、アレクシスの唇が首筋へと降りていく。

 熱を帯びた吐息が番《つがい》の痕に触れるたび、そこだけが脈打つように疼いた。

 舌が、ゆっくりと痕をなぞる。繰り返し、円を描くように。

 そのたび、セイランの背が弓なりに反る。

 「や、っ……あ……」

 喉奥から洩れた声は、甘く震えていた。

 まるで、痕が記憶していた疼きを呼び起こされたように、身体が熱にきゅっと縛られる。

 そして──ふいに。

 その痕を、アレクシスの唇がやさしく噛んだ。

 「……っ♡」

 セイランの身体が跳ね、腰が浮く。

 瞬間、脚の奥まで痺れるような衝撃が走った。

 甘噛みはすぐに、名残を惜しむように舌へと変わる。

 ぬるりと、濡れた舌が傷跡を撫で上げ、唇がその痕に吸いつく。

 ちゅ、……ちゅぷ、と濡れた音が静寂に落ちた。

「やめ……そんな、そこばかり……っ♡」

 肩を震わせながら、セイランは抗おうとする。

 けれど、抗うほどに熱が深く染みこみ、腰の芯まで疼きが達していく。

 首筋を刻まれながら、すでにその身体は──

 愛と罪の記憶に、ゆっくりと溺れはじめていた。

***

 それは、カイが五歳の頃だった。

 帝都ラティナスの東端に佇む、ひとつの私邸。

 帝国宰相セイラン=ミラヴィスが静かに暮らすその屋敷に、ひとりの幼子がいた。

 名は、カイ=アレクシオン。

 戦乱のさなかに両親を失い、幼くして天涯孤独となった。

 彼を引き取ったのが、かつてカイの父と共に戦場を駆けた、ひとりの英雄――セイラン=ミラヴィスだった。

 その夜、私邸の灯りはすでに落ち、子ども部屋ではカイがぐっすりと眠っていた。

 ……はずだった。

 廊下に微かな物音が響く。

 ぱた、ぱた、と小さな素足がカーペットを踏む音。

 カイは目を覚ましていた。

 眠りの淵から何かに呼ばれるように目を開けた彼は、胸の奥に妙なざわめきを覚えていた。夢を見ていたような気がするが、内容は思い出せない。

 そのまま部屋を抜け、廊下を歩く。

 ──ふと、寝室の方に、わずかな光を見つけた。

 扉は、かすかに開いていた。

 そっと近づき、隙間から覗いたその先。

 そこには、大人の男が二人いた。

 一人は、セイランだった。

 カイにとって、父のような人。

 いつも冷静で、優しくて、凛としていて──何があっても守ってくれる存在。

 けれど、その夜のセイランはどこか違って見えた。

 ゆるくほどけた金の髪が、頬にかかっている。

 襟元は少し乱れて、白い肌が夜灯に淡く浮かび上がっていた。

 伏せた睫毛が長く、目元はどこか潤んで見える。

 頬がほんのりと赤い。

 それは熱のせいなのか、それとも、隣にいる男のせいなのか──

 その姿があまりにも綺麗で、胸がどきん、と跳ねた。

(……セイラン、なのに……)

