亡き先代の番に囚われたΩ宰相は、息子である若きα摂政に夜を暴かれる

亡き先代の番に囚われたΩ宰相は、息子である若きα摂政に夜を暴かれる

last updateLast Updated : 2025-11-30
By:  悠・A・ロッサCompleted
Language: Japanese
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Ωである帝国宰相セイランは、かつて亡き英雄アレクシスと番(つがい)を結んでいた。 その死を経て、彼が育てたのは――英雄の息子であり、皇帝の後継者となる少年・カイ。 養父として与えた庇護と教養。だが成長したカイ(α)は、番の刻印を刻むことで、今度はセイランを手に入れようとする。 「父上、あなたのすべてを、俺にください」 重なる罪と愛、政と欲望。 帝国の運命を背負いながらも、ふたりは背徳の境界を越えて、番《つがい》として結ばれる。 ――これは、育てた子に番として奪われた男と、父の影を超えて愛を誓う青年の、血と罪にまみれた永遠の恋の記録。 ※本命以外との関係描写あり(最終的に本命と結ばれます)。

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Chapter 1

第1話 金の宰相と黒の跡継ぎ

 静かな寝室に、甘く重い香が満ちていた。

 肌に触れた舌先が、ぞくりとした痺れを残していく。

 セイランは目を伏せたまま、肩をわずかに震わせた。

「……痕、疼くだろ?」

 囁きと共に、アレクシスの唇が首筋へと降りていく。

 熱を帯びた吐息が番《つがい》の痕に触れるたび、そこだけが脈打つように疼いた。

 舌が、ゆっくりと痕をなぞる。繰り返し、円を描くように。

 そのたび、セイランの背が弓なりに反る。

 「や、っ……あ……」

 喉奥から洩れた声は、甘く震えていた。

 まるで、痕が記憶していた疼きを呼び起こされたように、身体が熱にきゅっと縛られる。

 そして──ふいに。

 その痕を、アレクシスの唇がやさしく噛んだ。

 「……っ♡」

 セイランの身体が跳ね、腰が浮く。

 瞬間、脚の奥まで痺れるような衝撃が走った。

 甘噛みはすぐに、名残を惜しむように舌へと変わる。

 ぬるりと、濡れた舌が傷跡を撫で上げ、唇がその痕に吸いつく。

 ちゅ、……ちゅぷ、と濡れた音が静寂に落ちた。

「やめ……そんな、そこばかり……っ♡」

 肩を震わせながら、セイランは抗おうとする。

 けれど、抗うほどに熱が深く染みこみ、腰の芯まで疼きが達していく。

 首筋を刻まれながら、すでにその身体は──

 愛と罪の記憶に、ゆっくりと溺れはじめていた。

***

 それは、カイが五歳の頃だった。

 帝都ラティナスの東端に佇む、ひとつの私邸。

 帝国宰相セイラン=ミラヴィスが静かに暮らすその屋敷に、ひとりの幼子がいた。

 名は、カイ=アレクシオン。

 戦乱のさなかに両親を失い、幼くして天涯孤独となった。

 彼を引き取ったのが、かつてカイの父と共に戦場を駆けた、ひとりの英雄――セイラン=ミラヴィスだった。

 その夜、私邸の灯りはすでに落ち、子ども部屋ではカイがぐっすりと眠っていた。

 ……はずだった。

 廊下に微かな物音が響く。

 ぱた、ぱた、と小さな素足がカーペットを踏む音。

 カイは目を覚ましていた。

 眠りの淵から何かに呼ばれるように目を開けた彼は、胸の奥に妙なざわめきを覚えていた。夢を見ていたような気がするが、内容は思い出せない。

 そのまま部屋を抜け、廊下を歩く。

 ──ふと、寝室の方に、わずかな光を見つけた。

 扉は、かすかに開いていた。

 そっと近づき、隙間から覗いたその先。

 そこには、大人の男が二人いた。

 一人は、セイランだった。

 カイにとって、父のような人。

 いつも冷静で、優しくて、凛としていて──何があっても守ってくれる存在。

 けれど、その夜のセイランはどこか違って見えた。

 ゆるくほどけた金の髪が、頬にかかっている。

 襟元は少し乱れて、白い肌が夜灯に淡く浮かび上がっていた。

 伏せた睫毛が長く、目元はどこか潤んで見える。

 頬がほんのりと赤い。

 それは熱のせいなのか、それとも、隣にいる男のせいなのか──

 その姿があまりにも綺麗で、胸がどきん、と跳ねた。

(……セイラン、なのに……)

 そう思ったときには、もう目が離せなかった。

 なぜか喉が渇いて、息がしづらくなって。

 けれど怖くはなかった。ただ、胸が苦しかった。

 ふたりは、触れ合っていた。

 肩を、胸を、額を寄せ合い、何かを言葉にせず伝えているようだった。

 それは、カイがこれまで見たことのない親密さだった。

 肩を寄せ、指が首筋をなぞる。額が触れそうなほどの距離で、息が重なる。

 ふたりの間に漂っていたのは、愛しさだけじゃない。

 なぜか、ほんの少し──こわさと、いけなさが混ざっていた。

 ──何か、見てはいけないものを見ている気がした。

 でも、目を離せなかった。

 ふいに、鼻腔に香が流れ込んだ。

 少し甘くて、花でも果実でもない、不思議な匂い。

 胸がきゅうっと締めつけられるような感じがして、カイは息を詰めた。

 その時、背を向けていたもう一人の男が、ゆっくりと振り返った。

 漆黒の髪が揺れ、銀の筋を宿した瞳が、まっすぐにカイを射抜いた。

 空気が止まり、鼓動の音だけが耳の奥に響く。

 その顔には──見覚えがあった。

 アレクシス=アレクシオン。

 カイの、死んだはずの父。

 そして彼は、笑った。

 静かに、確かに、ゆっくりと。

 それは安らぎでも、懐かしさでもなかった。

 自信と、支配と、悦びが滲んだ笑み。

「これが俺のものだ」と、まるで見せつけるような──

 すべてを知っている者の、勝者の笑みだった。

 次の瞬間。

 彼はセイランの肩に手を添え、ゆっくりと顔を寄せ──

 その白い首筋に、迷いなく歯を立てた。

 ……それが「つがいの証」だと、カイが知るのは──もっと、ずっと大きくなってからのことだった。

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