All Chapters of 亡き先代の番に囚われたΩ宰相は、息子である若きα摂政に夜を暴かれる: Chapter 31 - Chapter 33

33 Chapters

第31話 宰相がほどける夜

 王宮内・軍参謀室、午後。 伝令の靴音が遠ざかり、静寂が戻る。 主席参謀ゼノの横で、書類を束ねていた副官がふと呟いた。「……宰相殿、最近はずいぶん穏やかですね」 ゼノは手を止めず、淡々と報告書へ印を押す。「穏やか、か。憑き物が落ちたようだと?」「ええ、そんな噂も。以前とは別人みたいで」 しばし沈黙ののち、ゼノはわずかに笑った。「変わったのか、戻ったのか……さてな」 印章を机に置き、低く続ける。「どちらにせよ、本質は変わらん。……あの方は、最初から誰かのために剣を取る人だ」*** そんな噂話が交わされたのとほぼ同じ時刻、 セイランの執務室では、午前中に処理された閣議文書が整然と並べられていた。 端正な筆跡、余白もぴたりと揃い、乱れは一つとしてなかった。 ──だが、筆を置いたその指先には、かすかな余熱が残っていた。 ノックの音。「入れ」 いつも通りの落ち着いた声が、意図せず少しだけ低く響く。 扉が開き、黒衣の青年が姿を見せた。「報告書をお届けに参りました、宰相殿」 カイ=アレクシオン。 皇帝代理の肩書きでありながら、わざわざ報告書を自ら運んでくるのは、もはや日課に近かった。 セイランは視線を上げぬまま、手を差し出す。「……机に置け」 だがカイは、言われた通りにはしなかった。 書類をそのまま手渡しに差し出す。 セイランもまた無言で応じ──指先がふれる。 ──昨夜、何度も交わした肌の熱が、指先の接触だけでよみがえる。 まるで熱が、まだそこに残っているようだった。 ふたりの視線が、自然と絡み合う。 書類の束がわずかに傾ぎ、カイの手が少し長く、セイランの手に添った。「……今日は顔色がいいですね」 ぽつりと、カイが言う。 声には気遣いの体をとりながら、微かな悪戯っぽさが滲んでいた。 セイランは書類を受け取りながらも、視線を逸らさずに言った。「……お前が来たからだろう」 その声は静かで、けれど抑えようのない熱が微かに混じっていた。 頬に浮かんだ色を隠すように、セイランは書類を読み始める。 だが、わずかにほころんだ口元は、否応なく余韻を物語っていた。「昨夜は、ずいぶんご熱心でしたからね」「……無駄口が過ぎるぞ」 ぴしゃりとした声に、カイは素直に頭を下げる。「失礼。けれど、ゼノと副官が少し噂してまし
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