 そう思ったときには、もう目が離せなかった。

 なぜか喉が渇いて、息がしづらくなって。

 けれど怖くはなかった。ただ、胸が苦しかった。

 ふたりは、触れ合っていた。

 肩を、胸を、額を寄せ合い、何かを言葉にせず伝えているようだった。

 それは、カイがこれまで見たことのない親密さだった。

 肩を寄せ、指が首筋をなぞる。額が触れそうなほどの距離で、息が重なる。

 ふたりの間に漂っていたのは、愛しさだけじゃない。

 なぜか、ほんの少し──こわさと、いけなさが混ざっていた。

 ──何か、見てはいけないものを見ている気がした。

 でも、目を離せなかった。

 ふいに、鼻腔に香が流れ込んだ。

 少し甘くて、花でも果実でもない、不思議な匂い。

 胸がきゅうっと締めつけられるような感じがして、カイは息を詰めた。

 その時、背を向けていたもう一人の男が、ゆっくりと振り返った。

 漆黒の髪が揺れ、銀の筋を宿した瞳が、まっすぐにカイを射抜いた。

 空気が止まり、鼓動の音だけが耳の奥に響く。

 その顔には──見覚えがあった。

 アレクシス=アレクシオン。

 カイの、死んだはずの父。

 そして彼は、笑った。

 静かに、確かに、ゆっくりと。

 それは安らぎでも、懐かしさでもなかった。

 自信と、支配と、悦びが滲んだ笑み。

「これが俺のものだ」と、まるで見せつけるような──

 すべてを知っている者の、勝者の笑みだった。

 次の瞬間。

 彼はセイランの肩に手を添え、ゆっくりと顔を寄せ──

 その白い首筋に、迷いなく歯を立てた。

 ……それが「つがいの証」だと、カイが知るのは──もっと、ずっと大きくなってからのことだった。

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第2話 幼き誓い
 朝の陽が、私邸の書斎を斜めに照らしている。  広くはないが整えられたその部屋の中、セイランは静かに書き物を続けていた。 卓上には、整然と並べられた書類と封蝋済みの報告書。  私邸での朝も彼にとっては「執務の延長」であり、  公務と報告が、日々絶え間なく届く。 ペン先が紙を滑る音だけが、静けさの中に響いていた。 そんなとき──  襖の向こうから、小さな足音が近づいてくる。 ぱた、ぱた、と。  寝起きの足取りで、まっすぐに。 セイランは、ペンを止めた。 やがて、そっと扉が開かれる。 そこに立っていたのは、寝間着姿のカイだった。  目元は少し眠たげで、髪はまだ寝癖で跳ねている。  けれど、どこか不安げに、足元に小さな枕を引きずっていた。 セイランは何も言わなかった。  ただ、手元のペンを静かに置いて、椅子を引いた。 そして、無言のまま、腕を広げる。 カイは一瞬だけ躊躇い、けれど次の瞬間には飛び込んでいた。  すとん、と胸元におさまる。  小さな手が、服の裾を握る。「……おはよう、セイラン」 「おはよう、カイ」  セイランの声は、いつもより少しだけ低くて、柔らかかった。 しばらく何も言わず、ただ抱かれていた。  小さな手が、セイランの服をそっと握る。  髪が揺れ、鼻先が襟元に沈んだ。    ─昨夜と同じ匂いがした。  むせかえるほど甘く、微かに熱を帯びた香りが、胸の奥を揺らす。  それは、ざわざわと、身体の内側を目覚めさせる匂いだった。「……ねえ、セイラン。きのうの夢、変だった」 「どんな夢だった?」 「セイランが……誰かにつれていかれる夢」 その言葉に、セイランの手が一瞬だけ止まる。 目に見えて動揺したわけではない。  けれど、ごくわずかに瞳が細められた。「……誰に?」 カイは、セイランの胸に顔を押しつけたまま、小さく息を吸った。  ──言おうとして、言葉が止まる。(アレクシス。僕のほんとのお父さん) でも、それを口にしてはいけない気がした。 夢だと思っていたはずなのに。  本当は、知っている。  昨夜、あの光の中で見たものは── けれどカイは、ただ小さく首を振って言った。「わかんない……でも、すごくこわかった」 「……怖がらなくていい。俺はお前を置いていかない。そう約束した
