LOGINΩである帝国宰相セイランは、かつて亡き英雄アレクシスと番(つがい)を結んでいた。 その死を経て、彼が育てたのは――英雄の息子であり、皇帝の後継者となる少年・カイ。 養父として与えた庇護と教養。だが成長したカイ(α)は、番の刻印を刻むことで、今度はセイランを手に入れようとする。 「父上、あなたのすべてを、俺にください」 重なる罪と愛、政と欲望。 帝国の運命を背負いながらも、ふたりは背徳の境界を越えて、番《つがい》として結ばれる。 ――これは、育てた子に番として奪われた男と、父の影を超えて愛を誓う青年の、血と罪にまみれた永遠の恋の記録。 ※本命以外との関係描写あり(最終的に本命と結ばれます)。
View More帝国の屋台骨を支えた宰相セイラン=ミラヴィスと、その親友の息子であり育て子──カイ=アレクシオン。 戦乱の終結から十数年、二人は幾多の誤解と罪を越えて、ようやく結ばれた。 英雄の遺志、帝国の未来、そして血のように濃い愛。 全てを背負った末に、彼らはようやく番という名のつながりを手に入れたのだ。 ──その夜も。 長い一日を終え、王宮の寝室に、今日も甘い息が満ちていた。*** 指が絡む。 唇が触れるたび、熱が混ざり、理性が遠のく。「……セイラン」 名前を呼ぶ声は、喉の奥で震えていた。 カイの唇が鎖骨を辿り、胸に舌を這わせる。 そのたび、セイランの肩が僅かに揺れる。「落ち着け」「無理です」 熱を帯びた体温が押し寄せ、肌が擦れ合う音がした。 セイランの腰が僅かに浮いた瞬間、カイはその隙を逃さず、腰を深く押し込む。 押し込まれた瞬間、奥からぬるんと音が滲み、汗ばむ腰が熱を包み込んだ。「……っ、く……」「我慢しないでください」 カイの声が低く、甘く掠れる。 若い熱が理性を焼き尽くし、奥へと打ち込むたびに、セイランの胸が弓なりに反った。「お前……やめ……、あぁ……っ」「やめません」 浅い呼吸。 絡む指の隙間から、汗が零れ、白い肌に光を散らす。 焦点の合わない琥珀色の瞳が、喘ぎに揺れていた。 その目に映るのは、己の育てた青年。 父でも、主でもなく、ただひとりの男として自分を抱く存在。「……カイ、そんな顔で見るな」「好きだから、見たい」 押し殺した呻きとともに、波が弾けた。 セイランの身体が強く跳ね、声にならない息が喉で途切れる。 白い熱が胸の上に散り、静かな夜に滴り落ちた。 荒い呼吸が、まだ互いの胸の間で重なっていた。 全身が汗に濡れ、セイランの喉を伝う水滴が、鎖骨の窪みに消えていく。 カイはその滴を舌で辿り、唇を寄せた。 そこからまた、熱が再び蘇る。「……父上、まだ、いけますよね」 低い声が、耳元をくすぐる。 セイランのまつげが微かに震えた。「……馬鹿を言うな。もう充分だ」「充分じゃ、ない」 カイが唇を離さず、喉元に熱を押し当てる。 そのまま胸を這い、下腹へと手を伸ばした。 セイランが息を呑む。「やめろ」「だって、また……」 指先が触れた瞬間、セイランの腹筋がぴくりと震
──夜更け、私邸の応接間には蝋燭の柔らかな灯りが揺れていた。 ソファに並んだふたりの距離は、最初こそ手の甲がかすかに触れるだけ。 けれど、いつしか──セイランの肩にカイの腕がそっと回されていた。 拒まれなかったその瞬間、 カイの喉がわずかに上下し、抑えた熱がきらりと滲む。「今日は、時間をかけて……あなたを、全部愛したい」 腕の中で固まったセイランの呼吸が、ひとつ乱れる。 首筋に落ちる熱い息。指先に伝わる小さな震え。「……こうしてると、落ち着く」 ぽつりと落ちた声に、カイの表情がふっと和らぐ。「あなたが俺にそう言ってくれるなんて。……何度でも聞きたい」「……うるさい」 言葉は冷たいのに、指先は拒まない。 カイの手を握り返した瞬間── 静かな呼吸がふたりのあいだに溶けていく。 唇が首筋に触れた。「……カイ」 掠れた呼び名。 セイラン自身が気づくより先に、身体が答えていた。 ボタンが一つずつ外されていく。 ほどくのは布だけじゃない。 記憶も、緊張も、長く抱えてきた痛みでさえ。 胸元をなぞる指に、セイランの喉がかすかに鳴る。「っ……そんな、なぞるな……」 抗議の声よりも、震えのほうが正直だった。 