第32話 ようやく辿り着いた場所

 ──夜更け、私邸の応接間には蝋燭の柔らかな灯りが揺れていた。 ソファに並んだふたりの距離は、最初こそ手の甲がかすかに触れるだけ。 けれど、いつしか──セイランの肩にカイの腕がそっと回されていた。 拒まれなかったその瞬間、 カイの喉がわずかに上下し、抑えた熱がきらりと滲む。「今日は、時間をかけて……あなたを、全部愛したい」 腕の中で固まったセイランの呼吸が、ひとつ乱れる。 首筋に落ちる熱い息。指先に伝わる小さな震え。「……こうしてると、落ち着く」 ぽつりと落ちた声に、カイの表情がふっと和らぐ。「あなたが俺にそう言ってくれるなんて。……何度でも聞きたい」「……うるさい」 言葉は冷たいのに、指先は拒まない。 カイの手を握り返した瞬間── 静かな呼吸がふたりのあいだに溶けていく。 唇が首筋に触れた。「……カイ」 掠れた呼び名。 セイラン自身が気づくより先に、身体が答えていた。 ボタンが一つずつ外されていく。 ほどくのは布だけじゃない。 記憶も、緊張も、長く抱えてきた痛みでさえ。 胸元をなぞる指に、セイランの喉がかすかに鳴る。「っ……そんな、なぞるな……」 抗議の声よりも、震えのほうが正直だった。 カイはその震えごと抱きしめるように、肩に唇を落とす。「今日は、あなたが崩れていくところを、ちゃんと見たい」「……お前は、甘い言葉を覚えすぎだ」「あなたが教えたんですよ」 濡れた音とともに唇が絡む。 静かな部屋に、くちゅ、という音だけが落ちていく。「ベッド、行きましょうか」 掠れた声は、カイ自身も抑えきれていない証だった。*** ベッドに沈むセイランの髪が夜灯に照らされ、柔らかく広がる。 頬に触れれば、セイランは目を伏せて受け入れる。 急がない。もったいなくて、触れるたびに胸が詰まる。 鎖骨、肩、腕へ── カイの唇が辿るたび、セイランの呼吸が少しずつ甘く揺れる。「……焦らすな」「焦ってません。見ていたいだけです」 腰骨をなぞると、セイランの腹がわずかに跳ねた。 その反応があまりに可愛くて、 カイは一瞬だけ思わず強く抱き寄せる。「っ……ん、あ……」 下腹部を撫でる舌に、脚が震える。「……カイ、もう……」 掠れた声にキスで応え、耳元で囁く。「もう少し……あなたが、俺を欲しくてたまらなくなる
last updateLast Updated : 2025-11-29
Read more

番外編 影は去らず、愛は寄り添う

 帝国の屋台骨を支えた宰相セイラン=ミラヴィスと、その親友の息子であり育て子──カイ=アレクシオン。 戦乱の終結から十数年、二人は幾多の誤解と罪を越えて、ようやく結ばれた。 英雄の遺志、帝国の未来、そして血のように濃い愛。 全てを背負った末に、彼らはようやく番という名のつながりを手に入れたのだ。 ──その夜も。 長い一日を終え、王宮の寝室に、今日も甘い息が満ちていた。*** 指が絡む。 唇が触れるたび、熱が混ざり、理性が遠のく。「……セイラン」 名前を呼ぶ声は、喉の奥で震えていた。 カイの唇が鎖骨を辿り、胸に舌を這わせる。 そのたび、セイランの肩が僅かに揺れる。「落ち着け」「無理です」 熱を帯びた体温が押し寄せ、肌が擦れ合う音がした。 セイランの腰が僅かに浮いた瞬間、カイはその隙を逃さず、腰を深く押し込む。 押し込まれた瞬間、奥からぬるんと音が滲み、汗ばむ腰が熱を包み込んだ。「……っ、く……」「我慢しないでください」 カイの声が低く、甘く掠れる。 若い熱が理性を焼き尽くし、奥へと打ち込むたびに、セイランの胸が弓なりに反った。「お前……やめ……、あぁ……っ」「やめません」 浅い呼吸。 絡む指の隙間から、汗が零れ、白い肌に光を散らす。 焦点の合わない琥珀色の瞳が、喘ぎに揺れていた。 その目に映るのは、己の育てた青年。 父でも、主でもなく、ただひとりの男として自分を抱く存在。「……カイ、そんな顔で見るな」「好きだから、見たい」 押し殺した呻きとともに、波が弾けた。 セイランの身体が強く跳ね、声にならない息が喉で途切れる。 白い熱が胸の上に散り、静かな夜に滴り落ちた。 荒い呼吸が、まだ互いの胸の間で重なっていた。 全身が汗に濡れ、セイランの喉を伝う水滴が、鎖骨の窪みに消えていく。 カイはその滴を舌で辿り、唇を寄せた。 そこからまた、熱が再び蘇る。「……父上、まだ、いけますよね」 低い声が、耳元をくすぐる。 セイランのまつげが微かに震えた。「……馬鹿を言うな。もう充分だ」「充分じゃ、ない」 カイが唇を離さず、喉元に熱を押し当てる。 そのまま胸を這い、下腹へと手を伸ばした。 セイランが息を呑む。「やめろ」「だって、また……」 指先が触れた瞬間、セイランの腹筋がぴくりと震
last updateLast Updated : 2025-11-30
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status