last updateDernière mise à jour : 2025-10-27
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第3話 還るべきは、この腕
 その夜、宰相官邸の書斎には、まだ明かりが灯っていた。 帝国宰相セイラン=ミラヴィスは、執務机の前にひとり、手帳を閉じていた。 日付は、明日──「将カイ=アレクシオン」が帰還する予定の日だった。 ──七年ぶり、か。 その言葉を胸の内で繰り返したとき、手のひらがわずかに震えた。書き終えた手帳を閉じる指が、いつになく慎重になる。ふと、七年前の春を思い出していた。 送り出したのはカイが十六歳の時だった。あどけなさが残っていた。剣の握り方も、軍靴の歩き方もぎこちなかった。父親とは違う──どこか暖かみのある漆黒の瞳だけは、いつもまっすぐだった。 あの時、自分は言った──「無理をするな。背を預けられる指揮官になれ」と。  カイは「はい、父上」と笑った。  幼さの残るその笑みに、どこかホッとした自分がいた。(まだ、似ていない) そのことに、安堵していたのだ。 けれど、七年。  戦場にいた。  剣を交え、人を導き、血を浴び、そして生き延びた。  あの子が大人になっていることは、当然で、当然なのに── 怖いと思った。 もしも、あの男に似ていたら。表情が、声が、背の傾け方が、指の動かし方が。思いがけないところで、記憶の亡霊が揺れるのではないかと。 ……怖い。けれど、それでも。 あの子が「父上」と呼んでくれるなら。  俺はまた、明日を信じられる気がする。 ずっと、待っていたのだ。 小さなころは、毎朝書斎に来て膝に乗ってきた。抱きしめれば、ふわっと太陽のような髪の匂いがした。寒い日には布団から出たがらず、熱を出せばこちらを呼び、叱れば唇を噛んで耐えた。 泣くことはほとんどなかった。強い子だった。けれど眠る前、そっと手を伸ばして服の裾を掴む夜が何度もあった。 守りたかった。すべてを賭けてでも。あの子は、あの男が残した命で──でも、それだけじゃない。セイランが育ててきた。  目を見て、声を聞いて、抱きしめて、名を呼んできた。 愛していた。  自分の子として、大切に、大切に、愛してきたのだ。 手帳を閉じ、灯りを落とす。  明日、あの子が帰ってくる。  ──けれど、出迎える言葉は、まだ決まっていない。  何を言えばいいのか。どう迎えればいいのか。  「父」としてか、「宰相」としてか、それとも── 宰相セイラン=ミラヴィスは
last updateDernière mise à jour : 2025-10-27
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第4話 発情の残香
 帝都ラティナスの城門をくぐるとき、夕陽が赤く石畳を染めていた。 城門前の将校詰所──帰還兵が一時的に身を休める控え室の前に、一人の男が立っていた。 帝国宰相セイラン=ミラヴィス。 帝国の政務を統べる重鎮でありながら、その姿はひどく静かだった。 護衛も従えず、ただひとり。 その手には、小さな金属製の水筒と、葡萄酒の包み。「……遅くなったが、間に合ったか」 中から扉が開いた。 軍服のまま、顔に汗と土を残した青年が現れる。背は高く、軍靴の音が堂々としている。 一瞬、セイランの心臓が跳ねた。 ──あまりにも似ていた。 かつて、死に際に自分の腕の中で息絶えた男に。 だが、違う。目が違った。 アレクシスは、銀筋の走る瞳をしていた。 どこか隔絶した光を宿し、孤独を湛えていた。 カイの瞳は、夜のように深く、触れれば温かい黒だった。「……おかえり、カイ」「父上……!」 青年が足音を早めた。 ――待ちきれないというように。 セイランが言葉を選ぶ間もなく、その腕に抱きしめられて、一瞬、息を飲む。黒衣の上から伝わる体温。大きな手が背を包み、骨が軋むほどに強く引き寄せられる。 それは、親子の情愛で交わす抱擁とは、どこか異質な、熱を帯びた力だった。