カイはその震えごと抱きしめるように、肩に唇を落とす。「今日は、あなたが崩れていくところを、ちゃんと見たい」「……お前は、甘い言葉を覚えすぎだ」「あなたが教えたんですよ」 濡れた音とともに唇が絡む。 静かな部屋に、くちゅ、という音だけが落ちていく。「ベッド、行きましょうか」 掠れた声は、カイ自身も抑えきれていない証だった。*** ベッドに沈むセイランの髪が夜灯に照らされ、柔らかく広がる。 頬に触れれば、セイランは目を伏せて受け入れる。 急がない。もったいなくて、触れるたびに胸が詰まる。 鎖骨、肩、腕へ── カイの唇が辿るたび、セイランの呼吸が少しずつ甘く揺れる。「……焦らすな」「焦ってません。見ていたいだけです」 腰骨をなぞると、セイランの腹がわずかに跳ねた。 その反応があまりに可愛くて、 カイは一瞬だけ思わず強く抱き寄せる。「っ……ん、あ……」 下腹部を撫でる舌に、脚が震える。「……カイ、もう……」 掠れた声にキスで応え、耳元で囁く。「もう少し……あなたが、俺を欲しくてたまらなくなる
王宮内・軍参謀室、午後。 伝令の靴音が遠ざかり、静寂が戻る。 主席参謀ゼノの横で、書類を束ねていた副官がふと呟いた。「……宰相殿、最近はずいぶん穏やかですね」 ゼノは手を止めず、淡々と報告書へ印を押す。「穏やか、か。憑き物が落ちたようだと?」「ええ、そんな噂も。以前とは別人みたいで」 しばし沈黙ののち、ゼノはわずかに笑った。「変わったのか、戻ったのか……さてな」 印章を机に置き、低く続ける。「どちらにせよ、本質は変わらん。……あの方は、最初から誰かのために剣を取る人だ」*** そんな噂話が交わされたのとほぼ同じ時刻、 セイランの執務室では、午前中に処理された閣議文書が整然と並べられていた。 端正な筆跡、余白もぴたりと揃い、乱れは一つとしてなかった。 ──だが、筆を置いたその指先には、かすかな余熱が残っていた。 ノックの音。「入れ」 いつも通りの落ち着いた声が、意図せず少しだけ低く響く。 扉が開き、黒衣の青年が姿を見せた。「報告書をお届けに参りました、宰相殿」 カイ=アレクシオン。 皇帝代理の肩書きでありながら、わざわざ報告書を自ら運んでくるのは、もはや日課に近かった。 セイランは視線を上げぬまま、手を差し出す。「……机に置け」 だがカイは、言われた通りにはしなかった。 書類をそのまま手渡しに差し出す。 セイランもまた無言で応じ──指先がふれる。 ──昨夜、何度も交わした肌の熱が、指先の接触だけでよみがえる。 まるで熱が、まだそこに残っているようだった。 ふたりの視線が、自然と絡み合う。 書類の束がわずかに傾ぎ、カイの手が少し長く、セイランの手に添った。「……今日は顔色がいいですね」 ぽつりと、カイが言う。 声には気遣いの体をとりながら、微かな悪戯っぽさが滲んでいた。 セイランは書類を受け取りながらも、視線を逸らさずに言った。「……お前が来たからだろう」 その声は静かで、けれど抑えようのない熱が微かに混じっていた。 頬に浮かんだ色を隠すように、セイランは書類を読み始める。 だが、わずかにほころんだ口元は、否応なく余韻を物語っていた。「昨夜は、ずいぶんご熱心でしたからね」「……無駄口が過ぎるぞ」 ぴしゃりとした声に、カイは素直に頭を下げる。「失礼。けれど、ゼノと副官が少し噂してまし
眠りに落ちたはずなのに、深く沈むどころか、意識は逆に浮かび上がっていた。 霧がかった世界。足元だけがやけに冷たい。 その先に、ひとつの影が立っていた。 黒い軍装。 長い黒髪。 広い背中。 ――アレクシス。 呼んだ覚えもないのに、胸の奥が勝手にその名で震えた。 彼は振り返らない。 あの夜と同じだ。 決意だけを背中に背負い、帝国に刃を向けようとしたあの瞬間。「待て、アレクシス……やめろ。戻れ」 夢の中の声は掠れていた。 現実では届かなかった言葉。 本当は、もっと必死に叫びたかったはずだった。 だが影は止まらない。 ずっとそうだった。 彼は帝国を壊すために進み、セイランはそれを止めきれず、説得できず、救えず―― 最後には、刃を向けるしかなかった。 彼を、己の手で。(……ごめん。