「……父上」 声が低く、静かに落ちた。七年で大人びたその声には、抑えきれない何かが含まれている気がした。幼かったあの子が、いつの間にかこんな声を出すようになったのかと、胸の奥が少し震えた。 かつて、何度も自分が抱きしめた身体だった。 眠る前に。泣いた夜に。 細くて頼りなかったその体は、今では重く、確かな力を持っていた。「……立派になったな」 セイランはようやく、それだけを口にした。 思い出がよぎった。 同じように自分を抱いた、あの男の姿。 カイの父親。 死に際、何かを言いかけて途絶えた唇の形。 だが、目の前のこの体は生きている。 血が通い、息をしている。 カイだ。 自分が育てた──もう子供ではない、男だった。 セイランは静かに目を閉じて、わずかに身を預けた。「……大きくなったな。まさか、こんなにも背が高くなるとはな」「もう七年も前だ、最後に抱きしめられたの。……実戦に出た日の朝」「そうだったか……。お前のことは、毎月の報告書では見ていたつもりだったが、こうして見るとま
last updateDernière mise à jour : 2025-11-01
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第5話 消えぬ香、罪の熱
 椅子の背に預けた身体が重い。 視界の隅に、カイが滑って倒れたときの影が焼きついている。  あのとき、きつく抱きしめられた。  思い出しただけで、胸が詰まるほど熱くなる。 広い背中に押し込まれ、呼吸もできないほど強く、深く、腕の中に包まれて。  あれは、もう──息子の抱き方じゃなかった。(……馬鹿だ。あれで気づいていたはずなのに) 額を机に押し当てる。  汗が額をつたう。 じんじんとした熱が、まだ体内に残っていた。 裾に伸ばした指が、自然と動いている。  迷うように、恐れるように、震えながら腰骨をなぞり──前ではない。  満たされなかった疼きが、もっと奥を求めていた。(前だけじゃ……足りない。あのとき、彼の腕の中で、欲しかったのは) ゆっくりと、後ろへ。  何年も触れていなかった場所に、指先が触れる。 熱い。 「あっ……」 それだけで、ぞくんと背筋が震えた。 そっと押し当てると、指が濡れた。  発情期には、男の身にも蜜が宿る。 自分の身体から、信じられないほど熱く、とろりとした蜜が滲んでいた。  触れれば触れるほど、香が濃くなっていく。 ──甘く、淫らな、発情の香。「……カイ……」 喉の奥で名前が崩れ落ちた。  つっぷすように机に突っ伏し、片手を奥へ伸ばして──濡れたそこに、指を這わせる。「ん……っ、あ……♡」 ひくっ、と奥が痙攣した。 指がぬるりと滑り込み、柔らかな内壁をそっと擦る。 熱い蜜が指を締め付け、じくじくと疼く快楽が腹の底から全身を駆け巡る。 耳の奥で、さっきの低い囁きが甦る。 『父上、そんな声だされたら……俺は』 唇が震える。  指を深く、沈ませた。 ぬちゅっとした水音が響き、敏感な点を擦るたび、熱が迸る。机の上でびくりと背が跳ね、甘い喘ぎが漏れる。 「……っ……や……っ、カイ……♡」 指が奥を執拗に擦り、蜜がとろりと溢れる。 内壁が指を締め付け、まるでカイの熱を受け入れるように震える。 (こんな、気持ちよすぎる……指だけで、頭が溶けそうだ……)(でも、だめだ、絶対だめだ……カイに抱かれるなんて…罪だ……!)  それでも足りなかった。 もっと深く、もっと熱く、彼に──抱かれたかったのだ。 指がさらに奥を抉り、敏感な点をゆっくり圧迫する。 ぬるぬるとした感触が
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第6話 玉座の告白
 朝霧の薄く残る王宮。  白い大理石の回廊を、軍靴の音が淡く響いていた。  カイは無言のまま、皇帝の私室へと歩を進めた。  衛兵に促されるまま扉を押し開けると、室内には甘い生花の香りがかすかに漂っている。高窓から落ちる陽光は柔らかく、上質な絨毯が足音を吸い込んだ。 皇帝ユリウスは、お気に入りの長椅子に気怠げに腰を下ろしていた。片側だけに肘掛けのある優雅な作りの椅子に、彼は体を斜めに預け、肘をついたまま視線だけを向けてくる。金髪に日の光を受けて、金糸の刺繍が淡く輝く。上衣の襟元をゆるめた姿は、威厳よりも若さを印象づけた。 黙っていれば、賢帝とも言われるその端正な顔立ち。  けれど今日は、頬をわずかに膨らませたまま、露骨に拗ねた顔をしていた。 ……カイの二歳年下のこの青年は、昔から全く変わらない。 「……なんでさ、最初に僕のところじゃなくて、セイランのところ行くかなあ?」 開口一番、ふてくされたような声が飛んできた。  カイはそのまま立ったまま答えた。「当然だろ。恩ある育ての親だし」 「僕は皇帝だよ?」 「ならそれらしくしろよ」 「結構ちゃんとやってるけど?」 「まあ、予算については頑張ったみたいだな、貴族院相手に。でも神官派を野放しにしすぎだ」 ユリウスは一瞬むっとした顔をしたが、すぐに苦笑する。「簡単に言わないでよ、カイは相変わらず容赦ないよね。……そういうとこ、嫌いじゃないけど」 「それ、よく言われる」 「で、勘当されたって本当なんだよね?」 カイの表情がわずかにこわばった。  ──昨日は、ろくに眠れなかった。 目を閉じれば、セイランの背が、遠ざかっていく。 「二度と戻ってくるな。親子の縁を切る」と告げた、あの声が耳の奥に残っている。  どれだけ考えても、何が正しかったのか、わからなくなる。「……聞いたのか」 「セイランが文書で通達出してたから。カイを私邸からの立ち入り禁止とし、今後いかなる非公式の接触を認めないってどういうこと?」 「……容赦ねーな、あの人は」 「てか、なんで? 本当に……ついに一線、越えちゃった?」 軽口めいた調子で、しかし核心を突かれて、一瞬、言葉が詰まる。  軽薄そうに見えても、幼いころから権謀術数の中で生きてきた男だ。  ――気づかれても、おかしくはない。 それでも知らんふ
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第7話 殴った手より心が痛い
 午後の光が差し込む政務室の机上には、書類と地図と報告書が積み重なっていた。 皇帝ユリウスは椅子に身を沈めながら、紙の山を眺めてため息をつく。対面の席には、宰相セイランが静かにペンを走らせていた。「本当にいいの? カイのこと」 ユリウスの問いに、セイランは視線を上げずに答えた。「皇帝陛下のご判断は適切かと存じます」「そういう意味じゃないけど」 ユリウスの言葉に、セイランがわずかに顔を上げた。 その瞳は穏やかだった。 けれど、どこか遠く。 それ以上の詮索を許さぬ静けさを湛えていた。「……そういう意味とは?」 たったそれだけの問い返しに、ユリウスは口を閉ざすしかなかった。 彼は知っている。この男の沈黙は、拒絶に近いということを。 それでもユリウスが何か言いかけた、その時だった。 ――バン! 政務室の扉が乱暴に開かれ、黒衣の青年が現れた。「ふざけるなッ!!」 書類の上に風が走る。長身の青年――カイ=アレクシオンが、怒気を露わに踏み込んできた。「婚約だって? よりによって、ユリウスと? ……それを、なんでお前が認めるんだよ、セイラン!!」 室内にいた文官たちが一斉に凍りつく。 だがカイは構わずセイランに詰め寄った。「俺の気持ち、知ってたよな……!? なのに、どうして!」 セイランは椅子から立ち上がった。 冷ややかに、しかし感情を押し殺した声で言う。「俺はもう、お前の後見人ではない。今の俺は、ただの宰相だ」「……ッ!」 その瞬間、空気が鋭く張り詰めた。「……ッ!」 カイの拳が、音を立てて頬を打った。 衝撃にセイランの身体がぐらつく。 だが、足元は一寸も揺がず、彼は殴られたままの姿勢で、ただ真っ直ぐにカイを見ていた。 痛みも、怒りも、何ひとつ表に出さず。 その瞳だけが、深い水底のように静かだった。 殴ったカイの方が、肩で息をしていた。 拳を震わせ、まるで噛み殺すように、声を吐き出す。「……ずっと……信じてたのに……っ」 低く、掠れたその一言に、セイランのまつ毛が、わずかに震えた。「……俺は、あなたをずっと……!」 その言葉が何を意味するか、ここにいる誰もが理解した。 激しく息を吐くカイと、頬を赤く染めたまま動かないセイラン。「――カイ」 ようやく口を開いたのは、皇帝ユリウスだった。彼は手を挙げて