俺は……) 言えなかった言葉が喉の奥で渦を巻く。 あの瞬間、言いたかった。 抱きしめてでも止めたかった。 けれど、できなかった。「……アレクシス、俺は……」 影がようやく振り返る。 月光を含んだような 銀の筋の瞳 が、霧の中で細く光った。 口元には、あのときと同じ、静かな笑み。 責める気配は微塵もない。ただ――どこまでも遠い。 そして――彼はゆっくりと口を開いた。「……もう、いい」 その一言で、胸に残っていた憎しみも怒りも後悔さえも、ぜんぶ剥がされるような感覚になる。 赦されているのか。 それとも、突き放されているのか。 どちらにしても残酷だった。「……まだ、終われない……」 手を伸ばそうとした瞬間、霧が風のように吹き荒れ、アレクシスの影をさらっていく。「待て……っ、行くな……!」 届かない。 今でも止められない。 殺した夜の感触が、指に、胸に、焼き付いたまま離れない。 霧の向こうで、最後に彼が言った。「セイラン。……泣くな」 その声で、胸の奥がぐしゃりと歪む。 そのときだった。 後ろから温かい手が、そっと指を絡めてきた。「……父上」 振り向くと、そこにはカイがいた。 黒い軍装でも、亡霊の影でもない。 ただ昨夜、セイランを抱いた男の姿だった。 強くも、優しくもない声で、ただ静かに言う。「俺は、いなくなりません」 やわらかく、確かに、現実へ引き戻す温度。 消える影とは違う、ここにいるという重
午後の光が差し込む政務室の机上には、書類と地図と報告書が積み重なっていた。 皇帝ユリウスは椅子に身を沈めながら、紙の山を眺めてため息をつく。対面の席には、宰相セイランが静かにペンを走らせていた。「本当にいいの? カイのこと」 ユリウスの問いに、セイランは視線を上げずに答えた。「皇帝陛下のご判断は適切かと存じます」「そういう意味じゃないけど」 ユリウスの言葉に、セイランがわずかに顔を上げた。 その瞳は穏やかだった。 けれど、どこか遠く。 それ以上の詮索を許さぬ静けさを湛えていた。「……そういう意味とは?」 たったそれだけの問い返しに、ユリウスは口を閉ざすしかなかった。
朝霧の薄く残る王宮。 白い大理石の回廊を、軍靴の音が淡く響いていた。 カイは無言のまま、皇帝の私室へと歩を進めた。 衛兵に促されるまま扉を押し開けると、室内には甘い生花の香りがかすかに漂っている。高窓から落ちる陽光は柔らかく、上質な絨毯が足音を吸い込んだ。 皇帝ユリウスは、お気に入りの長椅子に気怠げに腰を下ろしていた。片側だけに肘掛けのある優雅な作りの椅子に、彼は体を斜めに預け、肘をついたまま視線だけを向けてくる。金髪に日の光を受けて、金糸の刺繍が淡く輝く。上衣の襟元をゆるめた姿は、威厳よりも若さを印象づけた。 黙っていれば、賢帝とも言われるその端正な顔立ち。 けれど今
椅子の背に預けた身体が重い。 視界の隅に、カイが滑って倒れたときの影が焼きついている。 あのとき、きつく抱きしめられた。 思い出しただけで、胸が詰まるほど熱くなる。 広い背中に押し込まれ、呼吸もできないほど強く、深く、腕の中に包まれて。 あれは、もう──息子の抱き方じゃなかった。(……馬鹿だ。あれで気づいていたはずなのに) 額を机に押し当てる。 汗が額をつたう。 じんじんとした熱が、まだ体内に残っていた。 裾に伸ばした指が、自然と動いている。 迷うように、恐れるように、震えながら腰骨をなぞり──前ではない。 満たされなかった疼きが、もっと奥を求めていた。
帝都ラティナスの城門をくぐるとき、夕陽が赤く石畳を染めていた。 城門前の将校詰所──帰還兵が一時的に身を休める控え室の前に、一人の男が立っていた。 帝国宰相セイラン=ミラヴィス。 帝国の政務を統べる重鎮でありながら、その姿はひどく静かだった。 護衛も従えず、ただひとり。 その手には、小さな金属製の水筒と、葡萄酒の包み。「……遅くなったが、間に合ったか」 中から扉が開いた。 軍服のまま、顔に汗と土を残した青年が現れる。背は高く、軍靴の音が堂々としている。 一瞬、セイランの心臓が跳ねた。 ──あまりにも似ていた。 かつて、死に際に自分の腕の中で息絶えた男に。 だが、違う