last updateDernière mise à jour : 2025-11-04
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第8話 亡霊に抱かれる夜
 夜が更けていた。 帝都の宰相邸の寝室。 灯は落とされ、部屋には香炉の残り香と夜風の気配だけが漂っていた。黒衣のまま椅子に身を沈めたセイランは、机上のグラスをぼんやりと見つめていた。 二脚のグラスが並んでいた。ひとつは空。セイランが呑み干したもの。そしてもうひとつは、淡い琥珀色の酒を湛えたまま、手つかずでそこにあった。 それは、今は亡きアレクシスのためのものだった。 ──ふと、風が吹いた。 閉ざされた窓から、在り得ないほど冷たい風が部屋を撫でた。炎もないはずの空間で、香炉の煙が揺れ、セイランはその気配に身を強ばらせた。「また来たのか」「......お前が、呼んだんだろう」 低く、艶のある声が、耳に滑り込む。  その声に、セイランの背筋が震えた。 視線の先には、若き日のままの姿があった。 輪郭も背の高さも、まるでカイをそのまま映したようだ。 だが――目だけが違う。 アレクシスの虹彩には、銀の筋が走っている。 夜灯を受けるたびに、そこだけがゆらりと光を返し、底知れぬ静けさを湛えていた。 その瞳を見ていると、胸の奥がざわめく。 生きていたころも、彼はどこか遠い場所を見ていた。(俺は狂っているのか) セイランは、そっと目を閉じた。「俺は、お前を殺したのに」「それでも、愛してる。昔も今も」 その囁きとともに、首筋に唇が触れる。ぞくりとした震えが走った。指が、前合わせを解き、ゆっくりと胸元に滑り込む。「......やめろ。俺は......」「まだ渡せない。セイラン、お前は俺の番だ」 その言葉に、心がきしむ。指先が、鎖骨を撫で、舌が皮膚をなぞる。「だが、お前は、カイを愛してる」 アレクシスの声が問う。セイランは、震える声で答えた。「......ああ。誰よりも、あの子を。あの子の笑顔を守りたかった。だから、抱かれることはできなかった」「それだけか」 アレクシスの目が細められる。 隠れた心情を探るように。その目で見つめられて、それ以上隠しておくことはできないと思った。「違う......俺はまだ、お前を......忘れられない。あの子に抱かれれば、お前が消える気がして」 アレクシスの唇が、頬に触れる。「そうだ、お前はまだ俺のものだ」 囁きとともに、身体がベッドに導かれる。指が背を撫で、唇が肌をなぞる。触
last updateDernière mise à jour : 2025-11-05
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第9話 亡霊の噛み痕
 アレクシスは、ぐっと腰を押し込んだ。「――ん゛あっ……♡」 突き上げとともに、喉の奥から潰れた甘い声が溢れる。  奥の奥まで満たされて、ぐりゅ、と肉が押し広げられるたび、思考が焼き切れそうになる。  セイランの背が跳ね、指がシーツをかきむしる。 奥を抉るように突き上げながら、低く命じるように囁く。「イけよ、セイラン。……もう、お前は、俺でしかイけない身体になってる」  低く笑う気配がして、唇が耳に触れた。「――お前をこんなに深く満たせるのは、俺だけだろう?」  ずんっ、と深く貫かれるたび、視界が白く滲んで、思考が飛びそうになる。  首を振って否定しようとしても、腰が甘く跳ねてしまう。「や……っ、アレク、アレクっ……っ♡」  名前を呼ぶたびに、身体の奥が熱く締まり、抗えないほどの快感が波のように押し寄せる。  アレクシスの滑らかで執拗な抜き差しに合わせて、ぐちゅぐちゅと甘い水音が部屋に響く。身体の奥で彼の動きが絡みつくように広がり、何度も擦られるたびに、蕩けるような快感に溺れていく。「んっ、あ……っ♡ そこ、だめ……そこばかり……っ♡」 喉を震わせて喘ぎ、声にならない吐息が零れる。  涙とよだれが頬を濡らし、淫らな音が、堕ちていく身体を際立たせるように響き続けた。「アレク……っ、アレクシス……もっ、もう……っ♡」 次の瞬間、弓のように反り返った背が跳ね、快楽に引き絞られた身体から、熱が迸った。絶頂の余波で震える身体を、アレクシスは抱きしめ、舌で額をなぞる。「かわいい……お前、そんなに俺を……忘れられなかったんだな……」 「っ……違う、俺は……カイを……っ」 「それでも、身体は俺を欲しがってる。こんなにも熱く締めつけて、震えて……」 まだ止まらない。  絶頂を迎えたばかりの身体に、再び濃く硬くなった熱が突き上げてくる。 セイランの喉がかすかに震えた。  胸の奥で何かが軋んだ。「アレク……お前は……まだ……」 「……番だからな」 その言葉とともに、再びベッドの軋みが始まる──  熱を重ねるたび、境界は崩れていった。これは幻か、現か。だが確かに、アレクシスの熱が、セイランを満たしていた。 唇が、耳元で囁く。  「セイラン……きついな……奥が、俺を覚えてる」 「や……っ、もう……そんな、言うな……
last updateDernière mise à jour : 2025-11-06
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第10話 夜花の誓い
 夜の政務室。外はまだ月が高く、窓辺の香炉から微かに夜花の香りが漂っていた。 机上に積まれた文書を横に、ユリウスは一枚の密書を静かに差し出す。  セイランは受け取ると、その場で目を通し、黙って閉じた。「……どうやら、君を糾弾するつもりらしい。倫理評議会が正式に動き出した。──カイが、あれだけ派手に君への思慕を口に出したから、だろうね」 ユリウスの声音は、いつも通り柔らかかったが、瞳の奥には鋼の光が揺れていた。  セイランは、ただ静かに答える。「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。……陛下がお望みなら、この職を辞し──」 「やめろ」 言葉を切るように、ユリウスが立ち上がった。「君がいなくなったら、僕はこの欲に飢えた権力の化け物どもが蠢く巣窟で、孤立無援になる。正しさを語る貴族たちがどれほど醜いか──君も、知っているだろう?」  セイランはわずかに瞳を伏せる。「はい」 「だから、お願いだ。僕と一緒に、やつらを叩き潰すのを手伝ってくれ。それが──僕の望みだ」  数秒の静寂のあと、セイランはまっすぐに膝を折り、頭を垂れた。「御意に。命を賭して、陛下をお守りします」  ユリウスは、口元にわずかな笑みを浮かべた。「でも──君とカイを守るには……僕との婚約を発表するしかない」  その言葉に、セイランは一瞬だけ瞳を細めた。  だが、やがて短く返す。「……尊敬する陛下と、愛しい──義理の息子との婚約。これ以上、喜ばしい政略などありません」  セイランが微笑む。  ユリウスは、一瞬、息をするのを忘れた。 その笑みが、痛みを隠すためのものだと──誰よりも知っていた。 セイランは決して顔に出さない。  けれど、カイを見るその目の奥に、抑えきれない熱がある。 ユリウスは知っていた。  かつて、カイの父であるアレクシスとセイランが番だったことを。  そして今、その記憶の残り香のように、カイへと向かう想いがあることを──誰よりも感じていた。*** 帝都中央議事堂。  重厚な黒石の床に、革靴の音が鈍く響く。  午前の光を吸い込んだ円形議場には、すでに貴族評議会の重鎮たちが揃っていた。 宰相セイラン=ミラヴィスは、長卓の一端に立つ。  その隣には、皇帝ユリウス=ルクレアが静かに座っていた。 評議会議長が重々しく言葉を発
last updateDernière mise à jour : 2025-11-07
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